『優しい害悪 なるみつ』という全く知らないキャラに憑依した   作:わ゛か゛め゛ェ゛ーッ!!!!

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 初の憑依モノです。


第1話

 

 

 

 

 

 目が覚めると、そこは、お気に入りの漫画と映画、そしてゲームソフトが詰まった本棚と何丁ものエアガンに囲まれた我が愛すべき秘密基地(自室)ではなく、薄暗く、そして殺風景でこじんまりとしたワンルームだった。

 キッチン、冷蔵庫は小型だが存在しており、あとはベッドの隣の机と部屋の中央に炬燵用の折りたたみテーブルが置いてあるのみで、ほかは洗面所への扉が玄関まで続く廊下の途中に一つ。いかにも安そうで使い勝手のいい、収入の少ない学生には重宝しそうな部屋だった。実際、本棚には漫画や映画のDVDの代わりに教科書や参考書のようなものが隙間なく敷き詰められており、机の上にも問題集のタワーマンションが2棟建設されていた。

 

 部屋の間取り、内装、所持品。全てが全て、何もかも心当たりがない。まるで、いや正真正銘他人の部屋である。

 

 背中に氷水よりも冷たい汗が湧いてすぐに流れた。思い出せ。昨日、自分は何をした。

 いや、ダメだ。思い出す必要がないほど鮮明に覚えている。昨日の夜は間違いなく自室のベッドで睡眠を取った。こんな見ず知らずの人の部屋で目覚める心当たりなど1ミリだって存在しない。

 こうなれば仕方がない。ひとまず原因の追求は一旦中断し、現状理解を進めたほうがよさそうである。つまりは物色の時間である。

 部屋を漁る際、漫画や映画の中でも真っ先に手を付ける場所がある。それは、机の引き出しの中。そのセオリーに従いベッドに隣接する机の引き出しを開けると、早速小さな手帳のようなものを見つけた。

 どうやら生徒手帳のようだ。表紙には〈三門市立第三中学校〉と書かれている。これがこの部屋の主の手がかりとなればいいが。

 表紙をめくる。そこには証明写真が貼り付けらていた。目元が隠れるまで伸びた焦げ茶の髪、この世の全てを恨んでいそうな目付き、前髪越しでもわかるほどハッキリ浮き出た隈、表情筋が機能していないツルっとした口元。

 勝手に生徒手帳の中身を見た手前、大変失礼なのだが、なんて印象の悪い顔なのだろうかと思わずにはいられなかった。自分の経験上、こういった顔の持ち主は、誰彼構わず噛みつき、やがて孤立するか、もしくは誰かと関わることを嫌い、やはり孤立するかのどちらかである。年齢は14歳。つまり中学生。よく見れば、確かに、部屋にある教科書や問題集は全て中学生用のものだ。数学の連立方程式や英語の不定詞など懐かしい。とはいえ、中学生のうちから孤立の可能性を内に秘めてしまっているとは、なんとも可愛そうな子である。もちろん、赤の他人である自分に言われても余計なお世話にしかならないだろうが。

 手帳の持ち主、必然的にこの部屋の(ヌシ)となる彼の名前は『鳴海(なるみ)光也(みつや)』といった。誕生日は12月4日。至って普通だ。

 そこから先は数ページに渡って校則や校歌が綴られていた。制服はどういったものを着用しなければならないのか、や、アルバイトの禁止など、こちらも特に異常は見受けられない。

 問題はその先のページだった。そのページの見出しは、他のページのものとは一線を画す異常さを持っており、ページそのものも奇怪なイラスト使用した図説式で特に目立っていた。曰く、

 

 ──()()()()に襲われたときの対処法

 

 〈ネイバー〉。

 自分はこの単語を知っている。それもかなり詳細に。漢字で表記すると〈近界民〉となることも知っている。しかし理解できなかった。ふざけているのかとさえ思った。

 なぜならそれは、自分のお気に入りの漫画作品である『ワールドトリガー』に登場する、主人公達と相対する敵を表す用語だからである。思い返せば、そもそもこの生徒手帳の発行元である〈三門市立第三中学校〉とはワールドトリガーに存在する中学の一つである。

 

 おかしい。ありえない。そんな()()()()()()()()などあるものなのか。

 

 しかし、落ち着かなければならない。まだ本当にそうだとは確定していない。

 なぜなら、この生徒手帳は、精巧に作られたコアなファン向けのグッズの可能性があるのだ。生徒手帳は突き詰めればただの紙の束でしかないので、生徒手帳のみでグッズかそうでないかを判別することは不可能である。

 火照った体が徐々に冷めていくのを感じた。

 

 その時、ふと、小さな巾着袋が目に入った。それは引き出しの中の、ちょうど生徒手帳が仕舞われていた場所の右隣に、静かに横たわっていた。

 ゆっくりと巾着袋を手に取り、手のひらに乗せてみる。重さはだいたい文庫本1冊よりも少し軽いかどうかといった具合。袋の上から触れてみると、中身の形状は比較的細長く、大きさはだいたい手のひらから両端が若干はみ出るかどうかであった。

 正直に言おう。自分は、この巾着袋の中身を想像できる。重さはともかく、この形状、大きさはほぼ間違いなく『アレ』だろう。

 引き出しを閉め、一度深呼吸をする。そして、意を決し、巾着袋の口を開いて中身を取り出した。

 程よい重さ。まるで包丁のハンドルだけ独立してしまったかのような形状。そして、藍色。

 

 ああ、まさか。本当に予想通りだとは。

 

 これはどう見ても、〈トリガー〉だ。

 

 〈トリガー〉とは、『ワールドトリガー』における武器に該当するもので、これを使って戦闘体、つまり〈トリオン体〉に変身し、装備された兵器を駆使して近界民を倒すのである。

 しかし〈トリガー〉まで出てくるとは、この部屋の主は相当なワールドトリガーオタクだと言える。恐らく、自分と話が合うだろう。

 だんだんと落ち着きを取り戻しつつあったテンションが、また熱を帯びた。

 それにしてもこの〈トリガー〉、妙に重厚感に溢れている。ワールドトリガーにはファンも多く、その中でもコアなファン層向けに公式がデータ集を出版していることから、グッズを製作すること自体は需要があるだろう。しかし、いかに需要があるとはいえ、ここまで精巧に作るものなのだろうか。たかがグッズに。もちろん、たかがグッズだろうと、自分は満面の笑みで購入するだろうが。

 とはいえ、グッズだろうと自作の模造品だろうと、目の前に〈トリガー〉の形をしたものがあることに変わりはない。ならば、やるべきことは一つである。

 

 息を吸い、小さく吐く。それを3回繰り返し、呼吸を穏やかなものに調整する。そしてゆっくりと、同時にハッキリ呟いた。

 まだ消えていない一つの可能性を信じて。

 

「トリガー、起動(オン)

 

 その瞬間、自分の体は、目まぐるしく変化した。

 突如として〈トリガー〉が発光し、その光は〈トリガー〉を起点としながら、まるで大海を渡る波のように自分の体の表面を駆け抜けた。腕を始め、肩、枝分かれをして頭と胸、さらに腹、足と光は突き進み、一瞬のうちにして全身が光に包まれた。

 そして、結果的に光は1秒も経たずに収まった。

 

 まず袖を見た。白い。肩を見た。黒地に白文字のエンブレムを発見。ズボンを見た。袖と同じく真っ白。足元を見た。丈夫そうなタクティカルブーツを履いている。視界の端々にはHPバーのような白い棒状のグラフや謎のキューブ状のアイコンなどが映っており、そのビジュアルはまるで戦闘機のHUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)のようだ。

 信じられない。今着用しているのは、分類上は訓練生のものだが、紛れもなく戦闘服であり、つまり、この体は正真正銘〈トリオン体〉ということである。

 

 〈トリオン体〉に、なれてしまった。

 

 この事実が、頭の中に響き渡っていた。

 それはすなわち、この世界は『ワールドトリガー』の世界だという証明にほかならなかった。

 

 なんということだろうか。こんなことが起こっていいのか。

 

 まさか本当に、『ワールドトリガー』の世界にトリップしていただなんて。

 

 物理的だとか理論的だとか、そんなものはクソ喰らえ。

 この白い隊服。これが何よりの証拠だ。

 自分は今、間違いなく『ワールドトリガー』の世界にいる。

 つまりはアレか。今はまだ訓練生なのでしばらくお預けだが、B級になれば、装備する〈トリガー〉について一晩中悩むことができるのか。原作で活躍したあのキャラやこのキャラと共に防衛任務に就くこともできるのか。そして何より。

 

 ────もう一度人生を中学生からやり直すことができるのか。この()()の環境で。

 

 しかし、残念ながら、今は手放しに興奮している場合ではない。いかに非現実的な事象に巻き込まれていようと、赤の他人の部屋に無断で立ち入ってるという事実は変わらない。そもそもこの〈トリガー〉は他人の物である。よって、今早急にやらねばならないことは、〈トリガー〉の電源を切り、この部屋から立ち去ることである。

 

 だが────だが。

 ほんの少し。

 あとほんの少しだけなら。

 この状況を堪能してもいいのではないだろうか。

 試しに袖の匂いを嗅いでみる。無臭。なるほど。さすがは〈トリオン体〉。体臭とも無縁らしい。隊服の表面を撫でてみる。ツルツルとザラザラの中間。合皮とポリエステルを混ぜたような印象。

 そもそも気になるのは、自分の隊服姿が似合っているかどうかである。廊下には姿見が無いので、自分の全体像を確認したければ洗面所に行かなければならない。

 そういえば、この部屋で目覚めてからほとんど動いていなかった。そんなことを思い返しながら洗面所のドアを開けようとした、

 

 その時。インターホンが鳴った。

 

 その軽快なチャイムは自分の神経をバネ仕掛けの玩具のように飛び上がらせた。

 

 まっずい。ヤっバい。

 文字通り思わず頭を抱える。

 恐れていた事態だ。今、この状況で一番起こってほしくなかった出来事は『部屋主の帰宅』と『部屋主への訪問』である。そのうちの後者が起こってしまった。

 もう一度ピンポーンと鳴らされる。そして間髪入れずに、ドンドンと玄関扉が叩かれた。

 

『ミツヤ、いるか?』

 

 再度扉がノックされる。

 ダメだ。終わりだ。インターホンのみであれば、まだ宅急便の可能性もあった。しかし、ノックと呼び掛けまであるのだからさすがに部屋主の知り合いだろう。

 どうする。隠れるか。いや、違う。そうじゃない。単純に居留守を行えば万事解決ではないか。いかの部屋主の知り合いと言えど、合鍵までは持っていないだろう。仮に持っていたとしても、知り合いとはいえ無断で部屋に侵入するのは人としてどうかと思う────

 

 ガチャッ、ギイィー、と重い扉がゆっくりと開く音がした。

 自分はほぼ反射的にベッドの下に潜り込み、両腕で顔を抱え込んだ。

 薄暗がりから完全な暗闇へ目まぐるしく変わる景色の中、訪問者のため息がかすかに聞こえた。

 

「……鍵は掛けろと何度も言ったんだが」

 

 ハハハハ。分かる。

 鳴海君だったか。なぜ鍵を掛けていない。仮にもここは君の自宅じゃないか。

 君が自宅に鍵を掛けるという至極当然のことができる常識人だったなら、自分は今、ベッドの下に隠れる必要もなかった。なぜだ。なぜ君は────

 すると、訪問者の足音が急速に接近する。釣られて自分の心拍も加速し、ドクンドクンと血管の中を重く波打つ。

 足音は机の前で止まった。参考書やら問題集がタワーの如く積まれたあの机だ。足音から推測する訪問者の位置と部屋の間取りから予想するに、訪問者の目線は恐らくベッドの上に向いている。

 

「……いないのか?」

 

 斜め上方からベッド越しに声が聞こえて、自分はやはりと思った。玄関先から死角となり、かつ家主が一番そこにいる可能性が高い場所。そのベッドから探すのは必然である。

 足音が遠ざかった。そしてガチャッとドアを開ける音した後、すぐに閉められた。洗面所を確認したようだ。

 そうだ。ここには誰もいない。さっさと出ていけ。

 しかし、そんな自分の要望の反して足音はこちらの方へ近づいき、止まった。

 

 スゥーという木材がわずかに擦れる音。机の引き出しを開けたらしい。

 ……引き出し?

 マズイ。それはマズイ気がする。自分は今、引き出しの中にあった〈トリガー〉を使って〈トリオン体〉に変身している。さらに、それが入っていた巾着袋は引き出しの中に戻してしまった。空の袋だけ残されていれば、さすがに不自然に思うだろう。

 彼の動きが止まった。

 

「ああ、訓練中か」

 

 ……そうか。〈トリガー〉と持ち主が不在なら、普通はそう思うのか。少し考えが足りなかった。

 とはいえその勘違いは僥倖。そのまま回れ右をして部屋から出ていってくれれば万々歳だ。

 それにしてもこの声、どこかで聞いたことがあるような、ないような……。

 

 また木材が擦れた。きっと引き出しが閉められたのだろう。

 そして訪問者は、部屋に入ってきたときと同じスピードでベッドから遠ざかった。

 次の瞬間、ガチャッという大きな音が鳴り、そのあと、玄関が閉められた。

 

 部屋から人の気配が消えた。

 自分はゆっくりとベッドの下から這い出て、部屋を見回した。もちろん誰もいない。どうやら願いが通じたらしい。

 ふうぅぅ、と我ながら情けないため息を吐いた。間一髪だった。

 とはいえ、よくもまあ、あの一瞬の隙にベッドの下に潜り込めたと思う。自分でも目が回るほどの素早さだった。これも〈トリオン体〉が為せる技か。

 しかしながら、あの訪問者。自分は、彼の声を聞いたことがある。誰かの声かは思い出せないが。だが、この『ワールドトリガー』の世界で声に心当たりがあるということは、本編に登場した()()()()()()────いや、もはや『誰か』と言ったほうが適切か。ともかく、自分の知っている誰かなのは間違いない。

 まあ、思い出せないことに変わりはないが。自分の記憶力の脆弱さが恨めしい。

 

 思い出せないならそれは仕方がない。今は後回しにすべきである。そもそも今は前提として物思いに耽ってる暇さえないのだ。確率は低いだろうが、また彼が戻ってくる可能性も────

 

 

 

 

 その時、またしても玄関ドアが開かれた。

 外から入り込む光が、動けないままの自分の顔面を光色に塗りたくった。

 

 開かれた玄関の外にいる()()()()()()()()()()()は、自分の目をただ真っ直ぐ見つめていた。

 

「やっぱり、いたのか光也」

 

 対して自分は────

 

「ぁ…………」

 

 

 

 言葉を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   




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 増えることが予想されるタグ……R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト
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