ハチドリはなぜ   作:三人天人

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巨星、流星。相打つ④

 

ここでジャックは、遊星のモンスターたちの頭上にシグナルランプのような青い光が浮かんでいる事に気づいた。

前のターンの時点で既にそれは存在していたらしく、ログを確認する限りでは先のスタンバイフェイズに[シグナル・ウォリアー]の効果が発動していたらしい。

「スタンバイフェイズ、[シグナル・ウォリアー]の効果で場の表側カードにシグナルカウンターを置く」

涼し気な遊星の言葉に続き、 フィールドのモンスターたちの頭上に二つ目のランプが灯った。

[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン] にも一つ。

「俺は[シグナル・ウォリアー] の効果でこのシグナルカウンターを取り除き、[スピード・ワールド2] の効果を得る! 俺はカウンターを7つ取り除いて1枚ドローする、 ドロー!」

スーパーノヴァと遊星のモンスター達が持つ全てのシグナルが赤く点灯し消え、 遊星はデッキトップを抜き放つ。

手札の二色のカードたちを確かめてから、威圧的に遊星を睨む [スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン] を改めて確認する。

([くず鉄のシグナル] を後出しにできる限りは、こちらのターンでもヤツの強烈な効果は防ぐことはできる。だが、やはりあと1ターンは必要か・・・・)

そのたった1ターンを作ることが如何に至難であるかは言うまでもない。

それでも負けるわけにはいかないと、 遊星は顎を伝う汗を手の甲で拭いコースに散らす。

思いの他消耗している。

この試作機もそうだが、遊星とて五年の間D-ホイールによるライディングから完全に遠ざかっていたわけではない。

それでも実戦、それも世界有数の実力者を相手取ってのライディングデュエルは、遊星の心身を激しく責め立て、着実に削り取っていた。

あの紅い新星を下す為のプラン。

手札に目を流して瞳を閉ざす。

1枚、2枚とカードが風切り音を上げながら瞼の裏を横切り、それぞれが光の帯を結びながら次々と新たなカードへと繋がっていく。

天に昇る光帯が紅の巨星へと迫り、弾けた。

白銀の水晶を思わせる澄み渡るその姿。

(あと1ターン・・・・!)

「俺は[SP-エンジェル・バトン]を発動!」

「・・・・ちぃっ・・・・」

ジャックとしては嫌なカード。幾度となく難局打開のきっかけとなってきたカードだ。

遊星のような男が使えばどれほど脅威になるかは、その骨身に沁みて理解している。

手札の交換を終えた遊星は立て続けにカードを切っていく。

(トラップ)カードオープン、[エンジェル・リフト]!来い、[チューニング・サポーター]!」

遊星の傍らに空いた虚空の穴から鉄鍋を被ったような小柄な人形が飛び出す。

更にリソースを得る気かと、ジャックは歯噛みしながらも何もできない。

自分の油断が招いた事態とはいえ、遊星は想像以上に自分への対策を綿密に組み立てていたと見える。

正直舐めていた事は否めない。

遊星はあの頃のままだと、なぜそう勘違いしていたのか。

W.O.Fを駆る前の自分を殴りつけたい気分だった。

「レベル2として扱う [チューニング・サポーター] に、レベル4の[スターダスト・シンクロン] をチューニング!」

激しい金属音と共に四肢をパージした[スターダスト・シンクロン]が碧い輪となる。

輪の内側で生まれた激しい閃光が夜空を割り、光の中から鋼の鎧を纏う戦士がコースに降り立った。

「[スターダスト・チャージ・ウォリアー]はシンクロ召喚時にデッキからカードをドローさせる。そしてシンクロの素材となった[チューニング・サポーター]の効果も発動し更に1枚ドロー!」

通常ドローを含めて計5枚に及ぶ怒涛のドロー。爆発的アドバンテージ。

倍以上に増えた手札を尻目に、遊星はすぐさまカードを抜き放つ。

今度はジャックの場を荒らしにかかる。

「[ジャンク・アンカー]を召喚!甦れ![ジャンク・スピーダー]!」

遊星の前へと滑り出した[ジャンク・アンカー]が足元に向けて両腕をブンと振ると、手首から先が分離して腕の中から引きずり出された鎖が伸びていく。

どぶんという音と共に地面を波打たせて拳が沈み込んだ。

虚空に足を踏ん張った[ジャンク・アンカー]の下から白銀の光を纏う[ジャンク・スピーダー]が姿を現し、そのまま中空へと放り投げられる。

「集いし叫びが、木霊の矢となり空を裂く!光差す道となれ!」

輝く白銀に向けて飛び上がった[ジャンク・アンカー]が光と交わると、夜空を切り裂く閃光が駆ける二人を照らす。

「出でよ![ジャンク・アーチャー]!」

降り立つ橙の弓兵が唯一の眼を赤く煌かせて弓を引く。

「ちぃ!!」

「《ディメンジョン・アロー》![スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]をこの場から追放しろ!!」

青白く輝く光の矢が奔り、[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]の胸のど真ん中を射貫く。

指が戦慄き、反射的にディスクに手が伸びるがピタリと止まる。

ジャックは苦渋の表情で事の成り行きを見守るしかなかった。

射貫かれた一点を中心として空間ごと捻じ曲がるように渦を巻いて消えていく[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]を、ただ見ていることしかできない。

やがてその巨体が姿を完全に消し、ジャックの場には1体の小柄な悪魔を残すのみとなった。

「どうだジャック!どれだけ大きく力強く装っても、今のお前は裸の王様だ!そして、どれだけ相手が恐ろしく強大でも、掴もうと伸ばした手を届かせる方法はいくらでもあるんだ!」

「知ったような口をごちゃごちゃと!俺を馬鹿にするのも大概にしろ!」

ギャリリとコースに火花が散る。

傾けた車体。

起き上がり様ぶつかる視線。

「侮辱していると感じるなら、それが今のお前の心そのものだというんだ!」

「っ!訳の分からない事を!」

「いくぞジャックッッ!バトルだ」

遊星のモンスターたちが[シグナル・ウォリアー]を残して一斉に攻撃態勢を取る。

「往けっ、[スターダスト・チャージ・ウォリアー]!まずはリゾネーターたちを蹴散らせっ!」

[スターダスト・チャージ・ウォリアー]の羽を思わせるランチャーユニットが機敏に角度を変えながら[ソウル・リゾネーター]を捉える。

砲門に光を溜め込み、解き放つ直前。

「ッ?!」

突如として遊星の眼前に透き通る紅の幕が現れた。

複雑に光を乱反射させる光の緞帳を前に、 遊星のモンスターたちは皆足を留めざるを得ずたたらを踏む。

(トラップ)カード、[スクリーン・オブ・レッド]。誰が裸の王様だ?遊星」

ジャックは切り裂くような鋭い睨みを以て遊星を捉えた。

「どれだけ大層なモンスターを並べても、強い想いが有ろうとも、届かぬ物は届かぬ。惜しかったな」

遊星が小さく呻き声を上げ、すぐにフェイズ進行の表示がなされる。

手札のカードを二枚場に伏せると、そのままターンエンドのアイコンが点滅した。

「ふっ。説教臭いことを大仰に吠えたかと思えばすごすごと引き下がるとはな。あまり惨めな姿を俺に見せるな!遊星!」

宙に炎が渦巻く。

巨大な掌に押し広げられて亀裂の走る宙空。

真紅の巨魁は再び場を赤く照らしながら現れ、その威容で周囲を圧しながら陽炎に揺れる翼で夜空を覆った。

そんな光景を前にして、ジャックの言葉を聞いていた遊星はヘルメットの下に隠した口の端をふっと上げた。

そのわずかな吐息を聞き取ったジャックはくわっと睨みつけるが、遊星は気にも留めていないように口を開く。

「お前本当に変わったな」

朗らかにそんなこと言う。

その言葉の中に侮りの意を読み取って、ジャックの額に青筋が立つ。

「どういう意味だ」

これでもかと剣呑な怒気が言葉に籠る。

それを受けて尚、遊星の態度には些かの緊張も感じられなかった。

ゆるりとアクセルを絞った遊星の試作機がW.O.Fに並ぶ。

遊星の頬を一筋の汗がしたたり落ち、吹き荒れる風に晒されて散っていく。

「玉座は随分と座り心地が良いんだな」

「何が言いたいと聞いている!」

怒鳴り上げるジャックと対照的に、向かい風を楽しむようにハンドルを握る遊星は微笑みすら湛えてジャックを見ていた。

「防御の札で引きこもって、ライフを回復するコンボも使ってこれで安泰か。なるほど、王様らしいデュエルだな」

「負け惜しみのつもりか。次のターン以降、如何にスーパーノヴァの効果を封じたからとて貴様に打開の術は無い。だが俺は違うぞ」

ジャックが並走を嫌うようにアクセルを吹かして前に進み出る。

「俺は貴様如きに付け入られるほど甘くはない!引きこもりだと?違うな、これは幕。舞台の合間の無聊を慰める余興に過ぎん。そしてここから、王者の蹂躙劇が始まるのだ!」

 

 




◆デュエル描写ミス
このターンに遊星の伏せるカードは二枚でしたが、誤って一枚と記載されておりました。
まことに申し訳ございません。
※2023/10/13 22:35
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