とある山岳の麓に暮らす男、その男の妻は撲殺され惨たらしい遺体となって発見される。死亡推定時刻、その男には雪女と天ぷらを食していたというアリバイが存在する。だが、そんなトンチキなアリバイを警察に告げたところでどうこうなる訳がない。
付け加えて言えばその男と妻は事件当日に会っている。と、そう断定できる証拠も見付かっており、雪女もどうすれば良いのかと悩んでいるというのが、今回の相談である。
この相談の奇妙な点は二つ。
ひとつ目は室井昌幸さん、貴方は雪女と天ぷらを食べていた。それに関しては二人の証言と証拠、他にも貴方の家の前を横切ったタクシーの運転手の「室井昌幸は家に居た」という発言もあります。
これだけで貴方の潔白は証明されています。しかし、そうなると貴方の元妻である美春さんを殺したのは誰なのか?となります。
事件時刻、貴方は確かに家に居た。ですが、美春さんの自宅前に設置された監視カメラにはハッキリと貴方の姿と顔が残っている。
実に不可解で矛盾している状況です。
美春さんの家を訪れたのは本当に貴方だったのでしょうか。勿論、それも違います。それは雪女も貴方も知っている通りである。
では、何が美春さんのところに向かったのか。
「その答えはヤマビコです」
「……ヤマビコとは、あれか?『おーい』と言ったら『おーい』と聞き返すあれのことか?」
「えぇ、そのヤマビコです。ただし貴方や雪女の知っているヤマビコとは違う。人に非ず、妖に非ず、それは自然災害と同じであり、何時どの様に産まれるのかも定かではない。正真正銘、人も妖怪すらも喰らう本物の化け物です」
私の言葉に怯える雪女と室井昌幸さんを見返す。
おそらく二人のどちらかに『なにか』を仕込んでいる。もしくは仕込みを加えていると思わせて、前回と同じ様に私を狙っている可能性も捨てきれないものの。今回の相談で六花さんの協力者に狙われているのは間違いなく雪女だ。
「ああ、しかし、硯の言った通りだ…!半年もせず私の伴侶となる者が現れると言われたが、それがおひいさまのお墨付きだなんて!」
そう喜びのあまり不可思議な言葉を吐き出す雪女を室井昌幸さんと共に見つめる。今まさに彼女はハッキリと喋った。伴侶が現れる、私のお墨付き、私が彼女達の近況を知ったのは数日前だ。
その様な言葉は贈っていない。
ああ、なんということだ。雪女と室井昌幸さんの恋路は自然と結ばれたのは真実ではあるが、彼女を誘導し引き合わせた人物はいた。
それが『すすり』という人物なのだろう。雪女の口振りからして長い付き合いなのは分かる。だが、こうも容易く未来を予言するなど九郎先輩や六花さんのようではないか。
まあ、それを追求するのは後日です。
今は雪女と室井昌幸さんの幸せを祝福し、彼女達の平穏な生活を祈ってあげるのも悪くない。………私も帰ったら九郎先輩に甘えて、その『すすり』という人物について問うとしましょう。