ごてん・ざ・ろっく! 作:Miurand
原作読み直したら、やっぱりマンションとは違う一軒家っぽい家が何度も出てきているので、幼少期は一軒家に住んでいたことはほぼ確定っぽいですね。私もここまで細かく漫画やアニメを見れるようになりたいと思いました。見返すと見落としていたネタがたくさんありますね。ますますぼざろにハマりました。
ちなみにタイトルは敢えて平仮名にしているだけで、特に深い意味はないです。はい。
「お帰り虹夏。大丈夫か?」
「うん!急に飛び出しちゃってごめんね、お姉ちゃん」
なんとか悟天とのすれ違いを解消することができた虹夏は、とても幸せそうな顔をしていた。いつも万人に振り撒くような笑顔ではなく、心の底から幸せそうな笑顔だった。姉の星歌はその顔に尊ささえ感じでしまった。
「それでね、さっきの話なんだけど……」
「ああ、悟天を働かせろって?別にいいぞ。今は人手不足だからな」
「えっ?いいんですか?面接もしてないのに………」
「ああ。お前のことは虹夏がよく知ってるだろうから、面接する必要もないだろう」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「あとバイト中は店長と呼ぶように」
「お姉ちゃんのいけず」
虹夏は若干不貞腐れながらも、すぐに仕事の持ち場に戻った。その足取りは普段よりも軽いのが見てとれた。
「あー、そうだ悟天。働かせてやるのは構わないし、面接も免除してやる代わりに1つ条件がある」
「はい、なんでしょう?」
悟天は『もしかして面接しない代わりに減給…?』なんてアホなことを考えていたが、姉としてはもっと重要なことだった。
「次に虹夏を泣かせた場合はお前をころ…………。いや、言わなくても分かるよな?」
「は、はーい…(今殺すって言いかけなかった?)」
ちなみにこれは星歌の優しさが現れたということではなく、虹夏にジト目で見られたために表現を緩くしたに過ぎないのだ。まあどう言おうが制裁の中身は変わらないのでどちらにしろという感じである。
「じゃ、仕事に関しては虹夏に教えてもらえ。というか、今日からシフトに入ってもらっても大丈夫か?」
「あ〜。ちょっとそれは親に許可を取らないと分からないですね……。うちは門限があるので…………」
そう言うと、悟天は早速携帯を取り出してチチに連絡をする。どうやらメールではなく電話をするそうなので、今なら練習スペースが空いてるということで、星歌はそっちに案内した。
「虹夏さんに幼馴染君なんていたんですね〜」
「私が家を空けることが多かった時期に知り合ったんだと」
「あの様子じゃ、店長は先を越されそうですね?」
「それはお前もだろ、PA」
「でも妹や弟に先を越されるのはなんか思うところがありません?」
「それ以上なんか言ったらクビな」
「はーい………」
PAの言葉が図星だったのか、はたまた仕事中だったからなのかどうかは定かではないが、星歌は無理矢理その話題を中断させた。
「店長!大丈夫っぽいです!」
「そうか。じゃあ早速だが今日からよろしく」
まだライブが始まる前の時間だったので、比較的忙しくなかった。忙しくなる前にと、虹夏は悟天に当日からでもすぐにできるような業務を中心に教えていた。しばらく悟天に教えていると、まだチケットの販売時間でもないのだがドアが開いた。
「あっ、リョウ!今日は早かったね!」
「…………虹夏、その男誰?」
リョウと呼ばれた中性的な人物は、突然現れた悟天を不思議そうに見つめながら言った。
「ああ。リョウは初めて会うんだっけ。この人は孫悟天君!今日からここで働くことになったんだ!」
「よろしくお願いしまーす!」
「ああ、虹夏が言ってた運命の人か」
「…………えっ?」
この時、悟天の脳はフル回転し始めていた。
「(どういうこと?運命の人って……。虹夏ちゃんってまさか僕をそういう目で見てたの……?こ、困ったなぁ。僕はそんなつもりじゃなかったのに)」
虹夏と初対面だと思っていた時の自分のことはすっかり棚に上げてそんなことを考えていた。
「そ、そんなこと一言も言ってないし!!」
虹夏は若干顔を赤くしながらも全力で否定していた。
「全く……。この子は山田リョウ!私の幼馴染なんだ。こんな感じで何も考えずに適当なことを言うからあまり気にしないでね?」
「随分辛辣だね?」
「あと変人って言うと喜ぶよ」
「何言ってるの虹夏。そんなこと言って喜ぶ人なんているわけが……」
「へへっ。嬉しくないし」
言葉で否定しつつも、リョウは何かと嬉しそうな反応をしていた。その様子に悟天は『なんだこの人面白いなぁ』と思った。悟天もまたちょっとズレた男子高校生なのだ。
「で、悟天だっけ?どうしてここで働こうと思ったの?」
「あ〜。それは……」
本当なら『バンド活動に興味がある』とか、『いつかライブハウスを経営してみたい』とか、とにかくバンド関係の志望理由を言った方が心象はいいだろう。しかし悟天は特にそっち方面は興味なく、虹夏の提案からここで働くことを選んだのだ。正直に言ってもよかったのだが、それはなんかなぁと悟天は考えていた。この男、実はカッコつけたがりなのだ。
「単純にお金のためだよ。今年からお小遣いもらえないって話だよね?」
「虹夏!?そんなこと言ったら………」
「大丈夫大丈夫。リョウ相手なら」
「………へっ?」
流石にお金のためなんて理由じゃ下手したら引かれちゃうよ。そんなことを考えていた悟天だったが…………。
「うん。分かるよ悟天。この世は結局金。お金を持つ者が世界を制す。よく分かってるじゃん」
「リョウはこういう人間だから」
第一印象はたかが数分の会話ですぐに崩れてしまった。ちなみに悟天にとってのリョウの第一印象は、『物静かでボーイッシュでクールな人』だった。ちなみに今の印象は『お金にガメつく割と面白い人』だった。
「それに人が増えたなら私の仕事が減る。つまり、惰眠を貪る時間ができる」
「いやいや、給料もらう身でそれはダメでしょ」
「問題ない。悟天の手柄を私の手柄ってことにすれば……」
「それ無茶苦茶嫌われる上司がやることじゃないですか…………」
「というか意外。悟天って真面目なんだね。幼少期から虹夏を誑かしていたから、てっきりチャラ系かと思ってたんだけど………」
「た、誑かす?」
「おい山田。ちょっとこっち来ようか?」
虹夏は顔こそ笑っていたものの、目は笑っていなかった。そのままリョウは表情一つ変えぬまま空き部屋に連れて行かれてしまった。
「って、僕まだ仕事教えてもらってないんだけど〜…………」
「はぁ………。PA」
「はーい。孫君でしたっけ?私が代わりに教えますよ〜」
「すみません…。お願いします!」
虹夏に代わってPAと呼ばれた女性が悟天に仕事を教えていた。
「ありがとうございます!大体分かりました!」
「それなら良かったです。じゃあ私は元の持ち場に戻りますね〜」
「(PAさん、綺麗な人だなぁ)」
悟天は率直にそう思った。悟天の周りには大人の女性はあまりいない。そのせいか、同年代とは違った魅力に新鮮味を感じていた。
「(彼女作るなら同年代がいいかなって思ってたけど、歳上も案外いいかも……?)」
「悟天君、なんか鼻の下伸ばしてない?」
「うえっ?そ、そんなことないよ?というか、戻ってきたんだ」
どうやらリョウに制裁を終えたらしい虹夏は、今度は悟天をジト目で見ていた。
「あーあ、悟天君も変わっちゃったなぁ。昔は天真爛漫で可愛かったのに」
「もうそれ10年くらい前の話じゃん。流石にそんなに経てば変わるよ」
「ふーん?じゃあ彼女とかほしいって思ったりするの?」
「それは勿論!というか、むしろそれが目的でこの国の高校に通ってるんだから!」
「えっ?ど、どういうこと?」
虹夏の疑問を解消させてあげる為に、悟天は懇切丁寧に説明した。学校生活に憧れがあったこと。どこかで見た学園モノのアニメのように楽しく、甘々な学校生活を送ってみたいこと。日本の高校ならそれを実現させることができるんじゃないかと思ったことなどなど………。
「何それ?はっきり言って馬鹿がやることじゃん。そんなのそっちの国でもできたんじゃないの?」
しかし、虹夏は悟天の熱弁に対してそう言って切り捨てた。まあ実際こんな感想を抱いた人は多いだろう。
「………虹夏ってこんなに率直にものを言う子だったっけ?」
悟天も変わっていれば虹夏だって変わっていてもおかしくない。時の流れは残酷だなと思った。
「おい虹夏。仕事を放り出すな」
「あいたっ!」
虹夏が戻ってきたことを確認した星歌が、虹夏とリョウに軽くチョップしていた。恐らく虹夏が仕事を放り出してリョウを制裁するためにいなくなったからであろう。
「………ところで、なんでリョウさんはさっきから泣いてるんです?虹夏、何したの?」
「別にそんな大したことはしてないよ?」
「いやいや、本当にそうなら泣いたりしないでしょ。よっぽど酷いことをしたんじゃないの?」
「悟天君は私のことをなんだと思ってるのさ」
「虹夏に『しばらく弁当は作ってあげない』って言われた………」
「あっ、本当に大したことなかった」
「だからそう言ってるじゃん!!」
それにしても、リョウの言動から察するに、普段からリョウの分の弁当まで作ってあげてることになっている。それもお弁当を"分ける"ではなく"作る"と言っていることから、虹夏自身が作っているらしい。
「というか、虹夏って料理するようになったんだ?」
「うん!お姉ちゃんは料理へたっぴだから!」
「虹夏………」
「ごめんごめん…!!だからこれ以上のチョップは勘弁して〜…!!!」
「あとバイト中は店長って呼べって言ってるだろ」
チョップしてこようとする星歌の腕をなんとか受け止めた虹夏は、2撃目ももう片方の腕で受け止めた。悟天が初めて虹夏に会った時は姉との仲はそんなに良くないと聞いていたが、今はとても仲が良さそうだなぁと思った。自分がいない間に何があったのかは分からないが、やっぱり兄弟姉妹は仲良しなのが一番だなぁと思った。
時間は経ち、ライブが始まる時間になった。この日の悟天はドリンクを担当していた。初勤務ということで隣で虹夏がいつでも手助けできるように準備していたが、悟天の飲み込みが早かったらしく、特に助けもなく業務を熟すことができた。
「悟天君仕事覚えるの早いんだね〜。次は受付やってみる?」
「そうだね。色々な仕事ができるようになれば役に立てるだろうし」
「悟天君って根は真面目なんだね」
ライブが始まると、ドリンクに人が来ることはほぼなくなる。その為悟天達の手は空いていた。受付をやっていたリョウも店長が代わってくれたようで、ライブを見にきたらしい。
「……………そういえば、虹夏って昔はバンド嫌いだったでしょ?でも今はライブハウスを手伝ってるなんて、一体どういう風の吹き回しなの?」
「あはは。そんな時期もあったね〜。色々あったんだけど、お姉ちゃんのライブを見に行ったら、カッコいいって思っちゃって………。気が付いたら私もバンドが好きになったんだ〜!」
「ふーん?」
その後は、虹夏とリョウもライブに見入っていたので、悟天から話しかけるようなことはしなかった。悟天はバンドの曲こそ聞いたことはあるものの、ライブ会場に来るのはこれが初めてだった。有名なバンドがやるような大きなライブ会場ではないけど、画面越しでは伝わらない臨場感、盛り上がり、高揚感が伝わってきた。
「…………ライブってこんな感じなんだな〜…」
虹夏がバンドを好きになった理由が、少し分かったような気がした。
「今日はお疲れ様!またね!」
「うん。また今度!」
バイトが終わるとすっかり空は暗くなっていた。普段の自分ならばもう夕ご飯を食べ終えているくらいの時間だろう。
「こんな時間でも人は沢山いるんだな〜。でも昼間よりは少ないかな…」
周りも暗いしそんなに警戒しなくてもいいかなと判断した悟天は、少しだけ気を解放して地面を蹴った。1000mほど上昇したタイミングで筋斗雲を呼び出し、その雲の上に乗った。
「にしても、まさか虹夏ちゃんと再会するとは思わなかったな〜………。やっぱりこっちの高校にして正解だったかも」
悟天にとって、今日は濃い1日となった。
「ただいま〜!」
「悟天ちゃん、お帰り」
「悟天、腹減ったろ!飯ならもうできてるぞ!」
「はーい!」
普段なら夕食は既に取り終えている時間だったため、今の悟天は空腹状態で今すぐにでも食べ物に齧りつきたかったが、まずは手洗いうがいをしてからだ。
「いただきまーす!」
テーブルいっぱいに並べられた食事はものの1分程度で完食してしまった。これでもちゃんと味わって食べている。
「ところで悟天ちゃん。今日からバイト始めたみてぇだけど、一体何してるんだ?」
「…………」
ここで正直に『ライブハウスで働いてる』と言ってしまうのはよくないと判断した。というのも、チチは恐らくライブハウスのことを知らない。とするならライブハウスについて説明することになるのだが、ライブハウスを説明するにはバンドのことも説明するのは必然。超サイヤ人の姿を不良と決めつけていることからも、『バンドなんて不良がやることだべ!悟天ちゃんはとっととそんなバイトやめた方がいいだ!』と言われる可能性もある。
不要な言い争いは避けるに越したことがない。故に…
「向こうのコンビニでアルバイトを始めたんだ」
「お店で働き始めただか〜…!」
無難に、コンビニでバイトしているということにしておいた。これなら偏見が強めなチチでも反対することはないだろう。
翌日。寝起きの悪い悟天は必ず目覚ましの音が鳴って初めて目を覚ます。欠伸をしながらもすぐに着替え、すぐに家を出れるように準備し、リビングに朝食を食べに行く。
「いってきます!」
あっという間に食べ終えた悟天は、自室に戻ってバックを持ち、すぐに外に出る。
「筋斗雲〜!!!!」
悟天がそう掛け声をあげると、すぐに空から黄色の雲がやってくる。その雲の上に乗った悟天は、イヤホンとゲーム機を取り出す。
「それじゃ筋斗雲。いつもの場所までお願い」
そう合図すると、筋斗雲は高速で発進した。悟天の朝はいつもこんな感じ。筋斗雲を使う理由は、ゲームしながら移動ができるのが便利だと思ったからだ。たまに遅刻しそうになる時は自分の力で飛ぶ。
「よっと。ありがとう筋斗雲。またよろしく!」
筋斗雲に労りの声をかけると、その雲は遥か高い空に姿を消した。
人のいない路地裏から表通りに出て、他の学生と同じように徒歩で学校まで向かう。
これが、孫悟天の朝のルーティンだ。
「………おっ?」
校門前まで行くと、やたらと目立つ格好をした人がいた。遠目でもその人の髪が桃色で腰下まで伸びているのが分かった。更に髪色と同じジャージを着ているとなれば、もうあの人物しかいない。
「後藤さんおはよ〜!今日はやけに大荷物………」
悟天の言葉は途切れた。決して噛んだわけではない。言いたいことを忘れてしまったわけでもない。その原因は、後藤ひとりの服装にあった。
「あっ、へへっ、お、おはようございます……」
少しニヤけた顔で後藤がそう返事をした。彼女はいつものジャージの下に、赤色を基調とした鎖模様や謎フォントの文字がプリントされた服を着ながら、両手首には無数のリストバンド、背中にはギターケースという、異様な格好をしていた。
ギターケースは分かる。何故なら明日演奏を聞かせてくれると後藤が言っていたからだ。だが他はなんだ?あの大人しい後藤が何故突然不良っぽい服装を?
考えれば考えるほど、悟天の頭にはハテナマークが生み出された。
「そ、その格好は一体……?」
「あっ、こ、これですか?演奏するのに相応しい格好をしようと……!」
実は昨日、後藤ひとりはこんな感じで悩んでいた。
『ああ…!!明日演奏聞かせるって約束してしまったぁ……!!なんで断らなかったんだあの時の私ぃ……!!!で、でも孫君ならチヤホヤしてくれそうな気がする……!だ、だって私のことが気になってるんだもんね!きっと私の好感度を稼ぐために褒めちぎるに違いない…!!いや〜罪な女だなぁ私…!!こ、ここは責任を取って、最高の演奏を聞かせなきゃだよね…!!まずは服装選びから…………』
こんな感じ。一言で纏めると、深夜テンションのまま学校にきた。これで説明がつく。ちなみに家族に『また妄想してる』と心配されたのは別のお話。
「…………か、カッコいい……かも?」
普通のセンスなら『やべぇやつだ』という感じになるところだが、悟天もまた少しズレた高校生。今の後藤の服装は少し、本当に少しだけ格好よく見えた。少なくとも兄のヒーロー姿よりは大分マシだと思った。
「ほ、本当ですか!?きょ、今日は孫君のために頑張りますね!」
そして、自分の想像通り褒められた後藤はますます調子に乗っていた。その為、普段ならコミュ障を発揮して上手く会話を繋ぐことができないのだが、今だけは違った。
「(ぼ、僕のためにこんな張り切ってくれたの……!?この子、無茶苦茶いい子だ………!!!!)」
一方で、悟天は勝手に勘違いして感動していた。でも実際に後藤ひとりは優しい人間なので、強ち間違ってはいない。
その日の授業中。後藤ひとりはずっとニチャアっとした笑顔をキメていた。
「(今日演奏を聞かせるのは孫君1人だけだけど、きっとここから後藤ひとりの伝説が始まるんだ……!ここが私のバンドマンとしてのスタートラインなんだ……!!)」
しかし、何故そんな表情をしているのか他人には分からない。それは超サイヤ人に変身できる悟天も同様だった。
「(ぶはっ…!また面白い顔してるよ……!)」
悟天的にはあまりにも面白い顔だったらしく、シャッター音が鳴らないように設定してこっそり激写した。ネット上にばら撒くつもりはないが、今日にでもトランクス君に見せに行こうかな。そんなことを考えていた。
ちなみに、周りのクラスメイトは『後なんとかさんまたやべぇ顔してる…』と、若干引いていた。後藤の様子を面白がっている悟天に対しては、最早敬意さえ感じでいたという………。
そして放課後になった。悟天はウキウキした様子で後藤に話しかけた。
「(あ〜……!!緊張するぅ〜…!いざ聞かせるとなると心臓がドラムのように……!!静まれ、うるさいんだって、私の心臓〜…!!!)」
後藤は無茶苦茶緊張していた。身内以外に演奏を披露するのはこれが初めてなのだ。生まれてから友達というものができたことのない彼女にとっては、一種の試練と同じようなものだった。
「…………」
そんな様子を見て、悟天は後藤が緊張しているのがすぐに分かった。
「………そーだ!多分体を温めないと本調子が出ないだろうから、どこかで練習してきなよ!僕、今日は特に何も予定ないから時間は気にしなくてもいいよ!」
だから、悟天は配慮した。入学して後藤と接するようになって、後藤ひとりという人間は人見知りで人と関わることが苦手なのはなんとなく分かっていた。
「あっ、はい。すみません………(や、優しい……。でもなんか凄く期待されてる気がする………!!?)」
感謝の気持ちに加えてプレッシャーを感じつつも、後藤は自分が一番落ち着けるスペースまで移動した。
「………さてと…」
数分だけ時間を置いたあと、悟天は荷物を持って立ち上がる。教室の扉を開けて後藤の気を頼りに彼女のいる場所まで向かう。数分程度で準備が終わると思っているのか?いや、それは違う。
彼女の気に近づくにつれ、ギターと思わしき演奏音が聞こえてきた。
「……………これが…」
悟天が聞いたのは、最近始まった名アニメのOP曲。今の若者なら知らない人の方が少ないと言われるほどに有名なアニメの曲だった。
「……………すごい」
彼女の演奏は、悟天自身が想像しているよりも遥かに凄いものだった。毎日6時間は練習していると聞いたが、自分と同い年の子がここまで自分の心を引き込む演奏をするとは思いもしなかった。
気配を消すのも忘れて、彼女の演奏をただ聞いていた。悟天自身がそうしようと明確な意思を持って立ち止まったわけではない。体が勝手に止まったのだ。
「………後藤さん、無茶苦茶カッコいいじゃん」
先日、虹夏と共に見たライブと似たような気持ちになった。いや、正確には違う。その時は虹夏がバンド好きになった理由が"少し"分かったような気がする程度だった。でも今回は違う。
ライブハウスのように曲に合わせた照明調整があるわけじゃない。反響も、観客の声援も、緊迫感も、高揚感もあるわけではない。
だが、逆に言ってしまえば、そんなものがなくても悟天の心を惹きつけた。後藤ひとりの演奏は、それくらいに素晴らしいものだった。虹夏がバンドを好きになった理由が"よく"分かった。
「……ふぅ…。孫君の前でもこれくらい弾ければなんとか………あ"っ…!」
「あっ………。や、ヤッホー…!待ちきれなくてフライングしちゃった」
悟天はここで初めて、気配を消すことを怠っていたことに気づいた。これには悟天自身も心底驚いていた。しかし、納得もできた。
「そ、そそそそ……!!」
「後藤さんっ…!すっごいじゃんっ!!!!」
「…………へっ?」
後藤ひとりは身構えていた。でも今の悟天にはその行動が目に入らなかった。
「いや〜、嘘ついちゃってごめんね?後藤さん緊張してるみたいだから、嘘ついて一人で練習してるところを聞きにいけば、後藤さんの実力を見れるかな〜って思ったけど、想像以上だったよ!!!」
「えっ?いや〜………」
後藤の予想を通り越して、心の底から悟天は褒めちぎってきた。それを確認した後藤はいつもの如く承認欲求を満たされそうになるのだが………。
「もう気が付いたら隠れることも忘れちゃってさ!!実は前にライブハウスでバンドの人達の曲も聞いたんだけど、後藤さんの演奏を聞いてたら自然と脳内で照明とか反響が補完されてたよ!!こんな凄い演奏ができるのに誰にも披露しないなんて勿体ないよ!!!!」
「(な、なんか無茶苦茶褒めてくる…!!!?)」
承認欲求モンスターの後藤が正気に戻ってしまうほど、悟天はとにかく後藤を賞賛しまくっていた。
「あ、ありがとうございます……。こ、こんなに褒めてもらったのは始めてです…………」
「初めて!?うっそだ〜!!それともこんな凄い特技を誰にも披露したことがないの?勿体ないって!!!普段の後藤さんを知ってるクラスメイトにも聞かせてあげたいなぁ…!さっきの後藤さんの演奏!!!なんで録音しとかなかったんだろうなぁ……!!!!」
「えっ、いや、お、落ち着いて下さい………!!!」
予想以上の褒めっぷりに後藤ひとりでさえも狼狽えてしまった。だが、同時に嬉しくもあった。彼女は普段からオーチューブという動画共有サイトで自身の演奏動画をあげており、そこのコメント欄で賞賛の声を浴びることは珍しくなかった。だが、目の前にいる人に自分の演奏を褒められたことは一度もなかった。
ネットでしか居場所がないと思い込んでいたが、現実の世界にも自分はいていいんだ。そんな気がした。
「あっ、ごめんごめん…。つい我を忘れちゃった………。でも覚えておいて!後藤さんは、自分が思ってるよりもずっと凄い人だよ!!自信を持って!!」
「あっ………」
「それじゃ、また明日ね!!今日はありがとう!!!また聞かせてよ、君の痺れる演奏!!!!」
「あっ、はい。また明日………」
悟天はテンションが下がらぬままその場を後にした。その姿を見て、後藤は感極まりそうになった。だが、それ以上に微笑ましくもあった。
「孫君、たくさん褒めてくれたな…」
演奏を披露する直前。緊張のあまり体調を崩したとか、急用ができたなど適当な嘘をついて帰ってしまおうかと思っていた。だが、悟天が自分を気遣ってくれているのがよく分かった。それに自分の演奏を楽しみにしてくれているのも分かった。だから後藤は逃げずに向き合えたのかもしれない。
「………また明日………か…。なんかいい響きだな……」
逃げずに向き合ってよかった。後藤ひとりはそう感じながら、後片付けをした。
「…………あっ。どうせなら後藤さんの後片付けを手伝ってあげれば良かった……」
そして、悟天は気遣いを忘れてしまったことに、少しだけ後悔していた。
悟天ならぼっちちゃんのこと無茶苦茶褒めてくれると思うの。そしてイキり状態のぼっちちゃんならいつもよりは人と会話ができるようになるはずだ……。多分。恐らく。きっと……。
アンケート覗いて見たら、圧倒的に喜多ちゃんでワロタ。まあ陽気な悟天なら喜多ちゃんと息は合いそうではありますな。というか孫家の人間は基本的に誰とでも打ち解けることができるような気はしなくもない。
こちらの筆が全く進んでねぇ…。5話はちょっとお待ちください。