((届かない・・・・またしても・・・・)
厳めしい表情の裏。ジャックは心中で拳を己の顔面に叩きつけていた。
ハンドルを握っていなかったのなら実際自分の頬を殴りつけていただろう。
情けなさの余り叫び出したい気分だった。
恐るべきは遊星。
ジャックはこの期に及んでは一切の油断を排している。侮りは無い断言できる。
傲岸な態度こそ崩さないが、遊星がかつてよりも衰えるどころか、更に上の
にも拘わらず遊星は未だ健勝を誇っている。
(俺は、いまだにコイツを越えられないのか・・・・!)
カーリーの後ろ姿が脳裏を過ぎり、猛り狂う闘争心とは裏腹に冷たく暗澹とした澱が腹の底に降り積もっていく。
こめかみを伝う汗が冷たい。
「さすがにいい攻めだったな」
エンジンの上げる甲高い駆動音が迫り、 遊星の声がヘルメットの内と外でダブって耳に入る。
じろりと睨みつけるジャックの視線もどこ吹く風と、バイザー越しに見える遊星の表情は明るい。
「1枚でも足りなければ完全に瓦解していた。お前とのライディングデュエルは、いつまで経ってもスリリングだな」
「・・・・どこまでも嫌味なヤツめ。俺の攻めを受け切って、いい気になっていられるのも今の内だ」
「そうさ、今オレはいい気になってる。何せ世界王者のエースモンスター三連撃だぜ?」
「うっとおしい。貴様でなければ既に勝敗は決している」
「そうだな。俺でないなら、誰もお前の本気の攻めには抗えないだろう」
「・・・・?」
ジャックの眉が僅かに跳ねる。
フッと笑う遊星の目は楽し気で、それでいて何か含みのある曲線を描いている。
ジャックが何か言おうとして口を開く前に、ハンドルが絞られて遊星のD-ホイールがぐぅんと前に進んでいった。
「ジャック。お前はやっぱり世界一のキングだ」
風切り音混じりの声が届く。
「そんなお前が何をグズグズと悩んでいる。俺とのデュエルでまで、いつまでキングという肩書に拘る必要がある」
W.O.Fのエンジンが唸りを上げる。
「キングである事は今の俺の全てだ!街に籠ってせせこましく俺のデュエルの研究なぞしていたお前に何が分かる」
「俺はいつだって俺達の仲間と仲間を繋ぐ遊星ギアだ。だが今はそんなことはどうでもいい!」
幾度目かのスタートラインを二人のタイヤが切りつけた。
「キングの肩書を仮面にするのはやめろ!ジャック!」
試作機のエンジンルームからやや危うげな音がする。
それでも遊星はジャックの前を譲ろうとしない。
「その仮面、次の一撃で打ち砕く!俺のターン!」
そっと、祈るようにデッキトップに触れた指先。
淡く光を放つカードが抜き放たれ、ジャックの左腕が疼く。
「まさか・・・・!」
「[シグナル・ウォリアー]!」
後攻3ターン目
遊星 手札2
SC 遊星⑥ ジャック⑥
再び場のモンスターたちにシグナルカウンターが乗せられる。
ジャックが大量展開をした結果、自身に残留していたカウンターも含めて悠に10個を超える青いシグナルが二人の間に灯った。
「俺は手札から、[救世竜 セイヴァー・ドラゴン]を召喚!」
「あ、赤き竜の導きだとぉ?!!」
サーキットに淡い桃色の光を放つ小柄な竜が光を飛沫かせながら現れた。
赤き竜の化身。その大いなる力の一端。
ジャックにとっても縁殊更に深く、脳裏に幾つもの光景が去来する。
「俺は[シューティング・スター・ドラゴン]に、[救世竜 セイヴァー・ドラゴン]をチューニング!」
「ば、ばかな!何が?!」
肥大化する救世竜。
その場のいずれのモンスターよりも大きく、そして光り輝く竜となった救世竜の中へと、[シューティング・スター・ドラゴン] が嘶きを上げながら身を沈めていく。
「集いし想いが、輝く奇跡を呼び起こす・・・・光差す道となれ!!」
D-ホイールが跳ね、遊星もまた救世竜の中へと飛び込んでいく。
「シンクロ召喚!光来せよ![シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン]ッッッッ!!!!」
遊星を取り込んだ救世竜がプリズムの煌めきを放ちながら夜空へと舞い上がっていく。
次第に大きくなる光球が夜空で炸裂を始め、施設の周囲にある建物までもを昼間のように染め上げる。
眩い光の後、サーキット上には宝玉の彗星があった。
ブリリアントカットのダイヤモンドを想起させる絢爛の煌めき。
八面玲瓏とは正にこの事を指すとさえ思われるほどの、静謐で優美な佇まいの竜がジャックの目の前を雅に翔ぶ。
思いがけず目を奪われたジャックだが、それが自分にとって筆舌に尽くしがたい程の脅威であることを理解し、気を取り直す。しかし、TGEXに続き一切が明らかならざるモンスターに対してどう対応すればいいのか。
「シューティングセイヴァースター!スーパーノヴァの力を封じろ!《アステリズム・サブリメイション 》!!」
[シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン]の胸の宝玉からキラキラと星の光が溢れ出していく。やがて、真っすぐにサーキットを走った光芒が[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン]の胸に照準を定めるようにして揺れ動き、ぴたりと止まる。
「――ッ!させるか!アビスッ!」
「無駄だッッ!」
TGEXが両脇のジェットブースターを点火し駆ける。アビスの放つ闇の群れへと突撃し、直前で逆噴射することで生じたジェット噴射の熱波が瘴気を蹴散らしていく。
同時に、サーキット全体から唐突に噴き出した無数の火柱が遊星のモンスター達を炙り始めた。
「《クリムゾン・ヘルガイア》ァァアアア!!!!!」
効果の起動に反応して相手の場を全て除外する豪快極まりない獄炎。
このデュエルにおいて幾度となく放たれながら通用しなかったその力は、終ぞ遊星を焼き焦がすことはできなかった。
「[シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン]ッッ!《プュリファイ・エクスプルージョン》!!!!」
[シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン] の内から発する光は全身で乱反射し、瞬く間に大きくなって目も開けていられない程の輝きに至る。
無数に炸裂する光の乱舞で視界を奪われたジャックは、その耳に[スカーレッド・スーパ一ノヴァ・ドラゴン]の放つ断末の咆哮を聞いた。
「ば、ばかな!!!」
唐突に光が止んだ時、向かい合っていた2体の竜が姿を消していた。
「新たなるセイヴァースターは、自身を除外して相手の発動したカードの効果を無効にし、除外する。[スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン] はこの場から追放した!」
ジャックは沈黙し、目を剥いて信じられないといった様子でフィールドを見ていた。
残った二体の巨竜も。次に訪れる宿命を理解してか、まるで抗うように四肢を広げて遊星に向けて吠えたてている。
「[シグナル・ウォリアー]!!」
[シグナル・ウォリアー] の背部にマウントされていたビームランチャーが肩にセットされ、モンスター達に灯っていたシグナルがランチャーに吸い込まれていく。やがて発光し始めた砲門から蒼い熱線が迸り、ベリアルの胸を焼き焦がしながら夜空へと突き抜けていった。
ベリアルの爆散をゴングに、これまで守勢を保ってきた遊星が一気呵成に攻めへ転ずる。
「バトル!まずは[シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX]でアビスを攻撃!《シューティング・バスター・ソニック》ッッ!!」
サーキットに爆炎を噴射して急上昇したTGEXが再び流星と化してアビスを襲う。
錐揉みしながら突撃するTGEXを受け止めきれず、アビスが再びその身を引き千切られながらジャックの前で爆発した。
「ぐっううううう!!」
LP8000 →>> 7900
「続けて[シグナル・ウォリアー]、[スターダスト・ドラゴン]!残ったリゾネーターを攻撃ッッ!《アクセル・アサルト》ッ!《シューティング・ソニック》ッッ!!!」
赤い閃光と化した[シグナル・ウォリアー]の目にも留まらない蹴りが二撃三撃と繰り出され、[ソウル・リゾネーター]が胴体を切り裂かれ消滅。
「だが[ダーク・リゾネーター]は!」
続けざまに降り注いだ白銀の波動をその身に受けながら、[ダーク・リゾネーター] は酷薄な笑みを湛えてその場に留まっていた。
「[ダーク・リゾネーター]は一度だけ戦闘で破壊できない・・・・っ!だがこれでお前の主力は全て討ち斃した!」
[ダーク・リゾネーター]を残して閑散とした自分の場を憎々し気に睨むジャックは、その耐えがたい屈辱に打ち震えて奥歯を噛んだ。
本来なら前のターンに己がするはずだった、反撃の芽を摘む怒涛の猛攻。それをそっくりそのままやり返され、あまつさえそれはこうして大成功を果たしてしまった。
いや、成功を許してしまった。
「バトルを終了する!」
新たなる力、[スカーレッド スーパーノヴァ・ドラゴン] を含めてジャックのデッキに完璧な対策をしながら己のデュエルを貫き、果たして今正に勝利に手を掛ける遊星。
(俺はやはり、俺自身を見失っているのか)
キングとしてにデュエル固執した自分。
ジャック・アトラスとして
デュエリストとして、勝利への執念をこそ燃やすべきでありながら、その在り方に迷ってしまった自分。
(その結果がこの有り様か)
恐らくはデュエルの前からこの終焉は決まっていたのだろう。
(なるほど)
存分に自嘲を込めた笑みが浮かぶ。
(この様ではな)
「俺はこれでターンエンドだ。このエンドフェイズに、[シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン]は俺の場に帰還する」
遊星の宣言が耳に入る。
結末は決まった。
次のドローを。
指が動く。
セットカードに手が伸びた。
「俺は
「! ジャック!」
ジャックの場に緑色の粘液を纏った子竜と、桃色に輝く小柄な竜が燐光を放ちながら現れる。
一つは[ドロゴン・ベビー]。
もう一体は。
「俺は勝つ。俺は俺として、遊星!お前という壁を乗り越えるッッ!!!」
「――――[救世竜 セイヴァー・ドラゴン]・・・・・・・・!!」