ハチドリはなぜ   作:三人天人

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ハチドリはなぜ②

喧騒から離れ、空港関係者とニ三言交わすと人気の無い通路に入っていく。

職員に通されたのはちょっとした応接室かラウンジのような個室。

著名人や国賓といった人物が、混乱を避けるために利用するVIP用の待機室であった。

一面に滑走路を眺望できる大窓。そこから差し込む陽光の温度が充満した部屋に連れ込まれ、引きずり降ろされるように柔らかなソファに座らされた女、カーリー渚はすぐさま立ち上がりそこから逃げ出そうとする。

「待て」

「やめて。大きい声出すわよ」

「かまわん」

扉の前で立ち塞がるジャックに抗議の視線を送るカーリーだが、数歩下がってカバンを抱えてから再びジャックに向き直った。先ほどよりもずっと鋭く冷たくなった視線がジャックに突き刺さる。

「私もう行かないといけないの。飛行機が出ちゃうでしょ」

「まだ時間はあるはずだ」

「顔パスでこんなところに入れてもらえるお偉いさんとは違うの。早く退いて」

「逃げるな」

「私は」

「俺も逃げない!」

突然の大きな声に肩がびくりと竦む。

スイと扉の前から退いたジャックが静かな足取りでカーリーのいるソファの向かいに座り、懐から何かを取り出した。

見慣れた柄のカードデック。

「デュエルだ。カーリー」

「――はぁあ?」

心の底から溢れる呆れをがそのまま口から転び出たような素っ頓狂な声。

それを聞きながら、ジャックは素知らぬ顔でカードをカットし机に置いた。

「デッキは持っているだろ。座れ」

「時間無いって言ったわよね私」

「一戦くらいできるだろう。デッキを持っているからには受けろ。座れ」

「どういう理屈よ」

「やらんならカギは開けんぞ」

いつの間に施錠いたのか、 ジャックの指先にチャラチャラと音を立ててキーがぶら下がっていた。

キッと扉を一瞥し、それから肩を落として、最後のボスンとカーリーの腰がソファに落ちた。

「・・・・なんのつもりよ」

「先行はくれてやる」

とうに準備を終えたジャックがそれだけ言ってじっとカーリーを見つめる。

渋々と、深い溜息と共にデッキを取り出したカーリーはそのまま上から5枚を引く。

少しだけ顔を曇らせて、カードを切る。

「[占い魔女スィーちゃん]を召喚。」

[開運ミラクルストーン] と一枚の伏せでエンド。

「お願いだから、早く終わらせて」

「俺のターン」

カードを引く。

降り注ぐ朝日がじりじりと肌を炙るのが不愉快だ。

「俺は卑怯だった」

[バイスドラゴン]を特殊召喚。

「やめて」

「わかったもういい」

[ヴィジョン・リゾネーター] を特殊召喚。

「カーリー」

「....」

モンスターを一枚伏せる。

「俺はお前を愛している」

「――そ、速効魔法発動・・・・」

[受け入れ難い結果]。[占い魔女アンちゃん]を特殊召喚。

[占い魔女エンちゃん]を除外。

「俺は、それだけは伝えないといけない」

シンクロ召喚。[エクスプロード・ウィング・ドラゴン]。

「お前の事を気遣う言葉やお前を支えたいなどという言葉よりも、俺はまずそれを伝えるべきだったんだ」

バトル。[エクスプロード・ウィング・ドラゴン]で[占い魔女アンちゃん]を攻撃。

「・・・・なんだって一緒よ。私はあなたと一緒にはならない」

[占い魔女アンちゃん]の効果。ドロー。

[占い魔女チーちゃん]を特殊召喚。互いにドロー。

「もう何故だとは言わん」

攻撃を続行。

「俺は、キングとして身を立てる事を目標にすることで、お前から逃げた」

攻撃対象を再選択。[占い魔女チーちゃん]を攻撃。

「お前が記憶を失っていたことなどどうでもよかった。俺はお前の側にいるべきだった」

[占い魔女チーちゃん]の効果。ドロー。破壊。効果ダメージ。

「迎えに来ただの、支えたいだのと、まったく図々しい。お前が怒るわけだ」

二枚伏せてターンエンド。

「私は」

ドロー。

「怒ってなんか」

[幸運の前借り]を発動。[占い魔女フゥちゃん]を特殊召喚。

「単に私とあなたが釣り合わないだけよ」

除外状態の[占い魔女エンちゃん]が手札に。

「それこそ、私にかまけてデュエルを疎かにするようなら私はきっと」

[占い魔女エンちゃん]を召喚。

[エクスプロード・ウィング・ドラゴン]を除外。

「記憶が戻らなくてもあなたを嫌いになってたんだから」

[一族の結束]を発動。

「なら今はどう思っているんだ」

バトル。

「どうって」

[占い魔女エンちゃん]で伏せモンスターに攻撃。ドロー。

「俺は俺の気持ちを伝えた。お前はどうなのかと聞いている」

[ダーク・リゾネーター]は一度だけ戦闘で破壊されない。

「さっき言ったじゃない、あなたと一緒になる気は無い」

[占い魔女フゥちゃん]で攻撃。ドロー。

「なら俺の事は嫌いか」

[ダーク・リゾネーター]撃破。

「俺を振り払い、嘲笑いながら背を向けるほどに嫌いか」

「―――そんなことっ」

[占い魔女アンちゃん]でダイレクトアタック。ドロー。

「言ってないじゃない!」

[占い魔女スィーちゃん]でダイレクトアタック。

「私だって・・・・・・・・」

ターンエンド。

「・・・・辛いの」

ドロー。

「幸せを感じると、痛いの」

[レッド・リゾネーター] を召喚。[レッドスプリンター]を特殊召喚。

「喜んだり、楽しいと思うのが辛いの。みんなが私を責めるの。お前のせいで何人死んだって、どれだけの人が苦しんだかって」

「カーリー」

「私ね。ジャック、私ね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「死にたい」

大粒の涙が止めどなく落ちる。

「もう息をしているのも辛いの。私が生きてる事に、耐えられない」

声が詰まる。やがて子供のようなしゃくり上げが、一層に言葉を詰まらせていく。

「なのに。なのにね。し、死ねない、の。わ・・・・わた、しは、ひ、卑怯だから」

カードが手から零れ落ちて散らばっていく、

「怖いの。でも、辛い、の。いろいろ・・・・いろいろやって、でも、だめ、だめで、手首にナイフを押し当てても、あ・・・・あなたの顔がう、浮かんで・・・・それから思うの」

震える手を返して、筋張った真っ白な手首をジャックに晒しながら上げた顔は、真黒に落ち窪んだ目元をぐしゃぐしゃに濡らしていた。

「きっとっ。きっと傷を見たら、ジャック、哀しむだろうなって。傷つくだろうなって。そう思うと、も、もうなにも、なにもできなくて、し、しねな、しねなくてっ、わたし、わた、わたし」

「カーリー」

その手に触れようとした時にはもう腕は下げられていた。

「――――――――許せないの・・・・だかっ。・・・・だから、だから・・・・今さっきあなたに言われた言葉も、死ぬほどう、うれしくて・・・・・・・・死ぬほど死にたくなる」

「・・・・・・・・なるほどな」

シンクロ召喚。[レッド・ライジング・ドラゴン]。

[レッド・リゾネーター]を蘇生、回復。

「それで俺を遠ざけたいわけか」

「それだけじゃない。こんな、面倒な女が、キングの側にい、いるのは、やっぱり、だ、だめだからっ」

「それで俺を遠ざけたいわけかっ?」

シンクロ召喚。

「よく分かった」

[レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト]

「ならばもういい。 お前の気持ちは考慮せん」

効果発動。

「―――――うん····」

「カーリー。俺と来い」

[占い魔女アンちゃん][占い魔女フゥちゃん]破壊。効果ダメージ。

「――――・・・・・・・・・・・・は・・・・?」

「お前は俺の傍に居ろ。もはやお前の意思などどうでもいい」

バトル。

「俺はお前を愛している」

[占い魔女スィーちゃん]を攻撃。破壊。

「俺はお前に傍にいてほしい。俺がお前を呼ぶ時、声を返してほしい。俺が喜ぶ時、俺はそれをお前に伝えたい。俺が苦しい時、俺はお前に触れたい。お前が何に哀しみどう苦しんでいても知った事ではない、だがそれは俺の隣でしろ。」

真っすぐな視線がカーリーの瞳を、その奥まで射抜きそうなほどに見つめたまま外されない。

「全て俺のエゴだ。キングの立場などは所詮俺の背景に過ぎん。俺が俺としてこの人生に立つ限り、この先常にお前を欲する。お前を求め続ける。それがお前にとって不本意だとしても、お前を欲して止まない俺の魂を変えるのは、俺自身にもできないことだ」

ターンエンド。

「俺が死ぬときはお前の腕の中がいい。お前が死ぬ時は、カーリー、お前のその魂が消えるその瞬間までお前を抱きしめていたい。俺達の終わりの時まで一緒にいたい、その終わりを迎えた先でも、その先まで俺はお前と共に居たい。もし今この瞬間俺達が死んだとしても、生まれ変わって俺はお前を探す」

大粒の涙が止めどなく落ちる。

「俺はお前を、愛しているからだ」

卓上の日差しが僅かに陰ってきている。

顔を覆って呻き声一つ上げないカーリーを、ジャックは黙って見つめていた。

「無理・・・・」

そう、カーリーがぽつりと零した。

ロを噤むジャックを知ってか知らずか、カーリーの肩が震えている。

少しずつ揺れが大きくなり、やがて鼻から息の零れるような音が断続的に聞こえ始めて、ジャックは訝しんだ。

「ジャック・・・・それ無理よ。だって、あなたが先に死んじゃったら、誰が私の死体を抱きしめてるのよ」

「・・・・言葉の綾というヤツだっ、どうあれ俺は考えは変えるつもりはない!」

「ふふ・・・・そうかぁ・・・・」

そう零して両手が膝の上に降ろされた。

しばしの間を置いてふぅと息を吐いたカーリーが顔を上げ、その手はデッキへと伸びていた。

「・・・・次は?」

「む」

「もう私のターンでいい?」

言われてジャックはさっと手札を確認し、伏せを捲って見てから手で続行を促す。

ゆっくりと静かにカードが引かれ、どこか憑き物が落ちたように穏やかな表情になったカーリーがドローカードを確認して。

初めにそっと微笑んで。それからまた顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を一粒落とした。

引いたカードを胸に押し当てて嗚咽を漏らすカーリーをジャックはただ見つめ、じっと待っている。

握ったカードを大事そうに両手で持ったカーリーが、それを机にそっと置いてから、右手をデッキの上にふわりと乗せた。

「・・・・・・・・降参・・・・。私、やっぱり・・・・やっぱりあなたの事が大好きなんだから」

「! カーリーッッ!」

後半の方など、涙でほとんど言葉になっていなかった。

それでもはっきりと聞き取れたカーリーの気持ちに、思わず立ち上がったジャックの膝が机を揺らす。

カーリーの引いたカードがふわりと滑って落ち、ジャックは駆け寄って、髪を梳き上げて抱き締める。

「うふふふ、は、吐きそう。私、今幸せになろうとしてる」

「いいんだッッ!それでいいんだカーリーッ!!お前の幸福を望んでいない者など、この世界で今はお前独りしかいないんだッッ!!」

背中から反対の腰まで目一杯手を伸ばして、余す所の無いほど、ほんの少しも溢さないように全身でカーリーを抱き締める。

その大きな背中に、おずおずと手が伸びて。

「ぅあ、ああ・・・・ジャック・・・・ジャック・・・・・・・・・」

遠く、アナウンスが聞こえる。

差し込む陽光の照り返しが部屋を暖かに染める。 その床の陽だまりに落ちた一枚のカード。

[占い魔女ヒカリちゃん]が、昇りゆく太陽を見上げるように窓辺で煌いている。




一旦の終わりとなります。
明日明後日までに後日談を書き上げて投稿し、簡潔とさせていただきます。
ここまでお付き合いいただいた皆様におかれましては、最期まで何卒よろしくお願い申し上げます。
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