その後、普段よりも一際賑やかな夕食を終え、 就寝時間のギリギリまで粘る子供たちをなんとか寝かしつけてようやく二人は一息つく。
「まったく、はしゃいで疲れてぐっすりな子もいれば、興奮して寝付けない子までいて。結局普段と変わんないよ」
「元気なようで何よりだ。 子供たちもマーサもな」
差し出されたコーヒーカップを傾けるジャックにも流石にやや疲労の色が見える。
来ていたジャケットは子供たちの怒涛に揉まれてすっかりしわくちゃになり、 今ちょうどマーサにアイロンをかけて貰っているところだった。
それでも二人の顔は満ち足りている。
「あんたの。それに遊星とクロウ。あんたらのおかげさ。 一時はけっこうきつかったんだけどねぇ、本当に感謝してるよ」
「ふん・・・・」
アイロンのフシュフシュというスチーム音が穏やかに流れる。
コーヒーの香りを楽しみながら、 ジャックの瞳は立ち昇る湯気を見つめ、どこかその向こうを見通すようにぼんやりと視線を遠くにやっている。
パンっ、と乾いた音がして見れば、ジャケットを広げながら裏表と仕上がりを確認するマーサがハンガーを探しに立ち上がっていた。
「で、なんかあったのかい?」
ジャックに背を向けながらマーサが唐突に切り出した。
いや、ジャック自身どこかそう切り出してもらうのを待っていたのかもしれない。 そんな驚きと安堵の入り混じった複雑な感情を、 少しだけ温くなったコーヒーで流し込んでふう吐き出す。
「・・・・人を探しに来たんだがな」
空のカップをテーブルに戻しながら立ち上がる。 ソーサーとカップの当たる音が静かに鳴るのを置いて、どこか所在なさげに席を離れると、 すっかり暗くなった街並みを映す窓へと足を向けた。
「方々歩いてみたが無駄だった」
「それで疲れ果てて休みに来たわけかい。 あんたもそうやって他人に縋れるくらい素直になれたんだねぇ。 立派になったもんだよ」
棚からもう一つカップを出して二つの器にコーヒーを注ぎながら言うマーサの声はどこまでも優しい。
以前なら、他人に弱みなどと反発の一つもしただろうが、 今のジャックはマーサの言う通り、人とのつながりという物を理解し、 そしてやはり少々疲れていた。
何せ本題こそ最もエネルギーを使う事は目に見えているのに、 その相手が消息不明なのだ。
子供たちの触れ合いの中でもカーリーの行方がずっと気にかかっていた。
なぜ突然姿を消したのか。
もしそれが自分の脳裏に過ぎった嫌な予感そのものだったら。
本当は居ても立っても居られない心持ちだった。
それでもマーサを頼ったのは、そんな状態では事が佳く運ぶとは到底思えないと冷静な自分が言い聞かせたからだ。
「一人でも人間は大抵の事はできる。 でも誰かに助けてもらえば、 ずっと楽にやれる。 もしかしたら一人でやるより、 ずっといい結果になるかもしれないね」
ふわりと香るコーヒーの芳しさがささくれそうな心を宥めてくれるようだった。
かつてに比べれば随分と明るい旧サテライトの街並みを眺め、一つ息を吐くとジャックは振り返った。
「カーリー渚という女を探しているんだ。 やつのことだ、 俺や遊星のルーツを知りたいとか何とか言って、 この辺りに取材に来た事は無いか」
いくつか特徴を添えて一通り説明するも、 マーサはピンとこない様子で、 ジャックは少し力の抜けた様子で息を吐いた。
「さぁてねぇ・・・・確かに何回かそういう話もあったけど、 眼鏡で髪の長い子ねぇ・・・・」
「いや、いいんだマーサ。 明日また足で探してみる事としよう」
「すまないね、 力になれなくて」
ジャックは静かに首を振る。
もしカーリーが苦しんでいるのなら、 今すぐにも会いたい。
きっとこの町のどこかにいるはず。
もしもう出て行ってしまったとしたら・・・・
マーサには気を遣わせまいと振舞ったが、やはり胸中には暗澹とした悪い予感が渦巻く。
遣る方ない焦りに首筋をちりちりと焼かれるような心地がしてジャックは深い溜息を零した。
その時ふと、窓の外の暗闇に灯りが過ぎった。
トラックだろうか、 乗用車とはサイズが違いすぎる。
車はマーサハウスの門をくぐってどんどんこちらに近づいてくる。
「おっと、もうこんな時間か」
「誰か来るのか?」
お得意さんだよ、と部屋を後にするマーサについてジャックも玄関へと向かった。