「如月。これからカラオケ行かないか?」
今日一日の授業が終わった放課後。一人の少年──如月優は、クラスメイトの男子にカラオケの誘いを受けていた。
「あっ……どうしようかな」
彼は少し悩んだ。これから友人の迎えに行こうと思っていたのだ。
(……でも、昨日迎えに行った時は、別に来なくていいって言われたんだよな……)
しかし、彼が昨日……その友人の迎えに行った際、あまり嬉しくなさそうな態度をしていたのを思い出した。
「……よしっ、俺も行くよ」
なので、彼は友人を迎えに行くことを辞めてカラオケに行く事を決めた。
「よっしゃ! 他のやつも連れていくから早く行こうぜ〜」
お互い、ウキウキとした表情を浮かべる。
しかし、この選択があんな事になってしまうとは、この時の彼は知る由もなかった。
────
「じゃあまた明日ね〜!」
優を含めた三人の男子は、カラオケを終えるとその場で解散した。
「あ〜楽しかった。……まさかこんなにも早く友達が出来て、しかも一緒に遊べるとは思わなかった。……中学の時とは大違いだな」
過去の事情により、中学時代は友人がほとんどいなかった彼にとって今の高校生活はとても良いものだと感じていた。
そして、制服のポケットに入れていた携帯が振動する。カラオケに夢中で携帯の通知に気づいていなかった彼だったが、それを制服から取り出し、画面を見る。
すると……先程までの、青春を謳歌していた余韻は跡形もなく消え去った。
携帯の画面には大量のメッセージアプリの通知が来ていたのだ。しかも、相手は一人だけ。
「……? 響から何回もメッセージが来てる」
相手の名前は──立花響。彼の中学時代からの友人である女の子からだった。
『今日は迎えに来ないの?』
『……無視?』
『ねぇ、返信してよ……』
『私の事、嫌い?』
『昨日のこと、怒ってる……?』
『嫌だ……返信してよ、お願い』
『もう、一人は嫌だ』
『私を見捨てないでよ……!』
『昨日のことは謝るから、お願いだから無視しないでよ』
『嫌だ……嫌だよ……!』
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
彼女からの一方的なメッセージが、彼のトーク欄を埋めつくしていた。
それは彼から無視されているかもしれないという恐怖に怯えているかのようだ。
「……まずい」
あまりの光景に焦った彼は、急いで彼女に電話をかける。そして、たったのワンコールで彼女は電話に出た。
「……」
「響? ついさっきメッセージに気づいた、ごめん。今何処にいる? すぐに向かうから」
「……リディアンの、近くの……公園」
彼女の声が震えていたのが、電話越しからでも伝わってきた。
「あそこか……わかった。今すぐ行くからそこで待っててくれ。絶対に行くから、約束する」
「……うん」
そう言って優は、響が居るであろう場所に全速力のダッシュで向かった。
────
それから数分後、彼は息を切らしながらも公園に着くと、リディアンの制服を着た明るい茶髪の少女が、俯きながら奥のベンチに座っていた。
「響っ!」
彼は少女の名前を呼びながら、彼女の元へと駆け寄った。
少女──立花響は彼の声に気づいたのか、俯いていた顔を上げて、すぐ側まで来ていた彼の顔を見つめていた。
「……っ! 優……!」
そして響は勢いよく立ち上がり、涙を浮かべた表情で、縋り付くのように彼の身体に抱き着いた。
「私……優に見捨てられたのかと思った……! 嫌だよ……もう一人になりたくないよ……!」
「……なんの連絡もしなくてごめんな、響。でも、大丈夫。俺は響の事を見捨てたりなんかしないよ」
彼は響の背中に腕を回し、彼女を優しく抱きしめた。
「違う、私の方こそごめんなさい……! 私が昨日、別に迎えに来なくていいなんていったから! でも、本当はすごく嬉しかったの。優が私の事を気にしてくれてるんだって……。なのに私、素直じゃないから……!」
「いいんだ、気にするな。響の気持ちを汲み取れてやらずに遊びに行った俺が悪いんだ。だから響は何も悪くない」
そして彼は、震えている響の背中を優しく摩り、彼の胸に顔を埋めてすすり泣く彼女を宥めた。
────
「……落ち着いたか?」
それからしばらくしたあと、泣き止んで落ち着きを取り戻した響と優の二人は、公園のベンチに座っていた。
「……うん」
「なら良かった。時間も遅いし、どこかでご飯食べて帰るか」
夕焼けだった空は暗くなり、公園のある時計は十九時を回っていた。
優はベンチから立ち上がり、響の方へ振り返り、左手を彼女へ差し出す。
「……手、繋ぐか?」
響は何も言わなかったが、自身の右手で彼の左手を握り、ベンチから立ち上がる。
「……あのさ、優」
「……? どうした?」
響は彼の身体に寄り添い、目を瞑った。その表情はどこか嬉しそうだった。
「……ありがとう。こんな私の傍に居てくれて」
「別に気にするな」
「……これからも一緒にいてくれる?」
「あたり前だろ。それに約束したからな……響と一緒にいるって」
彼の言葉に響は何も答えなかったが、普通に手を繋いでいた彼女は、彼の手に絡めるようにして……恋人繋ぎのように、強く握り直した。
それはまるで……絶対に離さないという意思にも見えた。
(……友達作るのは諦めようかな)
今日の響の様子を見た彼は、彼女以外の友人を作らずに……なるべく彼女に寄り添える時間を作ろうかと考えていた。
感想等よろしくお願いします。
好評だったら続くかもしれません。