仮面ライダーギーツ IF STORY ~sister of ACE~ 作:朝陽祭
「英寿、君の今日の予定は?」
朝食を食べ、食後の紅茶を飲んでいる最中、父さんがそんなことを訊ねてくる。
「雑誌の取材が5件に、グラビア撮影が3件、夜はバラエティ番組の収録だよ。」
「忙しいな、スターは。」
「スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ。いい加減覚えてくれよ。仕事で忙しいのはわかるけどさ?」
「そうだったね、失礼。」
父さんと、何度目になるかわからないそんな他愛もないやり取りを行う。こんなのは日常茶飯事だ。
いや、自分も仕事で忙しいだろうに毎日こうやって食事をつくってくれるのは、とてもありがたく思う。男手ひとつで俺と姉さんをここまで育てたくれた……自慢の父さんだ。
っと、やっべぇ!!そろそろ出ないと間に合わない!!
父に後片付けを頼むと、俺は準備をして家を出る。
「浮世……英寿……」
するとだ……家の前に、女の子が立っていた。
前髪は左目側に流し、後髪をポニーテールのように結って纏めた……大学生くらいか?参ったな、俺のファンか?
「おいおい、家の前で出待ちとは随分熱心なファンだな?だが、あんまり行儀はよろしくないぞ?」
「あ……その……浮世、ツムリさんのお宅ですよね?今日、遊びに行く約束をしていて、ついでに家に来てほしいとお誘いがあって……」
「……おっと、姉さんのお客さんだったか、それは失礼。」
「いえ、ツムリさんから、英寿さんのことも聞いてはいたんですが、やっぱり、目の当たりにすると驚いちゃって……」
やんわり嗜めようとすると、その女の子からは姉の名前が出てきた。参ったな、自分が有名人だからと少し自惚れすぎて恥ずかしいことをしてしまったか。
っと、これ以上は本格的に遅刻してしまうな、マズい。
「それじゃあ、家にあがってゆっくりしていってくれ。父さんに説明すれば、何かお菓子でも出してくれるさ。俺は仕事があるからこれで。」
「えぇ……行ってらっしゃい。」
その女の子の送り出す言葉に妙な懐かしさを感じながら、俺は仕事へと向かっていった。
――俺の名前は浮世 英寿、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズだ。
だが、どうやら俺には、消された記憶というものが、あるらしい。
――仕事へと向かう、記憶をなくした兄の後ろ姿を見ながら、私は涙が溢れるのを堪えきれなかった。
それは、わかっていたことだ、わかっていたことだが……やはり、つらい。
「……申し訳ありません、浮世 奈々様。」
「……ツムリさんの、せいじゃないですよ。」
いつの間にか現れていたツムリさんが、私の肩に手を乗せて、沈痛な表情を浮かべている。だが、これは本当にツムリさんのせいではないのだ……こうなることをわかっていて、それでも脱落した兄がどうしているかを見たい、とツムリさんに言ったのは私なのだから。ツムリさんはそれに応じて、家の場所と時間を教えてくれただけだ。
理屈は簡単だ。デザ神になって叶えられた願いは、それを打ち消すような願いを別のデザ神が叶えない限り、世界に積み重なっていく。その違いを……『願いが叶う前の世界』を参加者で覚えていられるのは、『勝ち残って願いを叶えたデザ神』だけだ。
あくまで兄が私達のことを覚えていたのは、デザ神となり続けていたことで『願いが叶う前の世界』を覚えていたからで……そうじゃなくなれば、『願いが叶った後の世界』の認識が当然になるのだ。
私達浮世家が、兄の存在を忘れて『3人家族』として、振る舞っていたように。
そして私は、大きな過ちに気づいたのだった。
――人々の悲鳴が聞こえる。空に浮かぶラスボスによって、街が炎に包まれる。
デザイアグランプリ最終戦、『戦艦ゲーム』が、始まった。
「早く逃げてくださいっ!!」
≪DUAL ON MAGNUM MAGNUM READY FIGHT≫
恐怖に包まれ逃げ惑う人達を誘導しながら、私は兄から貰ったバックルの中に含まれていた、マグナムバックルと自分のマグナムバックルを両方装填した状態で変身し、ジャマト達へと立ち向かう。
ツインコマンドバックルは前回のゲームで景和さんをどうにか言いくるめて押し付けており、今回はフィーバーバックルのランダム性を意識した戦い方をするのは、この乱戦では少し面倒だ。
だから、兄が遺したマグナムバックルのおかげでできる、マグナムシューター40Xの2丁拳銃と四肢のアーマーに仕込まれた隠し銃で広範囲を攻撃できる……『ダブルマグナムフォーム』とでも呼ぶべきこのフォームは、今の私に、とてもあっている!!
「はぁぁっっ!!」
ジャマトライダーやポイントの高そうなジャマトは祢音ちゃん達に任せ、私は建物の壁を蹴りながら跳躍しつつ弾丸をばらまいて、ひたすら人々を襲う雑魚ジャマトを倒して人命救助を優先していく。
「っ!?きゃああああ!!!」
「奈々ちゃん!!」
だが、上空から降り注いだビームによって私は吹き飛ばされ、瓦礫の山に叩きつけられる。
…………危なっ、意識が飛んでたせいか変身が解除されてる。
くそっ……あのラスボス反則じゃないっ!!
「関係ない人まで巻き込むなんて逆恨みだよ!?」
「黙れっ!!俺からすりゃ、どいつもこいつも変わらないんだよっ!!」
ボロボロの身体をなんとか動かしながら瓦礫の中から出てくると、祢音ちゃんと道長さんのそんな声が聞こえてくるが……なんで、記憶を失っているはずの兄がここに居るの?
兄に気をとられた次の瞬間、ラスボスへ突撃しようとした道長さんが、逆に降り注ぐビームの直撃を受けて……崩れ落ちる。
「「道長(さん)っ!?」」
そして、駆け寄った兄の腕の中で……自分のドライバーを兄の胸に押し付け、道長さんは、消えていった。
これが、ジャマトに敗北した仮面ライダーの、末路……
そうしているうちに、景和さんと祢音ちゃんがジャマトライダーの攻撃を受け、変身が解除され、その眼前にジャマト達が集まってくる。
「ここは引くぞ3人共!!お前らが退場したらゲームオーバーだ……この世界を、救えなくなる!!奈々、ナーゴをっ!!」
その時、兄が2人に駆け寄ってきてそう叫ぶ……まさか、道長さんがドライバーを胸に押し付けた時に、記憶が戻った!?
ともかく、兄の指示に従って、私達は一旦引くことにした。
「……なぜ、君がここにいる?」
「バッファのIDコアを触って思い出したからだ、あいつが知っている俺の記憶をな……ゲームマスター。」
――サロンに戻ってきて早々に、ギロリさんと兄がそんなバチバチとしたやり取りを始める。
ギロリさんがゲームマスターだということに祢音ちゃん達が驚くが、……いや、私も驚きだが、私は二人の言葉を逃さぬように意識を集中させる。
「どこまでも悪運の強い男だ……」
「ギーツのIDコアをくれ。」
「君は既に脱落した身だ、仮面ライダーの資格はない。」
さて……情報を整理しよう。
兄は、偶然道長さんのIDコアを触って記憶を取り戻したみたいな言い方をしているが……デザイアグランプリに関する記憶を失った状態で、正体不明の怪物が暴れているのに……逃げたり他の人を救助するならともかく、怪物と謎の戦士が戦っている現場に行くなど、いくら正義感が強くてもなかなかできることじゃない。
記憶を失った兄が私の知る兄そのままなら、やるにしても人々を襲う怪物をどうにか引き剥がして、一緒に逃げる、という行動を取るだろう。
つまり、兄は万が一脱落してデザイアグランプリに関する記憶を失っても、記憶を取り戻せるように仕込みをしていた、ということになる。記憶を失ったのに仮面ライダーの所へ来たのは、それが理由だ。
おそらく、過去に叶えた願いで無理矢理参加できるようにしておいたから、デザイアグランプリに関する記憶さえ取り戻せればどうにかなる、とかそういう感じだろう。
「ふっ…敗者復活しようなんて気はさらさらない。」
「ならば、なぜここに?」
「仮面ライダーが全滅すれば、ジャマー区域が滅ぶ。それはあんたの望みじゃないだろ?」
そして、兄が脱落するように仕向けていたのは……ゲームマスターの、ギロリさんだ。
明らかに単なる脱落者に対する反応以上の怒りを、言葉の節々から感じる。
ここまで仕込んでいる兄が『椅子取りゲーム』中に打つ手がなくそのまま脱落したとは思えないし、そもそも私達が『椅子取りゲーム』内でジャマトライダーを倒した時、ジャマトライダーが使っていた2つのデザイアドライバーは兄とウィンさんが回収しやすいように、そのまま放置されていたのだ。
道長さんも『2人が回収する前にジャマトを倒してゲームを終わらせればいいだけだ』って考えるタイプだし、あの後ジャマトライダーが再びデザイアドライバーを回収した、という話もなかった。
なのに、兄もウィンさんも戻ってこなかったということは……まぁ、そういうことだろう。
さて、そうするとツインコマンドバックルの件があるので、兄を脱落させたい動きはギロリさんの暴走となるが……ツムリさんは、どちら側だ?それを、見極めなくては。
「タイクーン、ナーゴ、ブラーガ、君達のうち誰かがゲームをクリアすれば済む話だ。」
「俺には、無理ですよ……そもそも、ジャマトってなんなんですか!?退場した人達と、何か関係があるんじゃ!?あんな迷いの中で……どう戦えって言うんですか?」
「……理想の世界を、叶えたくはないのか?」
「叶えたくても、実力がないんです……今は、まだ。」
「ブラーガ……君もか?」
ギロリさんがこちらに矛先を向けてきたので、祢音ちゃんの言葉に同意を示すかのように顔を俯かせて、話を有耶無耶にする。ぶっちゃけ言うと、私もラスボスの攻撃をほぼ直撃で受けているので、これ以上戦えるかというと無理だ。道長さんとの違いは……道長さんはあの時、空を飛ぶ為の手段としてプロペラを展開していたことで、上半身が小型バックル共通の軽装アーマーだったのに対し、私は全身をマグナムアーマーにしていたので耐久力が上だった、というだけでしかない。戦場で意識を失っていたのがほんの少しの時間でよかった、というレベルだ。
しかし、景和さんの疑念は……いや、それは今は置いておこう。
「そうか……わかった、君達の助けになるアイテムを用意しよう。」
そういうと、ギロリさんはカウンターの奥からアイテムボックスを出してくる。その中には、ブーストバックルが入っていた。
こういう所を見ると、ギロリさんはデザイアグランプリに対しては真摯なのだろう。だからこそ……兄が、邪魔なのか?
「……ギロリ、言ったはずだ。俺達参加者はゲームマスターの駒じゃない。戦うかどうかは、自分達で決める。」
「ならばなぜ、君は戦う?たとえラスボスを攻略しても、君はもうデザ神にはなれない。なのになぜ?」
「俺の世界を守る為だ……このバックルは、借りていくぞ、この世界は……俺に任せておけ。」
そういうと、兄はアイテムボックスに収められていたブーストバックルを手に取る。
ツムリさんの方へ視線を向けてみれば、兄の言葉に反応して、ギロリさんに気づかれないようにアイテムボックスの準備をしていた……よし、ツムリさんはそちら側か、ならば、私も遠慮なく動くことができる。
ツムリさんと目があったので、その動きを待ってもらえないかという意思を示す。ツムリさんは、小さく頷いてくれた。
「……ハッハッハッハッ!!却下だ、お前にはもう、仮面ライダーの資格はない。」
「なら、私のエントリー権をお兄ちゃんに譲るわ、それで景和さんのように、またお兄ちゃんも仮面ライダーになれるでしょ?」
「っ!?」
私の言葉に、ツムリさん以外の全員が驚愕する。さて、次の矢があるとはいえこれは博打だ。できれば上手くいってほしい。
「なぜだ……君達の助けになる力なら、用意するっ!!願いを諦めるのかっ!?」
「そもそも、さっきのラスボスの攻撃で身体が限界なんです。命を拾ったのが幸運なくらいに……それに、気づいてしまったんです、私の願いが、無意味なことに。」
「なに……?」
「あなたが教えてくれたんですよ、ギロリさん。デザ神になって叶う願いは額面通りに叶う訳ではなく、その願いに籠められた想いも、影響するって。私が今回願ったのは、兄の『真実』を知りたい、です。どうして兄が浮世家を捨てたのか、何を考えていたのか……私達のことは愛していなかったのか。」
「何が、無意味だと……」
「でも、記憶を失った兄を見て、気づいたんです。私が本当にほしいのは、そんなことじゃない!!ただ、戻ってきてほしかったんです……私の、お兄ちゃんとして!!浮世家の長男としての、浮世 英寿に!!でも、それは今の願いじゃ、叶わない!!真実なんて知ったところで、私がデザ神になっても、お兄ちゃんは私達の家族じゃなくて、ギロリさんやツムリさんの家族になるだけなんだもの!!それは、私の理想の世界じゃない!!」
……これは正真正銘の本音だ。私は、本当に何を願うべきかを、誤った。あの時点でそれに気づけなかったとしても。
だから……私はもう、他の人のような、願いを叶える為に戦う程の
「だから、せめて……願いを諦めたとしても、世界を守る為に、一番可能性のあるお兄ちゃんに、託すんです。お兄ちゃんが仮面ライダーに戻れば、きっと世界を救ってくれるから。」
「……君が願いを諦め、棄権するのは認めよう。だが、浮世 英寿へのエントリー権の譲渡は、認める訳には……」
「いいえ、デザイアグランプリは、浮世 奈々様のエントリー権譲渡を、承認します。」
「……ツムリ、どういうつもりだ?」
……ギロリさんの言葉を遮るように、ツムリさんがアイテムボックスを抱えてこちらへと近づいてくる。
そのアイテムボックスには、ギーツのIDコアと、デザイアドライバーが収められていた。
「そもそも、浮世 英寿様は一番最初に『俺が死ぬまでデザイアグランプリに参加できる世界』という願いを叶えています。彼が死なない限り、彼は仮面ライダーギーツです。何より、『上』が浮世 奈々様のエントリー権譲渡を承認しました。もはや、ゲームマスターや私ですら、その決定は覆せません。」
「……『奴』の仕業かっ!!浮世 英寿、まさかこうなることまで計算に入れていたのか!?」
「……いいや、奈々のことは計算外だよ。こんな自慢の妹と、こんな妹を育ててくれた家族を捨てただなんて、俺はとんだろくでなしだ。」
そう言いながら、兄はツムリさんからデザイアドライバーを受けとり、その中央にIDコアを装填する。
≪ENTRY≫
……どうやら、博打には勝ったみたいだ。私はそのまま、兄から貰った方のマグナムバックルを、兄へ投げ渡す。
「……後は任せたよ、お兄ちゃん。」
「あぁ、任された……世界は、救ってみせるさ。」
――そして私は、仮面ライダー『失格』となった。
≪RETIRE≫
あと1話で謀略編は終わりです。