チャンピオン、転移する   作:ナンジャモの脇

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前回までのあらすじ
ヒトツバ「ガッチャ!楽しいバトルだったぜ!」
グリーン「やるね、彼」
レッド「誰?」



チャンピオン、VSレッド

「レッド。来てたのか」

 

 どうやらこの青年がグリーンの話していた現チャンピオンのレッドのようだ。しかし彼の目には強者特有の覇気は無く、見ているこちらが心配になってくる。

 

「……来月の予定」

「ああ、そのことな。出発は来週、んでこいつヒトツバって言うんだけど、ヒトツバもついていくことになったからよ」

「……強いの?」

「ああ。俺も負けた」

 

 その言葉にレッドが目を見開いた。そしてヒトツバに視線を向け、一方的に言い放つ。

 

「やろう。バトル」

「え? 今からか?」

「良いでしょ」

「バトルコートは空いてるけどな。にしてもレッド、今日はよくしゃべるじゃねーの」

「え?」

 

 一言二言ずつしか喋ってないのに。どちらかと言えば無口な方ではないのだろうか。

 レッドは自分でも気づいていなかったのかグリーンに指摘されそっぽを向いた。

 

「……別に」

「俺を倒した実力が気になったか」

「……」

 

 赤帽子の奥から半眼で睨め付けられ、「おーこわ」とおどけるグリーン。話はトントンと進み、ヒトツバはまたバトルコートへ戻って来た。

 レベルアベレージを50に合わせ、レッドはボールを取り出す。

 

「一対一でいい」

「タイマンね、オーケー」

 

 現チャンピオンとのバトルだ。エースであるフシギバナで相手をしたかったが、グリーンとのバトルで体力を回復出来ていないフシギバナ、マフィティフ、オニシズクモの三匹は出せない。ならばヒトツバが繰り出すべきなのはそのポケモンだけで完結するアタッカー。

 

「行くよ」

 

 

チャンピオンの レッドが

勝負を しかけてきた!

 

 

「行くぜレントラー!」

「ギャウウ……!」

「……! エーフィ」

「ふぃおん」

 

 ヒトツバが繰り出したのはレントラー。しかしレッドの知っている姿とは違い、レントラーの鬣は正面ではなく逆を向いている。体毛や目の色も原種とは異なっており、全体的に暗い色合いだ。

 レッドは自身の知識に一旦蓋をして、分析を始める。

 

「“めいそう”」

「ふぃおお……!」

 

 透き通る鈴のような音色でエーフィが鳴く。精神を統一し、特殊能力を強化するエスパータイプ得意の積み技だ。ヒトツバも負けじと指示を出す。

 

「こっちも“ビルドアップ”だ!」

「ガォウ!」

 

 エーフィとは対照的に力強く吠える。身体に力が込めて、四肢の筋肉が膨れ上がった。かくとうタイプ特有の筋肉の付き方をレッドは看破する。

 

「……“サイコキネシス”」

「“ワイルドボルト”で突っ込め!」

 

 “めいそう”で強化された“サイコキネシス”を受けながらもそこまでダメージを負ってはいない。“ワイルドボルト”の電撃で打ち破っているのではなく、念動力を歪ませて道を作っている。あのレントラーは“サイコキネシス”を中和しているのだ。

 

「そっか……なら、“シャドーボール”」

「ふぃぃ……」

 

 黒い影が塊となりエネルギーが凝縮されるのを見て、ヒトツバは舌打ちをする。“めいそう”を一段階積まれた“シャドーボール”は“ワイルドボルト”では相殺しきれないだろう。

 

「レントラー! “ワイルドボルト”を地面にぶつけろ!」

「グルォオ!!」

「撃て」

「ふぃおおお!」

 

 “ワイルドボルト”により生じた土煙がブラインドとなり、照準がズレる。手応えも感じなかったことから見るに、あのレントラーのフットワークは見た目に反して軽そうだ。

 

「“シャドーボール”じゃ捉えきれないか。“サイコキネシス”」

「ふぃおん!」

 

 点で狙いを付けるのは難しいと感じたレッドは技を『面』での攻撃に切り替える。

 

「バックステップで避けろ!」

「ガウッ!」

 

 面での攻撃となると射程は落ちるはず。“ビルドアップ”したレントラーの脚力なら一歩で射程外の位置まで下がることが出来る。

 

「……その足が厄介。足場に段差を作ってフットワークを奪おう」

「ふぃ……!」

 

 エーフィの瞳が怪しく光る。どうやら足元に念力で不可視の段差を作り出したようだ。即興で作った耐久力ならレントラーの脚力で壊すことは容易いだろうが、それでも一瞬足を取られてしまえば“シャドーボール”が飛んでくる。

 接近したいレントラーと距離を保ちたいエーフィ、互いにそれぞれのタイプを生かし、駆け引きをしている。

 

「なんだその念動力の精度……!?」

「キミのレントラーはそれをすぐに見切る。眼がいい」

 

 銀色に輝くレントラーの眼を見てレッドは息をつく。こちらの念力は看破してくるならこの策も余り意味をなさない。

 ならば──

 

「エーフィ、“サイコフィールド”」

 

 念動力がバトルコートを包み込み、フィールドはサイコエネルギーが溢れる。“サイコフィールド”の恩恵はレントラーも受けれるのだが、中盤に差し掛かった今、発動させる理由は何なのか。

 訝しむヒトツバを置いて、レッドは続けて指示を出す

 

「……行くよエーフィ。シンクロ技だ」

「ふぃおおおん!」

「なんだ……?」

 

 サイコエネルギーが張り巡らされたフィールドが光輝き、エネルギーがエーフィへと集まっていく。前方に浮かぶ念動力の塊はエーフィの鳴き声と共鳴して数を増やしていく。

 一つ一つのエネルギーが圧縮されており、波のポケモン相手なら一撃が必殺に成りかねない威力であることが見て取れる。

 

「やっべえ……レントラー! 止めれるか!?」

「グルオォ……!!」

 

 流石のレントラーも弾幕が壁になっている状態ではエーフィの元へ行くのは厳しい。つまり、ヒトツバはエーフィがあの技を放つまで攻撃を支持することが出来ない。

 

「“ビルドアップ”を積め! あれを撃たれた後、くぐり抜くて一撃で仕留めるぞ!」

「ガルォオ!」

 

 圧倒的な力を目の前にしても、ヒトツバもレントラーもまだ諦めてはいない。吼えて筋力を集中させ、筋肉の密度を上げる。

 

 そして今、サイコエネルギーが解き放たれた。

 

 

ディビジョン

サイコキネシス

 

 

「ふぃるる……ふぃぉん!」

 

 合計三十ものエネルギー弾がレントラーへ降り注ぐ。一つでも食らえば足を止められ、体勢を立て直そうとしている間に全てが着弾するだろう。

 

「レントラー! よく視て躱せ!! お前ならできる!」

「グルオォ!」

 

 レントラーの瞳が銀色に輝くと、迷いなくエーフィに向かって走り始めた。

 

「右上から三つ、左側面から六つ! 頭上から四つ! 残りは大きく弧を描いて背後に回りこんでいる!」

「ガウッ!」

 

 身を屈め、頭を下げ、横に転がり、後ろに跳び……レントラーは躱しきって見せた。制御を止めた弾が地面に着弾し、フィールドを陥没させる。

 

「避けた……!」

 

 あのエネルギーはエーフィがサイコパワーで直接操っている。追尾機能もついているがそれはあくまで補助的なもので、相手を仕留めるためにわざと散りばめて逃げ道を塞ぐということも出来る程、精度は高い。

 今回も同じように初めは囲うように放ち、抜け出す道を合えて作りそこに誘いこむように操ったのだが、それすらもあのレントラーは避けて見せた。

 

「油断するなレントラー! かなりの威力だ! クレーターに足を取られないように気をつけろ!!」

 

 エーフィとの距離は目算で約十メートル。レントラーの脚力なら二歩で食らいつける距離だ。が、残り十七発の“サイコキネシス”を躱しながらだと十歩は必要だろう。

 

「エーフィ!」

「レントラー!」

 

 互いに名前を呼ぶ。アイコンタクトすらいらないのは、エスパータイプ故か、将又長年旅をして紡いだ絆からか、彼らは視線を逸らさず眼前の敵だけを見据えていた。

 地を駆けるレントラー、星を操るエーフィ。対照的に見える攻防だが、止まっては動き、動いては止まりの急加速と急制動を繰り返すレントラーと思考を分割、演算してサイコパワーを操るエーフィ。疲労はどちらも同等のようだ。

 

 そして、エーフィの操る“サイコキネシス”の数が残り五発になった時、天秤が揺れる。

 

「グルォ……!?」

「レントラー!?」

 

 先に限界が来たのはレントラーだった。疲労が足に来たようで、脚が縺れてガクリと前のめりに突っ込んでしまう。

 

「エーフィ!」

「ふぃお──」

 

 その隙を逃すわけがない。残弾をすべてレントラーに向けて落とす。

 

 負ける。レントラーの目にはその光景が視えた。銀色の光も消えようとして──

 

「レントラー!」

 

 主の声を聞き、目を見開いた。四肢に力を込めて跳ね上がる。

 

「なっ──」

 

 二発分のエネルギーが足元で爆発する。その爆風を蹴りつけて、エーフィの元へ加速した。

 

「ぶっ飛ばせ! “ワイルドボルト”!!」

「グルォオオ!!!」

 

 電撃をその身に纏い、勢いそのままに突進する。エーフィに防ぐ術はなく、轢き飛ばされた。

 同時に、ガクリと膝をついたレントラーに残り三発の“サイコキネシス”がぶつかった。

 

 両者ともに吹き飛ばされ、地面を転がった後、ぐったりと目を回して気絶したのを確認したグリーンが両腕を上げて宣言する。

 

「えー……ダブルノックアウトってことで、この試合は引き分け!」

「……お疲れ、エーフィ」

「ナイスファイトだったぜ、レントラー」

 

 互いにポケモンをボールに戻す。そのまま自然に歩を進めて握手を交わした。

 

「キミ、強いね」

「あんたこそ。あの“サイコキネシス”にはビビったぜ」

「殆ど躱されたけどね。……ねえ、あのレントラーってエスパー、かくとうタイプ? それで“サイコキネシス”を見切ったの?」

「ああ。レントラーは未来が視えるんだ。それで先読みして攻撃を避けたんだ」

「……凄いな。次は二対二でやろう」

 

 このまま二戦目に移ろうとする二人に待ったの声が入る。

 

「待て待てバトルバカども。今日はもうやめとけ。バトルコートがぼっこぼこじゃねえか」

「あ……」

「それもそうだな。いやー、楽しかった!」

 

 晴れ晴れとした笑みを浮かべるヒトツバ。クルリと反転してグリーンとレッドに背を向ける。

 

「なあ。他の地方のチャンピオンもお前らと同じくらい強いのか?」

「うん」

「怖気づいたか?」

「いいや。俄然、燃えて来た!」

 

 まだ見ぬ強敵を見据え、握り拳を天に掲げた。

 

「まあお前が出れるかどうかはまだ分からねーけどな」

「確かに」

「ここまでしといて!?」

 

 恰好がつかない締めである。




オリジナル要素

・シンクロ技
ポケモンとトレーナーの絆によって強化された技。威力が数倍になるものもあれば、効果が追加されるものもある。
ポケマスから名前を流用。ゲーム的に言うとポケモンのなつき度がMAXの時に設定できるようになる。
ひとつの技を選び、発動までの条件をいくつか設ける。今回のエーフィならば「サイコフィールド化且つバトル中めいそうを1回以上発動させる」が発動条件となる。

・アケイシレントラー
エスパー/格闘タイプ
鬣は後ろ側に向いており、逆鶏冠のようになっている。鬣の色は黒と白のアッシュになっており、体毛の水色の部分は藍色になっている。
通常時の瞳の色は紫色だが、エスパー技を使う時などは銀色に光る。尻尾の先も原種とは違い、星に見えなくもない。四肢が発達しており、筋肉質。
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