「岩永、本当にススリと言ったのか?」
「えぇ、しっかりと聞きましたよ?」
「なら、その人の事は僕も知っている。けど、あの人がそこまでする残虐性を隠しているとは思えないし、六花さんだって彼女のやり方を否定する筈だ」
「私もそう思います。ですが、やはりと言うべきなのでしょうね。雪女もまたススリさんとやらが訪れて以降、山中に見知らぬ気配を感じるようになったと証言しています」
そうススリの出現は『魔化魍』と一致しているのだ。六花さんは知ってか知らずか彼女と行動を共にしており、怪異作りを意図せず手助けしているのかもしれないわけだ。
実に不思議だ。
私の知っている六花さんは雲のごとく捕まえることは困難と思える女性だが、ススリさんという女性が加わると簡単に捕まえられそうになる。
いや、もともと六花さんは身体の弱い人だ。ススリさんという移動手段を確保できる女性もいるとすれば私の訪問時期から考えると既に二県か三県は遠くに行っている可能性もある。
「ところで九郎先輩はヒビキさんのように『紅』とか『装甲』などパワーアップするご予定はありますか?ないのでしたら雪山探検に……九郎先輩?」
「可笑しい、六花さんの気配だ」
もしや従姉妹同士の共鳴ですか?と思いながら九郎先輩を見上げる。どこか焦っているようにも見える表情をしているが、別のものを見ているようにも感じる顔つきだ。
〈都心部"裏路地"〉
「……間違いない、此処だ」
「流石に血痕など負傷した形跡はありませんが、この壊れた壁や地面の惨状を見る限り。六花さんとススリさんは何かと戦っていたのでしょうね」
おそらく二人の戦っていたのは『魔化魍』だろう。しかし、そうなると産み出した怪異に二人は襲われたということになる。
それは不自然だ。
「あら、九郎と………岩永琴子さん」
「お久しぶりです、六花さん。そして、貴女とは初めましてになりますね、ススリさん」
「此方こそ初めまして、私が足立硯だ」
ズズズッと六花さんの影を伝って現れた九郎先輩よりも大きい女性に挨拶をする。妖怪に見えるけど、妖怪ではない。人間に見えるけど、人間ではない。
なんなのだ、この人は………。
「最近の妖怪はげぇむの楽しみ方を忘れて、平々凡々と過ごしてるみたいだけど。ひょっとして、岩永琴子ちゃんの言いつけなのかな?」
「いいえ、私の役目は仲裁です。貴女こそ六花さんと共謀し、人間も妖怪も喰らう『魔化魍』を作って何をするつもりです」
「まかも……そいつはさっきのアレのことか。それなら生憎と私達は関係無い。むしろアレにげぇむを中断されて困っている側だ」
「では、貴女は何のために六花さんといるのですか?彼女の特異体質を利用して良からぬ事を企んでいるのではないですか?」
私の問いかけに微笑みを浮かべて答えようとするススリさんを制止して、ゆっくりと六花さんが私の近くに歩いてくる。
「琴子さん、そのまかも?と私達は本当に無関係だわ。私達がやっているのは日本全土を舞台としたゲームなの。ちなみに私達は現在六位よ」
「は?いやいやいや、そんなジョークで乗り切れると本当に思っているんですか!?あの雪女の時もピノッキオの時も遺産相続の時も六花さんは関与していたじゃありませんか!!」
「えぇ、遺産の件には関わっているわね。その前のヤツには関わっていないけれど。もしかしたらゲームのプレイヤーかもしれないわね。足立君、ちょっと調べてもらえる?」
「六花さんの望む通りに」
そう言うとススリさんは影の中に消えた。
「彼女は妖怪じゃないわよ。私の参加しているゲームのプレイヤー各自に与えられた個魔と呼ばれる案内人で、かなり優秀な案内人なのは確かね」
もう、なにがなんだか分かりませんね。知恵の神ともあろうものが知恵熱を出して倒れそうです。なんて考えながら六花さんを見上げる。
やっぱり、ウソはついていない。
しかし、そうなると六花さんの参加しているというゲームも気になりますね。
「六花さん、魔化魍とは無関係なんですね?」
「えぇ、九郎は心配しているみたいだけど。私の目的に近付けるのはゲームに参加しなければ難しいものよ。とくに琴子さんの
「それは、どういう意味でしょうか」
「そのまま文字通りよ。いくら人間と妖怪の狭間に立つ神といえどゲームに参加する事も止める事も貴女には出来ない。そういう仕組みになっているわ」
「…では、そのゲームの名前をお聞きしても?」
「げぇむの名前は『妖逆門』……古今東西、ありとあらゆる次元を越えて集められた人間による願い事を叶える為のげぇむであり、私が生まれてから四回ほど開催されてる」
「それは可笑しいですね。妖の名前のついたゲームだというのに私が参加できないのは不自然です、これでも私は妖怪達の知恵の神ですよ?」
いきなり私の後ろに現れたススリさんに驚きつつ、彼女の説明に納得できないところを素早く指摘するとクスクスと笑いながら六花さんの影に移る。
「そう君が知恵の神だから参加できない。このげぇむは公平じゃないといけない。私の案内する六花さんは件と人魚の能力を持っているが一度も使っていない」
「………フェアじゃないもの」
ああ、なんとも言えない状況だ。
つまり、私達は六花さんの犯行だと勘違いしていたということだ。なんという失態だ、私は知恵の神だというのに先入観だけで六花さんとススリさんが一連の犯人だと決めつけてしまった。