「バトルだ!」
装鉄の竜が脚部バーニアから白熱を噴き出して急上昇。身をうねらせながら瞬く間に夜空の彼方へ消えていき、星となる。
「[シューティング・スター・ドラゴン TG-EX]で[琰魔竜 レッド・デーモン・アビス]を攻撃ッッ!」
漆黒の夜天に唯一輝く星が一条の線を描き、徐々に膨れ大きくなっていく。
赤熱する体躯を矢玉と化して、[シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX]が猛然と飛来した。
「《シューティング・バスター・ソニック》ッッッッ!!!」
アビスから滲み出し、辺りを満たす闇色の瘴気。薄墨のようなそれが、大気が歪む程の熱を帯びた機竜の発する熱波に瞬く間に吹き散らされる。 刹那の間を置き、駆け抜ける流星の通過と共にどす黒く堅牢な鎧が紙か襤褸切れかのように千切り飛ばされ、[琰魔竜 レッド・デーモン・アビス]は絶命。
直後、塵となって崩れ落ちたアビスの残骸と共に猛烈な衝撃波がジャックを襲う。
「むぅ・・・・・・・・」
ジャック LP6100 6000
「俺はカードを三枚伏せてターンエンド!」
D-ホイールの傍に三枚のカードが浮かび、 消える。
サーキットの上空を旋回しつつ降りてきた [シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX]が、各部スラスターやブースターの排気口から真っ白な蒸気を吐き出しながら遊星と並走をはじめる。
白煙に曇るモニターにフェイズ進行の表示が成された。
「
無いはずの痣が疼く。
いつだったか、 遊星から一度だけ聞き出したブルーノの、チーム5D's 最後の敵の一人であった男。
その男が使っていたカードだったはず。
なぜその名を冠するモンスターを遊星が、それもシューティングスターと融合したかのようなあのモンスター。
そして何より、あの竜を従える遊星の瞳の奥に灯る、熱く深い哀しみの色はなんだ。
奴が俺の新たなエースを知っているとして、あのカードにそれに抗しうる力があるというのか?
とてもそうは思えないが。
ならなぜ。
なぜ。
「ええい・・・・」
忌々しい。
余計な事ばかりが頭に浮かぶ。
その事に不審を抱くこと自体も煩わしい。
どの道この闘いの幕は近い。
いつまでも疑念や思索に囚われるわけにはいかないのだ。
(アレが遊星の俺に伝えたい何かだとしても、それすら踏み砕くいてくれるわ!)
「
レッドデーモンの両脇に黒い穴がぼっかりと空き、 そこから2体の悪魔が飛び出す。
「俺のライフはさらに3000回復」
ジャック LP6000 → 9000
なぜこれほどまでに足取りがもたつくのか。
(俺は今何をしている)
「俺のターン!」
先行2ターン目
SC ジャック ③ 遊星 ③
[レッド・リゾネーター]による圧倒的ライフアドバンテージ。
これは様々な大会で見せるジャックの戦術の一つ。
膨大なライフ差を対戦相手に削らせることで、相手の攻め手を敢えて受け止め、より長くより多くの応酬を観客に披露しようというショービジネスとしての面を加味された戦略であった。
如何に遊星であろうが、この優位性はそう簡単には崩せないだろう。
(恐らくは、[ジャンク・スピーダー]によってデッキのチューナーが減っていたことも影響しての事だろう)
[シューティング・スター・ドラゴン]による一気呵成の攻めではなくあの竜を出したのは、最悪攻撃回数が0になるギャンブルを避ける為。 攻撃力は同じなのであれば、まずは邪魔なアビスを退かした上で別の構えを取りたかったか、とジャックは素早く考察を巡らせる。
(伏せの数といい、やつが俺のスーパーノヴァを警戒しているのは明らか)
ふっ、とジャックの口角が上がる。
遊星もそれに気づくが、訝し気な視線を送るも間もなく、ジャックは高笑いで機先を制した。
「俺が笑い物の道化だと言ったな。ならば貴様はなんだ。舞台に上がる事を臆した結果、肝心なところで踏み出す勇気すら失ったか」
「なんだと?」
W.O.Fのスタビライザーがコースを削り、耳障りな金属音が響いて鋭くコーナーに火花の軌跡を描く。
最中、追随する遊星を睨みながらジャックは憎々し気に口許を歪める。
「俺は違う!真なる王者として!貴様のその新たなるシューティングスター、この場で蹂躙してくれるわ!」
抜き放ったカードがフィールドに叩きつけられる。
並び立った三体の悪魔が頭上で音叉を打ち鳴らす。
澄んだ音色は重なり、混じり合い、波打つにつれて不気味な旋律となって二人を包み込んでいく。
「俺はレベル8の[レッド・デーモンズ・ドラゴン]に、レベル1の [バリア・リゾネーター]、[シンクローン・リゾネーター]、そしてレベル2の[レッド・リゾネーター]を、トリプルチューニングッッッッ!!!」
「来るかっ!お前の新たなる力!!」
共鳴する音叉の波動に溶けるように歪んでいくリゾネーター達が、身体の端々から燃え上がり、やがて轟轟と燃える鉄輪となって[レッド・デーモンズ・ドラゴン]を囲う。
回転する火の輪はやがて球を描いて激しく回り始め、その内にレッドデーモンズを包み込んでいく。
「王を迎えるは三賢人。紅き星は滅びず、ただ愚者を滅するのみ!荒ぶる魂よ!天地開闢の時を刻めぇ!!」
[レッド・デーモンズ・ドラゴン]の高らかな嘶きを猛々しい炎の渦が呑み込み、サーキットの上空に燃え盛る火球が生まれてコースを緋色に照らし出す。
それはまるで、地上に落ちた太陽。
その真紅の星の内側から
「シンクロ召喚ッッ!!新生せよ我が魂![スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]ッッッッ!!!」
一瞬の閃光、撒き散らされる赫灼の炎熱。
耳を弄する爆音に眩んだ五感が戻った頃、遊星の眼前を悠然と翔ぶ緋色の巨影が咆哮を上げた。
暗き赤宿す体躯。
その肌の至る所から生まれた灼熱の欠片が零れ落ちる度、漆黒の夜空に堂々とその威容掘り映す巨竜。
[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]
かつての赤き悪魔の力を新たなる次元に昇華させた、ジャック・アトラスが抱く荒ぶる魂の新生。
その姿には、遊星と云えども畏怖の念を抱かずにはいられない。ジャックという男の誇りの顕現ともいえるモンスターが、遊星を傲然と睨みつけていた。
「[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン] !」
ジャックの呼び声に応えるように鳴くと、その攻撃力が見る見る上昇していく。
「墓地のチューナーは4体・・・・」
「そうだ遊星ッ!よってその攻撃力は!!」
遊星のゴーグルに映し出された数字は"6000"。
[シューティング・スター・ドラゴン TG-EX]を悠に上回る圧倒的暴力だった。
「まずはその目障りなシューティングスターからだ!往くぞッッ!!」
電子音が鳴り、モニターにフェイズ進行が表示される。
「[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]で[シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX] を攻撃! 《スカーレッド・ノヴァ》ッッ!」
遊星に向けて開かれた口腔が赤、橙、白と色を変え発光し、四枚の翼がX字にビシリと開かれて赤熱する。闇夜にその姿を誇示するように、周りの景色が赤く歪んでその凶悪なシルエットを浮き彫りにした。
白熱の光芒が閃く。
刹那。
「
遊星の鋭い声にぐるりと身を翻した [シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX] が、宙で優雅にうねり円を描く。
その円の内が輝き、光と闇が複雑にのたうつ、平面とも深淵ともつかない穴がぼかりと現れた。
「[シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX] は相手の攻撃を無効にする!」
「馬鹿め!!その手の防御効果だと思ったわ![スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]!!」
[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン] の周囲から突然火炎が噴き出してコース一面を無数の火柱が埋め尽くしていく。
「貴様が何をしようとも![スカーレッド スーパーノヴァ・ドラゴン] は貴様の業い全てを断罪する!貴様の場は全て消し飛ばす!《クリムゾン・ヘルガイア》!!」
文字通り火の海と化したサーキット。
その炎は遊星と、彼に従うモンスターたちを呑みこんでいき、やがては跡形もなく消し飛ばされてしまう。
あらゆる相手の場を次元の彼方へ放逐する劫火。[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]の圧倒的除去効果。
「分かっているさ!
猛り狂う炎の最中に唐突に表れた錆だらけの鉄塔。
その頂点に備え付けられたボロボロのシグナルランプが真っ赤なシグナルを灯すと、[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン] が纏った真紅の火の粉が吹き散らされ、同時にサーキットを満たした炎の洪水が瞬く間に掻き消えた。
「ちっ!」
「これで俺のモンスターたちは守られ、[シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX] の効果でお前の攻撃は無効になる!」
放たれた目を眩ませる白熱の奔流が混沌の虚空へと呑みこまれて消える。
ふぅと息を吐いて顎を伝う汗を拭う遊星と、唇と眉を引くつかせて苛立ちを隠そうともしないジャック。
火花を散らしながらコーナーを曲がった二人のD-ホイールがスタート地点を通過した。
「忌々しい奴めっ、スーパーノヴァの効果を知って対策済というわけか!」
「現役世界王者相手に着の身着のままで挑む程勇敢じゃあないんでね、いつかお前とこうしてデュエルすることを考えて、デッキを組んでいたさ」
聞こえよがしに舌打ちするジャックだが、同時にその戦術を心中賞賛していた。
(やはり遊星。一筋縄ではいかんな)
実際、攻撃力でジャックのカードを純粋に上回るカードは、遊星の使用するカード群の中ではそう多くない。
シューティングスター、そしてあの[シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX] が持つ攻撃無効の効果。確かにそれだけなら[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]にとっては何の障害にもならない。
どころか、これから遊星がどうひっくり返そうとしても、その途中で 《クリムゾン・ヘルガイア》を放てば遊星は死に体を晒すことになる。
はずだったが。
(いずれにせよ、奴の展開を見ずにただ吹き飛ばしたのでは、それでは真のキングにあるまじき見窄らしさ。よかろう。確かに厄介なコンビネーションだが、踏み越えて見せる!)
ドルンッとエンジンが吼える。
「カードを二枚伏せて俺はターンエンド。いつまでも命拾いできるとは思わんことだ!必ず貴様のその喉笛を噛み切ってみせるわ!」
叫ぶジャックを追う遊星。事実、[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]を突破する手段は現状遊星の手の中にはない。しかし、その表情は心なしか明るかった。
ジャックの怒号が、どこか喜ばしいかのように微笑む遊星が、デッキトップに手を添える。
「俺のターン!」
後攻2ターン目
遊星 手札2
SC ジャック④ 遊星④
更新再開します。
校正しつつになるので毎日できるかはわかりませんが、努めさせていただきますのでどうかお付き合いください。