前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「はあ……ねえ、今日何日目……」
”……”
キヴォトス特有の頑丈さを持つ私はさておき、水も尽き、食事も上手く取れていない先生は、ギャグ漫画のような気落ち方をしている。
”ごめん……キタノを巻き込んじゃって”
電車でアビドスまで着いたはいいものの、そこから歩きで校舎を見つけようとして、数日だ。
私はこの展開を知っていたので特に問題はなかったのだけれども、先生はこうなるなんて知ってもいなかっただろうし、つらそうだ。
「……ん」
私はバッグをあさり、自分でエンジェル24で買って持ってきていたスティックバーと水を渡した。
”え?”
「あげるから、食べて」
”でもそれ、キタノのものなんじゃ……”
「うん。でも、先生のほうがつらそうだし。気づいてるよ? もう一日水も飲んでなければ、なにも食べてもないこと。私は食べたから」
”……ごめんね”
申し訳無さそうな顔で、先生は二つを受け取って、それを食べ始めた。ばりばり、ごくごく。結構な勢いで減らしていくところを見ると、本当に極限だったんじゃないの? 何の対策もなく来た先生が悪い、と言うのは簡単だが、少し可哀想に感じてきた。
”ふう……ありがとうね。本当に助かったよ”
「それは良かった。まあ先生もこんなにかかるとは思ってなかったでしょ? しょうがないって」
まあ、これは迷ったのが原因なんだけども。
「さ、ちょっとは顔色も良くなってるし、また歩いて向かっていこうか」
先生は少し無理をした様子で立ち上がると、大丈夫だとアピールするように私に微笑みかけて、歩き出した。
まあ、私も歩いていこうと言ったわけだし、先生もなんとか歩いているわけだけど、このまま普通に到着するとは思っていない。ここは砂だらけの街。どこを歩いても、同じように荒れた街が広がっている。
たまに少しきれいなところに出ても、生活感が薄く、気味が悪い上、また少し歩くと荒れた街が広がっている。
私は別に水を飲まなくたって数日生きるのは余裕だし、まずまだ買ってきた水が残っている。バーも同じように。水はちょこちょこ先生にあげているので、長くなりすぎるとなくなるかもしれないけど。
でも、私はこれがそう長くなりすぎないことを知っているから、全く焦る気になれない。
パタリ、と、突然先生がぶっ倒れる。
「せ、先生?」
ここは誰もいない町中。周囲を見渡すが、誰かがいるわけではない。
「大丈夫?」
”ちょっと、きついかも”
仕方がないので、私は先生の傍に座って、その背中をさすってあげることにした。
「よしよし。先生は頑張ったからね。ちょっと休むくらいバチは当たらないよ」
それに、そろそろ……ほら来た。
「ん?」
ロードバイクに乗った子が現れた。ケモミミに白い髪。
「……あの……大丈夫?」
先生は頷く。あほう。
「いや、迷っちゃって……」
代わりに私が答える。
「この人は?」
「お腹が減ってるのと、体力が尽きかけてるのと……まあ数日遭難してたから」
「ホームレスじゃないんだ」
その子は自転車を降りた。
「つまり、遭難者だったんだね」
”そういえば、ここは町中だよね? なにか食べられるお店とかないのかな?”
「ああ、もうとっくになくなってるよ」
「先生。ここは昔は超巨大な自治区が広がっていたけど、災害で少し活気がなくなっちゃったってところだから」
「まあ、郊外に行けば市街地とかはあるんだけど……あ、そういえば」
その銀髪の子は、ライディング用のエナジードリンクを取り出して……私と先生、どっちにあげるか迷うように手をふらふら行き来させた。
「む、むう……」
「あ、先生にあげていいよ。私は全然平気だから」
そう言うと、先生に手渡して、「コップは……」と、鞄の中をあさりだした。すると……先生がそのまま口をつけて飲みだした。
「!?」
そういえばそういう人だったぁー! 忘れてたけど、ブルアカの先生って、こういう人だったー!
「あ……それ……ううん、なんでもない……気にしないで」
ほら! 頬赤くしちゃってるじゃん!
”ぷはあ!……助けてくれてありがとう”
「うん。……連邦生徒会の人? 学校に用事か何かあってきたの? この近くにはうちの学校くらいしかないけど」
「うん。そう『アビドス』に向かってるんだ」
「そっか。久しぶりのお客様ってことだね。それじゃあ、私が案内してあげるから、ついてきて」
”もう動けない……”
「うーん、どうしよう……」
この先生は……ダメダメだ……記憶の中では確か、これから……
”背負って連れてってくれない?”
「……まあ、そのほうがいいか」
「だめ。私が背負っていくから。先生も甘えない! ごめんね。こんな人で」
ケモミミの……って、もういいか。シロコちゃんの方に言うと、「ん、問題ない」と言って、自転車にまたがった。
「よし、先生、背負うからね」
”うん”
……って、あ
「あのさ、先生。さすがに、何日も遭難していたわけだから、結構汗もかいたし……」
”気にしないで”
……おい、まさか、あの言葉言うつもりじゃないよね?
”むしろいい匂いだから大丈夫”
「……変態」
私が小さくつぶやくと、背負った先生がビクッと反応した。やっぱり変態、変態だ!
全く。つくづくこの人は、あのブルーアーカイブの先生なんだな。
「ええ……?」
シロコちゃんが若干引いている。気にしないでほしいなあ……これが先生の通常運行だから。
「それじゃあいこうか」
シロコちゃんが、少しずつ自転車で進んでいく。私達によく配慮された速さで、追いつきながら動くのも苦じゃないくらい。ありがたい……。
●●●
「ただいま」
シロコちゃんが案内してくれたアビドスの校舎は、存外大きくて、立派で、隅まで綺麗だった。その校舎のとある一室の中に、入ると、そこには……
「おかえり、シロコ先輩……? その人達、誰!?」
「わあ、シロコちゃんが、誰かを拉致してきました!」
「拉致!? もしかしてもうひとりの方が背負われている人は死体ですか!? シロコ先輩が遂に犯罪に手を……!」
「皆落ち着いて! 速やかに死体を隠す場所を探すわよ!」
三人が賑やかに盛り上がりだしたので、とりあえず、背中で私の首元の匂いをすんすん嗅ぎ続けている不審者を床に落とす。
「この人生きてるので大丈夫でーす」
「うん。うちの学校に用事があるんだって」
先生が崩れ落ちた状態のまま、グッと親指を立ててアピールする。……ちょっと満足そうな顔をしているあたり、さっきまで嗅いでた私の匂いがお気に召した可能性ある? そう思うと、若干うざったい顔に思えてきた……。
「え? 死体じゃなかったんですか?」
「拉致してきたわけでもなく、お客さん?」
「そうみたい」
すると、突然先生が起き上がって、
”こんにちは!”
と、元気に挨拶した。うるさ! 一番近くにいるから、一番響く。というか、もうそんなに元気になったの? 生命力強すぎでしょ……。
「わあ、びっくりしました。お客様がいらっしゃるなんて、久しぶりですね」
「それもそうですね……でも、来客の予定なんてありましたっけ?」
そう言われ、どういう事? と首を傾げる先生の肩をつんつんと突く。
「ほら、手紙」
ああ、と合点した様子の先生は、懐にあった手紙を丁寧に取り出し、それを皆に見せた。
”シャーレの顧問先生です。よろしくね”
「私はシャーレ所属、夜永キタノ。よろしくね!」
二人で名乗りあげ! ……シャーレ所属って、ちょっとかっこいいな。今度からはもうずっとシャーレ所属の夜永キタノって挨拶しようかな。何かトリニティ学園所属の夜永キタノって挨拶するより、数倍スタイリッシュに感じる。……うん、そうしよう。
私がそんなしょうもないことを考えていると、皆は驚いたような表情をして固まってしまっていた。
「連邦捜査部、シャーレ!?」
「支援要請が受理されたのですね! 良かったですね! アヤネちゃん!」
「はい! これで……弾薬や補給品の援助が受けられます! あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……って、ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋だから、私、起こしてくる!」
そうしてセリカちゃんが部屋を出ようとした瞬間、銃声が響いた。