月に寄りそう笑顔の作法 作:Negative Photoshop
今回もあとがきに設定と展開について書いてるので、よければどうぞ。
※遊星の発言を少し変更しました
「――久しいな、雌犬の子よ。とはいえ、片割れとは初対面なわけだが……。クハハッ……!」
……何故、この人がここに。原作では少なくとも、屋敷滞在時はこの屋根裏部屋に来ることなんてなかったはず。
「ご、ご無沙汰しております、お兄様。何か私たちに何か用事がおありでしょうか……?」
俺が動揺している間に朝日が尋ねる。
前に聞いたのだが、朝日は以前に会っているらしい。おそらく原作でもあった桜の木の下での問答だろう。それを聞いたとき心底ほっとした。俺にあんな高度な会話ができるわけがない。
「フン、先程愚かなる妹が、妙に機嫌よく階段を下りてきているのを見かけてな」
さっきのあれか……。
「話を聞いてみれば、双子の使用人に助けてもらったと言うではないか。俺の記憶違いでなければ、おまえたちは休暇届けを出していたはずだが…」
「おまえたちが好き勝手に出歩くことで、あの女に迷惑がかかるとは思わなかったのか……?ククッ…!」
――原作通り、この人はなんというか、本当に人の弱みを的確に叩いてくるな……。さすが原作で『遊星』に「苛烈で、屈服させ服従させることを愛だと考えているお人」と言わせただけある。
現に朝日は顔を青くさせ、少しばかり震えているように見える。
仕方ない。想像してなかった事態ではあるが、ここは俺が何とかするとしよう。自信ないけど。
「申し訳ありません。こちらの部屋にも聞こえてくる程でしたので、屋敷の皆様の迷惑になるかと思い、仲裁させていただきました」
俺にできることと言えば、当たり障りのない感じで言葉を返すくらいだ。
「お前とは初めて顔を合わせたことになるな、雌犬の子の片割れよ」
「はい。改めてご挨拶させて頂きます、衣遠兄様。ご存じではございましょうが、大蔵遊星と申します」
俺は朝日ほど頭の回転は良くないので、なるべく丁寧に返すことだけを考える。
「フン……。どうやら最低限の礼儀は身につけているようだな」
衣遠兄様はそのまま、扉の近くに待たせていた秘書らしき女性と話し始める。
「ときには気まぐれを起こしてみるものだな。母上が悪しざまに言うのでどれほどかと思い見に来てみれば……。あながち言うほどの凡愚ではなさそうだ。仕上がりはどうだ」
「お調べ致します。……初等課程はおおむね修了しているようです。評定は……素晴らしい!朝日様は7割がS、その他がA。遊星様に至ってはオールSでございます」
記憶がほぼ無いとはいえ前世持ちだぞ。舐めないでいただきたい。
「ハッ、雌犬の子とはいえ、大蔵の血を分けた男だ。それくらいでなければ困る。出荷はいつだ」
「中等課程の修了次第ですので、早くて2、3年後かと」
「では、時が来たら
「はっ。ですが社長、あの方らは――」
「問題ない。父上は最早俺には逆らえず、母上もあの落ちぶれようだ。」
「承知致しました。……社長は、あの方らをそれまでに買っておられるのですか」
「フン、どうかな。だがあれらには、俺と同じ
ようやくこちらに意識を戻す。俺と朝日は何も言えない。俺は何を言えばいいのか特に思いつかなかったし、朝日はそれどころではなかった。それを見た衣遠兄様は不機嫌そうに鼻を鳴らし、屋根裏部屋を出ていこうとする。
「おまえたちの才能には期待して――――ん……。なんだこれは」
衣遠兄様が不意に言葉を止め、踏んだらしい紙を拾いあげる。
って、あれは俺がデザインの練習をしていた紙だ!しかもよりにもよって、オリジナルで考えていたやつだ……!
「…………これは」
衣遠兄様は紙を見つめたまま動かない。まずいなぁ。ただでさえ俺の立場は危ういのに、才能がないと言われてしまえば、いよいよ原作がどうとかの話ではない。
「……これを描いたのはどちらだ」
振り返らず、そのまま衣遠兄様が問うてきた。
「…お、私です」
誤魔化すわけにもいかず、正直に答える。
「描いたのは一枚だけか?」
「いえ、服をそのまま模写した物と、自分で考えた服を描いた物がいくつかあります」
「全て見せろ」
「……はい?」
思わず聞き返してしまう。
「聞こえなかったのか。全て見せろと言っている」
言われるがまま、机の引き出しにしまっておいた紙をいくつか出し、そのまま渡す。衣遠兄様はそれを、ペラペラとめくりながら見ていく。俺は手持ち無沙汰になり、仕方ないので未だに顔色が悪い朝日の背中を優しくさすって待つ。
しばらくすると、見終えたのか衣遠兄様がこちらに顔を向ける。
「……これはもらっていくぞ」
いうが早いか、そのまま秘書を連れて出て行ってしまった。その後ろ姿を俺は、朝日の背中をさすりながら呆然として見送った。なんだったんだ……。
――――――――――――――――――――――――
「ただいま」
その夜、母さんはいつもより帰りが遅かった。
「おかえりなさい、母さん」
出迎えた瞬間、母さんの様子がいつもと違うことに気づいた。おそらく昼間の件でひと悶着あったのだろう。朝日も気づいたのか、顔を俯かせていた。
「遊星、朝日……。」
見上げた母さんの顔は思いつめたように青く、目は赤くなっていた。
「どうして……。」
「ねえ、どうしてなの?お母さん、この部屋から出ないでって言ったでしょう?」
母さんは俺たちに目線を合わせるためか、かがみながら言った。
「…………。」
俺も朝日も、何も言えずただ黙るしかなかった。
「なんで…約束を破ったの……。こんなに異常な境遇で、あなたたち二人だけじゃ生きていけないでしょうに……」
先に沈黙を破ったのは、朝日だった。
「お母さま、ごめんなさい……。すみません、申し訳ございません……。」
涙を流しながら朝日は謝っていた。
「遅いのよ!謝ってももう遅いの!なんであなたたちまで私を悲しませるの、なんで大事な約束を――」
「女の子が泣いてたんだよ」
母さんの言葉をさえぎって俺は言った。
「……………………え?」
朝日が言葉を続ける。
「女の子がいじめられてて、泣いてて……。それを見て、私、助けなきゃって思っちゃって……。ごめんなさい……。遊星も私が誘ったようなもので……」
「いや、俺は自分で考えてそうしたんだよ。朝日だけのせいじゃない」
「ううん、私が、誰かの為になる子だからって。そういう立派な大人になる子だって、お母さまがそう願って産んでくれたからって、そんな勝手な考えに遊星を巻き込んじゃって――」
「気が付いたら、約束、破ってしまいました……。お母さま、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
二人で母さんにそう謝った。
「朝日、遊星……。」
「そうなの……うん、そうだったのね……。」
母さんの声は、いつもの優しい声に戻っていた。
「ええ、ほんとに、あなたたちそれは――――」
笑顔も戻っていた。
「――それはとても、良いことをしたわね」
「…ごめんなさい」
朝日の涙は一層溢れて、止まりそうにはなかった。
「いいの、謝らないで。お母さんこそごめんなさい。あなたたちは間違ってないわ、とっても正しいことをしたのよ。胸を張っていいわ」
「良かった。お母さん、安心したわ。あなたたちはもう十分、誰かの為になれる強い子だわ」
そう言って、母さんは俺たちを力一杯抱きしめてくれた。
原作で『遊星』が言うとおり、泣きたくなるぐらい、温かくて、柔らかかった。
あの日に約束を破り、りそなと出会ったことで本妻の不興を買ったらしい俺たちは原作通り、フランスのボーヌへ特別使用人としての異動が命じられた。
俺としては、朝日と別れることなく一緒の異動で内心安堵していた。朝日は最初のうちは泣いてばかりいたが、母さんとまた会おうねと約束したこと、そして俺も一緒に行くということで、今は落ち着いていた。未来を知っている俺は、胸が締め付けられるような思いでその約束を見ていた。
そしてボーヌに出発する日が来た。後はボーヌでの日々を何とか耐えれば、原作が本格的に始まるときはもう目前。あちらで働いている間に、対策を立てなければ。
そんなことを考えていると、後ろから声がかけられた。
「遊星様、出発の準備が出来ました。朝日様はもう出発されましたので、遊星様もどうぞ」
「わざわざありがとうございます」
朝日と二人で母さんに別れの挨拶を済ませた後、俺だけ最後の仕事をしていたため、朝日には先に行ってもらっていた。空港で合流する手筈だ。
そのまま案内された俺は車に乗り込み、生まれ育った屋敷を後にした。
――――何かおかしい。この車は空港に向かっているはずだが、予定の空港とは逆の方向に向かっているのに途中で気付いた。運転手にその旨を聞いても返事を返してはくれなかった。だんだんと不安が増していく中、ついに車は停止した。
誘導されるがまま、車を降りて運転手についていくと、そこにいたのは。
「――――随分と久しいな、
――予想だにしていなかった、衣遠兄様だった。
衣遠兄様とどう和解させるかを考えに考えぬいた結果、こういう形にしました。最初は朝日をフランスにおくらず、早めに血のつながりの問題も一気に解消しようかと思いましたが、難しかったため断念。そのため、詳しくは次回また話しますが、朝日だけフランスにいってもらいました。朝日ちゃん愛されのはずなのにという意見もありますでしょうが、もすこしだけ勘弁してください……。フィリア女学院入学4年前にはかならず仲のいい大蔵兄妹たちをみせますので……どうか長い目で見守りください。
ちなみに私事ですが、初めて感想をもらいました。とっても嬉しかったです。
感想、指摘、評価など、いつでもお待ちしております!
どうしようか悩んでるんですけど、遊星(オリ主)にヒロインは必要?(誰がとかはおいといて)
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ほしい
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いらない