陰キャコミュ症よわよわトレーナーにメジロマックイーンが惚れるまでのお話 作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り
ギャップのあるキャラが書きたくて書いたお話ですわぁ〜
ふぅン……マックイーンさんの一人称視点だねぇ
「名門メジロ家の至宝——噂ほどじゃなかったな」
「はあ、騒ぎ立ててたのがバカみたいだったわ」
振るわない結果に、観戦していた周囲の方々からあからさまな溜息。
これが私だけならば構いませんでした。
ですが、失望されたのは私自身だけではありません。私に期待なさっているメジロ家全体が貶められたのです。
そのことが私は許せません。
「はあっはあっ……っ、不甲斐ないっ……!」
悔しい、という思いよりもこのような結果を出してしまった自分に対して強く怒りが湧いてきます。
コーナーを曲がる際は重心をもっと柵に寄せられた。
自身を律し、もっとトレーニングに打ち込めるほどの余裕がまだあった。
ああすれば、こうすればもっと上手く駆けられたはず。
……所詮、これは言い訳に過ぎません。
世の評価は結果がすべて。
幼少期から常に求められていたことです。
結果でしか見られないし、それ以外は求められていない。
結果を出せなかった私は、メジロの至宝には足り得ない。
「……ならば、成るように努力するのみ」
そうと決まれば乱れた息を整え、私は努めて観客席に微笑みかけます。
メジロ家のウマ娘たる者として。優雅に、お淑やかに。
「本日、レースをご覧くださり感謝申し上げます。どなたかスカウトなさりたいという方はいらっしゃいますか?」
こちらに向く冷たい視線と静寂。
早くこの場から去れ、そう目は語っている。
これでは、スカウトどころの話ではないでしょう。
「では、私はこの後もトレーニングが控えておりますので、先に失礼致しますわ」
ふわり、と一礼。
足早に芝コースから離れかけ——
けれど途中で足を止めて、一着にならなかったゴール板を一瞥をくれてから再び歩きだす。
「次こそは必ず一着になり、この汚名をそそいでみせます」
今にも張り裂けそうな胸に、そう誓いました。
——夕暮れ時。
すっかり赤く染まった空の下、あのあと私は学園で指定されている桜並木のランニングコースを駆けようとして——突然、体に力が入らなくなりました。
「うぅ……なぜ……」
体力の消耗が激しく、立っているのがやっと。
くわえて、頭にはズキズキと鈍い痛み。
とても、これ以上のトレーニングは出来そうにありません。
(日々の体調管理やトレーニングで消費する分のカロリー計算は完璧のはずです、なのにどうして体が言うことを聞かないのですか……これからですのに……)
一刻でも早く私はメジロ家に相応しいウマ娘にならなくてはいけない。
それが私が課せられた使命。
こんなところで立ち止まっていいはずがありませんの。
ですが……。
「体が動かないのも事実ですから、一旦休憩にしましょう……」
この近くではいつでも休めるように道沿いにはベンチが設けられています。
まだまだ走りたい気持ちもあり不本意ですが、ひとまず体力が戻るまで座っていましょう。
そう思い、手頃なベンチを見つけ、近づいて——それでようやく先客がいらっしゃることに気づきました。
「ま……ぜ……まずい……はや……やらなきゃ」
そこに居たのは、ベンチに座ってブツブツと呟いている男性。
手が届く距離に近づいてようやく気づくほど、影の薄くどこか不気味な方でした。
胸元を見ても、ひどく猫背でトレーナーバッヂらしきものは見えません。
(一応、このコースは学園が管轄している場所で一般の方は侵入禁止のはずなのですが……となると、ウマ娘を狙った不審者……?)
もしそうであれば、このまま関わらずに早めに学園に戻って、たづなさんにお知らせしましょう。
このコースは他の方々も利用する場所。もし目の前の男性が走るウマ娘と接触事故を起こせば、男性はもちろんウマ娘まで大怪我を負ってしまいますもの。
そこまで考えた私はなるべく音を立てずに、ゆっくりとこの場を離れようとして——
「あ、ウマ娘……」
「っ……!」
き、気づかれてしまいましたわ……!?
男性はもはや完全に私の方を見つめており、その瞳は濁りきっております。
何かを、やらかしそうな雰囲気をビンビンに感じますの!
というよりも、既にベンチから立ち上がって私の方に近づいてきていますわ!
「ふへへ、ウマ娘だぁ。これでやっと……デュフフ」
「ひぃっ……!」
ニチャアと歪められた笑顔はウマ娘の本能にまで訴えかけてくるほどの嫌悪感。
まるで背中に大量の蟲が這い回るかのような悪寒が走ります。
ですから、その手が肩に触れた瞬間、手を出してしまったのは仕方なかったのです。
「きゃあああああぁぁぁっ!!」
「ぐぼべぇばぁ……!」
みごと私の振り抜いた手の平が男性の頬にクリーンヒットし、彼は綺麗に放物線を描いて吹き飛んでいきました。
「はっ……私としたことが、一般の方に手を挙げてしまいましたわ……!」
ウマ娘の膂力はゾウ並み。それがヒト程度のサイズに凝縮されているのですから相当です。
ゴールドシップさんのお話によると、ウマ娘がヒトを投げ飛ばすと軽く200メートルは飛距離を出すそうです。ちなみに、投げられたのは彼女のトレーナーさんでしたわ。
……それはさておき、当然、ウマ娘の力をヒトに向けることは禁じられておりますし、正当防衛だとしてもこれは明らかに過剰。
ま、まさか、お亡くなりになっていませんわよね……?
吹き飛んでいった男性を追いかけると、少しした先に気絶して地面に倒れておりました。
その胸はいまだ上下に動いているので、生きてはおられるのでしょう。
「良かったですわ……」
それを確認して、私はホッと胸を撫で下ろします。
それにしても頑丈なヒト……。
かなり強く頬を張ったつもりでしたが、特に目立った怪我もなく気絶するだけで済んでいる時点で、その耐久力は相当なもの。
何か特別に鍛えていらっしゃるのでしょうか。
「こちらにも非はありますし、介抱いたしましょう」
そうして倒れた男性を引っ張り、ベンチの上に寝かせます。
私はその隣に座り、目が覚めるまで待ち続けました。
また何か変なことをしでかすおつもりなら、今度は程よく手加減した手を振るえばいいだけ……って、物騒ですわ。やはり逃げるだけにしておきましょう。
♦︎
すっかり暗くなり、空に星が見えるようになった頃。
ようやく例の男性が目を覚ましました。
「はっ……!? わたしはどこ!? ここは誰!?」
「逆ですわよ」
「って、誰ぇ!? ひぃぃぃっ……!」
起きて早々、取り乱す彼。
おそらく、強く叩きすぎてしまったせいでここ最近の記憶が無くなってしまっているのでしょう。
「申し訳ありません、私が貴方を叩いてしまったせいで……」
「ひゃ、ひゃいっ!? あっ、いえ! その、こちらこそっ、また僕が何かやったんですよね、ごめんなさいごめんなさいぃ……!」
先程とは打って変わって男性は大人しく、むしろ自分が悪いのだと謝罪し、怯えてしまっています。
ここまで怖がられると、少しだけショックですが……。
でも良かった、記憶喪失にはなっていないようで。
もし、なっていればメジロ家に連れ帰り特殊な施術をしなければならないところでした。
「落ち着いてくださいまし。何も責めようという訳ではありませんの」
「ふぇ? そーなの?」
「はい、メジロに誓って。貴方は私の肩に少し触れただけですわ」
「それもダメなような……でも、それ以上に何かやってなくて良かったぁ……あ、いきなり肩を触ったりして本当にすみませんでした」
再度、頭を下げてくる彼。
驚いたり、怖がったり、安心したり、非常に感情豊かな男性です。私にはとても悪いヒトには見えません。
取り乱していたのには、おそらく何か事情でもあったのでしょう。
「なぜ、ここのベンチに座って思い詰めていたのですか? 何か悩みでも?」
私がそう問うと一瞬、迷ったようなそぶりを見せたものの、なんとかといった様子で彼は話してくれました。
「実はカクカクで……」
「なるほど、シカジカという訳ですか」
話を聞くと、どうやら彼はトレーナーさんだったようで。
トレーナーバッヂが胸元になかったのは、防犯の目的で盗まれないように外では着けず、大事にケースにしまってあるのだとか。
くわえてトレーナーさんは、この時期にもかかわらず担当ウマ娘が決まっていない……どころか下積みのサブトレーナーから本格的にトレーナーになって3年が経っても担当ウマ娘を1人も持ったことがなく、完全にトレセン学園では雑務係と化しているらしく。
その現状にだいぶ焦っていたそうです。
「でしたら、選抜レースに赴かれてみては? 1着のウマ娘の担当なんて高望みはせずに、レースに出走した18人の内どなたかをスカウトなされば、担当ウマ娘を持てるはずですわよ」
「あ、いや、高望みしてるわけじゃないんだけども……その、何というか……」
「もうっ、ハッキリ言ってくださいまし」
なかなか煮え切らないトレーナーさんがじれったく、我慢できずに私は急かします。
するとトレーナーさんは言葉を詰まらせながら、
「あひゅぅ、そ、その、いざウマ娘さんにスカウトしようと思うと、き、緊張して、声がどうしても詰まっちゃって……!」
いい歳こいた成人男性が恥ずかしそうに頬を赤らめ、告げた内容は酷くウブな回答でした。
貴方は好きな子を意識してしまう男子中学生ですか。
「で、でも! 妙案が思いついて……! ウマ娘が走るコースで待ってたら、ワンチャン向こうから話しかけてきてくれるかなぁ……なんて」
「はぁ……それで、ベンチで待ち構えていたと。この時期にちょうど担当トレーナーも決まっておらず、めげずにこのコースを頑張って走っていて、トレーナーバッヂも着けていない貴方にわざわざ話しかけるウマ娘。ずいぶんと都合の良いお話ですわねー。
どうかこれからも頑張ってくださいまし、それでは私はこれで」
「やめてぇ、そんな救いようのない人を見る目で僕を見ながら足早に去ろうとしないでぇ……! 自分でもダメだってことぐらいわかってるからぁ!」
呆れて足早に去ろうとすると、トレーナーさんが地面を這いずりながら足首を掴んでなんとか行かせまいとします。
ヒトがウマ娘の膂力に勝てるとでも?
このまま引きずってでも面倒なトレーナーさんから離れてみせますわ。
「お願いだから、逃げようとしないでよぉ……! 僕は単純にトレーナーとして、君の今している『減量』について話がしたいだけなのぉ……!」
その言葉を聞いて、私はピタリと足を止めました。
「なぜ、トレーナーさんがそれを? 私はまだ何も言っていないはずですが……」
「げほっげほっ、ようやく止まってくれたぁ……あ、うん、君の動きを見れば、わ、わかるよ。その……上手く隠してるけど、動きは鈍いし……年の割には体も細いから栄養不足だろうなって。この短期間のうちに激しい『減量』をしてるんでしょ……?」
っ……! 当たっています。
最近起きている症状から、減量していることも全て。
一目見ただけで、そこまで……。
おそらく、彼は私が欲しているものを既に持っているのでしょう。ならば、私は問わなければなりません。
「どうすれば……この名に恥じない走りができるのでしょうか。絶対に、私は栄誉をメジロ家に捧げたいのです」
しかし、トレーナーさんはの答えは首を横に振ることでした。
「……ごめん、絶対は無理だけどでも一人だけじゃくて、きっと二人でならその可能性も広げられる……と思う」
絶対ではない。
代わりに、最善を尽くすと。
気軽に約束をする方よりも遥かに信用ができる言葉でした。
他のトレーナーとは異なる、真摯な決意をその瞳に宿らせて。
——この瞬間から、私は自然とトレーナーさんに惹かれていたのだと思います。
ウマ娘とトレーナーの出会いは引力。
きっとそれは運命。
すべて最初から決められたものであると、言い伝えられておりますもの。
その日、私の担当トレーナーが決まったのです。
出来上がり次第、ちょいちょい投稿しますわ
激アツ展開にゆっくりしますわ
お楽しみですわ