私の名前は桜川六花、
「おはよう、六花さん」
「えぇ、おはよう、足立君」
そういう災いの種のように扱われる私と行動を共にしている足立硯という女性もまた奇怪で奇妙で禍々しい生き物だ。
おおよそ私の様な「化け物」とは似ても似つかない物腰の柔らかな彼女の趣味は「化け物作り」だ。今まで私の描き溜めていた絵画を本物に作り直し、九郎と琴子さんに差し向けているのも彼女の希望であるが、私の求める結果も手に入る。
「ふと思ったのだけれど。足立君って化け物を思うままに作り出している訳じゃないのよね。いったい、どうやっているの?」
「特段、これといった難しい作業はないかな。強いて言えば噂の種をばら蒔き、ちょうど良さそうな怪異の話を喰わせる。そうすれば『嘘はくるりと真に裏返り、真はくるりと嘘に裏返り』になる」
そういう曖昧で掴み所の無い謎々を聞くつもりはないのだが、彼女の言葉はウソまみれ。初めて出会ったときは『スタイリスト』を自称しているけれど。
そんな仕事をやっているようには見えない。
「ああ、そうだ。六花さん、朝食のお供につけるのはいちごジャムとブルーベリーのどちらがお好みか教えてもらえる?」
「……いちごにしましょう、今日は」
私はブルーベリーを選んだ未来の可能性を意識的に知覚し、ソッと未来の可能性を修正する。本来ならば死して掴み取る『未来の可能性』を殆んどリスクなしで使えるようになったのも足立君の影響だ。
どうやっているのか。
それもまた彼女の多すぎる謎の一つであるが、少なくとも可能性を見るだけなら私に不都合なく使用する事は簡単に出来る。
「もしかして、このジャムも自家製?」
「よく分かるね、さすが」
「貴女の料理を一年近く食べれば分かるわ。ただ、ほんの少し酸味が強すぎるせいでバターと相性が悪くなってる様な気がする」
「じゃあ、また作り直してみるよ」
私の言葉に楽しそうに笑って答えると足立君はトーストをかじり、コーンポタージュなのかシチューなのか分からなものを飲み始める。
うん、味はコーンポタージュなのに食感はグラタンみたいになってる。これ、どうやって作っているのか気になるし。
あとでこっそりと観察しよう。
〈とある山岳〉
「貴様、どういうつもりなのじゃ?」
「ちょっとばかり面白い事をするつもりだよ」
私を放置して雪女と楽しそうに話す足立君の会話に聞き耳を立てる。もっと正確に言ってしまえば私は足立君の背中にくっついている。
彼女に背負われている訳でもなければのし掛かっているこ訳でもない。むしろ山岳や砂漠で荷運び等に使われる台座に縛り付けられているのだ。
「(とても退屈だけれど。まあ、こうして静かに雪山を眺めるのも悪くないわね。雪女が近くにいるせいで寒すぎるのはアレだけど)」
ボーッと雪山を眺める。
心地好い風に煽られて、だんだんと眠くなってきたところを揺さぶられて足立君に無理やり起こされる。しかし、よくよく考えるとさっきのは凍死しそうになっていただけだ。
「ほほう、私に伴侶が現れるとな!」
「ああ、そうだよ。私の予想が正しければ四日後くらいに町中で出会うだろう。もしかしたら君の知っている人かもしれないよ?」
「なんじゃなんじゃ、勿体振るでない!はよう、私にその者の事を教えてくれ」
「ふふふ、それはお楽しみってやつさ。ああ、そろそろ帰らないといけないな。それじゃあ、良き言伝てを期待しているよ、雪女」
そう言うと足立君は雪女と別れの挨拶を交わして、ゆっくりと私を傷付けないように下山する。かなり面白い話を聞けたけど、どうやって調べているのかは依然として分からないままだ。