ごてん・ざ・ろっく! 作:Miurand
朝のルーティンを経て、悟天は教室に入る。朝のホームルームが始まるまでの間は友達と談笑を楽しむ。しばらくすると、悟天の心を惹き込む演奏を見せた後藤ひとりも教室に入ってきた。
「…………お、お、おお…!!」
悟天の前に立つと、何かを喋り出そうとしている。
「お、おはようございます!!!」
………後藤ひとりは今まで出したこともないような大声を出した。どうやら音量調整をミスってしまったらしい。
「うん。おはよう、後藤さん!」
なんてことないように挨拶を返した悟天だったが、内心はある意味穏やかではなかった。
「(あの後藤さんが自ら挨拶を……!!すごい成長だ…!!なんか初めてフュージョンを成功させた時のような達成感を感じる……!!!)」
悟天は根気強く彼女に話しかけ続けた。最初こそ初心者ゲーマーのように何度も死にかけた後藤だったが、ここ最近は悟天とはそこそこ……とまではいかないレベルだが、少しは話せるようになっていた。しかし挨拶をするのはいつも決まって悟天からだったので、これはとても大きな進歩と言えよう。ただの一歩ではなく、巨人の一歩とでも言うべき進歩だ。
だが、大声が出れば何事かとそちらに振り向く人が大量発生することは防げない。しかもその発声源がいつも喋らない後藤だと分かれば、視線は彼女に集中する。
「……………あ"っ(絶命)」
後藤ひとりは視線によるストレスに耐えきれずに爆散した。まるでどこぞのパワハラ上司がポップコーンを作り出した時のように、後藤の体は四方八方に飛び散った。
「ひぇ〜……!!後藤さんって分裂もできるんだな〜……!!凄いなぁ…!!」
だが、悟天もまた常人を遥かに超えた存在。1800個ほどに分裂した体を一瞬にして全てキャッチしてしまった。無論、その様子は誰の目にも映ることがなかった。それくらいに一瞬の出来事だった。
「………ん?今何が起きたの?」
「後藤さん破裂しなかった?」
「あー、大丈夫だよ。ちょっと待っててね〜」
悟天は全ての破片を椅子の上に固めるようにして起き、深呼吸をする。
「後藤さん!君のギターの才能は常人のそれを遥かに超えているよ!もう今すぐにでもプロになれるレベル!君は音楽で食べていくべきだよ!これはもう神様から与えられた天命と言っても過言ではないね!君は神に選ばれしロックスターだ!!」
悟天は後藤を褒めれば取り敢えず回復するということは既に知っている。だから褒めちぎることにした。
「わ、私は神に選ばれし者…!バンドをやるという天命を与えられた女…!」
「えっ?後藤さんの体がだんだん元に戻っていく…!?」
そして、悟天の褒め方は後藤を戻すということを考えると最高に良かった。妙に厨二っぽい表現を用いたことにより、その言葉が後藤に深く突き刺さったのだ!
「よっ!後藤ひとり!世界文化遺産!伝説のロックスターの卵!成功が約束されたバンドウーマン!!」
「でへへ〜。それほどでもないですよ〜」
後藤ひとりは完全復活を果たした。悟天は役目を終えたと言わんばかりに自席についた。
「………いや、今日も一仕事を終えたぜ的な雰囲気出されても、ツッコミたいことが山ほどあるんだけど………」
「私、後藤さんより孫君の方に恐怖を感じ始めている」
「なんで僕に!!?」
悟天にとっては心外な発言だったが、一般人目線からすればそれも当たり前のこと。目の前の少女が突然爆散しても全く動じずに冷静に対処するどころか、その様を賞賛までしてしまうその姿は、最早狂った芸術家と似たようなもの。少なくとも、そのクラスメイトの少女はそう感じた。
「それじゃ、後藤さんも復活したことだし、僕は着替えてくるね!」
「あー。そういえば次は体育だったか?しかも今日は5組と合同なんだろ?」
「………………へっ?」
復活して早々、後藤ひとりの死はまたしてもすぐそこまでやってきた。運動ができない後藤にとって、体育なんて運動という名の強制労働に他ならない。しかもペアを組めと指示された時はもっと地獄だ。さらに今日は他クラスとの合同体育。
「もうダメだぁ…。おしまいだぁ……」
後藤ひとりは今にも息絶えそうな声でそう呟いた。でも保健室には行かず、しっかり授業に出席してしまうあたり彼女の根もまた真面目なのだろう。
「今日は5組と合同で体育をやります」
教員の説明が入るが、悟天は気だるげに聞く。『早く始まらないかなぁ』なんて考えていた。ちなみに後藤は『早く終わってくれ…!!』と願っていた。清々しいほどに正反対である。
少し時間が経ち、人数も多いことからクラス対抗のドッジボールをすることになった。悟天は既にワクワクしていた。というのも……
「(ふふ…。僕ほどの身体能力があれば生き残るのは最早必然。そして攻めも問題なし。これはモテ期を到来させる強制イベントと言っても過言じゃないぞ〜!!!)」
またアホなことを考えていた。悟天は彼女を作りたいと考えておきながら、自分からはアクションを起こさずに、相手から来てほしいと考えているちょっと面倒なタイプなのだ。だからモテようとするのだ。
だが、悟天に対してはハンデが強いられていた。それは、気の解放が許されないことだ。あくまで一般人として生活する以上、有事の際を除いて気を解放してはいけないのだ。自身が平穏な生活を送るためにもそういう制約を課す必要があった。だからあくまで『一般人として違和感がない程度』に力を抑える必要がある。
とはいえ、悟天の力加減はほぼ完璧と言っても過言ではなかった。誰にも教わることなくいきなり超サイヤ人に変身してみせた悟天のポテンシャルは悟飯以上で、悟飯よりも街に行く機会が多かった。その経験があれば、加減することも容易だった。
「よっ!ほっ!」
「ぜんっぜん当たらねえんだけど!?」
途中から悟天が集中狙いをされるようになったのだが、相手をなめてはいけない。悟天は経験が浅いとはいえ立派な戦士。死と隣り合わせの経験をした悟天に命中させるのは、例えハンデがあろうとも至難の技だ。
「よしキャッチ!反撃だ!!」
ブォン!と勢いよくボールを振り投げると、まず1人に命中した。そして味方を庇ってボールをキャッチしようとした者も、予想以上の威力だったのか手を滑らせて落としてしまった。
悟天は一気に2人も外野に追い込んだのだ。
「あいつやばくねえか?」
「孫君ってめっちゃ強くない?」
「かっこいい!!!」
「(よーし!いいぞいいぞ〜!)」
悟天の思惑通り、少しずつモテそうな雰囲気になりつつあった。してやったりと思いながら、相手の攻撃に備えてキャッチか回避できるように準備をする。
「くっ…!でもこっちにだって最終兵器がいるんだから!喜多ちゃん、お願い!!」
最終兵器と呼ばれた赤髪の少女がボールを受け取り、まっすぐと悟天を見据えた。
「あなたが孫悟天君ね。話には聞いていたけど、随分運動できるようね」
「こう見えても山育ちなものでね」
「なるほどね……。なら、男の子相手ということもあるし、容赦はしないわよ!」
すると、その華奢な体から放ったとは思えないほどのスピードでボールが接近する。
「……!!!」
悟天は敢えてスレスレを避けた。すると外野にボールが行き渡り、外野もまた悟天に狙いを定める。しかし、悟天に当てるどころか、ボールをキャッチされてしまった。
「(喜多さん……か。あの子なかなかできる子だなぁ。女の子とは思えないスピードだった。これは油断してると足をすくわれるかもしれない……)」
モテ狙いの悟天は女子に負けるという失態はなんとしても避けたかった。というのも、女子に負けてしまえば…
『え〜?孫君って女子に負けるくらいに鈍臭いの?』
『なんだ。私冷めたわ』
なんてことになりかねないからだ。しかしそれは悟天の想像にすぎない。喜多郁代のあの投撃を避けただけでも、悟天は運動カーストにおいて既に最上位の位置付けとなっている。
目の前にいる喜多郁代という人物は、友達が多く成績も優秀。容姿もよくておしゃれにも気を使い、誰にでも親切に接するという、完璧超人な人間だった。無論何でもできる彼女は運動もできた。故に、一時でも張り合えば評価は鰻上りというわけだ。
「(いくぞ…!!)」
悟天もまた、気を解放しない範囲内で全力投球をした。喜多は反応できたものの、威力の強さを察して避けることを選んだ。しかし後ろにいた人に当たってしまい、その人は外野行きとなってしまう。
だがボールは5組の内野に留まった。今度は喜多がボールを投げる。そして悟天はまた避けるが、同じように味方に当たって外野行き。これを何度も繰り返した結果…………。
「はぁ…………。はぁ………………」
「……………」
5組側は喜多だけ。2組側は悟天と、何故か後藤が残っていた。
「す、すげえぞあの2人………」
「どっちもお互いに譲る気がないみたいだな…………」
想像以上の展開に、外野は息を飲みながら2人を見守っていた。最早自分達は喜多郁代と孫悟天による2人の戦いの引き立て役にすぎない。そう感じさせるほどに拮抗した試合になっていた。
「……(正直なめてた。この子むっちゃ運動できるぞ…!)」
なんと、悟天はモテ期云々のことはすっかり忘れて試合に集中していた。悟天はなんとしても目の前の少女に勝ちたいと思った。気を少しでも解放すれば簡単なことだが、それをしてしまうと、なんだか大人気ない気がして格好つかない気がした。周りに賞賛されても、自分自身は虚しい気持ちになるだけな気がした。
今ボールを持っているのは喜多だ。悟天は避ける側。避けること自体は簡単だが、後ろにいる後藤が気がかりだった。
「(喜多さんのボール受けたら、後藤さん痛がるよね〜……。下手するとまた死んじゃうかも…………)」
もしも後藤に標的を変更したら、なんか可哀想。そんな気がした。守りたいと明確な意思があるわけではない。が、悟天も戦士気質だからだろうか?弱き者の盾となれと、無意識に考えているのかもしれない。
「………!!」
「(くるっ…!!)」
喜多が投げる動作をする。悟天はその動きを目で捉え構える。が、すぐに投撃が放たれることはなかった。
「………やっ…!」
「えっ…!?」
一度引っ込めたかと思いきや、ノーモーションで投げつけてきた。フェイントをかけてくるところまでは予想できなかったようで、悟天は驚いてしまう。そしてほんの一瞬だけ怯んでしまった。それが冷静さが欠ける原因となった。
「くっ……!!!」
別に威力自体は大したことがなかったのだが、悟天は避けることを選択してしまった。そして避けた先、ボールの軌道は後藤に伸びていた。
「えっ、あっ………」
「ご、後藤さん!?」
喜多は狙ったわけではない。何故なら悟天に当てて外野に追いやるつもりだったから。しかしあの至近距離でフェイントをかけても尚反応できるのは想定外だったのだ。たまたまボールを投げた方向に後藤がいただけだ。
パシッ
「…………」
「えっ、あっ、えっ………?」
なんと、悟天がボールよりも先に回りこみ、後藤の前に立ってボールをキャッチした。流石にそんな動きができるとは思ってもおらず、喜多だけではなく、試合の行く末を見守っていた人全員がポカーンとしてしまった。
「ど、どういうこと……?見えなかったわ」
「………(やっちゃったぁ…)」
学校生活において気は解放しない。自分の中でそう決めていた悟天だったが、ついやってしまった。別に後藤に当たっても怪我なんてしない。ただ外野に行ってしまうだけ。
だが、何故か無意識に体が動いていた。
「……すごーい!女の子を守ってあげるなんて素敵!!」
何故か敵であるはずの喜多から賞賛の言葉を浴びせられた。と同時に……。
キターン、という謎の擬音と同時に、悟天の視界は光に包まれた。まさか彼女は太陽拳を使えたのか!?これは流石に予想外だった。
そして、目潰しされたことでボールを離してしまう。そのボールは偶然にも喜多のいる5組の内野の方に転がっていった。
「…………えい!」
「わっ…!?」
悟天は気を利用して生物の位置を特定することはできる。しかし無生物の物体であるボールの位置までは視界なしでは流石に分からなかった。その為命中を許してしまう。と同時にボールは反動で喜多の手元に戻ってきた。
「孫君、アウト!!」
長きに渡った戦いに終止符が打たれた。悟天の敗因は、可能だった予測を怠ったこと、油断したことだ。戦士ともなれば、相手が目潰ししてくることも予想できなければならない。
……いや、ただのJKがいきなり光だして目潰ししてくるのをどう予測しろというのだろうか?太陽拳ですら特定のポーズをしなければ使えないというのに。
「やった〜!!!」
「喜多ちゃん最高!!!」
「みんなありがとう!!」
実質これで勝敗は決まったようなものだ。後藤には大変申し訳ないが、なんとかして避けていただき……
「先生!!後藤さんが倒れてしまいました!!!」
「えっ?なんで?」
「多分喜多さんのオーラに耐えきれなかったのかと……………」
「あー、じゃあ喜多が後藤を○したということになるのか?」
「ええ!?」
なんと、後藤は喜多の陽キャオーラに耐えきれずに灰色になって死んでしまった。この女、一体人生において何度死を経験したのだろうか………。もしや某配管工のように残機でもあるのか?
「………試合は続行できないな。これは引き分け」
結局、両陣営共納得のいかない展開になってしまった。
「………………なにそれ」
悟天にとっても何が起きたのかよく分からなかったが、実は喜多のおかげで悟天の超人的プレイに注目が向かなかったので、地味に恩人になっていたりする。が、助けた方も助けられた方もお互いに自覚がなかった。
「…………孫君」
息を整えた喜多は悟天に話しかけてきた。
「………今日は凄い楽しかったわ!次も機会があればよろしくね!」
笑顔で手を差し伸べてきた。これは所謂握手だ。試合が終わったので、お互いへの労りの意味も込めた挨拶のようなものだ。
「………うん。こちらこそ。今度はちゃんと勝ちたいからね」
悟天もまた喜多の手を掴み、硬い握手を交わした。
「にしてもまさか君が太陽拳を使えるなんて予想外だったよ…。流石にあれはずるいよ〜…………」
「えっ?た、太陽……?何を言ってるの?」
悟天の意味不明な言動にひたすら困惑すると喜多だった………。
「いや〜、惜しかったな孫!お前喜多さん相手によくあそこまで食らいついたな」
「いやいや、あれ喜多さんが発光しなかったら孫君が勝ってたんじゃないの?」
一方、教室に戻ると悟天は一躍人気者になっていた。勉強もできて運動もできるとなればそれは最早必然。『女子を守った』という紳士的な行いが評価されたのも大きい。
ちなみに後藤はしばらく死にかけていたが、悟天がまた褒めちぎったことによって復活を果たした。ドラゴンボールと科学の力なしで死と蘇生を繰り返す様子に悟天は最早慣れてしまった。いや、悟天だけではない。クラスメイトも完全に慣れてしまっていた。
「………(あれ?なんで喜多さんが太陽拳を使えることにみんなツッコまないんだろう……?もしかして、こっちではみんな太陽拳が使えるのか………?)」
そんなことはないし、そもそも喜多のあれは太陽拳ではないのだが、悟天にまた1つ誤解を与えてしまった。
自分の勝手な想像:
悟天は悟飯よりも一般人として過ごすのは上手そう。恐らく隠し事もできるタイプだと思う。その為、体育の時は悟飯のようにヘマして身体能力がバレることはないんじゃないかなぁと思いましたが、やはりその片鱗を見せる描写が欲しいなっと思って出てきたのが今話でございます。人を守るためならやってくれると俺は信じている……。