彼女の話は概ね聞いていた通りだ。
だが、どうにも会話の中に違和感を感じる。些細な違和感ではあるが今は『電撃のピノッキオ』を退治する事を優先しよう。
もしもの時は私も打って出れば良いだけだ。
「九郎先輩、本当に多恵さんにも?」
「そうしないと納得してくれないだろ」
私は音撃棒の調子を確かめながら準備体操をやっている九郎先輩に話しかける。彼の言うことは尤もではある。しかし、いきなり炎を纏って鬼になるのはお年寄りに見せるのは酷なのではないだろうか。
後ろで真奈美さんと話している多恵さんを見る。年相応とは言い難い筋肉質な身体つき。おそらく真奈美さんの運動神経の良さは彼女譲りなのだろう。
しかし、彼女の血筋は厄介に巻き込まれやすい呪いでも受けているのかと本気で心配してしまうほど怪異や妖怪の揉め事に関わっている。
「九郎先輩、呉々も壊さないように」
「それは問題ない。僕の目的は別なのは岩永も知っているだろ」
「それはそうですが……っと、来ましたね」
私は岩影に隠れる。
真奈美さんと多恵さんも同様に岩影に隠れて木人形を見ている。しかし、私の聞いていた木人形とは形状が異なっているように思える。
ふと私の後ろで「違う、あれじゃない」と呟く声が聴こえてきた。まずい、これは六花さんに協力している人の罠だ。
「九郎先輩、下がって!!」
「なっ、ぐううぅぅっ!!?」
こんなところで出会すのは想定外だ。風鳴さんのくれた資料に記載されていた『魔化魍』の餌を集める姫と童子の姿を見間違えるなんて最悪の失態だ。
「各員、全力で離れなさい!あの二体は『木人形』よりも危険な化け物です、下手をすれば貴方達も捕食される可能性もある!」
私の叫びに驚く妖怪達を押し退けて、九郎先輩のところへと向かう。なぜ、こうなると考えなかったんだ、岩永琴子。お前は知恵の神と畏敬される者の筈だ。なぜ、お前は『魔化魍』の存在を見落とした。
いや、私は見落としていない。
そうなるように未来を誘導されたのか。六花さんと協力者の底意地の悪さが目立っている作戦だ。実に不愉快でムカつく。
ピュイイィィィンッ
もしもの時のために用意していた大型のカバンをこじ開けて茜鷹、瑠璃狼、緑大猿、黄檗蟹、黄赤獅子の音式神が飛び出す。
「九郎先輩、お怪我はありませんか?」
「とくに怪我はしてないが、さっきので首がへし折れた。まさかピノッキオ退治のつもりが、ぶっつけ本番の魔化魍退治になるとは予想外だ」
ゆっくりと立ち上がった九郎先輩は右腰に下げていた音叉を掴み、近くにある岩と叩き合わせて清めの音を発生させる。
「ハアァァァァッ……タァ!!」
青空を彷彿とさせる空色の炎を掻き分け、鬼となった九郎先輩が現れる。風鳴さんの旦那さんに与えられた鬼としての九郎先輩の名称は
「岩永も下がっててくれ」
「はい、お気をつけて」
九郎先輩は音撃棒を構えると素早く童子の顔や胸部、腹部に音撃棒を叩きつける。二撃、三撃、四撃、音撃棒を叩き込む回数を重ねる毎に童子の動きが鈍り、姫がハサミ状の片腕を振るって九郎先輩を襲う。
「ぐっ、流石に重いな…!」
音撃棒とハサミが鍔迫り合い。
九郎先輩の右肩にハサミが食い込み、そのまま九郎先輩の腕を切断するためにハサミが閉じようとした瞬間、姫の頭が真後ろに弾かれた。
まさかの頭突き攻撃に私も驚くのも束の間、九郎先輩はバックル代わりについている音撃鼓を童子と姫に押し付けると、斜め後ろに振りかぶった音撃棒を本気で二体に叩き込んだ。
「音撃打・爆裂強打の型ァッ!!」
ドドンッ!と太鼓を打ち鳴らす音が響き、完全に清めの音が浸透してしまった『魔化魍』が爆発し、そのまま塵となって消える。
九郎先輩の初陣は勝利で終わりましたが、この騒動について妖怪達も納得できる説明を聞かせるのは少しばかり骨が折れそうですね。