俺の名前はハマー・D・エッジ。
遭難者だ。
能力の検証を終えたオレは、いつまでも無人島にいても仕方が無いので、島に生えていた木で筏をつくり、大海原に乗り出した。
『倉庫』の中には島で狩猟した動物の肉を焼いたものや、湧き水を大量に収納してあるので、水や食料に関しては問題ない。
問題は、ここがどこか分からず、そしてどこに向かっているのかも分からない、ということだ。
前後左右、どこを見渡しても海、海、海……
陸地は影も形も見えず、空を飛ぶ鳥すら1匹も見当たらない。
大問題である。
しかも適当に作った筏が、今にも崩壊寸前。
泣きたい。
オレは能力者になってしまったので、海に落ちたら一発でアウトなのだ。
あと数日以内に陸地なり、他の船なりを見つけられなければ、オレは海の藻屑となって消えるだろう。
せっかくSSランクの悪魔の実を食って転生したのに、やったことが能力の検証だけなんてあんまりである。
ゲームだったときは補給用の無人島が点在していたので、その感覚で海に出てしまったのがそもそもの間違い。
もはやこの世界はゲームではなく現実なのだと、遅ればせながら改めて理解させられた。
……だが、一応悪いことばかりではなく、いいこともあった。
それは、能力の新たな一面を発見できたことだ。
『倉庫』の中には無生物しか入れられない、という縛りがあるのだが、その『無生物』という括りがけっこう幅広いようなのだ。
どういうことかというと、収納できるのはなにも質量のある『物質』に限らない、ということである。
あれは海に乗り出してから二日目のことだ。
オレはその時、筏に帆を作って取り付けなかったことを、心から後悔していた。
帆がなければ風を受けられず、船が進まない。
そんな事すら、オレは考えていなかったのである。
帆がないならオールで漕げばいいじゃん!
と『倉庫』の中から取りだした木を嵐脚で板状にし、数時間漕いだ後で「片側だけ漕いでもその場でくるくる回るだけだ」ということに気づいたときは、自分のあまりのバカさ加減に絶望した。
その時である。
筏の上でorzと崩れ落ちるオレの体に、強い風が吹き付けたのは。
オレは無意識に、その風を収納していた。
────そう、風を収納出来たのだ。
水をそのまま収納出来たのだから、風を収納出来てもおかしくはない。
オレは自らの能力の有能さに改めて感心するとともに、この絶望的な状況を打破する方法を思いついた。
吹き付ける風を収納出来るということは、その勢いで放出できるということでもあるのだ。
オレは立ち上がると、できる限り大きく『門』を開いて風をひたすら収納し続けた。
そして、風が弱くなってきた所で収納をやめ、今度は筏の端から両脚を出して海に付けると、足の裏辺りに小さな門を二つ開いて、そこから風を放出した。
門が小さい分、収束された風の勢いは強くなる。
エアジェット筏の完成だ。
それからオレは強い風が吹けば立ち上がってそれを収納し、風が止めば足の裏から放出して進む、という事を繰り返した。
そして、ものの見事に遭難した。
まあ、最初から遭難していたといえば遭難していたようなものだが。
どちらにせよ、今はこのまま進むしかない。
進めるだけ進んで、陸地や船が見つかればそれでよし。
見つからなかったら……その時はその時だ。
筏が崩壊したら月歩で体力の限界まで空中を移動して、それでもダメだったら潔く海に落ちてやる。
半ば
────そして、そんなポジティブな行動が運を呼び込んだのか、オレはとうとう見つけた。
船だ。
水平線の先から姿を現したのは、白いマストを高らかに掲げた一隻の帆船であった。
オレは歓喜した。
これで海の藻屑にならずにすむと、涙を流して喜んだ。
幸いなことに、船に海賊である事を表わす『
おそらくは商船か何かだろう。
であるならば、手持ちの肉や水と交換に、次の港まで乗せていって貰えるかも知れない。
少なくとも、姿を現すなり即戦闘、ということにはならないはずだ。
オレは崩壊しかけている筏を何の未練も無くその場に残すと、月歩で空を蹴り、船の上まで移動していった。
そこでオレが目にしたのは……
三人の少女が大人の男たちに囲まれ、今まさに暴行を受けようとしている場面だった。