ダンジョンで〈英雄〉を追い求めるのは間違っているだろうか?   作:ネマ

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この小説を読んだ後君はきっとこう言うだろう……!

何故ベルをTSさせてヒロインにしなかった??と。


第1話 水剣

 

 

 

古い、昔の夢を見た。

まだ誰も彼もが生きていて世界には自分と両親と幼馴染とその両親しか知らなかった時。父様は母様の“英雄”で母様は父様の“運命”だった時。

 

「英雄かぁ……」

 

いつもの様に自分と幼馴染は川の畔で2人並んで座った。ただ無邪気に肩を並べながらいずれ来る将来に向けて笑いながら話した。……だって幼馴染の両親もそうだったから。自分も幼馴染もきっとそうなるだろうと薄々考えていた。

 

自分だけの“英雄”を。自分だけの“運命”を見つけるという事。

 

「ね。◼️◼️◼️?」

 

けどそうはならなかった。そうなるはずだった未来はある日突然消え失せる。

自分の両親も幼馴染の両親も帰ってこなかった。帰ってこないまま数日。未曾有の事態に泣きじゃくる幼馴染に何となく自分は気がついていた。

 

父様たちは“役目”を全うし、母様も“宿命”に殉じたのだと。

 

悲しかったかと言われるとそうなのだろう。でもそれを越えるほどの感情が自分には湧き上がっていた。……その感情の名前は“羨望”。役割を全うして宿命に殉じてそうなる筈だった結末に一切嘆く事なく愛し合っていたあの2人が。

 

どれほど素晴らしい“理想”だったのだろうかと。

 

「…………なに?」

 

「◼️◼️◼️は……何処にも行かないよね?」

 

金色の目を涙に濡らしながら幼馴染の少女は抱きついて離れない。

幼馴染の何処にも行かないでという遠回しな懇願は、死んだ両親へ向けた感情が追悼ではなく羨望だった自分にとって、どうして幼馴染を思う様な返事が出来るだろうか。

 

「………ううん。自分は“英雄”を探しに行く」

 

あの日。“何よりも怖い化け物”に臆する事なく向かっていった父様と母様。

命を運び、与える水の精霊の子孫として自分は母様みたいになりたかった。いずれ現れる“英雄”の背を支える“相棒”に。………憧れに目を輝かせる自分とは裏腹に“まるで絶望したかの様に瞳から光を消した幼馴染”を気にもかけず。

 

「……………じゃ、じゃあね?」

 

あの遠い空の果て。まだ見ぬ世界には“人間”が“エルフ”が“獣人族”が“小人族”が“ドワーフ”が多種多様な“英雄”になるかもしれない器を持つ人たちがいる。と母様から聞いていた。まだ幼いこの身であろうと憧れは止められなかった。

 

幼馴染の少女のか細い声が聞こえる。まるで慌てる様に耳元で呟く幼馴染の少女の声にはもう涙で震える声とは程遠く、“まるでありし日の英雄”の様な力強い言葉が紡がれた。

 

私が英雄になったら…ずっと一緒にいてくれる?

 

この時。自分はなんて返しただろうか。今となっては確かめようの無い原点。

 

 

 

 

 

 

貴方は世界の中心。“オラリオ”という都市を知っているだろうか。

元々は“迷宮”というダンジョンから出てくる凶悪なモンスターの巣窟を封印する様に作られた都市。“神々”の居住区である“バベル”を取り囲む様に出来たその都市は神から受け賜る『神の恩恵』という力を持って迷宮に挑む。

 

───そんな老若男女を人は〈冒険者〉と呼んだ。

 

 

 

「あー!もう帰る途中だったのにぃぃぃぃぃ!!!」

 

ドップラー効果を発生させながら男女数名がいかにもダンジョンらしい洞窟を駆け上がる。そうここはダンジョンの中。その物音に引き寄せられたモンスターも新しく出てきたモンスターもその男女数名はまるで轢き殺すかの様に瞬殺し、とある存在を追いかける。

 

「もう後二体程度…!」「アイズ。こっち」

 

とある存在というのは“ダンジョン内に存在するモンスター”。個体名で言うなら【ミノタウロス】である。迷宮の深いところに潜る〈冒険者〉なら難なく倒してしまえるだろうが男女数名が駆け上がる浅瀬は初心者が多い。…そのため追いかけている【ミノタウロス】は他の冒険者を殺してしまう危険性がある。

しかし、何故逃してしまったのだろうか。

 

「なんでモンスターが逃げるんだよぉ!!」

 

「ふざけんな!俺が知りたいわ!!」

 

そう。この男女数名が所属している冒険者の集まり…通称ファミリアのメンバーであるロキ・ファミリアはついさっきまで迷宮の深層と呼ばれる深いところまで潜っていた。まだ見ぬ深さに挑もうとした時。異常事態が発生し、団長である【勇者】フィンの命令で一旦帰宅する事になった。

その途中であったのが【ミノタウロス】である。何故か知らないがこのミノタウロスはロキ・ファミリアを見た瞬間、戦うわけではなく全力疾走で逃げ出したのだ。

 

勿論、追いかけて討伐しないわけにはいかない。動けて…尚且つステータス上にある“俊敏”の値が高い男女数名の精鋭がモンスターの後を追う。

 

()()()ァ!水貸せ!!」

 

「ざっけんな!もう魔力尽きかけだぁ!!」

 

白い髪と白い狼耳をたなびかせた【凶狼】ベート・ローガは前を走る金髪2人の内の1人に声を掛ける。風を纏う少女とまるで空を蹴るかのように縦横無尽に進む少年の内…アミラと呼ばれた後者が一瞬振り返りベートに大声を張り上げる。

 

「ちっ!ラスト一体追って!アイズ、アミラ!!」

 

「「………………!!」」

 

その後ろから追従してきたアマゾネス…【怒蛇】ティオネが前を走る【剣姫】アイズとアミラに声を掛ける。その瞬間、自分が先だと言わんばかりにまるでかけっこを始める様にさらに加速を始める二人。

 

「見えた……!」「………………!!」

 

暴風が吹き荒れる音と空を切る無機質な駆動音が空間に満ち始めた時、そこには2人が追っていた筈の巨体…ミノタウロスが人間の数倍以上に膨らんだ腕を振り下ろさんと構えていた。

ミノタウロスの後ろには一つの人影がある。つまりもう冒険者が襲われている最中だったのだ。なりふり構っていられないと言葉にするわけでもなく2人とも示し合わせた様に一つの言葉を口にする。

 

「【目覚めよテンペスト】」

 

「【滴り満ちよアクエリスタ】」

 

それは魔法。超短文詠唱で起動されたその二つの魔法は一つは風となり、一つは水となりミノタウロスの背後を強襲する。同時に起動された二つの魔法が“意外と相性が良すぎるのか”一つの暴風雨となり風はミノタウロスの身体を引き裂き、水はミノタウロスの身を穿つ凶弾になる。………まあつまりはオーバーキルという事だ。

 

「………やぁ少年。無事か?」「…………無事?」

 

金髪青目の少年と金髪金眼の少女。

本来ならここでミノタウロスの臓物に濡れた少女を怖がったかの様に逃げ出す筈だった白く赤目の少年はまるで見惚れる様に2人を見上げる。それもそうだ。ミノタウロスの臓物に濡れた筈の血の色はまるで溶け落ちるかの様に2人から消えたのだから。

 

「…………え、あ…はい。」

 

未だ呆然とするウサギの様な少年を尻目にアミラは考える。アミラはとある“スキル”の影響で周囲の人間の身体の動きなど“内部”の細部まで分かる事が出来る。この少年は身体付きからしてまだまだ駆け出しも駆け出し。それでも……

 

(ミノタウロスから逃げる選択が出来るのか……!)

 

今となっては秒殺のミノタウロスだが昔の…それこそアミラが駆け出しだった頃にミノタウロスと戦うのは遠慮したい。更にはきっと多くの人間は足を竦めて立ち止まってしまうところをこの少年は逃げ出し“生存”を掴んだ。

 

「少年。名前は?」

 

「……っと。ベル、ベル・クラネルで、す」

 

ベル・クラネル。ベル・クラネルと。アミラは口の中で何度も復唱する。

この“見応えのありそうな”ルーキーの名前を覚えておこうと。

 

「ベル・クラネル。覚えておく……所属ファミリアは?」

 

「…………!?」

 

「ヘスティア・ファミリアです!」

 

覚えておく。とアミラが言った途端、その横で所在なく周囲を見渡していたアイズが綺麗な二度見をしてアミラを見る。それほどアミラが“ベル・クラネル”という名前を覚えておくと言ったのが珍しかったのだろうか。

 

「一旦帰ると良い。……また後日連絡させてもらう」

 

「は、はい!」

 

ベル・クラネルを見送り、アミラは後ろから迫りつつある本陣の方に向かっていく。どうやらもう既に他の場所に逃げたミノタウロスを倒していたメンバーも本陣に帰っていた様だ。

 

「……………ねえ。アミラ」

 

「アイズ……?」

 

向かっていく最中。アミラの背に一つ声が掛かる。

アイズの声だ。だがそのアイズの声は何処か震えており、まるで何か強い感情を抑えている様にも聞こえる。アミラが振り向くとそこには髪が表情を覆い隠してよく見えないがそれでも全身を震わせたアイズがいた。

 

「…………………ううん。なんでもない」

 

「そう?」

 

直後、一度息を吐いたアイズはいつもの様に表情が見えにくい仏頂面で本陣に歩いていく。これは少し機嫌悪いな…と悟ったアミラはアイズに合わせて歩きそのまま本陣に向かったのだった。

 

 

 

 

 

ダンジョンに異常事態が発生したとはいえ、無事に帰る事が出来た。

レベルアップという偉業を成し遂げたのは今回は残念ながら居なかったがそれでもステータスに上昇は見られる。とりあえずお疲れ様という慰安も込めてロキ・ファミリアは〈豊饒の女主人〉という酒場にお邪魔する事になった。酒だけでなく料理の質も高く、そしてロキ・ファミリアのような最大派閥から小さな木っ端冒険者まで平等に受け入れる人気店である。ちなみに店員も可愛い。

 

「それじゃ!かんぱーい!!」

 

ロキ・ファミリア主神。ロキの掛け声で乾杯となった。主神ロキが酒豪…という事もあってかここロキ・ファミリアには飲兵衛が多い。エルフのやんごとなき身分のリヴェリアや向こうでとあるアマゾネスから無限にモーションを掛けられているフィンや酒乱の気しかないアイズは酒を呑まずお茶やノンアルコールジュースなどを片手に料理を楽しんでいた。

 

 

宴もたけなわ。別のテーブルでは酔いつぶれていたり、酒豪の中でも種族的にも個人的にも酒が強いガレスが笑いながらまた度数のバカ高そうな酒を浴びる様に飲み、それに感化された様にベートが千鳥足になりながらも酒を飲み、アミラもいつも以上に酒を飲んでいた所だった。

 

「なあ!アミラ!聞かせてやれよ!!」

 

突然、ベートがアミラに絡み出すまでは。

酔ったベートの声は広く響き〈豊饒の女主人〉内部全てに響き渡る。アミラはそんな兄貴分の痴態に少し眉を顰めるがそれでも聞きの姿勢に徹する事にした。

 

「お前が助けたあのウサギ野郎だよ!」

 

「兎………?ああ。ベル・クラネルの事か」

 

あのウサギ、ミノタウロスにビビって腰抜かしてやる所をアミラに助けられたんだってよ。と嘲笑うかの様なベートの口調にアミラはベルのことだと名前を出す。

サラリとアミラの口から他人の名前が出てくる事に驚くかと言わんばかりにロキの細目がまんまると開かれ、リヴェリアがフィンが驚く様にアミラを見る。

 

「一体どこに笑える要素がある?……むしろ称賛される所だらけだろうに」

 

酒で多少口が軽くなっているのかアミラのその口調にはベルへの盛大な称賛の言葉が響く。珍しい…というよりか初めて聞くレベルでアミラは楽しげにベルを褒めるかの様に肩を揺らす。

 

だが、アミラの周囲ではあり得ないほどの驚愕が渦巻いていた。

ロキ・ファミリア内においてアミラは基本的に幹部級との付き合いしかない謂わば“高嶺の花”の1つと化していたし、幹部級でもそれこそフィンやガレス、リヴェリアというトップ。そして幼馴染のアイズとしか関わっていない所を見る事も多い。……それこそ話しかければ意外と気さくに話してくれるとは言うが、大体【剣姫】が牽制していると言えばその難易度は高いと言えるだろう。

 

「けっ……良い子ちゃんぶりやがって。」

 

「そうでもない。俺はあのルーキーに“期待”しているんだ」

 

震えるだけのゴミに救いようはねぇ。最初から冒険者名乗んな。とあの白兎をこき下ろすベートに流石のアミラの思うところがあったのか“期待”の二文字をついに声にする。……アミラにとってそれは、ただの期待だったのかもしれない。だが周囲は少なくともそれをただの“激励”以上の言葉と受け取ってしまったのだろう。

 

「はっ!なるほど…てめぇはあのウサギに“英雄”でも見出したってか?!」

 

これは傑作だと言わんばかりにベートは先程よりヒートアップする。まるで万の恨みがこもっているかと言わんばかりの怒号に、ついにアミラは顔を顰めながらベートの挑発に乗る。

 

「まだまだ原石だがあり得ん話ではない」

 

「はっ嘘だな。そんな筈がねえ。お前より弱く、アイズより軟弱で何よりも救えない。気持ちだけ“救われて”、ただ漠然とした“憧れ”でお前の“相棒”足り得る資格はない」

 

「………………………………」

 

酒に酔っているというのにベートの口調は芝居がかり、そして分かりやすくアミラの幼馴染のアイズも織り交ぜてベルをこき下ろす。そうアミラの“英雄”であるアイズを織り交ぜて。アミラの言っていることは間違えていると言わんばかりに。

 

 

「“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ」

 

 

その瞬間大きな物音を立てて〈豊饒の女主人〉から何か人型の何かが疾走して出ていったことをアミラは知覚する。そしてアミラは先程出て行った人影がベル・クラネルである事に気がついた。

 

 

「………………………」

 

「んー……どうしたんや?アミラたん」

 

魔力が尽きる…つまりは精神疲労になりかけのアミラがどうにか絞り出した水弾をベートの頭上に落としてアミラは〈豊饒の女主人〉の戸を開けて周囲を見渡す。どうやらアミラが知覚出来る範囲にはベルはいない様だ。まずい事してしまったなとアミラが周囲を見渡している所に後ろでは水浸しになったベートが周囲数名から縄で縛られ吊らされるという珍事が起きていた。

 

「………ロキ。」

 

「あいはいロキたんやで……言っててダサいなこれ」

 

そんなアミラの背に声を掛けるのは主神ロキ。アミラとアイズを幼少期から見てもらっている育ての親の1人。飲兵衛でどうしようもないカプ厨であるロキだがアミラの信頼している人である。

 

「あの時、何か言えただろうか」

 

「いんや。無理やでアミラたん」

 

あの時をどの時と言うのだろうか。少なくとも天界でトリックスターと言われたロキは多少酔っていていても気がついている。先程逃げ出したのがアミラのいう“新しい英雄候補”だという事に。

 

「アミラたんにはおるやろ?……アイズたんっていう英雄が」

 

浮気になってまう〜と嘯くロキにアミラはただ無言でロキの姿を見続ける。

そう、かもしれない。昔の本当に昔の“約束”。今となってはアイズでさえも覚えていなさそうな契約未満の“約束”にアミラは先ほどまでのベルに対する期待を封じ込める。

 

「ささ。戻ってお酌してや。」

 

アミラたんにお酌してもらうの久々だしーとロキはさっさと〈豊饒の女主人〉に戻って行った。数秒、数十秒経った後にアミラはノロノロとロキの後を追ったのだった。

 

 

(せや。どれほどアミラが“運命”を感じたとしてもそれはあかん)

 

後を追ったからかアミラは最後までロキの鋭い視線に気が付かなかった。

 

(アミラたんにはアイズたんがおる。アイズたんにはアミラたんがおる)

 

アミ×アイ派最大宗主であるロキは純愛厨である。天界でやってた所業?うーん知らん。とばかりにアミラとアイズの仲が続く様にと一番思っているのはロキだ。それにアミラがまさか目にかけるのが男だとは。もしこのまま行くとアイズたんが男に男を寝取られるという大惨事が発生してしまうと危惧していた。

 

(まあ。それはそうとアイズたんははようアミラたんと“本契約”交わすべきやとは思うけどなー)

 

トリックスターであるロキは世界を嗤う。だけどそれでも自分が『恩恵』を与えた“子供たち”が幸せになって欲しいとは心の底から思っている。

 

 

 

 

 

ベル・クラネルは1人夜のオラリオを疾走する。

瞳から涙を流さんとそれでもベルはオラリオを…ひいてはダンジョンに向かってただ走る。

 

「畜生……畜生……畜生っ!!」

 

オラリオに来た理由なんて育てのお爺ちゃんが死んでそんなお爺ちゃんがオラリオに行けって言われたからだ。ただそれだけの理由。けど運命はそこでヘスティア様という神様と会えて夢の〈冒険者〉になれたと思った。

 

『………やぁ少年。無事か?』

 

初めて潜ったダンジョンで気分が高揚していたと思ったら、そこで突然【ミノタウロス】に襲われた。恩恵を貰って間もないレベル1がどれだけ逆立ちしても勝てない相手。自分はすぐさま逃げる事が出来たけどそれでも追い込まれた時はもうヤバいと思った。そしたらその時会えたのだ。

 

人形の様な金髪と海の様な青い目の男性に。

 

目では追えない速さで切られたミノタウロスにまるで“魔法”の様に落とされるミノタウロスの血だとか汚いものが。そして腰を抜かしていた自分の腕を掴んで立たせてくれるという優しさが。

 

それはまるで自分が夢見た英雄の姿の様で──────

 

『ベル・クラネル。覚えておく』

 

そしてそんなまだ駆け出しの自分をわざわざ覚えておくとまで言ってくれたあの人。自分の憧れと羨望のまま、送り返された道を意気揚々と走る事になった。

 

『エイナさーん!!』

 

ダンジョンを出てギルドに戻った時、自分のアドバイザーであるエイナさんの所に真っ先に突っ込んだ。自分の名前は“あの人”に教えてもらったけど“あの人”の名前は聞いていなかったとベルは痛恨のミスを今、実感した。

 

『金髪青目で水を纏っていた剣士さんね………』

 

アドバイザーであるエイナはベルの言っている“金髪青目の水を纏う剣士”の正体が誰か薄々勘付いていた。というか金髪青目という時点で限られる上に水を纏っていたとなると今日までダンジョンに潜っていた冒険者だと1人しかいない。

 

『それは…【水剣けんき】アミラ・フォンディアスさんね』

 

『けんき……ですか?』

 

けんき…アミラさん。アミラ・フォンディアスさん。と何度も何度も自分の理想の人を心の中で復唱して心に焼き付ける。それでも剣の鬼とは随分勇ましい二つ名だなぁとベルはふと考える。

 

『ベルくん。アミラさんの二つ名は水の剣と書いてけんき。よ』

 

『水の剣と書いて……』

 

そう思えば凄く似合っている二つ名だなと憧れる。

あんな風に一撃で消し飛ばして更にはこんな自分まで覚えておいてくれるだなんて。

 

『それで…ベルくん。君はどうしてそのアミラさんが気になったの?』

 

『実は………』

 

ダンジョンの深いところまで潜ってしまった所、何故か下から逃げてきていたミノタウロスと鉢合わせてしまった事。どうにかして命からがら逃げ出せたのは良いものの行き止まりに行ってしまい後少しというところで後ろからアミラさんに助けて貰った事。

 

その後、深く潜った事で〈冒険者は冒険しては行けない〉という鉄則だとかお叱りを受けてしまったけど僕にはもう憧れしか目になかった。魔法はまだ遠いけどあんな風に人をサラリと助けてあげられるような英雄になりたい。

 

 

 

そうしてファミリア…小さな廃教会の地下が自分たちヘスティア・ファミリアの居城だ。そこではヘスティア様が今か今かと僕を待っていたのだった。

 

『ステータス150アップ?!!』

 

ステータスというのは力、耐久、器用、敏捷、魔力という項目に分けられ、僕は魔法を持っていないから魔力はゼロだがそれ以外のステータスが総合的に150も上がっていたのだ。これはすごい事らしい。

 

『君が頑張った結果だ。』

 

そう言って褒めてくれたヘスティア様と共に、昼間ダンジョンに入る前に来ないかと言われた〈豊饒の女主人〉にお邪魔する事になった。

美味しい料理に舌鼓を打って楽しんでいると〈豊饒の女主人〉の扉から多くの人たちが入ってきた。

 

『ロキ・ファミリアだぜ…』

 

そう、それこそ今日助けてくれたアミラさんが所属するロキ・ファミリアの人たち。首を上げて盗み見ているとそこにはアミラさんもしっかり居た。

どうやらアミラさんは深層という今の僕では到底行けない様な所からの帰りだった様で今日はその祝賀会のために来ているらしい。お酒も入り始めた所を見るに下手に近づかない方が良さそうだとこっちはこっちで楽しんでいる所だった。

 

『なあ!アミラ!聞かせてやれよ!!』

 

そんな時、白い狼のような人がこう大声で言ったのだった。

 

『はっ嘘だな。そんな筈がねえ。お前より弱く、アイズより軟弱で何よりも救えない。気持ちだけ“救われて”、ただ漠然とした“憧れ”でお前の“相棒”足り得る資格はない』

 

自分の事を言われていた。ミノタウロスに追いかけられてそしてアミラさんに助けられた自分の事を、言われていた。どうしようもなく無様だと笑いものだと嘲笑うかの様に。けどそれに自分は何も言い返せなかった。アミラさんに“期待”されていると言われてるのに何も出来ない自分が。何も言い返せない自分が。あまりにも無様過ぎて。アミラさんみたいにと憧れる英雄像とは全く違うものみたいで自分が情けなくて。

 

 

『“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ』

 

 

気がついた時には、もうダンジョンに向かって走っていた。

あの人みたいになりたいだけじゃダメなんだ。あの人みたいになるために何をすれば良いか分からないじゃない。『何もかも』しなければ僕はまたあの人に助けてもらう事になってしまう───────!!!

 

あの人の“期待”を前に純粋に喜んでいた自分が悔しい。虚しい。

このままだとあの人の期待を裏切る。あの人にとって自分は“路肩の石”に過ぎないと思われるのが嫌だ!!

 

悔しい!悔しい!!悔しい!!!

 

………いつか。思い出すだろう。きっとこの時抱いた感情が僕の【英雄憧憬リアリス・フレーゼ】なんだろうと。

 

 

 

 

 

 

『“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ』

 

この、言葉が胸に刺さる。ベートさんが言ったアミラが助けた誰かに向かって言ったはずの言葉。だというのに私の胸はこの言葉が離れない。

 

私、アイズ・ヴァレンシュタインはアミラ・フォンディアスの幼馴染だ。それも生まれながらの。昔からよく一緒に遊んだ事を覚えている。アミラのお母さんやお父さんも仲良くしてくれて、私のお父さんとアミラのお父さんとかよく肩を組んでお酒を楽しんでいた事も知っている。私のお母さんとアミラのお母さんもよく一緒にお茶を飲んだりしていた事も覚えている。

 

けどそれら全部、モンスターに奪われた。

 

2人だけになってしまった家は怖くて、寒くて。

けどアミラと一緒にいるから。人肌の暖かさは私に少しだけモンスターへの怒りをかき消してくれた。アミラと一緒にいる時間だけ、私は昔のアイズでいれた。

 

けどアミラは違った。

 

『アミラは……何処にも行かないよね?』

 

行かないで欲しい。何処にも行かないで欲しい。

私のそんな期待は、私のそんな想いはすぐさま打ち壊される事になった。

 

『………ううん。自分は“英雄”を探しに行く』

 

『………………ぁ』

 

やめて。やめて。ずっと一緒に居てよ。私にはもうアミラしか居ないんだよ。という声は出てこない。それもそのはず、アミラはもう遠くを見ていた。空の向こう。お父さんやお母さんが語ってくれた遠い所を見るかの様なアミラの目は私を見てなかった。

 

アミラがお母さんの語るお父さんみたいな“英雄”を求めているのは知っている。

でも、お父さんたちは言ってた。アミラは“英雄”になれるかも知れない。と。

私はその通りだと思った。……だっていつも私の手を引いてくれる“英雄”はアミラ以外の誰でも無かったから。

 

けどそんなアミラが私を置いて遠くに行くというのなら。

アミラが私を捨ててしまうというのなら。

 

アイズ・ヴァレンシュタイン。覚悟を決めろ。アミラの後ろで泣くだけの幼い自分とは訣別するしかない。これからはアミラの前に立つ……いうなら“アミラだけの英雄”になる。

 

私が英雄になったら…ずっと一緒にいてくれる?

 

これは私たちの最初の約束。私たちの盟約。

そして私の【英雄姫アミラ・カヴィナント】というスキルの根底にあるもの。

 

 

 

いつもの様にダンジョンの深層に潜って初めて見るモンスターにアミラとのコンビで簡単に倒せた。何故なら私の魔法とアミラの魔法は相性が良すぎるから。どちらも同じ付与魔法で合わせる事で威力も私1人じゃ出せない様な威力が出る。

それに私とアミラだけのタッグにはステータスに強化が掛かる。……それはアミラのスキル【風支剣背アイズ・カヴィナント】のお陰で。でも逆にこのスキルの有無でアミラが私を“英雄”と認めているかどうか分かってしまうのは皮肉な話だ。

 

『………やぁ少年。無事か?』

 

嫌な予感はしていた。突然、ミノタウロスが逃げて行った事から。

結構上の方まで逃げて行ったミノタウロスだけど私たちの前なら無力だ。アミラの水の力で索敵は出来るし、後は私の風の補助があればなんの問題もない。

 

そしてそこでは白い兎みたいな少年が襲われかけている所だった。

急いでいたからかアミラも魔法を詠唱して私と同じ様にミノタウロスを倒した。少しやり過ぎたせいかミノタウロスの血やらが飛んできてしまったけどアミラの水がすぐに洗い流してくれる。この時間が好きだった。

 

『ベル・クラネル。覚えておく…』

 

その横では何故かアミラはその少年の名前を聞いて覚えるかの様に何度も口にしていたのが見えた。嫌だ。やだ。やだ。ヤダ。暴れ回る心の中の小さな私が居る。だってアミラが私以外の名前を言うのが嫌だと言わんばかりに。

やめて。そんなの“英雄”らしくない。そういうと涙目で小さな私は止まるけど。ずっとずっと言っているのだ。アミラは私のモノなのにって。アミラは私だけの“◼️◼️”なのにって。

 

『それじゃ!かんぱーい!』

 

ステータスはあまり伸びなくて。それでもアミラから【風支剣背アイズ・カヴィナント】が消えてない事にまた少しだけ安堵して。

私たちは祝賀会ということで〈豊饒の女主人〉に入った。私はお酒が飲めないけどアミラがお酒を楽しんでいるのを見るのは楽しい。これが2人だけならアミラは甘えてくれるのにって膨れっ面してる小さい私もご満悦だ。

 

けどそんな空気を無に返す様にベートさんが余計な事を言った。

あの時、アミラがわざわざ名前を覚えるとまで言った相手の事。

 

『そうでもない。俺はあのルーキーに“期待”しているんだ』

 

やめて。やめて。ここが〈豊饒の女主人〉でなければ泣きながら耳を塞いでしまいたい。アミラがそんな風に他の人を褒めるなんて認めたくないから。そんな微笑みで、私だけの微笑みでその人の期待を込めないで。やめて。やめて。

 

『まだまだ原石だがあり得ん話ではない』

 

私たちの盟約を、契約を。約束を裏切るの?と小さい私は怒っている。

アミラは私を捨てて…その少年を選ぶのだろうか。やめて。やだ。やだ。やだ。……やだ、よぉ………

 

『はっ嘘だな。そんな筈がねえ。お前より弱く、アイズより軟弱で何よりも救えない。気持ちだけ“救われて”、ただ漠然とした“憧れ”でお前の“相棒”足り得る資格はない』

 

ベートさんの言葉が響く。それは私にも当たってしまうからこそ。

アミラに“救われて”、アミラの夢に漠然と“憧れる”自分がまるでアミラの隣に立つ資格は無いと言わんばかりに責め立てる。

 

『“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ』

 

そうだ。弱かったら、弱いままだとアミラの英雄足り得ない。

だから……もっと、もっと力を。アミラの目を、心を魂までも。私の風で埋め尽くせ。

 

 

 

 

 

 






キャラクター設定

水剣けんき】アミラ・フォンディアスレベル.5

ステイタス  不明

魔法   【滴り満ちよアクエリスタ
       ・付加魔法
       ・水属性

スキル  【風支剣背アイズ・カヴィナント
       ・“英雄”と共に戦う時、全ステイタス強化
       ・以下詳細不明



剣姫けんき】アイズ・ヴァレンシュタインレベル.5

ステイタス  不明

魔法    【目覚めよエアリアル
        ・付加魔法
        ・風属性

スキル   【英雄姫アミラ・カヴィナント
        ・詳細不明



ベル・クラネルレベル.1

ステイタス  不明

魔法     なし

スキル    【英雄憧憬リアリス・フレーゼ
         ・詳細不明


反応があれば続きを。


ベルくんちゃんをヒロインにすると真面目にアイズたんに勝ち目が消えるからですね。
もうアミラの目を焼き始めたベルくんがベルちゃんだとアイズたんの出る幕がない……

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