前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「……一段落つきましたね。皆さんご協力いただきありがとうございました」
「い、いえ全然! ハスミ先輩に感謝してもらえるなんて……えへへ……」
私が戻って、連行も捕らえるのもだいたい終わった深夜。流石に静かになった町の中で、私達はほっと一息ついていた。
「コハルも、ずいぶん成長しましたね」
「先輩方に追いつけるように頑張ってるんです!……キタノは私と同じ学年なのに、みんなに信頼されて、先輩方にも対等に接してもらえています。私もこのままではいけないなって」
「……本当に、見違えるようです」
きりっとしたコハルちゃんの顔を見て、ハスミちゃんは柔らかな笑みを浮かべた。……なんて微笑ましい光景なんだ……!
”これにて一件落着、って事でいいのかな?”
「先生……そうですね、とりあえずこれでおしまい……と言いたいところですが、捕らえた者たちの処遇についてが残っています」
「そっか、エデン条約がある以上、下手に関係性を悪化させるわけにはいかないもんね」
エデン条約はゲヘナとトリニティの平和条約。ここで美食研究会を拘束したままなら、矛盾しかねない。それに、関係性悪化のために調印できなかったとなれば問題だしね。
「そういうわけで、今回、あとはゲヘナ風紀委員会に任せようと思うのです。ただ、正義実現委員会と風紀委員会が深夜に取引となると、情勢を考えるとあまりよろしくなく……シャーレに引き渡しをお願いしたいのです」
”私達に?”
「はい。先生も、キタノも、どちらも信用に足る人物だと思っています。ですから、信用できるシャーレならと」
「……うん。わかった。じゃあ、早速行ってこようかな。さ、先生、いこ? 皆は先に戻ってて」
先生を連れて、皆に手を振りながら進行方向とは逆に進む。一人のがしたけれど、美食研究会と巻き込まれただけのフウカはこの先の廃墟に拘束されているってことはツルギ先輩との話で知っていた。
ちなみにフウカちゃんのかわいそうさはものすごいものがあった。まあ巻き込まれただけなんて、トリニティ側からすれば知ったことではないということは知ってはいるんだけど、逃亡劇が始まった瞬間めちゃめちゃ乱暴に捕らえられた。そのせいで例の顔で涙目になってた。かわいそかわいい。
「先生、大丈夫だった?」
声を掛ける。見た所平気そうだけど、さっきまで先生は一応銃弾飛び交う戦場にいたわけだし、見えないところを怪我しているかも知れない。それに、先生は怪我しても隠してそうだし……
”うん。特に問題なかったよ。……私はそれよりもキタノの体調のほうが気になるかな”
うおっと、これはやり返されちゃった。結局のところ、やっぱり似たもの同士なんだ、私達。
「というか、なんで私の体調が気になるの? 今日はなんかあったっけ?」
にしても、別に今日は先生の前で体調が悪いことを見せたりしたかな? 思い出そうにも浮かばないけど……
”見えてたよ。ゲヘナの子たちを追いかけてきた時、最初にキタノが吸入をしてたの”
「……! 見えてたんだ」
これは少し困ってしまう。せっかくみんなに心配をかけないようにああやってバレないようにウラでやってたのに、先生には見られてたなんて、私ってほんとに詰めが甘いなあ。
「でも、大丈夫。ほら、見てくれたらわかると思うけど、ぴんぴんしてるから」
”それでもっ!”
思わずビクリとしてしまう。初めて聞いた先生の大きな声。それは間違いなく私に向けられていた。
少しびっくりしてしまった私を見て、先生はごめん、でも と続ける。
”キタノが苦しそうにしてるところを見ると、どうしようもなく、私も苦しく悲しくなるんだ”
「そっか……」
私をじっと捕らえて離さない先生の双眸は、怒りとかそういうのもほんの少し入っていたけれども、どう見ても、仕方ないくらいに私のことを大切に思う気持ちに満ちていた。
「ねえ先生」
”……どうしたの?”
「先生って、自分の死に方について考えたことはある?」
”死に方?”
ぽかんとした顔でそのままの言葉が返ってくる。たぶん、『まだ』先生は考えていないんだろう。
「私はさ、死んだときに誰にも悲しまれないように逝きたいの。ほら、誰かが悲しんでたら、死んでも死にきれないでしょ?」
先生は目を伏せた。
「だから、私はそのつもりで動いてるし、明日死んでも後悔がないようにって生きてる。もちろんみんなにも、私が欠けてもいいように接してるつもり。……だからさ先生。先生も、私についてはそういう覚悟を持って接してくれたら嬉しいな。だって私達、『相棒』なんでしょ?」
先生が近づいてくる。一歩一歩、ゆっくり近づいてくる。……あれ、これはもしかして怒られるのかな? なにか先生の神経を逆撫でしてしまうことを言ってしまっていたのかも知れない。
でも、予想は外れて……先生は私の体を包むように抱きしめてきた。
「……せん、せい?」
”ごめんキタノ……ごめん……っ!”
顔は見えないけど、涙声の先生は普段なら絶対にしないくらい力強く抱きしめている。ほんの少しだけ痛い気もする。喘息特有の気管の狭さもあるのかも知れないけど、こころなしか息も少ししにくい。
でも、不思議と嫌な気はしない。なんなら心地いいくらいだ。
「どうしたの? 突然泣いたりなんかして」
”ごめん……っごめん……”
涙は止まらない。仕方がないので、私も先生の背中に手を回して、優しく抱きしめた。なんだか大きい子供みたいだ。先生もこういう不安定なとこがあるんだなあ。
「ほーら、先生。これから引き渡しにいかなきゃなんだから、ずっと泣いてちゃ駄目だよ? そろそろ行かなきゃ、向こうの子たちを待たせることになっちゃうし」
そう言って、背中を少し擦って上げると、先生はすっと体を離した。
”うん……そうだね”
「これハンカチだから。使って?」
”本当にごめんね、キタノ……”
暗い顔をした先生は、私の渡したハンカチを使って顔を拭って、少しだけ普段みたいに笑ってみせた。
”私達シャーレが、こんな顔見せられないよね”
「うんうん。かっこいい顔だよ」
そう言うと先生は嬉しそうに笑った。