ダイの年齢が十歳をこえた頃。
私はまだ、デルムリン島にいた。
おかしいな。ちょっとだけ様子を見守るつもりが、十年もたっちゃった。
帰った時、モモちゃんになんて言い訳しよう。ううん。言い訳しないで素直に謝った方がいいかも。
爽やかな昼下がり、島の海岸にて。
憂鬱な気持ちでダイと魚を釣る。
ダイは私の様子に気がついて、どうしたのと聞いてきた。
「未来の事を考えると憂鬱になっただけだよ」
「お母さんほど強くても、憂鬱になる事があるんだね」
「そりゃあね。生きている以上、そんな気持ちになる日もあるわ」
「そっかあ」
あ、魚かかった!
ダイ、網ちょうだい!!
――――――
ある日。
短針が朝九時を差す頃、ダイが集合の合図をだした。
何かしらね。滅多な事じゃ聞かない合図だから、ちょっと心臓に悪いわ。心臓、ないけど。
私は洗濯物を置いて<飛行>の魔法を発動し、音がした方向へ飛んだ。
上空から、様子を見守る。
魔物が皆集まっている。中央には、ダイと外からやって来ただろう人間が数人いる。
ダイ入れ替わりでブラスさんが来て……そして人間たちが島の皆を襲う。
魔法で広範囲を攻撃し、剣で魔物の身体を斬った。どれも浅い傷だけど、私を怒らせるには充分だった。
島の皆を巻き込まないように位置を微調整して、杖に魔力を込める。そして道具として使った。
――<火の雨>。
火の矢が雨のように、敵四人を襲う。
「あちち!」
「なによこれえ!!」
「上じゃ!誰か飛んどるぞ!」
「降りてこい!ぶっ飛ばしてやる!」
誰が襲撃者と正々堂々と戦うものか。
私は襲撃者にもう一度攻撃をした。
「ち、ちくしょう!こんなの聞いてないぞ!引き上げる!」
四人は浜辺から小舟に乗り、沖に止まっている大きな船に向かった。
私は地上に降り立ち、全体回復魔法のベホマラーを唱えた。島の皆の傷が、みるみる治っていく。
良かった、ブラスさんも無事だ。ダイが傍にいる。
「お母さん!」
「もう大丈夫よ。あの四人組は一体?」
「俺が、案内しちゃったんだ……。勇者様だと思って、魔物を保護してまわってるって嘘つかれて……信じちゃった。それでゴメちゃんに会いたいって言うから……」
「ゴメちゃんを連れてきた。でも、ゴメちゃんは無事ね……うん。ダイとゴメちゃんがケガしなくて良かった」
「お母さん!でも、皆が……」
「無事な味方は一人でも多い方がいい。だって今から、敵陣に乗り込むんだから!」
――――――
ロモス王城。中庭。
勇者でろりん一行は、ボロボロの姿で帰ってきた。
なんでも恐ろしい魔物が島にいたらしい。それを聞いたロモスの王様は、すぐに討伐隊を派遣する事を決定した。
「勇者でろりんよ!再びかの島へ赴き、先陣をきるのだ!」
「えっ!?あ……は、ははあ!」
でろりんは嫌だったが、ここで逃げたら今まで上げてきた評判が落ちてしまう。報酬も貰えないだろう。出るしかなかった。
――――――
「ちょうど皆集まっているね」
「どうするの、お母さん」
「どーん!と登場して、ババン!と力を見せつけるのよ」
「え、話し合いしないの?」
「ぴー!?」
「するよ。それは、びっくりさせた後でね。まあ、見てて」
ハイラントとダイとゴメちゃんは王城の遥か上空にいた。
ハイラントの装備は島で着替えて、神器級より見目が派手な祭服と飾りを選んだ。見た目はばっちり神の使徒だ。杖も神々しい物を選んでいる。
ただ、ちょっと不審者スタイルではある。フードを目深く被り、仮面をつけ、篭手をつけて……自分がスケルトンだとバレないよう、気をつけていた。
天使を従える術者がスケルトンとか、怖いからね。怖がらせる気はないの。
私はスキルで天使の軍団を召喚した。
そして、天使たちと共に地上へ降りる。
「――ちょっと待ったー!」
城の中庭にいる人々の目が、空に向く。そして私たちを視界に入れると、瞳が大きく開かれた。
「なんだ!?あれは!」
「人だ!」
「だが……後ろにいるのは天使様!?」
人々のざわめきの中心に降り立つ。私たちの先には襲撃者たちがいて、その先に王様がいた。
でろりんたちは構え、兵士たちは王様を守るように立つ。
私は杖の魔法を発動して、声が皆に届くようにする。
「私の名前はハイラント!今日、あなたたちが襲った島に住む者です!こっちは息子のダイ!そして、このスライムはゴールデンメタルスライムのゴメちゃん!後ろにいるのは、私の使い魔たちです!」
「こんにちは!」
「ぴぴい!」
子供たちが元気よく挨拶する。ちょっと笑いかけちゃった。気を引き締めないと!
私たちを見た襲撃者の中でも勇者風の男が、ダイを睨む。
「あのガキ……!」
「何じゃと?」
「いえ、なんでも……」
王様に問われて引き下がったが、そのやり取りだけでも、あの勇者風の男が良い奴とは思えなかった。
息を吸って再び声を出した。
「王様に問う!何故、平和に暮らす事を望んでいる魔物たちを襲ったのか!答えていただきたい!」
「何じゃと……?あの島は凶暴な魔物たちが住む島ではなかったのか?」
「違う!皆、人間を襲う事なんて望んでいない。それは、そこの四人組も知っている!」
「本当か、でろりん!」
「し、知りません!あれは奴の嘘です!」
「証拠がある!空をご覧下さい!」
私はカバンから手鏡を取り出した。杖は背中にしまい、今度は手鏡に魔力を込める。手鏡を空に向けた。
空に映像が映し出される。
人々が再びざわめく。
――それは、ハイラントが見たものだった。
ダイと一緒にいる襲撃者の四人組。魔物に囲まれても襲われていない。ダイがいなくなった後、攻撃を始める襲撃者たち。
そこで映像を止める。
今度は杖を使わず、声を張り上げた。
「ご覧の通り、魔物たちは彼らを襲いませんでした!襲ったのは、そこにいる四人組です!」
城にいる皆がでろりんたちを向く。
彼らは身を寄せあった。
王様は玉座から立ち上がり、勇者風の男を指さした。
「これは、どういう事じゃ……!でろりん、説明せよ!!」
「あ、あの……その、これは、その……」
「でろりん!!」
「ご、ごめんなさいー!!!」
でろりんと呼ばれた男の叫びがこだました。
――――――
「此度は、あいすまんかった。許してほしい」
でろりん一行は牢屋に入れられた。
その後、すぐに王様は私たちに謝ってくださった。玉座から離れて、私たちのすぐ傍まで歩いてきて、頭を下げてくれたのだ。
今度は私が頭を下げた。
「王様、謝罪は私にではなくこの子たちにお願いします。ゴメちゃんはダイの友達なので……」
「そうじゃったか……。すまんのう、ダイくん。それにゴメちゃんや。危うく友人同士を引き裂くところじゃった……。この通りじゃ」
「えと、あの、もう大丈夫、です!謝ってもらったし、ゴメちゃんは無事だし。悪い奴は捕まったし!」
「それなんじゃがな……でろりんたちはしばらくしたら、牢から出そうと思っておる」
「な、なんでですか!?」
「各地で、人々を助けたから……ですか?」
「そうじゃ。その功績が消えることはない。もちろん。悪行も消えはしない。彼らはロモスにてきっちり改心させるからの」
「よろしくお願いします」
「よろしく、お願いします」
「ぴぴいー」
二人と一匹で頭を下げる。
うんうん、と王様は頷かれた。
「ところで……」
「はい、何でしょうか」
「あなたは、いや、あなた様は一体何者かのう?神の使いか?」
「……この子の母です」
「むう」
王様は納得いかないようだったけれど、ダイが嬉しそうに笑う姿を見て頬を緩ませるのだった。
……映像を信じてもらえなかったら、神の使いの言う事が聞けんのかー!って言うつもりだったよ……。