ハチドリはなぜ   作:三人天人

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巨星、流星。相打つ⑦

静まり返った町に響く走行音。

タイヤが、フレームが、 スタビライザーがコースを削り、 炸裂する火花が時折暗闇に朱を差す。

等間隔に置かれたライトの間をフロントライトとテールランプの軌跡が繋ぎ、一寸、 また一寸と迫り合いを続ける二人の未来を照らしている。

瞬く無数の星光が弾け、膨らみ、現れた煌めく光球から[シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン] が姿を現した。

[シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン]

[シューティング・スター・ドラゴン・ TG-EX]

[スターダスト・ドラゴン]

[シグナル・ウォリアー]

精強なる軍勢を従えた遊星に対するは、

[ドロゴン・ベビー]

[ダーク・リゾネーター]

[救世竜 セイヴァー・ドラゴン]

矮小なる軍勢を従えるジャック。

その対照的な様相にも拘わらず、対面する遊星がジャックに抱く印象は直前のターンとは大きく異なっていた。

初めに感じた轟轟と燃える鉄の炉のように厳かな威圧感ではない。

自分を打倒しようと噴出したあの溶岩のような熱波とも違う。

つい先ほどの、静まりゆく赤熱した鉄塊でもない。

剥き出しの劫火。

今、 ジャック・アトラスはあらゆる虚飾も衒気もかなぐり捨てて自分を打倒しようとしている。

知らず全身から汗が噴き出す。

グローブの中がぬめり、 目尻の側を汗が掠めても、 遊星は今、ジャックから目が離せなかった。

獰猛なる野心と渇望を抱く生来の王者。

その熱気に晒され、 遊星の頭で警戒警報がけたたましく鳴り響いていた。

遊星の背中を猛追しながらジャックの指が奔る。

「[レッド・ライジング・ドラゴン]!」

ジャックの呼び声に応え、地面で炎で沸き立つ。

コースを砕いて噴き出した灼熱は竜を象り、甲高い叫びを上げながら天へと昇っていく。

そこから零れた火の粉の二つが膨れ、弾け、二体のリゾネーターがジャックの両脇に控えるように降り立った。

「俺は[バリア・リゾネーター]をリリース!手札の[ボーン・デーモン] を特殊召喚!」

[バリア・リゾネーター] が白骨の手に再び闇へと引きずり降ろされ、代わりに地獄の深淵から鬣を靡かせながら白い魔物が現れる。

(ここではない、恐らく救世竜の存在はブラフ・・・・)

[セイヴァー・デモン・ドラゴン]

かつてのダークシグナーとの闘いにおいてジャックの用いた赤き竜の力。

その力は相手モンスターの力を無効化し、奪いとる。攻撃面においてはセイヴァースターを上回りかねない強力なもの。

(だが、TGEX と墓地の[スキル・プリズナー]で俺の場のカードを対象とする効果は無効化できる。奴がそれを理解していないはずが無い)

故に、 目的は別にあると遊星は考える。

遊星にとって、この状況で最も警戒するべきなのは、二度、純粋な打撃力で上回られてしまう事。

未だ姿を見せない[スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン]。遊星の知る限りではそのカードのみ、遊星の防御陣形を上から殴りつける事ができる力を持っていた。

(攻撃無効は1度だけ。他に攻撃力の高いモンスター、特に[琰魔竜 レッド・デーモン・カラミティ]だけはまずい。軽々にはシューティング・セイヴァーの効果は使えない。見極めるぞ、ジャック!)

白骨鬼の頭上に黒い渦が現れる。両手を広げ、[ボーン・デーモン]が祈るように渦を見つめると、同時に発生した足元の虚空へと何か大きな影がヒュンと落ちていった。

「俺はデッキから悪魔族チューナー[執愛のウヴァループ]を墓地へ送り、[ダーク・リゾネーター]のレベルを4に上げる」

(やはりレベル8のシンクロか。だが本当にセイヴァーデモンか?)

「ウヴァループは墓地のシンクロモンスターを除外して手札に加わり、更に墓地のシンクロモンスターを除外して特殊召喚できる! アビス!!」

遊星の推測を余所にジャックのモンスター達が虚空へと送られる。

強力な妨害力で終始遊星の場に干渉し続けた魔竜が異次元へと消える。

「ベリアルッ!」

剛力と軍勢を呼び寄せ従える、王者の体現と言える魔竜もまた闇の彼方へと消えていく。

重く、堅牢なる二体の魔竜を生贄として現れたのは不敵な笑みとエスニックな衣裳で身を飾るラクダの魔物。[執愛のウヴァループ]はすぐさまその身を光の帯へと解き、ジャックの前に4つの鉄輪となって[ボーン・デーモン] をその内へと誘う。

「王者の咆哮ッ!今、天地を揺るがす!唯一無二なる覇者の力、その身に刻むがいい!」

燃え上がる鉄輪。

業火に焼かれた白骨が焼け、砕け、散り散りになる様を内に宿した火球が宙に浮かび轟々と音を立てる。

突如、その炎の卵を突き破って二対の翼が天を撃つ。

「シンクロ召喚ッッ!荒ぶる魂、[レッドー・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト]!!」

灼熱を噴き散らし、雄々しく夜空に吠える紅蓮の竜。

半ばで折れた片角、体中に刻まれた無数の創痕。

傷つき、それでも尚絆を胸にずたずたの足で踏み出したジャックの心が生んだもう一つのレッド・デーモンズが今、仇敵の眼前で誇らしげにその勇姿を顕した。

遊星の脳裏に否が応にも映像が過ぎる。

「そして!」

遂に、ジャックの場の救世竜が動く。

再びその身を肥大化させ、[ドロゴン・ベビー]と[レッドー・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト]を呑みこんでいく。

「ジャック?!」

「研磨されし孤高の魂!真なる覇者となりて大地を照らす!」

(バカなっ?!)

遊星が声にならない声を零した。

「光り輝けッ!!!!」

その叫びと共に、ジャックもまた遊星と同じく救世竜へと飛び込んでいく。

それと同時に伸びる四対の羽。

視界を塞ぐ激しい閃光が送り、それでも遊星は目が離せない。

(なんだ――本当にセイヴァーデモンを一何が狙いだ――――?)

やがて現れた紅の竜が錐揉みに身を翻しながら夜天に羽搏き、二対の救世竜相対した。

二人の竜が放つ光輝に、サーキットは最早昼間の如く照らされている。

「シンクロ召喚ッッ!!大いなる魂、[セイヴァー・デモン・ドラゴン]!!」

大気を圧して羽搏くセイヴァーデモンの覇気がシューティングセイヴァー越しにも伝わってくる。

それでも遊星はこの状況に当惑を隠せなかった。

(ジャックの場のモンスターではもうカラミティの条件を満たせない・・・・!チューナー以外のモンスターも、魔法も罠も無い――――)

遊星の脳に電流が如くこれまでのカードたちが流れていき、 稲妻を伴って次々と無方向に繋がっていく。

やがてバラバラだったカードが整列され、辿り着いたのは裏向きの一枚。

ジャックの最後の手札。

「俺はッッ!」

それが今、ジャックのディスクに叩きつけられた。

「[SP-デッド・シンクロン]を発動するッッッッ!!」

「?! ここでスピードスペルだとっ!?」

墓地を利用したシンクロ召喚。 先日の大会でも披露した、ジャックが王者としてのし上がる為の切り札と言える戦術。

(――だがッッ!)

シューティングセイヴァーが再び身体中の玉石を光り輝かせる。

「《プュリファイ・エクスプルージョン》! その効果は無効化する!」

眩く輝くシューティングセイヴァーに照らされたカードが、その光に染められ色を失っていく。

力の行使の為、煌めく粒子となっていくシューティングセイヴァーから遊星の機体が現れ、やや危うげな蛇行をしながらもサーキットに着地した。

「これで終わりだ!ジャックッ!」

「ああ終わりだ!遊星ッ!」

突如、[セイヴァー・デモン・ドラゴン]が鮮やかな紅色の光を放つ。

瞠目する遊星の前で、シューティングセイヴァーの放った激しい光の雨が押し返されていく。

何故。と思考が錯綜するのも束の間、 モニターに表示されたカードを見て遊星の脳が稲妻に打たれた。

[大いなる魂]

「この効果は、レベル10以上のシンクロモンスターが場に居なければ発動できない。だが、それが通らば如何なるモンスター効果であろうとも!」

膨張する紅の光。

押し寄せる波濤に燐光が吹き散らされ、悶えながら現れたシューティングセイヴァーが自らの手で開いた時空の狭間へと吸い込まれていく。

一陣の激しい風が駆け抜け、凛然として翼を広げたセイヴァーデモンの攻撃力が見る見る上昇していく。

「先、ではなかった―」

セイヴァーデモンは目的地でも通過点でもなかった。

その存在(レベル10 Sモンスター)そのものが布石だったのだ。

そしてジャックの背後、巨大な陥穽が生まれ、そこから三つの影が空へと飛び立っていく。

「デッド シンクロンにより、墓地から[レッド・デーモンズ・ドラゴン]と、[ソウル・リゾネーター]、[チェーン・リゾネーター]を除外しダブルチューニングッッ!!」

二つの悪魔は燃える双輪(ふたわ) に。

荒ぶる魂を囲んで回る輪はやがて火炎を纏い、レッドデーモンズを赤く染めていく。

「孤高の絶対破壊神よ、神域より舞い降りて終焉をもたらせッッ!![琰魔竜 レッド・デーモン・カラミティ]!!!!」

蒼銀の鬣が深紅の炎に踊る。

地獄の底から噴き上がる焦熱を受けながら、 穴の中から傲然とその巨体を浮かび上がらせたのは災禍の名を冠する竜。

その身から放たれる凍てついた波動が受けた遊星のモンスター達が、 まるで頭を捻じ伏せられるように身を屈められていく。

遊星の傍らに伏せられていたカードも色を失いつつあった。

「カラミティの降り立った時、 貴様は如何なる逆も封じられる!」

ジャックに呼応して上げた咆哮で、遂に場のモンスターたちは色彩を失いバキンと音を立てて灰色に凍りつく。最早身を捩る事も叶わない。

そんな遊星の軍勢と対照的に、紅き竜は灼熱を纏い彼らを睥睨する。

紅く染まるサーキットを二台のD-ホイールが駆け抜けていく。

モーターの駆動音とタイヤがコースを削る擦過音がヤケに大きく響く。

ゆっくりと羽搏く[セイヴァー・デモン・ドラゴン]が悠然とその翼を広げ、輝きを増していった。

「[セイヴァー・デモン・ドラゴン]!奴の力を吸い尽くせ!《パワー・ドレイン》ッ!!」

身体を打ち据える風が心地よく、いつまでも、いつまでも走り続けたいと思った。

「くっ・・・・!」

鋭く指が動き。

([スキル・プリズナー]ッ・・・・いや――――)

止まる。

セイヴァーデモンに睨みつけられた灰色のTGEXが深紅の水晶に閉じ込められ、その身から発せられる光輝がますます壮絶になっていく。

そんな絶望的な光景を見ながら、遊星は少しだけ寂し気に、それでいて満足そうに頬を緩ませた。

デュエルという、ライディングデュエルという最高に熱くなれる勝負で、勝負であるが故に必ず辿り着く場所。

ソリッドビジョンから伝わる熱量とは反比例するように、二人は背中が少しずつ冷たくなるような感覚を覚えている。

勝敗に寄らず、やがて訪れる決着。

ゲームの終わり。

圧倒的な攻撃力を得たセイヴァーデモンが、まるで太陽であるかのように輝きながらサーキットの上空へと飛翔する。

「バトルだッッッッ!!」

恒星の鏃と化したセイヴァーデモンが瞬く間に迫り、遊星と共に名残惜し気に見上げるTGEXへと降り注ぐ。

「《アルティメット・パワーフォース》!!!!」

一瞬、地面すれすれまで下降した鏃が掬い取るように鋭く弧を描くと、その軌跡に在ったTGEXは身体の大部分を焼き切られ、吹き飛ばされていた。着装した推進器や装甲も抉られて火花を散らし、やがて断末魔の嘶きと共に爆発した。

「グッ―――あああああああああああ!!!」

その爆風に晒されながら、エンジン部が解放され敗北を表す白煙を上げた。

が、本来すぐに減速するはずのD-ホイールが、速度を落とさないままガタガタと不規則な蛇行を始めた。

「!?クッ・・・・ ぐぅっ!」

「遊星ッッッッ!!」

セイヴァーデモンが急減速して踵を返すと遊星の側まで再び急降下し、その機体を真横から支えて減速を促す。

すぐにも制御を取り戻した試作機は徐々にその速度を落とし、しばらくの徐行の後にサーキットのど真ん中でシンと停止した。

ガボッと、外したヘルメットから汗を撒き散らしながら遊星がD-ホイールの傍らに立つと、いつの間にか消えたセイヴァーデモンから現れたジャックもその隣に W.O.Fを停める。

「無事か遊星」

「助かったよジャック。やはりエネルギーチャンバーの圧力調整に難があるな。もういっそ閉鎖弁を増やして加減圧に調整、いや、却って不安定になるだけかな―――」

礼もそこそこにエンジンルームを覗き始めた遊星に肩を竦める。

デュエルが好きで、機械いじりが好き。

不動遊星は変わらずそういう男なのだ。

「遊星、俺は」

「やめておけジャック。 俺は全力だったし、 今のお前が何か言おうとするならそれは俺じゃない」

アチチなどと手を振りながらカバーを下した遊星がジャックに振り返って手を差し伸べた。

「俺の負けだ、ジャック。やっぱりお前はジャック・アトラスなんだな」

「―――――――ふんっ・・・・」

フッと口角を上げたジャックもそれに応じて手を伸ばし、 二人は硬く握手を交わす。

冷めていったはずの熱がぶり返す。

D-ホイールを転がしながらガレージに戻る傍ら、二人は熱く感想戦に興じる。

あの時はこうだった、アレはどうだった、ああしたこうした、 なぜこうしたと交わすたびに胸が弾む。

夜も更けて、ソリッドビジョンの見せる幻影もコースを照らすライトも消え失せたサーキットに、二人の声だけが残り、空には微かに星が瞬いてる。




 
ようやくこのデュエルも決着となります。
お話はまだ少しだけ続きますので、もう少々お付き合いください。

次回は10/14、22時頃を予定しております。
引き続き、お付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。
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