前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
”いらっしゃい”
「おはようございまーす」
シャーレオフィスでは、当然だが先生が仕事をしていた。……巧妙に隠されているが、既に隈ができていて、きっと徹夜で仕事をしていたのだろう。
前までは生徒の立場じゃなかったから「ああ、ブラックだなあ」と、呑気に画面の外から眺めていたが、実際に見ると話は別だ。流石に心配になってくる。
「はい。差し入れ」
先生の机に、さっきエンジェル24で買ったものを置く、中には、コーヒー、おにぎり、あと例のよく効くAPドリンクという名の栄養ドリンクを入れている。
ちなみに、昨日の夜、死んだ目でこれを買いに来た先生に、ソラちゃんは若干ビビっていたみたいだ。
”ごめんね、今お金を……”
「ああ、いいって。これくらいは頑張ってる先生に、私ができることの一つでしかないし。あ、仕事手伝うね」
先生の机に積まれている書類から半分くらいを取って、その書類を分類分けしていく。確か、前世の知識では、ユウカを始めとする、当番の生徒がやってくれていたはずだ。
”申し訳ない……”
「ほら、そんな事言わなくていいの。私はここに出向になったんだからさ、仕事仲間でしょ?」
そう言っても先生は、その申し訳無さそうな顔で微笑んだ。
「笑ってごまかさない。この前、頼ってって言ったでしょ?……こういうのはなんだけどさ、私がシャーレ第一号の生徒なんだから、ちょっとは特別に扱ってくれてもいいんじゃないのー?」
”……ありがとう”
「どういたしましてっ!」
●●●
”ありがとう。キタノがいたおかげで書類仕事も早く終わったよ”
そこから何時間かかけて、積んである分の書類は片付いてしまった。結構積んであったはずなんだけど、書類仕事はやっぱり早いんだなあと。
”どうすればいいのかごとに分けてくれてたから、何も考えず作業できたからかな?”
「ほーん……って、確認ミスがあるかもしれないから、一応確認しながらやってよー……ダブルチェックは大切でしょ?」
”……なんだかやっぱり、頼れるね”
先生は私の目を優しげに見つめながら、本心からといった感じでその言葉を紡いだ。……これは、悪い気はしないなあ、なんて。
「先生のこと、結構好きだから。だから期待してるんだよ」
”それはありがたいね。まだ出会ってあんまり経ってないけど、キタノのこと、信頼してるよ”
「私からしてもそれはありがたい。じゃあ、こんなに早く信頼し合える二人は、なんだか不思議な力で引き寄せられた運命の二人なのかもね?」
”それだと、なんだか恋人みたいだね”
先生は少し意地悪な顔をして言った。それが、なんだか意外に思われた。
「先生って、しっかり生徒のことを理解してからそういうイジりをしてくると思ってた」
”まあ、そりゃあ、生徒によっては、あまりこういうのをするのはよくない子もいるからね”
先生は、苦笑いを浮かべた。でも、それを無防備な笑みに変えて言う。
”でも、キタノなら大丈夫だと思って”
「まあ……そうだけども。なんだか、先生って本当に私のことを信用してくれてるんだなあって」
”キタノが生徒だっているのもあるし……個人的に、なんだか安心するからね。それに、運命に引き寄せられた二人、なんでしょ?”
そうか……私が生徒だからか。確かに先生が無条件で信頼してくれるはずだ。ただ、個人的に安心するってなんだろう? 意外と、私と先生の相性自体が良いのかもしれない。
話も一区切りして、手持ち無沙汰になった私が椅子から立ち上がって、先生の机に近寄ると、待ってましたといった感じで一通の手紙のようなものを手渡される。
中を読む。色々な情報が書かれているが、要するにアビドスからの救援要請だ。その封の中に手紙を丁寧に入れ直して、それを先生に返した。
”どうする?”
「ええ……? 先生、さっき私のこと信頼してくれてるって言ってくれたじゃん。なら聞く意味ないでしょ?……勿論、行くよ」
”だから安心できるんだよね。キタノは”
先生はその手紙を懐に入れて、立ち上がった。
一度見た未来を、もう一度体験する。せっかくなら、皆が笑いあえるハッピーエンドを目指して、楽しく、精一杯やっていこう。
彼女も言っていた通り、私は『特異点』。だからこそできることもあるはずだ。それなら、ビクビクして正しい歴史を眺めるよりも、少しでもいい未来に、手を伸ばしてみたい。
私は、腰にある愛銃と、部屋の隅においていた愛銃の二つを触れて、先生を追った。
アビドス編開始ー!
どれくらいかかるのかわからない怖さが……