魔法少女リリカルなのはStrikerS WitH 作:八神煌斗
アテナ side――――――――――――――――――
重い空気が、医務室を包み込んでいます。
《そしてここから先は、はやてさんが知っている通りです》
「私の家の前に倒れてて、記憶を失ってたのはそういう意味やったんか……」
「だけど、何ではやての家だったの? 監視されてる可能性もあったんでしょ?」
フェイトさんがもっともな事を聞いてきました。
《それも考慮した上です。夜天の魔道書が目覚めない時点では管理局の接触はしないでしょうし、もし目覚めたとしても守護騎士がいます。
主の友人、それもあんな子供を攻撃はしない、とディズ博士達は考えました》
「成る程。そして本当にその通りになっちまったって訳だな、相棒?」
《えぇ、そうです……はい?》
今の声、誰の声ですか?
いえ、今はこんなボケはいりませんね。
では、とりあえず――
《相棒、何時……》
「ウィズ! 何時、目覚めたんや!!?」
《……ぐすん》
side out――――――――――――――――――
上半身だけ起き上がる。
「何時って……『アテナ、早速やけど聞かせてくれるか?』って辺り」
「最初からやないか!!」
「そうとも言うな」
多分アテナが慌ててたせいで中途半端だったんだろう。
あそこで目が覚めたら、またややこしくなりそうだったから寝たフリしてたけど……。
ふむ……。このタイミングも間違えたか?
――それにしても……。
「…………」
「ウィズ?」
「俺、人間じゃなかったんだな……」
そう言ってベッドに再び倒れこみ、右腕で目を隠す。
なんとか普通に行こうと思ったけど
……駄目、泣きそう。
「……ゴメン、皆。ちょっと二人きりにしてくれへん?」
はや姉がそんなことを言った。
そして今、病室には俺とはや姉の二人きり。アテナも居るけど……珍しく黙ってる。
「ウィズ」
「ん」
はや姉の声にも、適当に反す。
俺、こんなにヘタレだったのか。
「私な、部屋の片隅でいつも不安で、震えてたんよ」
「?」
突然……何の話だ?
「朝起きてもおはよう言う相手もおらへん。もちろんおやすみもや。学校も行ってなかったから友達もおれへん」
「…………」
「でもな、ある日男の子が私の前に現れたんよ」
その男の子って……もしかしなくても、俺のことだよな?
「朝に起きたらおはようって言って、お昼になったら遊んで、夜にはおやすみ言うて分かれる。それが凄く嬉しかったんや」
分かってる。
そんなアタリマエとか、普通の中の幸せが、はや姉には無かったって事くらい。
うぬぼれる訳じゃないけど、俺と出会ってその普通を手に入れたことも知ってる。
でも……。
「――だからなんなんだよ?」
「ウィズ?」
今は自分は制御できそうに無い。
「だから何だって言ってんだよ!」
「っ!」
再び、上半身だけを起こしはや姉を睨みつける。
完全な八つ当たりだって分かってるのに、止まらない。
「俺だって、記憶が無い俺を迎え入れてくれた事は嬉しかった! 今でも感謝してる! でも今はそんな事関係ないだろ!?」
「ウィズ……」
「俺は! 人として求められたんじゃない! ただ、やは姉を殺すために作られた――っ!?」
作られた兵器なんだ、と。言おうとした。
でも言えなかった。
「イヤかもしれんけど、そのまま聞いてな?」
気が付けば、はや姉の抱きしめられていた。
「確かにウィズは私を封印する為に、殺すために作られたかも知れへん。コレは今更どうしようも無いことや」
はや姉の穏やかな声が俺の腹に素直に落ちてくる。
軟らかい、はや姉の愛が俺に届いてくる。
「でもな、そこからどうするかはウィズしだいなんやで?」
「俺……しだい?」
「そうや」
俺しだいって……。
俺がどうしても、俺が兵器だって事には変わり無いのに。
悩んでいるとはや姉が教えてくれた。
「生まれてきた理由と生きていく理由はまったくの別物や。生きていく理由は自分で見つけるもんや。私でもシグナム達でもない。ウィズ自身がや」
生きていく……理由。
俺の、俺が見つける……。
「でも、俺は……」
「そんなに頑張らないでいいんや。辛いときはお姉ちゃんに辛いって言って良い。泣き顔が見られたくなかったら、お姉ちゃんが隠したる」
「…………」
「だから、泣いてもええんよ?」
「あ……」
……泣いちゃ駄目だと思ってた。
強くなるためには辛い事にも耐えないと駄目だと思ってた。
辛い任務ばかりでも、泣かないで頑張った。
「私が、ずっと側にいるから。悲しい影に惑わされんといて」
「う……うぅ……うわあああぁぁぁ!!」
泣いた。
遠慮もなく、涙が出るまま、気持ちが沸いてくるままに。
はや姉はその間、何も言わずに俺を抱きしめていてくれた。
それが余計に……俺の気持ちがあふれ出した。
「落ち着いたか?」
「……うん」
それが1分だったか、10分だったか。
そう時間は経っていない筈だけど、俺は落ち着いていた。
はや姉の側にいてくれると言う一言が、たった一言が俺の気持ちを幾分楽にしてくれた。
勿論、まったく楽になったって訳じゃない。
どこかでまだ自分の存在に疑問がある。
でも、はや姉が居てくれると思うと……気持ちは軽く、楽になる。
「ウィズ。今回の任務はどうするかは自分で決めるんやで」
「……あぁ」
今回の任務、ゆりかご攻略。
これ任務に当たるって事は、ほぼアイスマンに接触するといっても間違いない。
その時俺は、落ち着いて、冷静でいられるのか?
「ほなな。私がしてあげれるのはここまでや」
「うん、ありがとう。はや姉」
はや姉は最後に俺に微笑んで部屋を後にしていった。
「なぁ、俺はどうしたらいいと思う?」
《さぁ?》
アテナに聞いてみたが、まさかの返答に面食らってしまう。
「お前……こういう時は慰めるのが王道だろ?」
《私が慰めて元気になるんでしたら、いくらでも慰めますが?》
「ぐっ……」
確かに今アテナに慰めてもらっても答えが出る可能性はまったくのゼロだけど……。
「お前はこんな時でもいつもどうりだな?」
《それが私の良い所ですから》
「自分で言うなよ」
とまぁ、何だかんだでコイツと話してても、楽になってるのは確かなんだよなぁ。
本当に情けないな、俺。
《相棒》
「ん、どうした?」
自虐的思考に陥っていると、アテナが少し真面目な感じで話しかけてきた。
《相棒はどうしたいんですか?》
「どうしたい?」
《では聞き方を変えます。どうしたかったんですか?》
「俺は……」
俺は何がしたいんだ?どうしたかったんだ?
いや……そんな事は自問しなくても分かってる。
「俺は、皆と一緒に居たくて――」
だから才能が無くても、頑張って管理局に入隊した。
「――それで、守りたいんだ」
大好きな姉さん達を、幼心にでも守りたいと思ったんだ。
【何から】なんて、分からなかった。
けど、そう感じたんだ。
だから姉さん達から、射撃魔法を習って、剣術習って、隠れて特訓して。
そして、俺に始まりをくれたはや姉に……。
「笑ってて欲しかったんだ」
《ならそれだけで十分じゃないですか。相棒が生きていく理由は相棒が見つけ、選ぶ物です》
見つけ、選ぶ物……。
「……そうだな。俺は……皆を守りたいんだ」
《それなら、どうしますか?ここでさっきまでの様にウジウジしてますか?》
「決まってんだろ!」
俺はアテナとインビエルノを手に取り、扉を潜った。
「やりたい事を、やりに行く!」