どうにも格闘シーンの描写が苦手です。そのため投稿の間が開くことをお許しください。
ヘルムート・レンネンカンプは改造人間である。彼は同盟の反乱勢力ヤン一党により重傷を負わされたため、同盟軍により改造手術を受け、勅任捜査監として生まれ変わった!
第二回 誕生! 勅任捜査監!
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レンネンカンプは夜のハイネセンを走っていた。戒厳令が敷かれているのか、交通も人通りも全くない。
前方に歩兵の陣が見えた。レンネンカンプを捕縛すべく展開した同盟軍陸戦隊であろう。彼らはレンネンカンプの接近を認めると一斉に射撃してきた。
「ふっ」
もちろんそんな豆鉄砲、改造人間となったレンネンカンプにはなんということもない。レンネンカンプは速度を殺さないまま、陸戦隊の隊列に飛び込み、同時に右腕を振りぬいた。拳が命中した陸戦隊員の頭部は弾け、さらに後方にいた三名の陸戦隊員の頭部が潰れ、吹き飛んだ胴体は別の陸戦隊員達をなぎ倒した。
「ふむ、ひとつ試してみるか…査閲流・三の型!」
説明しよう、査閲流とは帝国軍査閲部隊に伝わる総合格闘戦技である。不正の疑いのある部隊を査察する際、時として実力で抵抗を排除して実行する場合もある。そのために査閲部員に密かに伝授されているのだ! かつてイゼルローン要塞査閲部長だったレンネンカンプは査閲流の免許皆伝、当時は要塞道場の師範を勤めていた。
三の型、それは不正帳簿を持って逃亡を図る首謀者を守らんと堅陣を組んだ査察対象部隊を一気に貫く剛の拳!
レンネンカンプは身体そのものを弾丸と化して同盟軍陸戦隊の中央を撃破し、そのまま蹂躙した。腕のひと振り、脚のひと蹴りで陸戦隊員の身体のどこかが欠け、胴体がちぎれ、あるいはくの字に曲がって飛んでいく。わずか5分ほどレンネンカンプが暴れただけで陸戦隊は壊滅した。
「フッ、艦隊司令官となって鈍ったかと思っていたが、まだまだ身体が動くものだな…まあこの程度でよいか」
陸戦隊員の多くは倒れ伏し、残った者達も腰を抜かして座り込んでいる。戦う意志のある者がもう残っていないと判断したレンネンカンプは踵を返した。
***
レンネンカンプはハイネセン郊外のとある工場にたどり着いた。ここは高等弁務官府がいくつかのダミー企業を介して確保して設けた一種の隠れ家で、ホテル・シャングリラが使用できなくなった際に備えてハイネセン近郊に複数用意した予備の拠点のひとつだった。
レンネンカンプは埃っぽい工場の内部を迷わず進むと防災室に入り、いくつかのコンソールを操作し、天井からぶら下がったスクリーンを見上げた。しばらく待つ。やがてスクリーンに豪奢な金髪の人影が現れた。
「陛下…」
レンネンカンプは跪いた。彼の主君がスクリーンに映っていた。
***
スクリーンの向こう、はるか遠いオーディンにいる
「レンネンカンプ、意識が戻ったのか」
「はっ、先ほど意識を取り戻しました。聞くところによると小官が人事不省となってからすでに3ヶ月が経っているとのことですが、事実でしょうか」
「事実だ」
解像度が悪く、不明瞭な表情しか見えないが、は溜め息を吐いたように見えた。
「ヤン・ウェンリーが武力蜂起し、卿が襲撃されて重体となり、現地の我が軍はほぼ壊滅してしまい、レベロ議長は誘拐された、という連絡を同盟政府から受けてこのかた、卿の回復を祈っていた。オーディンからは事態の把握が困難でな、歯がゆい思いをしていたのだ」
レンネンカンプは感動した。
「勿体なきお言葉、このレンネンカンプ、身に余る光栄に震える思いでごさいまする…!」
「それで、レンネンカンプ。一体何があったのだ。卿の見た目はいささか変わったように見える」
かくかくしかじかとレンネンカンプは自分の知る経緯、改造人間になったいきさつを説明した。無論都合の悪いことは省いている。
「ふうむ」
ラインハルトはしばし考えるようだったが、鋭く命じた。
「レンネンカンプ、予は第二次ラグナロック作戦を発動することに決めた。ヤン・ウェンリーめの蜂起を許し卿が重傷を負った責任は同盟政府にある。予は大軍を率いて同盟に再侵攻し、その責を問うであろう」
「おお! では小官にも是非出撃をお命じ下さいませ!」
「無論だレンネンカンプ、だが卿は今回艦隊を率いるに及ばず」
驚くレンネンカンプに皇帝は華麗な声色で続けた。
「レンネンカンプ、卿のハイネセン駐留高等弁務官の職を解く。代わって卿を予の勅任捜査監に任ずる」
「勅任捜査監…でごさいますか?」
「そうだ。皇帝の名において、予に代わって悪を討ち、正義を示す。それが銀河帝国勅任捜査監である」
レンネンカンプはそんなもの、見たことも聞いたこともないが、帝国では皇帝が右向け右と言えば全員が右を向く。この程度はどうということもない。
「高等弁務官府はいまや落城し、卿には指揮する一兵もない。だがレンネンカンプよ、生まれ変わったその身体、一万の装甲擲弾兵にも勝ると見た!」
「レンネンカンプ、ハイネセンにおける予の代理人である卿の立場と、卿に対する信頼にはいささかの揺るぎもないぞ。その身をして一軍となし、第二次ラグナロック作戦における予の尖兵として存分にその力振るうがよい」
「予の考えるところ、今回の件は単純なヤン・ウェンリーとその一党による反乱ではあるまい。その裏に何かがある。卿は勅任捜査監として、その身に宿った金剛力を持って真実を暴き、予の前に持ってまいれ。それが今次作戦における卿の任務である」
レンネンカンプは震えた。皇帝の篤い信頼と先陣の名誉にではない。裏と言われれば、レベロ議長にヤン・ウェンリーの逮捕を使嗾し、追い込んだのは自分である。
レンネンカンプは決めた。自分をこのような身体にした同盟政府とレベロに罪をなすりつけてしまおうと。
「かしこまりました陛下! このレンネンカンプ、御下命必ずや果たしまする!」
こうして、帝国勅任捜査監、ヘルムート・レンネンカンプが誕生し、その長い長い戦いが始まったのだ!!
***
皇帝との超光速通信を終えたレンネンカンプが人の気配を感じて振り返ると、そこに一人の帝国軍人が立っていた。
「高等弁務官閣下!」
「おお、卿はラッツェル大佐ではないか!」
「閣下、ご無事だったのですね!」
ラッツェルは高等弁務官府におけるレンネンカンプの補佐官であった。レンネンカンプはラッツェルに、これまでの経緯を説明した。
「だからヤンにちょっかい出すのはやめて下さいと申し上げたのに」
「そんな話は聞いておらんわ!」
レンネンカンプは軽く腕を振った。ラッツェル大佐は壁際まで吹き飛んだ。
「やめてください、しんでしまいます」
「ふむ、卿は意外と丈夫なのだな。まあいい、卿はここに残って本国との連絡を維持せよ。俺は出撃してくる」
「どこにですか」
レンネンカンプは笑った。
「決まっている、敵のところにだ」
***
「レベロ議長、久しぶりだな」
「その声はレンネンカンプ高等弁務官!」
ハイネセンに巣食う悪の本拠地、最高評議会ビル、議長執務室。レンネンカンプはここでレベロ議長と対峙していた。
「教えてやろう議長、小官は今や高等弁務官を超えた存在…新たな身体と皇帝の勅命を受けたこの小官、勅任捜査監と呼ぶがいい!」
レベロがハテナマークを浮かべているが、そんな些事はどうでもよい!
「レベロ議長! ヤン・ウェンリーを迫害し、シェーンコップ中将やアッテンボロー中将をも追い込み、窮鼠猫を噛むがごとき反乱に踏み切らせた貴様の罪、既に調べはついているぞ!」
「いやあなたがそそのかしたんじゃないですか」
「弁明は聞かぬ! 成敗!」
「うぎゃぁっ」
レンネンカンプはレベロをボコボコにぶちのめした。殺しはしなかった。ついでに駆けつけてきたロックウェル大将と護衛隊も成敗して、半殺しにした。
***
一仕事終えて意気揚々と拠点に帰還したレンネンカンプに、ラッツェル大佐が慌てて駆けてきた。
「閣下、オーディンから急報が入りました。イゼルローン要塞が陥落しました!」
「どういうことだ!」
ハイネセンから脱出し、独立を宣言したエル・ファシル共和政府に合流していたヤン一党が動き出したのだ。同盟への再侵攻、第二次ラグナロック作戦の発動に乗じ、イゼルローン要塞を守備するルッツを罠にかけ、奪取したとのことだった。
「ラッツェル、同盟軍に要求して小型艦を一隻用意させろ」
「今度はどこに行かれるおつもりですか!」
レンネンカンプの眼差しは既に新たな戦場にあった。
「言うまでもあるまい、ヤン一党の本拠地、イゼルローン要塞だ」
イゼルローン要塞、レンネンカンプにとっても因縁の地。レンネンカンプはそこに行かねばならない。レベロはヤンと面会した際に、自分がヤンの逮捕を要求したと告げている。この事実を皇帝に知られてはならない。この手でヤンを葬り去るのだ! でないと皇帝に処断されてしまう。
こうしてレンネンカンプは単身、イゼルローン要塞目指して旅立った。
ヤン一党の不逞なる野望を挫くため、その本拠地イゼルローン要塞にただひとり赴く勅任捜査監。そこで待ち受けているものは。次回、死闘、イゼルローン要塞!
続く
ケスラーも経歴上査閲流を習得しています。というか当代の査閲流総師範です。アイゼナッハも補給部隊などの後方担当が長く、査閲側に回ることもあったので査閲流を修めています。