「お久し振りです、楠木司令」
「10年ぶりだな、南居」
私を出迎えてくれた楠木司令にお辞儀をする。いつもはDA本部の情報室、もしくは司令室に座っている彼女が私を玄関先で迎えてくれた。
とても嬉しい。
小躍りしなくなる気持ちを押さえながらお土産の白ワインを手渡す。すると楠木司令は「お前にしては良い品だ。滞在中、いつでもいいお前の暇な時に付き合え」とだけ告げ、そのまま帰ってしまう。
「一つ言い忘れていた。千束にも会ってやれ。あいつはお前の卒業後、かなり落ち込んでいた」
「えぇ、そうします。それではまた」
チラチラと私達の会話を遠巻きから見ているリコリスに手を振り、私は千束のいる場所と住所の書かれた紙を胸ポケットに仕舞い込み。ゆっくりと警備システムの確認を終えるのを待つ。
〈頭の中の掲示板〉
100:名無しのオタク女
やっぱりゴルゴ13の狙撃が一番よ
101:名無しのオタク女
のび太くんもすごいわよ?
102:名無しのオタク女
あれは、おかしいのよ
普通の小学生はあんなことできないわ
103:名無しのオタク女
それは、ほんとにそうね
104:名無しのオタク女
あやとりもすごいよね
105:名無しのオタク女
あれは、もはや芸術だから
106:名無しのオタク女
じゃあ、冴羽さんは?
107:名無しのオタク女
かっこいいけど、えっちぃのは…
108:名無しのオタク女
私も夫がいるし
109:名無しのオタク女
不倫はだめよ?
110:名無しのオタク女
そういうのじゃないわよ!?
111:名無しのオタク女
この既婚者どもが
また、マウント取りやがって
112:暗殺
お前達はなにをやってるんだ?
113:名無しのオタク女
暗殺ちゃん!
114:名無しのオタク女
聞いてよ、暗殺ちゃん!
115:名無しのオタク女
あの既婚者がマウントかましてくるのよ!
116:暗殺
そうか。
私はとくに何も思わないが、お前は悲しいのだな。ならばマウントというものを取れるように頑張れば良いだけだ。安心しろ、お前の良さは私達がしっかりと知っている。
117:名無しのオタク女
暗殺ちゃん…
118:名無しのオタク女
かっこいい
119:名無しのオタク女
すてき
120:名無しのオタク女
んんんっ、暗殺ちゃんはお土産渡せた?
121:暗殺
ああ、問題なく渡せた。
あとは知り合いに挨拶してくる。
122:名無しのオタク女
私達も挨拶したい
123:名無しのオタク女
ちょっとだめよ
124:名無しのオタク女
そうよ、私だって我慢してるんだから
〈暗殺ちゃん:LIVEモード停止〉
私は『喫茶リコリコ』というDA支部の前にいる。
チリンチリンっと人の出入りを知らせる鈴が鳴り、楽しそうに接客していた白髪の少女がこちらを見る。いや、私を見て動きと表情が完全に止まった。
「な、なご?」
「ああ、そうだよ。久しぶり、千束」
「うわぁっほおおぉぉぉ!!!えっ、なんで?南居じゃん!先生、先生も見てよ、南居いるよ!?ねぇ、いるよね!これ嘘じゃないよね!?」
ワチャワチャとする千束の様子に店内にいたお客さんが私と彼女を見比べている。なるほど、いつもの千束なら絶対に有り得ない反応をしているのか。
そんなことを考えながらコアラのように抱きついてきた千束を受け止める。うん、あの小さかった千束がこんなに大きくなっているというのはすごく嬉しいものだ。
私と千束のやり取りを優しい目で見つめるミカ教官を見つめ返す。私は関わったことのない女性とリコリスの一人と思われる少女にも手を振る。
「お久しぶりです、ミカさん」
「ああ、随分とでかくなったな…」
「もう、おばさんですからね」
まだ、私に引っ付いている千束を持ち上げ、ゆっくりとミカ教官と話せるカウンター席に腰かける。私に抱き付きながら後ろのお客さんと話している千束の頭を優しく撫でる。