前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい   作:うどんそば

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ヒナちゃんの見方

「あ、あれだね」

 

 大橋のちょうど真ん中近く、無機質なバンが停まっていた。おそらく、ゲヘナ側……セナさんとヒナちゃんがいるのだろう。少し遅くなっちゃったかな?

 私達も近くに停め、車から降りる。橋の上だからか、大きな風が吹いていた。均等に設置された明かりが影を作って、なんだか神秘的に見える。ぼけーっと先生の影を眺めると、先生はにこりと笑って、どうかした? と問いかけてきた。

 

「先生の影って、大きいなって」

 

”そりゃあそうだよ。キタノよりも身長も体格もいいからね!”

 

「私に簡単に負けちゃうくせにー?」

 

”うぐっ! それとこれとは話は別だよ”

 

 そんないつもどおりの他愛ない雑談をしていると、ばん、という扉を閉める音が響いた。

 

「お待たせしました。した……いえ、負傷者の引き渡しに来てくださった方ですね?」

 

 セナさんと、ヒナちゃんだ。

 

「先生? それにキタノ、来てたのね。この前ぶり」

 

「やっほー、ヒナちゃん。こんな形じゃなくて、二人で遊びに行くって形で会いたかったね」

 

「……それは、また今度、ね。それにしても、どうして先生とキタノが?」

 

「お二人とも風紀委員長のお知り合いでしたか。そうですね、こちらの情報では正義実現委員会の方がいらっしゃるとのことでしたが」

 

 二人が疑問を浮かべる。

 

「ほら、今って条約のこともあっていろいろあるからさ……あんまり大事にしないためにも、ね」

 

”シャーレが引き渡すということだったら、まだお互いいいみたいだから”

 

「そうね……こちらもその考えで、救急医学部が来たということにしたわけだし」

 

 セナさんは姿勢を整え、丁寧に一礼する。その姿はすごく様になっていて綺麗。言動がすごいからゲヘナでも見逃されがちだけど、まああの自治区内にいる人の中ならめっちゃ常識人だからね、セナさん。

 

「申し遅れました。救急医学部の部長、氷室セナです。以後よろしくお願いしたします。もし死た……負傷者が出たらいつでも及びください」

 

”え? 今死体って……?”

 

「ああ、大変申し訳ありません。たまに、死体と負傷者を混合してしまうことがありまして」

 

”よ、よろしくね?”

 

 先生が困惑してる……ま、まあしょうがないか。セナさんくせ強いし。ものすごくいい人ではあるんだけどね。死体への執着以外。そうしてもそこが目立っちゃう。

 

「救急医学部はゲヘナの中でも万魔殿とほぼかかわりないしねえ。だから来てくれたのかな?」

 

「そうね。どうしても風紀委員会では政治的な部分が大きくかかわってしまうから」

 

「私は死体以外に興味はありませんので」

 

「セナさん見たことないのにー?」

 

 これだけセナさんは死体死体言うけど、実は全くと言っていいほど死体を見たことはない。もちろん、ヒナちゃんも。

 この世界にいたら、死体を見ることになるなんて普通はほぼないのだ。

 

「死体を見たことがないのは、キタノさんも同じでしょう?」

 

「んー……ふふ、どうだろうね?」

 

 少し、ごまかすように言うと、先生が私の方を心配そうに見ているのが目に入った。……もしかして、気にかけさせちゃってる?

 

 ”キタノ?”

 

「あはは、どうしたの先生。私はどうだろうねって言っただけで、見たことあるとは言ってないよ?」

 

 先生の心配はもっともではある。この世界で高校一年生の私が死体を見るほどの人生を送っていたとしたら――それはものすごくつらいものであったはずだからだ。

 

「安心して? 先生。私、毎日楽しく過ごしてるから!」

 

 そういうと、先生は少しだけ表情を緩めて頷いてくれた。

 

「……ちなみに、美食研究会はこの中かしら?」

 

 ヒナちゃんが声をかけてくる。少し困惑しているように見えるのは、その護送車が豪華そうに見えるからかな。

 

「うん。そうだよ。今開けるね。よいしょっと」

 

「え」

 

 鍵を持って後ろにまわり、鍵をガチャリと開ける。するとそこには車内に用意されていた様々な食べ物を美味しそうに食べる三人と、例の顔でそれを見つめるフウカちゃんの姿があった。

 美食研究会のみんながここまでいい顔をしているということは、相当美味しかったのかもしれない。まあ、そこそこお金かかってるだろうし、当たり前……? いや、でもこれにはいる人って罪人なんだよね……?

 

「……随分と、豪華な護送車ね」

 

「フウカちゃんがかわいそうだったから……でも、楽しんだのはフウカちゃんじゃなかったみたいだけど……」

 

 ヒナちゃんはなんとも言えない表情を浮かべながらも、満足げな三人を車内から降ろし、奥のバンに連れて行った。いい車だったからか、ジュンコちゃんも酔わずに平気そうだ。よかった。

 

「あら? 一人足りてないわね……まあ面倒だからいいわ」

 

「ごめんね。逃がしちゃった」

 

「いいのよ。どうせいつか見つかるわ」

 

 ばいばい、と別れの挨拶とともに車に乗り込んでいくみんなに手を振り返しながら見守りながら、ヒナちゃんと話す。気にしたら負けだもんね。特に美食研究会のみんなは。

 これまでも何回か探すのを手伝ったりしたけど、こういうことも何回かあった。どうしても、四人いるから全員を捕まえるのは難しいんだよね。みんな慣れてるし。

 

「全員、積載完了です。出発しますか?」

 

 全員が乗り終わって、セナさんが言う。それにヒナちゃんは「少し待ってて」と一言告げて、こちらに近づいてきた。そして、ほかのみんなには声が聞こえないくらい離れて、口を開いた。

 

「ねえ、先生、キタノ。どうしてトリニティにいるの?」

 

”補習授業部ってところのお手伝いをしてるんだ”

 

「私はその所属だね。補習受けてって言われたから」

 

「それは知っているのだけど……そういうことじゃないの。二人はシャーレの根幹。中立組織であるはずのシャーレが今この時期にトリニティにいるのは……」

 

 そこまで言って、ヒナちゃんはきゅっと口を結んだ。思っていることを、かみつぶすように。そうして、「やっぱり今のはなかったことにして」と困ったように少し笑った。

 

”……ヒナはさ、どう思ってるの? この条約について”

 

「どう……って?」

 

”トリニティの上層部は、自治区の利になる軍事同盟の一面を持つ、エデン条約を成立させようとしている。……『トリニティの裏切り者』を探すために、キタノを補習授業部に入れて、退学もさせる覚悟があるくらいに”

 

「……なるほど。何が事実で、何が欺瞞か、みんな本当のことを言っているように見えて、それでいて嘘をついているようにも見える。複雑な状況ね」

 

”いろいろ考えたんだけど、私だけじゃやっぱり限界があって、見方によって、真実が変わるかもしれないから”

 

「……なんだか、焦ってるのね」

 

 ヒナちゃんは、先生に向かって意外そうな顔を向けた。そりゃあそうだよね。私からしてもなんだか少し意外なくらいだし。

 

「そうだよ―? 先生。焦ったっていいことないのに」

 

 ほっぺをぷにぷにしてあげると、先生のこわばった口元が少し緩んだ気がした。うん。その顔が一番かっこいいよ。

 

「……ところで、その情報私に言ってもいいものだったの?」

 

”うん。私も、キタノも、ヒナのこと信じてるから”

 

「そーだよー? ヒナちゃんのこと大好きだし、話すなら隠し事はよくないよねーと思って」

 

 私たちがそういうと、ヒナちゃんは少し恥ずかしそうに眼をそらして、顔を赤くした。かわいい。

 

「そ、そういうのが、あなたたちの悪いところ……」

 

 悪いって……なんか悪いこと言ったっけ? 私は先生と顔を見合わせる。でも、何も浮かんでこなかった。それを見てヒナちゃんははあ、と一つため息をついて、

 

「独り言よ」

 

 とつぶやいた。

 

「それにしても、エデン条約が軍事同盟……まあ一つの見方としてはそうかもしれないけど、私はそうは思わないわ。あれは、その名の通り平和条約。私はそう考えてる。」

 

”なるほど”

 

「エデン条約機構を武力集団ととらえても、ナギサだけで統制できるようなものでもないし、マコトも同じだけの権限を持つことになる。ほかのメンバーも同じ。つまり、その役割以外に進むことはないはずよ。全員が談合するとか、そういうことがなければ」

 

「まあ、マコトがいるってだけで、協力なんてないだろうけどね。性格的に」

 

 マコト、自由人だし。基本的にはあんまり深く考えるタイプではないけど、トリニティと協力してあれこれーっていうのは考えられないよ。

 

”……? じゃあなんでマコトはエデン条約に賛同を?”

 

「エデン条約を推進していたのは私だったから。マコトはたぶん何も考えてないと思うわ」

 

”どうして、ヒナが?”

 

「引退もアリかなって、最近思うようになったの。エデン条約機構さえできれば、私が風紀委員長でなくともいいでしょう? そうすれば、キタノと遊んだりする時間ももっととれる。それにあまりに私中心すぎて、後任も育っていないし、ここで落ち着いたときに身を引いて、成長を促すのもアリだと思うの。私はまだゲヘナには居るわけだから、何かあったら助けられるでしょう?」

 

「風紀委員長、まだですか?」

 

 車の方から、少し大きな声が聞こえる。長話しすぎたかな。それにしても、ヒナちゃん、後任のことも考えてたんだ。少し意外かも。

 

「それじゃあ、これでお暇するわ。……補習授業部のことは、二人が守ってくれるのよね?」

 

 ヒナちゃんは真面目な顔で、私たちに問う。

 

「もちろん!」

 

”うん”

 

 その返事に満足してくれたのか、ヒナちゃんは微笑んだ。

 

「そう二人なら安心ね。……じゃあ、またね」

 

 ヒナちゃんはそう言い残して、車に乗り込み、行ってしまった。

 

 その場に残ったのは私と先生。先生は少し難しい顔をしながら思案している。ヒナちゃんの話なども聞いて、いろいろ考えなおす部分があったんだろうな、と思う。でも、そんなに悩んでても、何も始まらないんだよ?

 

「先生。ちょっと疲れちゃったし、帰りにコンビニに寄ってアイス食べない? 深夜のアイス、きっとすごくおいしいと思うんだ」

 

 だから、甘いものでも食べて休憩して、頭をリセットしよう?

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