それから、なんやかんやあった。
私は誰かに操られてモモちゃんと戦闘になり、死んじゃったり(モモちゃんが死ななくて良かった!)。
生き返らせてもらって、今は自室にて療養中。
万が一、また襲われてはいけないため、神器級の装備を身につけている。それは白銀の法衣だった。
……超貴重なアイテムの一回分を使って蘇生してくれたから、レベルは百のままだしステータスもそのままなんだよね。
アンデッドだから疲れもない。だから、療養はあまり意味はなくて……。
「は、働きたい……!リアルでは嫌だったけれど、今は働きたい。何もしていないのは嫌だよう」
私は自室のベッドの上で、頭を抱えていた。
療養といっても、本当に何もする事がない。部屋にある本は読んでしまったし、寝室から出ようとするとやんわりと「出てはいけません」って言われるし……うう、辛いよう。
「でもなあ……皆、私のせいでもっと辛い思いさせちゃったしなあ。我慢しなきゃなあ」
でもでも、このままも良くないし……皆に迷惑をかけずお仕事できないかなあ?
そんな時にモモちゃんから<伝言>が届いた。
「はい、ハイラントだよ」
『モモンガだ。姉さん、今話せるか?』
「大丈夫だよ」
『良かった。……そろそろ暇なんじゃないかと思ってな。アルベドに仕事を持たせた。そろそろ届くはずだから、それをしてくれ』
「あ、ありがとう!モモちゃんの期待に応えられるよう頑張るね!!」
『はいはい。程々にな。それじゃ姉さん。また』
「またね!お仕事頑張ってね!」
モモちゃんとの繋がりが消える。
私はアルベドが部屋に来る瞬間を、今かと待つ。
アルベドが持ってきてくれた仕事は、アイテムを私の鑑定眼で確認するというものだった。確認した――鑑定眼で見た――効果を、紙に書き出していくのだ。
私にもできる仕事だ!嬉しい!
「ハイラント様には簡単すぎる仕事とは思いますが……」
「ううん!モモちゃんが考えてくれた仕事だもん。嬉しいよ!頑張るね!」
そう言うとアルベドはほっこりと笑うのだ。
アルベドは他に仕事があるので、部屋から出て行った。
お茶でも出せば良かったかなあ、と思いつつ与えられた仕事を始める。
護衛のハンゾウ二体に手伝ってもらいつつ、約五十個のアイテムを鑑定眼でみる。私の鑑定眼でわかるのは、アイテム効果までだ。鑑定眼のレベルが高いと、アイテムに使われた素材までわかるみたい。アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは素材までわかった人がいるみたいだよ、凄いね!
――この時、私ははしゃいでいた。
モモちゃんから仕事を任された事が嬉しかった。
モモちゃんの役に立てると思った。
だから、流れ星の指輪を鑑定眼で見た後に遊んだのだ。絶対叶うはずのない願いを、自分の流れ星の指輪に願った。
「ダイ大の世界に行きたい!」
おふざけで終わるはずだった。
――視界が切り替わる。
――――――
「え?」
とすん。
ソファに座っていたはずなのに、尻もちをついてしまった。
目の前の景色というか、周りの景色が変わっている。
熱帯のジャングルを思わせる周りは、ナザリックの自室とはかけ離れた景色で。
嫌でも自分が転移してしまった事を、理解せずにはいられなかった。
「あ〜やっちゃった」
早く戻ろう。願いをもう一つ使うことになるけれど、モモちゃんなら笑って許してくれるだろう。
指輪の力を発動させようとして……できなかった。
風に乗って、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたから。
「一体どこから?……まさか捨てられてる!?」
ここがどこかわからないけれど、文明など微塵も感じない場所で、人が住んでいるとは思えなかった。
私は急いで立ち上がり、声がする方へ走った。
五分ほどで、建物を見つけた。
それは人が住む家というより、なんというか、ユグドラシルでいうと魔物の住処のようだ。けれど、その家からは清潔感が漂っている。家の周りが綺麗に片付いているからかな?
――人がいる?でも赤ちゃんの泣き声はまだ聞こえた。
私は外から声をかけた。
「もし!もし!どなたかいらっしゃいませんか?何か、困っていませんか?」
数十秒たって家から現れたのは、背が低くシワが多いな魔物だった。その短い両腕の中に黒髪の赤ちゃんがいる。
赤ちゃんは緩くじたばたと暴れて泣いている。首が座っていて幼児ぐらいの大きさだから、もう赤ちゃんとは言えないのかな?
「……あなたは一体?何者ですか?どこから来なすった?」
「私はギルド、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーのハイラントと申します。えーと、ここへ転移したら赤ちゃんの泣き声が聞こえてきまして……何か困っているのかなって」
「ギルド、アインズ・ウール・ゴウン……聞いた事がありませんな。すみません。……実は、赤子が数日前から熱を出しておりまして、泣き止まんのです。どうにかしてやりたいのですが、島には医者がおりませんでな……助けてやれん事が申し訳なくて……」
魔物の目から涙がこぼれ落ちる。
私は昔の事を思い出した。
モモちゃんが幼い頃、酷い熱を出した時。
私はモモちゃんを抱きしめて必死にお願いした。
――モモちゃんを助けてください。死なせないでください。連れていかないでください。
あの時の、締め付けられるような気持ちが蘇って。
私は指輪に願った。躊躇いはなかった。
「――指輪よ。お願い。赤ちゃんから病気を遠ざけて……!」
カッと指輪が光り、瞬く間におさまる。
赤ちゃんを見れば、もう暴れていなかった。黒い目を開けて、私と魔物を交互に見ている。
「これは……一体?ダイ、ダイや……平気なのか?」
「じーちゃん!」
「おお……!奇跡じゃ!あなたのおかげか、ハイラント様?ありがとう!ありがとうございます!」
「たまたまです。たまたま、私にどうにかできる力があったから、その使っただけですよ」
「なんと慈悲深い……それに病気を治すその力……あなた様は賢者ですかのう?」
「えーと、私は……その、向こうじゃ救世主の職についていました」
「きゅ、救世主……ははあ、凄いですな」
「そう、ですね。頑張りました」
「そちらでは、魔物が救世主になれるのですね。素晴らしい事です」
「ちょっと失礼」
私は後ろを向いて、アイテムボックスから手鏡を取り出した。自分の白いドクロの顔を見る。
――そうだった。今の私はアンデッドだった!
よく怖がられなかったね。拒絶されても仕方ないよ!?
「あの、どうかしましたかのう?」
「いえちょっと、顔が気になったものですから……ほほほ」
「?」
「ところで、その子……ダイくんでしょうか?休ませてあげた方がいいかと。病み上がりですから」
「おお、そうですな。ダイや、少し寝ようか」
「うん!じーちゃんと寝る」
「おお、おお!そうしよう」
二人の笑顔に、私はもうない頬を緩ませた。
願いを使っちゃったけれど、助けられて良かった。ダイくん、元気になってくれて嬉しい。
……あれ?ダイくん?
ここはダイの大冒険の世界。魔物に育てられた子供。名前はダイ。黒目黒髪。ここは島らしい。
つまり、目の前にいる子はダイ大の主人公の……。
「……ダイくん!?」
「おお!?どうしましたかな?」
「あっ、すみません。私の知っている勇者と同じ名前だったので、驚いてしまって」
「そうでしたか。この子の名前が勇者様と……はて、近頃現れたという勇者の名前はたしかアバンだったはずですが?」
「あ、えーと、昔の勇者の名前です。ずっと、昔の」
なんとか誤魔化す。
……もしも目の前の子が本当にダイくんなら、私が助けた事でバタフライ・エフェクトが起きたりしない?大丈夫??地上、ちゃんと助かる??
うーん、怖いなあ。確かめたい。
流れ星の指輪を見る。
――少しくらい、帰るの遅くなってもいいかなあ?
――――――
ナザリック地下大墳墓。
第九階層、アインズの自室。
ハンゾウから直接、事件を聞いたアインズは叫んだ。
「ね、姉さんのバカーーー!!!」
その叫びは姉に届かない。