私と九郎先輩の逢瀬をぶった斬るように現れた妖怪は「雪女が人間の男と過ごしている、これは問題ないのだろうか」と相談してきた。
雪女、雪の妖精、雪ん子、雪姫とも例えられる日本古来より存在する最も美しい妖怪だ。その雪女と人間の男という組み合わせは中々に魅力的だ。どうやって口説き落としたのだろうか、あるいは雪女に惚れ込まれてしまったのだろうか。
ああ、実に興味深い話だ。
「良いでしょう。二人の関係は私も認めます」
私の言葉にホッとする妖怪。この子も意地悪で相談を持ってきた訳ではなく、本当に二人の事を案じて遠路遙々、私のところまで来たのだ。
しかし、やはり雪女となると気になりますね。真奈美さんも「この世で最も美しいモノ」という課題に雪女を書いて提出している。
「九郎先輩、私達も会ってみましょうか?」
「537…538…539……僕はどっちでもいい。美女や美少女に関わると碌な目に合ってないし、この前だって転落したばかりだぞ?」
「そう言われるとそうですね」
私の足元で腕立て伏せをやっている九郎先輩に問い掛けると遠回しに行きたくないと言われてしまう。だが、よくよく考えると九郎先輩も訳ありタイプのた女難なのは事実である。
「そう言えば斬殺事件の起きているのも雪女と件の男の暮らす地方ですね。………魔化魍とは考えたくないですが、一応の警戒はしておきましょう」
こうやって何気無い日常にさえ侵食する『魔化魍』の脅威は既に理解している。先月の『電撃のピノッキオ』の時もそうだ。
私の意識は意図的に誘導されて九郎先輩や近隣の妖怪に被害を及ぼすところだった。そして、なにより『魔化魍』と邂逅した瞬間に感じた恐ろしさと悪寒はなんだったのだろうか。
〈四ヶ月後〉
雪女の気に入った男が殺人事件の重要参考人として警察に連れていかれるかもしれないと妖怪に言われた。どうして、そうなるんですか?とその男に問い質したい気分だ。
さすがに九郎先輩も運動したばかりで疲れているし、今回の相談は私だけで向かうとしよう。あわよくば恋のキューピットになるかもしれない。
とても雪女と男に会うのが楽しみだ。
ふと視線を感じる。
あの砂浜で感じた悪寒に近いものだ。
………黒い、黒い女だ。
髪も服も顔さえも黒く塗り潰された女が私を見上げていた。黒い女は妖怪、あやかし、怪異、魔、その何れにも属していないナニカだ。
ほんの一瞬だけ見えた黒い女。おそらく六花さんと共にいるのはアレなのだろう。ああ、とても恐ろしい、あの怖い眼に魅入られそうだ。