前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
ナギサちゃんと別れて、夜の帰路を歩く。
お昼よりも空気が澄んでるように感じて、体が自然と深呼吸をする。あのセーフハウス付近には少なかった街灯も、大通りのここにはぽつぽつと立って街をオレンジに彩っていた。
空を見渡すと、明かりがないところに比べると随分少なくなりつつも、十分満天と言って差し支えない星空が広がっている。落ち着いて上を眺めてみると、なんだかミカちゃんを思い出す。あのスカートの中とか、謎超能力とか。
コツコツとローファーの後が響く中に、ほかの人の気配はない。ナギサちゃんとの話は意外と弾んで、これまでしばらく会えなかった時間を埋めるように話した結果がこの時間だ。少し気まずいなと思っていた時はこうやって長く居ることはできなかっただろうなあ。私がどうとかじゃなく、向こうから警戒されていたからという意味で。そう考えると、その疑いも晴れたみたいでよかった。
変な話、人に嫌われるのは嫌だからね。特に、大好きな友達には。
あーあ、楽しかったな。久しぶりのナギサちゃんとのお茶会。明らかに憑き物が落ちたかのような顔に、数年前を思い出す気兼ねない会話。これまで気を張っていたのを少し緩めた結果なのかな?
面白かったのが、雑談の中で、気を張っていないとき特有の、ほんの少しだけ言葉遣いが乱れている姿や、ミカちゃんをミカって呼び捨てにしかけて
「ミカが……失礼しました。ミカさんが」
と、いちいち訂正していたところだ。別にいいのに、見慣れてるからさ。でも、そうなってしまうくらい、私を前にして緊張がほぐれているのだなと思うとやっぱりうれしい。私もそうだから、お互いそうだったんだ。
ちなみに、いろいろ話したけど、今すぐこの補習授業部をなしにすることはしないらしい。どちらにせよ状況証拠的にセイアちゃんに何かが起きたことは間違いない。それに、トリニティの裏切り者も定かではない以上、そこですべてを見逃すわけにはいかないと。
まあ、作ってしまった以上、簡単にそれを取り消すなら「補習授業部って何のためのところだったの?」となってしまいかねないし、名目上は補習授業のためなのだから、それもこなさねば困る、とのことだ。
実際、メンバーは補習を受けさせられるのが当然のメンバーだし、じゃあなしねって言われるようなことはないとわかってはいたけどね。さすがにみんなは態度といい。成績といい癖があるから……
あ、ちなみに、普通にテストの嫌がらせまがいなこともするらしい。その対応の仕方で裏切り者を早く見つけて、いろいろなことを早く済ましてしまいたい……そういうことらしい。
別にしなくてもいいとは思うんだけど、これ以上元のお話からそれすぎてしまっても何が起こるかわからない。それに何より、別にそれを否定する合理的な理由も見つからない。突然、結末がわかるからなんて言ったってどうしようもないしね。
それに、有力なことも聞いた。あくまで全力で排除しようとすることもしないよう心掛けるとのことだ。私が倒れた時のことを思い出すと、自分もああしてしまうかもしれないと怖いというのが大きいと言っていた。そういう理由の部分は、やっぱり幼いなー、なんてね。
さて、一旦は学園から出て、大通りをゆっくり散歩していた私も、学園に帰り着いた。もう見慣れた、離れにある少し古びた校舎の中に入って、慎重に部屋を目指す。時間はてっぺんを回って、学生は外に出歩くことどころか、起きていることすら少し推奨されない時間だ。一応集団行動ということになっている以上、もうみんなは寝ているはずだ。起こさないようにしないと。
「ただいまー……って、起きてたの?」
ゆっくり階段を上って、先生と私の部屋を少し気を付けながらゆっくり開けると、そこでは先生が普段晩酌をしているテーブルについて座っていた。
”お帰り、キタノ。大丈夫だった?”
「あはは、大丈夫だよ」
”それならよかったけど。それで、ナギサはどうだった?”
「たぶん、先生びっくりすると思うよ。今度話したときは、もっと落ち着いて話しできるんじゃないかな」
その言葉を聞いて、先生はそっかと一言小さくつぶやくと、安心したように柔らかく表情を崩して私を席に促した。
「ありがとう」
”今日はこっちもいろいろあったから、キタノこそびっくりするんじゃないかな”
優しい笑みを浮かべたままの先生は、今日のこちらの充実具合を表しているようだ。……そういえば、私は受けてないけど、模擬テストがあったはず。ということは……
「もしかして、みんな赤点回避できた、とか?」
”よくわかったね!? うん。みんな点数がすごく上がってたんだ。それで、約束だからってヒフミがモモフレンズのぬいぐるみをアズサにあげて、もらったアズサはすごく喜んでたんだよ”
「先生、すごく優しい顔してたから。だから、何かほほえましい事でもあったのかなって思って。」
先生は結構顔に出るタイプだ。良くも悪くもだけどね。だから、こうやって話してたら、うれしいことがあったことくらいすぐにわかる。
「それにしても、みんな赤点回避、かあ。もともとのこの補習授業部はその名の通りの赤点の補習のための部活だもんね。今回みたいに、高得点を取ってたらちゃんとすっぱり終われるかもねえ」
もちろん、ナギサちゃんが邪魔をしてくることはストーリーとしても見てきたし、今日話した中でも理解済み。でも、「補習授業部」という名目である以上、全員が補習を完了すればこうやって窮屈に押しとどめられるようなことにはならないでいい。
みんな最近は仲良くなってきて、この調子なら補習授業部という檻に閉じ込めれていなくても仲良しのまま、アズサちゃんのあれこれにも協力してくれるだろうし。
……少しずつ、物語は変わっている。そのまま、なぞった方がいいのかもしれない。そんな気持ちももちろんある。でも、それと同時に、今この世界にいる私は何よりも、目の前にいてくれる友達がより楽しく日々を過ごしてほしいんだ。
”どうか、した? キタノ”
少し黙って考え込んでしまったからか、先生に心配の声をかけられる。いけない、心配させてしまったのかな、眉を下げて、こちらをのぞき込んでくる。
「何にもないよ。ただ、誰も悲しまない結末がいいなーって、改めて思っただけ」
”そうだね どうしても、うまくいかないところがあるのがもどかしい。でも——”
先生は少しだけためて、嬉しそうに、幸せそうに、少年みたいな無垢で純粋な笑顔でいう。
”キタノがいるから、頑張れるよ”
「そっか……私も、だからね、先生」
やっぱり、私たちは二人で一つだ。