パチ…パチパチ……
焚き火の燃える音が夜の静かな荒野に響きわたる。
火を囲むのはルナカブとドクター、ただの2人だけ。
傍らには布を繋ぎ合わせて作った一般的に市販されているテントと比べて明らかに粗悪なテントが1つ。
今日、2人はここでキャンプをする。
「ドクター、今日はありがとう。普段は舟でしか野営できないからルナカブはとってもうれしいのだ」
今日はドクターが無理を言って許可を貰い、舟の近くで行うという条件付きでこのキャンプが成立していた。
「やっぱり屋根があるのは嫌いだし、狭い部屋も嫌いだ。外はこんなにも広いのに。獲物だってある、群れの仲間もいる、綺麗な星や月だってあんなにハッキリと見える」
言われるままに空を見あげると、そこには煌々と輝く星々。
それは、普段仕事に忙殺されるドクターにはあまり見ることのない光景だった。
そして思わず綺麗だ…と口走るほどにその光景に見蕩れた。
ドクターは彼女が度々規律違反を起こしてデッキでテントを広げていた理由を今日1日で理解した。
それは何者にも縛られない、自由そのもの。
彼女は群れで狩りをし、獲物を食べ、そしてこのちっぽけなテントで寝る。
それが彼女のロドスに来るまでの姿であり、それはとても伸び伸びとしていた。
これだけ広い世界で過ごすことに慣れていると、ロドスでの生活はさぞ窮屈だろう。
「よし、焼けたぞ。ほら、食べろ」
渡されたのは某海賊漫画で見るようなこんがりと焼けた骨付き肉だった。
ドクターはこれを食べるのを少し躊躇った。
常日頃、ルナカブが頑張らないものには獲物はないと言っていた手前、何もしていないのに食べるのは良くないのではないか、と。
「どうした?食べないのか?……何もしていないのに食べてもいいのか、だと?…ドクター、お前は今日この機会を作ってくれている時点で充分頑張ってくれていたのだ。
それにアンニェーゼから聞いたぞ。今後もこういう機会を定期的に作ってくれるんだろ?
『いろんなきそく』って言う群れの掟があるのに、それをねじ曲げてまでルナカブに良くしてくれてるんだ、恩を仇で返すようなことはしない」
普段無表情なことが多い彼女が、この時ばかりは柔らかい笑みを見せた。
「あのキラキラのメダルを沢山くれてルナカブを信頼してくれた時から、お前を群れに入れてやってもいいと思ってたんだ。でもそれが、今日確信に変わった。
ドクター、ルナカブの群れに入ってくれ。お前は良いやつだ。ルナカブがあの舟で過ごす上でお前の存在はとっても重要だ。壁や天井ばっかりの窮屈な舟の中でも、お前と一緒なら我慢してもいいって思えるんだ。
だからドクター、この獲物を受け取って欲しい」
立ち上がったルナカブの真っ直ぐな眼差しがドクターを貫いた。
満月のような黄色い綺麗な瞳に魅了され、気づけば差し出された肉を受け取っていた。
「受け取ってくれてよかった。これでお前もルナカブの群れの一員、改めてこれからもよろしくな!
よし、じゃあ冷める前にさっさと食べよう!」
月の子と肩を寄せあって食べた肉はとても美味しく、特別な味がした。
そんな2人を祝福するかのような遠吠えがどこからともなく聴こえた気がした。
「あ…ふふ、ありがとう、アンニェーゼ」
群れの契り交わしてぇ…