モーメントエンジンの静かな暖気音が静寂のサーキットに染み渡っていく。
互いにD-ホイールの調整を済ませ、等間隔でコースを照らす純白のライトが二人の行き先を照らし出す。
二人は何も語らない。
モニターに表示された時刻が点滅し、ゆっくりと、確実に来るべき瞬間に向けて歩みを進めていく。
どちらからともなくアクセルを握った。
「たかだかウイスキーの二、三杯程度でハンドルを誤るなよ。ジャック」
遊星が不敵に笑う。
「貴様こそ、何が起きても俺は知らんぞ」
ジャックが傲岸に睨みつける。
モニターにシグナルが表示される。
青いランプが一つ、二つと消えて。
「ライディングデュエル」
「アクセラレーション!!!!」
真紅のシグナルは舞い降りる火花。
それを火種にして、加熱された炉に籠った灼熱が火を吹く。
己が魂を込めるようにアクセルが同時に絞られた。
一瞬の空転の後、二つの機体が赤い残光を引きながら漆黒のサーキットへと疾走を開始した。
第一コーナーまで10秒弱。
唸りを上げるエンジンがさらなる咆哮をあげ、遊星のDーホイールはグングンとジャックを置き去りにしていく。
が、コーナーを目前にしたその時。
「む、ぐ!」
遊星の試作D-ホイールが一瞬グンと加速したかと思うと、僅かに右に縒れた。
「ッ!もらったッッッッ!」
その一瞬の隙をジャックは逃さない。
思い切りアクセルが絞られ、瞬く間に遊星の左につけるとインサイドを抑え、そのままコーナーへ。
カーブを抜け切った時、遊星はジャックに半馬身ほどの差をつけられていた。
「先行はいただいた!やはりブランクがあるようだな!遊星!」
言われた遊星はモニターで何か操作しているようだったが、それを終えるとふうと息をつく。
「やはりまだまだ調整が要るな。仕方ない、この場は譲るぞ、ジャック」
「ふん、このコーナーで既に趨勢は決していると知るがいい。いくぞ!!」
《Duel mode,on.Auto pilot,standby》
電子音声が告げる、真の闘いの合図。
《[スピード・ワールド//リライズ].open》
飽くなき加速を続けるライディングデュエルの新たなる領域。
新しいカード。
新しいルール。
新しい戦術。
新しい景色。
かつてとは比べ物にならないほど広大で煩雑になったデュエルの世界で、新しきライディングデュエルを組み上げるべく作られたスピードワールドが二人の領域を支配する。
「貴様に着いて来られるか、最新のデュエルに」
「舐めるなよ、俺はどんな時でもチャレンジャーだ。全力で挑ませてもらう!」
「ならばッッ!」
「「デュエルッッ!!」
《Duel》
ハンドルが一時固定され、モニターは互いのステータスとフィールドを表示するモードに切り替わった。
1ターン目
先行 ジャック・アトラス
手札 5枚
「俺のタァーン!」
SC ジャック① 遊星①
ハンドスリットに固定された手札からカードを抜き放ち、モンスターゾーンに打ち付けられる。
「俺は手札から[ソウル・リゾネーター]を召喚!」
ジャックの指し示す
両手に音叉とハンマーを携え、笑みの仮面で貌を覆うジャックの象徴的モンスター、リゾネーター。
頭部に赤い羽飾りをあしらったリゾネーターが頭上で音叉を打ち鳴らし、静謐な音色がサーキットに響く。
「[ソウル・リゾネーター]の効果。俺はデッキからレベル4以下の悪魔族を手札に、俺は[ボーン・デーモン]を手札に加える」
広がる音波に呼応してデッキホルダーでカードが波打ち、一枚のカードが差し出される。
それを抜き取ったジャックが続けて手札を一枚抜き墓地へ送った。
「手札の[ボーン・デーモン]は手札か場のカードを墓地に送って特殊召喚できる!」
新たな門から白髪の骸骨が這い出る。
骸骨の悪魔はすぐさま傍らに黒い渦を生み出すと、そこに真白い手を差し入れる。
「デッキから[レッド・リゾネーター]を墓地に送り、[ボーン・デーモン]の効果で[ソウル・リゾネーター]のレベルを1つ下げる」
[ソウル・リゾネーター]が再び音叉を打ち鳴らすと、不気味な反響音と共に二つの光の輪となって宙に浮かんでいく。
「俺はレベル4の[ボーン・デーモン]に、レベル2となったチューナーモンスター、[ソウル・リゾネーター]をチューニング」
[ボーン・デーモン]をその内に収め、解けて星となった二つが交わり、閃光が走った。
「紅き竜よ、琰魔を呼び起こす道を照らし出せ!」
宙空に炎が噴き出し、それはすぐに竜の形を成してバサリと翼を打つ。
「シンクロ召喚![レッド・ライジング・ドラゴン]!」
現れたのは燃え盛る炎が象るレッドデーモンズだった。
牙から溢れる吐息も、羽撃く度に吹き荒れる風も炎。
しかし遊星は、その威容すらまだ通過点にすぎないことを知っている。
「[レッド・ライジング・ドラゴン]は墓地のリゾネーターを呼び戻す、来いっ!」
サーキットにぼっかりと闇色の孔が開き、こちらもまた火炎でその身を形造る魔物が姿を現す。
レベル2とレベル6のモンスター。
遊星の表情に僅かな緊張が走る。
「[レッドリゾネーター]の効果でライフを回復し、行くぞ!」
[レッドリゾネーター]は碧き輪に、[レッド・ライジング・ドラゴン]は瞬く星に。
再び眩い閃光がサーキットを真白く照らす。
「王者がもたらすは血の饗宴!真紅の魔竜よ!戦場にその爪痕を残せぃッ!!」
「ッ!?レッドデーモンズではない?!」
遊星の驚きを他所に、閃光の中から暗黒の鎧に紅の輝きを纏う悪魔が身を躍らせ、禍々しい咆哮を上げた。
「シンクロ召喚!現れよ![スカーレッド・デーモン]!!」
現れたのはジャックの魂、[レッド・デーモンズ・ドラゴン]に酷似した黒き竜だった。
レッドデーモンと異なりその身が翻る度、紅色の光が蠱惑的な艶を帯びて宙に軌跡を描いてる。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド。さぁ、貴様に王者のデュエルという物を、思い知らせてやろう!」
遊星のモニターにターン進行の表示がなされ、フェイズ進行のランプが点灯した。
「まずは新たなるレッドデーモンズか、面白い・・・・俺のターン!」
2ターン目
後攻 不動遊星
手札 6枚
SC ジャック② 遊星②
ジャックの場には2枚の伏せと[スカーレッド・デーモン]。
王者として活躍するジャックのデュエルを知る遊星は、[スカーレッド・デーモン]を先行の手番で場に出した意味を十分に理解している。
自分の好きなようにはさせてくれないと考えた方がいい。と、遊星は手札をじっと見た。
焦ってはならない。しかし、このデュエルの目的を思えば躊躇ってなどいられない。
鋭い眼光を放ち、遊星がカードを切る。
「俺は手札の[ジャンク・コンバーター]の効果、このカードを墓地に送り、デッキから[ジャンク・シンクロン]を手札に!そして召喚する!」
白い光が弾け、凹みだらけのボディを誇るように、遊星の相棒が姿を現した。
「その効果で、墓地に要る[ジャンク・コンバーター]を呼ぶ。来い![ジャンク・コンバーター]!」
これで場にはモンスターとチューナーモンスター。シンクロ召喚の準備が整った。
だが、ジャックは動かない。
ジャックはこちらの動きも意に介さず、ただ遊星の前を走り続けている。
「・・・・何もしないつもりか?」
その問いに、ジャックは首を僅かに返して不敵に口元を歪めて答える。
「当然だ。真の王者のデュエルを見せると言ったはずだ」
「エンターテイメントというやつか。随分と余裕なんだな」
返す遊星の言葉に少しばかりの険が帯びている。
それを分かって尚、ジャックは不遜な態度を崩さない。
「実践は何年振りだ?新しいデュエルフィールドは使いこなせるか?召喚法は。戦術は。貴様と違い、俺は5年間熾烈な闘いに身を投じてきた!俺とお前には確実な差がある。俺を愚弄した貴様を、そう簡単に下してなるものか!」
“見逃してやるからさっさと回してみろ“
ジャックの意図をしっかと受け取った遊星は暫しの間、目を閉じる。
「・・・・分かった。なら、遠慮なく往かせてもらう!!」
[ジャンク・シンクロン]が力一杯胸のスターターロープを引き、ドルルルルンと腹の底に響く爆動が辺りに響く。
「ならば見せてやる!俺がこの街で培った新たな力を!」
光の輪となった[ジャンク・シンクロン]が[ジャンク・コンバーター]を包み、光の柱が三度サーキットを照らす。
「集いし星が、絆と共に突き進む。光差す道となれ!」
白銀の光が飛び出す。
凄まじい速度で、慣性すら無視するような鋭角の軌跡を描きながら、白銀の彗星が遊星の周りを駆け巡る。
「シンクロ召喚!
煌めく彗星がその傍らでビタリと足を停め、銀色の燐光が弾ける。
青褪めた輝きを宿すボディが遊星の隣で疾走を始める。
ジャックの眉がピクリと跳ね、不遜な笑みを浮かべた口元が引き結ばれる。
「[ジャンク・スピーダー]!絆を束ねて解き放て!」
《ハァッ!!》と頼もしく応えた[ジャンク・スピーダー]が光を放ちながら再び目にも留まらぬ速さで駆け出すと、ジャックを追い越し、光を放って消えた。
「さらに、シンクロ素材となった[ジャンク・コンバーター]の効果!甦れ、[ジャンク・シンクロン]!」
闇色の空洞から飛び出した橙色の機体が遊星の傍らに並んだ時、遊星のデッキが銀色に輝く。直後、[ジャンク・スピーダー]が身体から燐光を撒き散らしながら遊星の前に躍り出た。
そして、彼から放たれた光の粒が膨れ上がりフィールドを白く染め上げる。
「[ジャンク・スピーダー]は、シンクロ召喚に成功した時デッキからレベルの異なる“シンクロン“チューナーを可能な限り特殊召喚する!来いッ!」
「ちぃ!」
ディスクの操作音。
激しい光に白んだ視界が開けた時、ジャックの目に飛び込んできたのは遊星の場を埋め尽くすモンスター達であった。
そして遊星も目の当たりにする。
先程までの紅の魔竜ではなく、毒々しいオーラをその身に纏う異形のレッドデーモンズが遊星の前に立ちはだかっている事に。
「やはりそう来たか!」
「そうだ、俺は
赤黒い瘴気を放ち、胸に凶悪な悪魔の形相を宿した、凡ゆる光を飲み込まんとする禍津の竜。
[琰魔竜 レッド・デーモン・アビス]が猛々しく吼える。
大気が震え、握ったハンドルから軋む感触が伝わる程の暴力的な覇気が遊星を襲う。
遊星を守るように並ぶモンスター達も、その圧力を前に今にも砕け散りそうになりながら踏みとどまっている。
いや、事実皆灰燼と帰す瀬戸際だった。
「[スカーレッド・デーモン]は墓地に送られると相手の場を一掃する。だが全て守備表示では影響は無い、命拾いしたな」
「命拾いだって?自惚れるのを程々にするんだなジャック」
「ふ、せせこましく俺の戦術を勉強でもしていたか」
「あぁそうだ。だが勘違いしているなジャック」
遊星がアクセルを吹かしてジャックに並ぶ。
二人の視線が交錯し、見えざる石火が散った。
「往くぞ!俺はこのジェット、サテライト、スターダスト、ホイール、そしてジャンクシンクロンでお前の手管を切り崩す!」
「ほざけ!チューナーばかりで何が出来る!俺を知悉しているというのなら![スカーレッド・デーモン]の更なる力も忘れてはいまい!」
ジャックの上空に光り輝く輪が生まれた。
そこから噴き出す炎。
纏うのは至極の鎧。
二つの禍々しくも雄々しき角を携え、王者の魂が大地を揺らす。
「現れよ我が魂![レッド・デーモンズ・ドラゴン]!!」
翼が夜空を覆って広がり、その姿を誇示するように四肢が広げられると重々しい衝撃が遊星の体を打ち据えた。
「ならば見せてみろ!我が魂と深淵の魔竜。この双璧、超えられる物なら超えてみるがいい!」
誠に申し訳ございません。
引き続きの言い訳でございますが、デュエル構成と本文作成を同時進行しておりますが進捗が芳しくありません。
次の更新は金曜の夜を予定とさせてください。
遅筆拙筆にて誠恐縮ではございますが、引き続きお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
※大変申し訳ございません。シンクロコールによるシンクロの後、シンクローン・リゾネーターの効果によってレッド・リゾネーターを回収する部分を削除しました。
また、この所お気に入り登録、評価を佳くいただいております。
誠にありがとうございます。
ご覧の皆様の無聊を慰める一助が出来ていれば幸いでございます。
重ね重ね、ありがとうございます。