その名は勅任捜査監   作:カーネルさん

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レンネンカンプが大活躍するお話です。



陰謀、ハイネセン!

 

あまねく宇宙を皇帝(カイザー)の威光が照らしても

光あるところには必ず闇あり

闇に蠢く卑劣な輩は許さない

人知れず悪を討ち正義を示す

その名は勅任捜査監!

 

第一回 陰謀、ハイネセン!

 

***

 

(ここは…)

 

帝国軍上級大将にしてハイネセン駐在高等弁務官を務めるヘルムート・レンネンカンプは目を覚ました。意識を失う前、彼はヤン一党が武力蜂起したとの報告を受け、装甲擲弾兵に出動命令を出したところだったはずだ。

 

(そうだ、執務室の床が揺れて、爆発音がして、それで俺は転倒して、気を失った)

 

意識がはっきりしてくると、頭部には密閉式の呼吸装置が着けられ、おそらくは治療カプセルの内部で身体は治療液に浮かんでいるのがわかった。カプセルの透明なカバーから見える外部には、数人の医療関係者らしき者達が見えた。

 

レンネンカンプが目を覚ましたことに気付いたのか、そのうち一人がカプセルに顔を近づけ、人々の動きが慌ただしくなった。やがてカバーが開けられ、治療液が抜かれた。丁寧な手つきで呼吸装置が外され、レンネンカンプは自力で呼吸できるようになった。

 

「ここは、どこだ? 俺はどうなった?」

 

身体に痺れたような違和感があってうまく動かせないので、首だけ動かして周囲の者達に尋ねる。

 

「落ち着いて聞いてください、閣下」

 

白衣を着た男がそばに近寄ってきて、同盟訛りの帝国語でゆっくりと語りかけてきた。

 

「閣下は負傷され、手術を受けられて今まで眠っていました。もう命に別条はありません」

「そう…か、俺が意識を失ってから、何日経っているのだ?」

「ほぼ3ヶ月になります」

「3ヶ月だと!」

 

そんなに時間が経っているのか! その間に事態はどうなってしまったのだろうか?

 

「ここはどこだ。ヤン一党はどうなった!」

 

慌てて起き上がろうとするが、うまく力が入らない。

 

「起きてはいけません! まだ神経接続が」

「どういうことだ」

 

レンネンカンプは不自由な身体に苛立ちながら、疑念が湧いてきた。もしや自分は身体に重大な損傷を受けたのか。義肢か義腕でも装着されるほどの。まあ、それは戦場に立つことを決めた時から起こりうることとして覚悟はしている。戦士であるレンネンカンプは、その程度は甘んじて受けれいる覚悟はとうにできている。

 

「閣下、落ち着いて、聞いてください」

 

男は繰り返して言った。

 

「閣下は火災に巻き込まれ、重要な臓器のいくつかを損傷されました。辛うじて我々が救出した際には手遅れに近い状態でした」

 

「しかし閣下は帝国から派遣された高等弁務官、死なせる訳にはいきません。我々は全力で閣下を生かし続ける方法を探りました」

 

「最後の手段として、勝手ながら、閣下の首から下を切断し、我々が密かに開発していた人工の義体を接続して延命しました」

 

「…何を、言っている?」

 

男はレンネンカンプの右手を握り、それを持ち上げた。硬質の、黒く鈍く輝く、機械のそれを。

 

「閣下は生まれ変わられたのです」

 

「うわああああ!」

 

レンネンカンプは再び意識を失った。

 

***

 

「生まれ変わられたではないわ!」

 

レンネンカンプは混乱していた。再び意識を取り戻した後、周囲の男達から説明を受けた。それによるとホテル・シャングリラで感じた爆発とそれにより発生し、レンネンカンプを殺しかけた火災は蜂起したヤン一党に参加した同盟軍薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)の仕業で、ごく短時間でホテル・シャングリラはほば全焼、倒壊。ホテル内を警備していた帝国軍装甲擲弾兵はそれに巻き込まれ、なすすべもなく多くが焼死したか重体となり壊滅。急報を受けて派遣された同盟正規軍陸戦隊が瓦礫の中から虫の息のレンネンカンプを救出し、同盟政府の死なせるなという厳命で、最後の手段として首をチョンパして義体を装着したという。

 

「ホテル・シャングリラへの襲撃と前後して、レベロ最高評議会議長が誘拐されました。これもヤン一党によるものです。政府は彼らと取引を行い、レベロ議長の身柄と引き換えにハイネセンからの退去を認めました」

「なんということだ…」

「レベロ議長の証言によると、どうも奴らは高等弁務官閣下を誘拐し、人質としてハイネセンを離れるつもりだったようですな。しかし閣下の身柄の確保に失敗したため、議長を人質にしたままハイネセンを去り、ワープした後に議長を解放しました。現在、一党は同盟からの離脱を宣言したエル・ファシルにおります」

 

伝えられる情報の洪水に、レンネンカンプは言葉もない。

 

「現在、閣下がおられるここはハイネセンの同盟軍中央病院です。帝国側とはレベロ議長が窓口となり、毎日状況を説明しております」

 

レンネンカンプは慄いた。つまり、自分は同盟軍に拘束されているも同然で、この失態を皇帝(カイザー)はご存知なのか!

 

「皇帝陛下とお話しせねばならん。現在ハイネセンにいる帝国軍の最高位者を呼んでくれ」

「それはできません、閣下はまだ頭部と義体の接続が完全ではありません。最低限の動作ができるまで時間がかかります」

「どうすれば動けるようになるのだ」

「各神経系接続をひとつひとつ活性化していき、まずは片腕、次にもう片方の腕、という風に動かせるようにしていきます」

「それはどれくらいの期間がかかるのだ」

「腕一本あたり、一週間ほどは」

「話にならん! 最短で動かせるようにしろ!!」

 

我慢の限界に達したレンネンカンプは怒鳴った。

 

「そうですか…理論的には短縮することはできます。できますが、かなりの無理をすることになりますが?」

「一日でやれ」

「…わかりました。いつから開始しますか?」

「すぐだ」

「わかりました」

 

男が微かに笑った、かのように見えた。

 

「おい」

「只今より改造人間試作体J-X-1の第一回全体起動試験を行う。準備作業開始!」

「待て、改造人間試作体とはなんのことだ」

「リラックスなさってください、閣下。ああ、合図をしたら堪えてくださいね」

「堪えるとは、何をだ!?」

 

男は答えず、レンネンカンプに背を向けて何かの機器の方に歩いて行ってしまった。

 

「おい!」

「右腕神経接続チェック、完了しました!」

「左腕完了!」

「右肢完了!」

「左肢完了!オールクリア!」

「全接続完了、承認願います」

「承認」

 

男は絶句しているレンネンカンプに振り返り、ニヤリと笑った。

 

「閣下、行きますよ」

「!?」

 

レンネンカンプは物凄く嫌な予感しかしなかったが、先ほど言われたことを思い出し、戦闘中に衝撃警報が出た際の訓練通り衝撃に備える体勢を取ろうとした。しかし手足は動かないので、精一杯噛み締めるぐらいしかできることはなかった。

 

「起動試験開始!」

「確認、起動試験開始!」

「各通電始めえ!」

 

その瞬間、レンネンカンプの全身を凄まじい電撃が襲った。まるで雷神の槌に撃たれたかのような衝撃だった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

 

レンネンカンプは三度意識を失った。

 

***

 

「があああああああああ!!!!!」

 

レンネンカンプが目覚めると、まだ全身がビリビリと強烈な電撃に焼かれていた。

 

「なんだなんだなんだああ!」

 

レンネンカンプは地獄の苦しみの中で絶叫しながら、もがいた。動かせない腕と脚を動かそうとした。すると、左腕の肘がピクリと動いた。

 

「左腕に反応あり!」

「なんと、こんな短時間で!?」

 

レンネンカンプを観察している男達に動揺が広がった。

 

「グギャアアアア!!」

 

全身を苛む激痛に悶え苦しむレンネンカンプの両腕と両脚が次々と動き出す。バキッと音がして、右腕が当たった治療カプセルの縁が砕けた。

 

「おお…」

「成功だ!」

「これでJ-E-1のロールアウトにも弾みがつくぞ!」

 

暴れるレンネンカンプをよそに、男達はやった、やったと笑顔でハイタッチを始めた。長年困難を乗り越えながら続けてきたプロジェクトの成功を祝福する空気がその場を包んだ。

 

ズンッ

 

「何がおかしい!!」

 

いやあよかったよかった、お疲れ様、おめでとうとか声を掛け合っていた男達は、その怒声にギョッとして振り返った。

 

レンネンカンプが立ち上がり、何本ものケーブルを引きずったまま鬼の形相で仁王立ちしていた。その首から下は真っ黒な機械の身体と化していた。

 

***

 

「まさか…こんな短時間で立って、歩けるとは」 

 

白衣の男は呆然と呟いた。本来は腕と脚一本に最短で一週間、全ての四肢が動かせるまで一ヶ月、さらに立ち上がるまで一ヶ月と見込んでいたものが、試作体一号はわずか30分ほどで立ち上がってあるいてみせた。彼らは長年戦場に立って極限を経験してきたレンネンカンプの根性を甘く見ていた。

 

「貴様ら、よくも…」

 

レンネンカンプが男達に歩み寄ってくる。その度にズシン、ズシン、と地響きがした。試作体一号の重量は500キロを超える。ケーブルがピンと張り、すぐにブチブチと音を立てて千切れ、あるいはソケットから外れた。

 

「さあ、1番近くにいる帝国軍部隊に連れて行け」

「そんなバカな…」

 

レンネンカンプが一歩近づくと、男達は一歩下がる。二歩、三歩、その時轟音がした。

 

バン!

 

レンネンカンプは自分の胸に目をやった。傷一つもないが、かすかに細い煙が立ち上っていた。 

 

「化け物…」

 

レンネンカンプが目をやった先に、1人の若い研究員がカタカタと震えながら火薬式の拳銃を構えていた。

 

「馬鹿者ォ!! 何をするか!!」

 

拳銃弾などで、超々硬化セラミック合金の装甲に損傷を与えられるはずもないのに。白衣の男が思わず叫んだその時、レンネンカンプの姿がブレた。

 

ぐしゃり

 

次に見た時、レンネンカンプは壁際にいた。拳銃を構えていた男の姿は見えなかった。そして壁は砕けて大穴が開いており、その周りは赤いペンキをぶちまけたようになってた。

 

「…はは、これは素晴らしい」 

 

白衣の男は乾いた笑いをもらした。加速度と、その制御。計測していないので正確なところはわからないが、試作体一号は期待していた性能を発揮できているものと考えられる。

 

レンネンカンプがこちらに振り返り、肩越しに言った。

 

「卿らは俺の命を救ってくれたのでな、これで勘弁してやる」

 

そう言い残すと、カイゼル髭をスッと整え、地響きと共に去っていった。

 

***

 

同盟軍中央病院から辛くも脱出したレンネンカンプ。帝国軍と合流し皇帝陛下に連絡を取るべく、夜のハイネセンを走る。立ち塞がる同盟軍陸戦隊。次回、 誕生! 勅任捜査監!

 





これまでのお話で可哀そうな扱いをしてしまったレンネンカンプですが、罪滅ぼしのため彼が主人公のお話を書き始めました。

パン「化け物め…」「馬鹿者ォ!」はAKIRAネタです。
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