戸の外では何やら発泡スチロールや段ボールの箱を荷台から降ろす派手な髪色の男がいた。
「やぁ、いつもすまないねこんな時間で」
「しゃあねぇでしょ、 子供らが寝てからじゃねぇと片付けだって捗んねぇんだろ?」
男はイカツイ顔立ちで身なりもパンクスタイルと些か尖ってはいるが、愛嬌のある笑みでマーサと談笑している。 荷物を次々と荷台から降ろしていった男が懐から伝票を出し玄関に近づいて、 ふとジャックの方に気づきざざっと後退った。
「ジ、ジャック・アトラス?!おめぇなんだってこんなとこにいやがんだチクショウ!」
「誰だ貴様は。 この俺がどこにいようとどこの馬の骨とも知らんヤツにとやかく言われる筋合いはないぞ」
ジャックの言葉に男は眉を吊り上げる。 額には青筋まで浮かべている。
「ハァー?!てんめぇ!さては俺の事忘れやがったな?!」
「覚えていないなら取るに足らん輩だろう。 マーサ誰なんだこいつは」
マーサはといえば、食材の名前が書かれた箱をチェックしながら朗らかに笑っている。実に愉快そうだ。
「こいつまじか?!かつてのライバルだろ!?」
「だから誰なんだお前は!因縁をつけるなら容赦せんぞ!」
しばしの間睨み合うと、 男は懐から取り出したサングラスを着けて前髪をぐいっと上に引っ張る。
「オレだよッ!炎城ムクロ!一度はお前を追い詰めた決闘者だろうが!このムクロ様を忘れたとは言わせねぇぞ!」
ジャックの頭にはてなが浮かぶのがアリアリと見えて更に激昂するムクロだが、 検品を終えたマーサが目の前に伝票をちらつかせるとすぐさま丁寧に受け取ってサインをし始めた。
「まったく・・・・フォーチュンカップだって出たじゃねぇかよチクショウ・・・・」
「・・・・あぁ思い出した。 遊星に負けたDーホイーラーだったか」
「どういう覚え方だよ!」
「喧しい。そのトラックを見て思い出したんだ」
ジャックの指すオレンジに塗装されたトラックに張られているのは [スピードキング☆スカルフレイム] のイラストだった。 馬のような四つ足で力強く幌付きの荷車を引く光景がカートゥーン調に描かれている。
「なぁんで顔見て思い出さねぇかなぁ」
「取るに足らないからだ」
「まだ言うかお前は!」
「はいはいそこまでだよ。 あんがとねムクロ」
マーサが箱に手を掛けながら言うのを見て、 ムクロはさっと駆け寄って段ボールをいくつもまとめて担ぎ上げる。
「いいってことよお得意さんなんだから、 とりあえず台所な?」
「悪いねぇいつも」
二人が荷物を抱えて行ってしまうので、手持ち無沙汰になったジャックもそれに倣った。
一度の往復で運び終えると、 ムクロはマーサに挨拶してトラックに乗り込み窓から顔を出す。
「じゃ、 また来週な。 追加注文が有ったらいつでも連絡してくれ」
「あいよ、 またよろしくね」
エンジンの起動音がしてライトが点灯するが、 ムクロは 「あ」 と何か思い出したようでジャックの方を見て口を開いた。
「言う気なかったから忘れてたわ、 王座防衛おめでとうキングさんよ」
思わぬ賛辞に片眉が上がる。
「ふん、当然の結果に送るべき言葉ではないな」
「けっ、相っ変わらずだなてめぇわ。そんなんだから女にも愛想尽かされんだよ」
「? なんの事だそれは」
てっきり激昂して食って掛かられると踏んでいたムクロはアクセルから足を外してハァ?とジャックを睨んだ。
「アァン?おめぇ、 俺はてっきり取り巻きの女どもにもそんなオーヘイな態度だったもんだから逃げ出されたもんだと思ったが」
「なんだ?それはどういうーー」
何の戯言かと聞き流しかけてすぐ、 ジャックはトラックの窓に手を掛けた。
「貴様、 まさかカーリーを知っているのか?!」
「うわぁ!よせ!乱暴すんな!車検済んだばっかなんだぞ?!」
「言え!どういう事だ! 説明しろムクロぉ!」
「分かったから手放せェ!歪む歪む!バカ!袖の金具が当たってんだよぉ!」