チャンピオン、転移する 作:ナンジャモの脇
グリーン「バトル開始ー!」
レッド「俺はレッド!ディヴィジョンマサラ!技はシンクロ!つけるぜ白黒!」
ヒトツバ「俺たちの戦いはこれからだ!」
飛行機に揺られること九時間。搭乗口から降りたヒトツバは元気よく叫んだ。
「ガラル地方に~到着!」
「うるせえよ! 目立つなバカ!」
「……二人ともうるさい」
ヒトツバ、グリーン、レッドの三人はドリームリーグに参加するため、ガラル地方へやって来ていた。
ヒトツバの事情のことをダンデに話すと彼は少し逡巡した後、『即決は出来ないが前向きに取り計らってみるぜ!』と言ってくれた。まあ、取りあえず来てもらって話してみてから──とのことだったのでヒトツバ達は一足先にガラルに来たのだ。
と、彼らの後を追って、一人の女性が駆け足で寄って来た。
「ちょっともう! 置いてかないでよ~」
「おっせーぞリーフ」
リーフと呼ばれた彼女はグリーンの言葉に頬を膨らます。
「だったら起こしてくれてもいいでしょ~! レッド!」
「……ぐっすりだったから」
「美しき兄妹愛ってやつだな」
適当なことを言って適当に頷くグリーンにリーフは噛みつく。
「どこがよ! も~ヒトツバさんも何か言ってやってよ!」
「そうだな〜……あ、リーフ、口の端によだれの跡が」
「早く言ってよぉ!?」
そそっかしい彼女はリーフ。レッドの二つ下の妹だ。兄と同じグレーがかった茶髪は腰まで伸びており、ストレートヘアーがガラルの風に揺れて棚引いている。
その姿が同郷の妹分と重なり、不意に会いたくなった。チャンピオンになってからまともに家に帰れていないので、もう二年近く顔を見ていない。
「……元気にしてるかな」
「ヒトツバさん? グリーン達に置いてかれるよ?」
「っ、ああ悪い。ボーっとしてた」
アケイシに戻ったら久々に実家に顔を出そうと思った。
飛行機の後はアーマーガアタクシーに揺られること一時間弱、一行はシュートシティに到着した。
さてバトルタワーはどこかと探していると圧の強そうな女性がこちらへやって来てるではないか。グリーンが手を振っているのでどうやら知り合いのようだ。
「レッド様、グリーン様、それにリーフ様お久しぶりでございます……そちらが?」
「どうもオリーブさん。こっちがヒトツバです」
「初めましてヒトツバ様。私はオリーヴ。バトルタワー委員長ダンデの秘書をしております」
ピシッと45度のお辞儀をされ思わず感嘆の声を上げる。
「初めまして、俺はアケイシリーグチャンピオンのヒトツバです。無理を聞いてもらって申し訳ありません。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致します。ではバトルタワーへご案内させて頂きます。どうぞ此方へ」
オリーヴに案内されてバトルタワーへ向かう。ドリームリーグ前と言うこともあり、ここでは少し市民の目が多すぎる。
なお、顔が知られているレッド、グリーン、リーフとは違い、ヒトツバに注がれているのは奇異の視線ばかりだということに気づいていない。
高い高いエレベーターに乗り、応接室へ到着する。オリーヴに促され中へ入ると、スーツを着た男性が立った状態で待っていた。
「やあ! レッド、グリーン! 久しぶりだな!」
「うん」
「おーす」
ダンデは二人に片手を挙げて挨拶する。二人も同じように挨拶を返す姿を見てヒトツバは驚いた。自分の想像以上にレッドのコミュ力があったからだ。
「……なんか今考えた?」
「いやあ?」
レッドからの訝し気な視線を逸らし、ダンデに目を向ける。彼はリーフに握手を求めていた。
「やあ久しぶりだねリーフくん! カントーからガラルは遠かっただろう?」
「ガラル地方に行くのが楽しみでずっと考えていたらあっという間でした!」
「そら寝てたらすぐだろうな」
「グリーンうるさい!」
「はっはっは! 相変わらず仲がよさそうで何よりだ! で、キミがヒトツバくんだね」
視線が自分に向けられたので姿勢を正す。こういうのは第一印象が重要なのだ。
「アケイシリーグチャンピオンのヒトツバです。この度はお忙しい中──」
「ああ、そういう堅苦しいのは無しでいいぞ。キミの事情はグリーンからある程度聞いている。災難だったな」
「え? あ、ああどうも」
「俺は元ガラルチャンピオンのダンデ。今は引退してこのバトルタワーの委員長をしている」
右手を差し出されたのでがっしりと握手する。握った手のひらからは引退したとは思えないほどがっしりとしていた。
「……引退?」
「おっと。チャンピオンを退いたってことでバトル自体はまだまだ現役だぞ」
タッグオールスターズにも出るしな! と続ける。
通りで、握手した時に触れた掌の独特な豆はトレーナーがボールを投げるときに出来るものだ。引退したのなら柔らかくなっているはず。
「まあ掛けてくれ。オリーヴさん、済まないけど」
「お茶ならもう用意しています」
「おお。流石だ」
見るからに高価そうなティーセットに頬を引くつかせるヒトツバ。果たしてアケイシリーグにこんな食器はあっただろうか。戻ったら食器一式新調するべきかと悩んだ。
「では、ヒトツバくん。早速本題に入ろうか」
「っ、はい」
流石にチャンピオンを勤めていた年季が違う。何が引退した、なのだろうか。ただ座っているだけなのに発せられる『圧』は強者特有のものだ。
「結論から言うと、キミをドリームリーグのトーナメントに参加させることは出来ない」
「そう、ですか。そうですよね」
世の中そう上手くはいかないものだ。いくらチャンピオンだからと言ってもそれはアケイシでの話。実際に戦ったレッドやグリーンとは違い、こちらの世界の人々に取っては『自分の事をチャンピオンと思い込んでいるトレーナー』でしかない。
仮に観客を納得させるとしたらチャンピオン全員と戦い、全員と好勝負をする光景を見せるくらいはしなければならないだろう。
自然と項垂れていくヒトツバ。しかきダンデは更に続ける。
「なのでトーナメントとは別枠の特別参加枠として優勝者とエキシビションマッチをしてもらおうと思っている」
「……エキシビション?」
「ああ! 異なる地方の知らないポケモン! そして別世界のチャンピオン! こんなの盛り上がらないわけがないだろう!」
大仰に両手を広げるダンデを見て、ヒトツバは目をパチクリとさせる。
「いや観客の人からしたら『誰だこいつ?』としかならないと思うんですけど」
「いいや、ガラルの人達は盛り上がると思うぜ!」
「あー、ガラルなら有り得るな」
「確かに」
同意するグリーンとレッド。嘘だろと思って横を見るとリーフも頷いている。
「ガラル地方ってね、他の地方と比べてもポケモンバトルが盛んなの。競技として確立してるからスポーツ興行としての側面があるのよ。だからチャンピオンって肩書きよりも重要視されるのが実力なの。勿論肩書きも大事だけどね」
「そういうことさ」
「そういうことなんですか」
そういうことならば有難く参加させてもらおう。なんだかアケイシに戻ることよりもこの世界のチャンピオンと戦うことの方が目的になってきているような気がしなくも無いが、別に大丈夫だろう。ヒトツバは楽観的だった。
まだ見ぬ強者とポケモンに思いを馳せていると、ダンデがひとつ提案を持ちかけた。
「しかし俺としても実際にキミの実力を見た訳では無いから説得力もかける。どうだろうか、一度俺とバトルしてみないか?」
「ダンデと良いバトルしてるところを市民が見ればお前がスタジアムに出た時も『あ! あの時のトレーナーだ!』ってなるかもな」
「でも八割は委員長が戦いたいだけですよね」
「そ、そんなことはないぜ!?」
「凄い大声だ!?」
図星を突かれて平常時でも大きい声量が更に増している。動揺しているダンデの後ろに控えていたオリーブがため息をついてタブレット端末を取り出した。
「そうなると思って明日の委員長のスケジュールは開けておいてあります」
「流石だぜオリーヴさん!」
「秘書ですので」
サラリと美しい金髪を流すオリーヴ。この人が入ればどのリーグもさぞ華やかになることだろう。有能オーラが凄いのも加点だ。
「じゃあ今日は一旦解散にしようぜ。流石の俺も長旅で疲れた」
「おっと済まない、長話になってしまったな! ところでキミ達はもう宿を取ったのか?」
「まだ」
「なら俺が案内しよう! 街一番のホテルを取っておいたからな! そこで英気を養ってくれ! もちろん費用は此方が出すから気にしなくていいぜ!」
「ひゅ~、太っ腹」
「やったー! さっすがダンデさん!」
口笛を吹くグリーンと両手を上げてきゃぴきゃぴ喜んでいるリーフの二人と反対にヒトツバは口をあんぐりと開けて驚いている。
「ヒトツバ、ギャラドスみたいな顔してる」
「誰が湖の暴君じゃ! てか、いいんですか!? そんないきなり四人もなんて」
「ヒトツバ君! 権力ってのは使うためにあるんだぜ!!」
「ダメな大人だ!?」
先程まで太陽のように眩しかったダンデの顔が途端に怪しいものに見えてきた。こんな男が委員長を務めてガラル地方は大丈夫なのだろうか。
戦慄するヒトツバを見て、ダンデが苦笑する。
「ははは、冗談はここまでにして。本音は俺の我儘でしかない。単純に最高のコンディションのキミと戦いたいだけなのさ。キミもトレーナーなら分かるだろう?」
「……はい!」
自分の調子を万全にするのが恩を返すことになるのならば、有難く泊まらせて貰うことにしよう。
「じゃあオリーヴさん、俺は彼らを案内がてら飯を食べてくるからあとは任せたぜ!」
「駄目です。案内は係りの者を付けますので委員長は執務の続きをよろしくお願いいたします」
ピシリ、と何かが固まった音がした。発生源に目を向けてみれば、ダンデの顔が笑顔のまま蝋に固められたように動きを止めているではないか。ヒトツバはダンデとオリーヴの纏う空気に既視感を得た。
「貴方が今日この時間に話し合いたいと仰ったので無理に作った時間の皺寄せが出ています。通常の三倍のスピードで処理してください」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。息抜きも必要だろう?」
「そうですね。今出来て良かったですね」
「久々にリーフくんと会えたしバトルサポーター視点のバトルの話も聞いて知見を広げた方がいいと思ってな」
「素晴らしいお考えですね。では後日トップサポーターの論文を用意致します」
「くっ……! そ、そうだ! ヒトツバ君は初めてガラルに来たんだ! 案内役が必要だろう! やはりここは──」
「レッド様とグリーン様は何度も訪れています。今日初めて顔を合わせた貴方よりも多少なりとも気心の知れたご友人に案内された方がヒトツバ様も気が楽なのではないでしょうか?」
完璧だ。ダンデの反論を悉く正論で潰していく姿には恐れを通り越して尊敬の念を抱く。ダンデも説得の材料が無くなったのか遂にはヒトツバに眼光を向けて訴えかけて来た。
「…………仕事はしましょう」
「ぐはぁ!?」
「ワーカータイムです。
「う、う、うおおお!! ガラル地方を楽しんでいってくれぇええ!!!」
そう叫んでダンデは応接間を出て行った。振り向き様に雫が中に零れたように見えたが、きっとそれは汗だろう。
「……それでは私も失礼致します。係りの者が来るまで暫しお待ちください」
「あっ、はい」
ヒールを鳴らしながらオリーヴも退室した。四人の間には沈黙が流れる。
「……あー、うん。その、なんだ」
「いや、言いたいことは分かるぜ」
「うん……」
チャンピオン職を経験したことのある三人だからこそ、ダンデの気持ちは痛いほど分かる。
ポケモンバトルが好きでチャンピオンにまでなった人間がずっと椅子に座って執務をこなせるかと言われれば、それは否である。
「あたしはなったことないから分かんないけど、もしかしてチャンピオンって大変?」
「「「うん」」」
三人が三人声を揃えての返事に苦笑いしか浮かばなかったリーフだった。
オリジナル要素
・バトルサポーター
トレーナーのマネージャーのようなもの。殆どが専属であるが、リーフはレッドとグリーン二人のサポーターをしている。
基本的にはバトルのスケジュール管理やトレーニングの組み立て、ポケモン達に合わせたフード作り。ポケモンとトレーナーの体調管理などなど……仕事は多岐に及ぶ。なのでジムリーダーや四天王などのサポーターは複数人いることが当たり前となっている。
・リーフ
レッドの妹。バトルが強い兄と、それに張り合う兄の幼なじみを見て自身もバトルに惹かれる。だがレッドやグリーンのようなデタラメの強さには敵わないと悟り、バトルから手を引いた。
二人がチャンピオンになり始めた頃と同時期にサポーターの資格を取り、二人のサポーターとなった。
幸いにもサポーターとしての資質はかなり高かったようで、二人のサポートを楽々とこなしている。