ある日の出来事だ。
大学の講義を終えて九郎先輩とデートしようと中庭のテラスで読書しながら待っていると「おひいさま、実は急を要するご相談事が」と磯の香りを纏った妖怪に話し掛けられた。
「出来れば手短に、ここは人が多いので」
私の呟きに従って妖怪は話し始める。
近海の魚のみならず、妖怪にも手出しする極めて危険な化け物が現れてしまい、このままでは人間を襲う可能性もあるそうだ。
ちょうど九郎先輩をデートにお誘いする口実としてはお誂え向きだ。もっとも素直に着いてきてくれるのかは怪しいですけど。
それに、ようやく音撃道の先生に許しを貰えて下山してきた訳ですし、こういうときに九郎先輩の音撃道を試しておくのも良いですからね。
しかし、件の怪異は『電撃を放出する木人形』ですか。私を襲ってきた藁人形の怪異をバージョンアップさせたものなのか。それとも自然発生した類いの怪異なのかも調べなくてはいけません。
「岩永、ここで考え事するのはやめた方が良いんじゃないか?いくらお前でも身体を冷やすのは危ないだろ。ほら、上着貸してやる」
「あ、ありがとうございます」
はあ、どうしたものでしょう。
音撃道の修行を終えて以降、九郎先輩の優しさと気遣いが以前より増している。べつに大事にされるのは嬉しいのですが、このままだと私はドキドキしっぱなしで高血圧になってしまいそうです。
〈B県"渡々水町"〉
私は九郎先輩の運転する車の助手席に座り、あれこれと指示を出しながら『電撃のピノッキオ』の出現する海岸沿いの家を場所に向かっていると自転車に乗っている真奈美さんを見つけた。
「これは奇遇ですね、真奈美さん!」
「………なんで?」
「少々、厄介事の解決です。そちらは?」
「私は夏休みなのでおばあちゃん家に…」
「こちらにご実家が?」
本当に奇遇ですね。
いや、どちらかと言えば必然なのかもしれませんが、私は私の役目を全うするだけです。なんて考えていたのに、まさか真奈美さんのおばあさんの家が件の怪異と関係しているとは予想外すぎる。
「岩永先輩、桜川先輩、私のおばあちゃんです」
「私が嶋井多恵だよ。にしても、アンタが『おひいさま』の知り合いだなんてつくづく世界っていうのは狭いもんだねえ?」
「ブヨも久しぶり、また太ったの?」
「いやはや、お嬢さんも人が悪い。まだまだ太ってなんておりませんよ、あっ、やめ、お腹は撫でないでくださぁい!!」
私達を置き去りにして化け猫と戯れる真奈美さんを放置して、私は多恵さんに『電撃のピノッキオ』の出現し始めた理由を問う。