「マジで不動遊星じゃん!」
「サイン!ここサインください!」
「あれ?」
「キャーーー遊星さーーん!!」
「ゆ・う・せいッッ!!ゆ・う・せいッッ!!!」
「キングは一緒じゃないのかぁ!?」
「でもさっきの動画―――」
至近距離で暴力的なまでの好意に晒されながら、それでも遊星の心は少し離れた大ガラスの向こうに注がれている。
満足気な視線がふっと伏せられ、 ガボッとヘルメットがその表情を隠した。
「皆、騒がせてすまない。少し野暮用で寄っただけなんだ、これで失礼する」
そう言って手を振るとハンドルを絞ってモーターに息を吹き込んだ。
歓声ともブーイングともつかない声を上げる旅客達。
しかし、それを掻き分けながら空港の中から現れた大柄な男がずいっと遊星の前に立ちはだかると皆一様に身を竦めた。
「有名人は一般人にいちいちかかずらってる時間なんざねぇんだよ!ほぅら散った散った!いつまでも群がってっと適当な罪状でショッ引くぞ!」
野太い大音声に、遊星に集っていた者たちはまるで蜘蛛の子を散らすように去っていった。
横暴な公務員への悪態を一番最後に残して、空港のバスロータリーに元来の静けさが戻る。
「全く、この牛尾をよくもカメラマン扱いしてくれたな。え?遊星」
灰緑の制服を着た巨漢―牛尾哲が片眉と頬を吊り上げながらニィっと笑う。
半端なチンピラなら瞬く間に反抗心を削がれてしまいそうな獰猛な表情だが、知己である遊星には柳に風である。
「すまないな牛尾。突然という事もあったが、空港の中で大騒ぎにするわけもいかなかったんだ」
「わぁってるよ。 ジャックの野郎はうまく入り込めたみたいだな」
言いながら手元の端末を操作する牛尾が最後にトンとタップすると、ネットに掲載された遊星とジャックのゲリラデュエルの投稿が削除された。
セキュリティのカメラドローンをハックした何者かのリークに見せかけた情報操作だが、ライブと偽ったことで目論見通り騒ぎのタイミングをずらす事に成功していた。
「ったく、面倒な事させやがって」
「近くにいたのが牛尾で助かった。 仮に騒ぎになってもお前なら安心だからな」
「ぬかしやがる」
肩を揺らす牛尾が空港の中を一瞥し、D-ホイールに跨るとスタンドを蹴飛ばしグルンと車体の向きを変える。
「帰りの事は知らんぞ。つうか遊星、アイツに言っとけ。色ボケも結構だがよ、お忍びならあのクソ目立つD-ホイール、どうにかしろってな」
言い残して、未だ牛尾本人の希望で続けているデュエルチェイサーの業務に戻っていった。
残された遊星も、やや離れた駐輪場でグレーのカバーがこんもりと主張しているのを尻目に端末を取り出す。
「・・・・・・・・ああ、私だ。すまない、ちょっと野暮用で出勤が遅れる―――――いやそういうわけではないんだが―――え?・・・・・・・・あぁ彼から聞いたか。まぁそんなところだから所長にはうまく言っといてくれないか―――・・・・え、カンカン?―――――・・・・ああ、試運転だとでも言い訳しておくさ」
そうして不動遊星は日常に還っていく。
これから行われる親友の決戦については特に心配していない。