ダンジョンで〈英雄〉を追い求めるのは間違っているだろうか? 作:ネマ
ランキング上位に載ってるってま?……マジやん(執筆意欲がグーンと上がる音)
ここまで早くお気に入り数が1000人行ったのは感無量の他ありません。
このままの波に乗っていける様に作者も頑張って行きますね……!
今回は、怪物祭。
またの名をアイズたんの脳回復祭
【怪物祭】通称モンスターフィリアというお祭りはオラリオで年に一度開催される大規模なお祭りだ。この日のために遠方から客が来る事も少なくない。【ガネーシャ・ファミリア】という街の治安も守っているファミリアが開催しているという事もあってかこの日ばかりは〈冒険者〉たちも祭りの空気に酔いしれる。
「アミラ。怪物祭行こ?」
「ん。行こう。」
例年通りアイズの誘いに乗りアミラは怪物祭を楽しむつもりだった。
この日ばかりは鎧を脱ぎ捨てアイズもアミラもたまにしか着ない普段着でおめかしして楽しむつもりだった。ロキ・ファミリアを出る直前までは。
「ちょいちょいちょいー!アイズたんとアミラたんは待ってー!!」
後ろから騒がしく聞こえるアイズとアミラを呼ぶ声。2人ともほぼほぼ同じタイミングで振り向くとそこには親代わりの主神ロキが駆け寄ってきた。今から怪物祭を楽しもうと思っていたところの横入れだ。流石のアイズでさえも顰めっ面を隠さない。
「ちょいといつもの装備で付きおうてくれん?」
下が私服でも構わないがいつもの戦装と武器を持ってきてとロキは2人に頼み込む。そんな時間が掛かるような案件ではないがそれでも用事が用事なだけあって2人とも来て欲しいと。
「………どうする?アイズ」
「ロキ……それ終わったら……」
「ええで!2人で楽しんできてくれたらええ」
アイズが主神ロキに言質が取れたのを見て渋々ながらも従う。
そんなアイズを見てアミラも反対はないと部屋に戻り戦装と剣…は今はメンテ中だから最近使うことの多いナイフを手に取り懐に収めた。
「………予定変わっちゃったね」
「うん。でも……」
ロキの後ろを周囲に注意を払いながら歩く2人は小さく声を交わす。
たまに着る普段着の上からの戦装という事もあって慣れない感じはあるがそれでもアミラはアイズをチラリと見ながらも護衛に集中する。
「アイズのその服。とても似合ってる」
「!?」
普段の戦装姿もアイズらしくて好きだが、こうして普段着ないオシャレをするアイズの姿もアミラは嫌いじゃないと変則的に好意を伝える。その意味を理解したのか一瞬アイズは沸騰したのかと言わんばかりに赤面した直後に小さくこう呟く。
「アミラも……それ似合っててカッコいいと、思うよ……!!」
(うーん。空気が甘酸っぱいでなぁ!!)
尚、2人だけの空気になってはいるがその前には親代わりである主神ロキがいる事を忘れてはいけない。一連の流れを聞いていたロキは2人の恋模様を微笑ましく思いながら口の中が甘くなってきた感覚がしたのであった。
「着いたで。2人とも」
「………ここは」「……………??」
それから少し歩いて着いたのはなんの変哲もない店。
アミラは見覚えがあるのか意味深に一言呟くがアイズは何も分かっていないように首を捻っているようだ。
「まあ2人を連れてきた理由はなー?」
人気の少ない店の中を悠々自適に主神ロキは歩き、奥の扉を大きく開く。
その奥で座っていたのは……少なくとも数日以内に2人とも見た女神の姿とその隣に立つまるで小さな山みたいな巨体の大男。
「遅かったわね。ロキ」
「けど時間通りやろ?……ほら2人とも」
ロキに促され2人はロキの左右に立つ。ロキが会いにきた相手とはそう。【ロキ・ファミリア】とダンジョン探索系ファミリアの天下を二分に争う相手である【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤと、神フレイヤが誇るオラリオ“最強”であり文字通りの“頂点”である【猛者】オッタル。
「
「………アイズ・ヴァレンシュタイン……で、す」
アミラはこうして何度か神フレイヤと顔を合わせているがアイズは“公式上”初めての出会いとなる。アイズの対応が硬いのも恐ろしいほどの“美”としての覇圧を持つ神フレイヤに恐れているのか少しばかり警戒を崩さないのかとロキは考えたのだろう。
「……ま。ええわ。これがうちの特にお気に入りの子やなー」
「あら。いい趣味してるわねロキ。」
そちらのアミラ。貸してくださる?と指差す神フレイヤにロキは非常に顔を顰めて中指でも立てそうな勢いでこう言ったのだった。
「………色ボケが」
「あら。愛多き女神と言ってくれるかしら?」
主神ロキの皮肉に神フレイヤは微笑み悪態を受け流す。
二柱にとってこれぐらいの会話はデフォルトのような物だ。……まあこうして公式的に顔を相見えるだけで延々に“貸して”という神フレイヤにロキは非常に飽き飽きしているのだろう。
「恐れ多くも……俺はロキに恩があります」
だから改宗する事は万が一にもあり得ない。と真正面からフレイヤを見る。
確かに神フレイヤは恐ろしいほど美しい…けどそんな事は今は関係ないとねじ伏せる。
「………生意気な子」
「ほらな?うちのアミラがそう易々と持ってかれるわけないねん!」
そうしていると神フレイヤは一度小さく微笑んだ後いつものお決まりのように呟く。これでフレイヤの勧誘は一旦終わり。“魅了”に持っていかれなかったアミラにロキはこれ傑作だと笑う。
「…………ま。とりあえず本題行こか」
「ええ。ロキが私を呼ぶほど重要な事があったのでしょう?」
一通り腹を抱えて笑ったロキは笑いすぎて出た涙を拭き取り、いつもの狡知神らしい笑みでフレイヤと向かい合う。……こうして知謀と策略の入り混じる神と神のぶつかり合いを見る事になってしまった。
「纏めると…新種の魔物にその強化種もどき。ね」
「そうや。」
今回、【ロキ・ファミリア】の遠征時に発生した異常事態。その内容が神フレイヤとの間で共有される事になった。あの新種は“溶解液”が非常に厄介だが耐久性はそこそこ。強化種はそもそも格が違うとの事でアミラ・フォンディアスとアイズ・ヴァレンシュタインが共同で討伐した。とだけ。そもそも身を守れる付加魔法のトップが2人がかりという事にその強さが分かるだろう。
「情報提供ありがとうロキ。また何かあれば知らせるわ」
そう言い、席を立とうとする神フレイヤにロキはその細目から鋭い視線を向ける。
「待てや。フレイヤ」
「………何かしらロキ?」
「トボけんな」
そうロキは吐き捨てフレイヤにこう質問する。
「また暗躍してるの上がってんねん。……単刀直入にいうけどまた色ボケてるな?」
もはや質問ではなく確認の域にまで入ったロキの質問に神フレイヤは認めるかのように忍び笑いの声を上げる。ロキのその質問はもはや愚問と言わんばかりに。
「ええ。ええ。認めるわ」
「今度はなんや。男か女か」
険しい表情で神フレイヤを睨むロキと対称的に神フレイヤは微笑みを崩そうとしない。そしてそのまま法悦としたまま…“ベル・クラネル”を暈してこう言ったのだ。
「あの魂の輝きは素晴らしいものよ…そうそれは青く光って透明色で輝くような魂。」
「青く光って……?まさか……!」
青く光って…と神フレイヤが言った時点でロキはアミラを見る。内心ヤッベと思いどう弁解するかな〜と心の中で考え始めた所だった。突然、神フレイヤが立ち上がり虚空を眺めたのは。
「…………急用が出来たわ」
「へ?フレイヤ?……おーい?」
こちらを見る事もせず忙しなく出ていく神フレイヤにロキはその半目を半分見開きながら驚き、神フレイヤに呼びかけるがそのまま扉からオッタルと共に出ていくのだった。……残されたロキとアミラとアイズは本当に文字通り沈黙するしか無かった。
「ま、まあ……ええか」
伝えたい事は伝えられたし…とロキはとりあえず納得した様だ。
ここからどうするの?というアイズの視線に気がついたのか。ロキは2人を見渡しここからの休暇を告げる。流石にいつもならもう怪物祭を楽しんでいた2人だ。ここかで付き合わせた以上、親として約束を破るわけにはいかないと。
「2人とも、楽しんでおいで」
「………!いってきます」「ありがとう。ロキ」
瞳を輝かせいってきますと手を振るアイズにアミラは引きづられる感じでロキに感謝を告げながら盛り上がるオラリオの街並みに飛び出したのだった。
◆
〈オラリオ特設舞台・バックヤード〉
本日の【怪物祭】には1つとても大きな催し物がある。それはオラリオに置かれた特設舞台で行われるダンジョン内のモンスターの公開テイムという一大イベントである。これも【ガネーシャ・ファミリア】が行うということで安全性も抜群な筈だった。………この時までは。
「ねぇ…教えて?鍵はどこにあるのかしら?」
バックヤード。つまりは公開されるまでのモンスターを保管しておく場所には本来、【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭だけがいる筈なのに。一応の見回りに来た冒険者の背には1人の女性が立っており、蠱惑的に魅惑的にその冒険者を魅了する。
「ぁ…ぅぁ………ぁ…」
ローブを羽織っているというのにその隙間から漏れ出る魅了に冒険者は逆らえず崩れ落ちる。
ここまで強い魅了を出せるのは神、それもたった1人の神だけだろう。
「フレイヤ様。こちらに」
「ふふ。ありがとうオッタル」
モンスターもその魅了の塊とその下で傅く圧倒的な強者の波動にまるで野生を捨てたかのように沈黙するほかない。
そう。彼女たちこそ、先ほどの神ロキとの対談を強制的に切り上げた神フレイヤとオッタルである。
「シルバーバック。貴方に決まりね」
神フレイヤは一つの檻に近づくと共にその鍵を開く。後ろではオッタルが別の檻を順番に開けていく。神フレイヤは自らの“魅了”の効果を高めてモンスターを自分の支配下へと置く。そしてその中で神フレイヤが近づいたモンスターとは【シルバーバック】という11階層の迷宮に存在する猿の様なモンスター。特徴といえば足ほどまで伸びる長い銀色の髪。
「出てきなさい。……貴方はベル・クラネルを追いかけるの」
手枷足枷目枷までつけていたとしてもレベル1が敵うはずのない相手。だというのに神フレイヤはベル・クラネルの情報を。そして一緒にいるであろう神ヘスティアの存在を教え込んでいく。
「さて。後は………」
地上に連れて来られたモンスターは【シルバーバック】に【ソードスタッグ】そして【トロール】。どれもこれも決してこのモンスターたちが千匹襲いかかったとしてもレベル5を苦しめる事は出来ないだろう。
ならば。と神フレイヤは1つの鬼札を切る。
そう、それこそ……
「オッタル。
「…………はっ。この命に代えましても」
神フレイヤが持つ【フレイヤ・ファミリア】並びに迷宮都市オラリオ“最強”である【猛者】オッタルを使うという事…オッタルのレベルは驚異の7。少なくともレベル5が逆立ちしても勝てる様な相手ではない。
「稽古をつけてあげる感じで良いわ」
「……………はっ。ですがフレイヤ様」
「ええ。」
それでもアミラ・フォンディアスは一矢報いる事ができる器だと神フレイヤは信じている。……ああ。だからこそだろうか。もし、もしも“オラリオ最強”の前で腑抜ける事があるというのなら。
「半殺しまでは、構わないわ」
「……拝命いたしました」
冷酷なまでの神の命令に逆らう事なくオッタルはその瞬間まで闘気を固め続ける。
そしてその瞬間は───────
◆
「アミラ。はい。あーん?」
「じゃあアイズも。あーん?」
怪物祭は盛況のまま続く。多くの出店が出ていて食べ物だけでなく小物や掘り出し物なども売り出され、四方八方に楽しむ人々の声が響く。勿論、アイズとアミラも戦装を着ているとはいえ、楽しめないはずが無い。小物を2人で買い、それをシェアし合い、アイズの大好物である【じゃが丸くん】の別味同士を食べさせあったりして時間は過ぎ去っていく。
そしてそのまま夕方になり、大人たちが騒ぐ夜の祭りになる筈だった。
「モンスターが逃げ出したわー!?」
遠くで叫び声と怯え声。さらには街中で聞くはずのないモンスターの雄叫び。
即ち、戦いの気配を十分に感じ取った2人は顔を見合わせそして一度頷いたと思ったら2人とも魔法を使いその元凶の場所へと直行する。
「…………っ!あれは……」
「新種の、モンスター」
地面から飛び出す花の様な巨大なモンスター。
だけどそれだけではない事をアミラとアイズは察していた。地下にはまだ似たような反応があるとアミラはナイフでアイズは心許無い替えの剣で連戦する覚悟をした。
その瞬間だった。
「!?向こうで白髪赤目の小さい少年が“シルバーバック”と戦ってる!?」
周囲によく響く声でギルドの受付嬢が声を張り上げる。どうやら襲ってきたモンスターはこの新種だけでなく【怪物祭】のために連れてきたモンスター達も脱走しているようなのだ。
そしてそれだけではなく、逃げ出したモンスターの向かっていった先では白髪赤目の小さい少年が立ち向かっているというのだ。
「!?………もしやベルか?」
「!?知り合いですか!?アミラさんっ!」
運命はここで微笑む。モンスターが逃げ出したと声を張り上げた受付嬢がベルのアドバイザーであるエイナで会ったこと。そしてアミラがベルの師匠であること。そして……2人ともベルなら立ち向かうだろうという今までの経験則上そんな予感がしたのだ。
「っ!だが………今はっ!」
だがここでアミラの冷静な〈冒険者〉としての精神が二つを天秤に計る。1つは“ベルを助けにいくこと”そしてもう1つは“力量が分からない新種のモンスター複数体の討伐”を。
アミラの天秤は揺れる。どちらを取ったとしても分の悪い賭けだということを。ベルを助けに行ってアイズを危険に晒したくはない。だがアイズと共闘する事でベルが命を落とす。あまりにも理不尽すぎる2つの決断にアミラは重い口を開こうとしたその時だった。
「アミラ。私は大丈夫。」
「……………アイズ!?」
既に剣を構え、風さえも巻き起こしていたアイズが一言。アミラに言った。
向こうに…ベルの助けに行けと。自分は大丈夫だからとアイズは言ったのだった。そしてそのアイズの選択にアミラも渋面と苦悶の表情を一瞬だけするがまるで“何か”を思い出したかの様にアイズに一言こう告げた。
「アイズ………“あれ”を使おう。」
「!?………いい、の?」
そうアミラが声をかけるとアイズはさっきまでの臨戦体勢とは打って変わって赤面しながらアミラを見る。……アミラとしてはそんな顔で見られると自分も気恥ずかしいものがあると言わんばかりに表情に朱色が帯びる様になる。
そう。その“あれ”とは簡単な事だ。アミラは強引にアイズの唇を奪ったのだった。
謂わゆるライトキスのような口付けだがそれでもキスはキスだ。まるで感情の昂りに反応したのか2人の身体から翠色の光と蒼色の綺麗な光が混ざり合い、そして1つになる。
「開け───盟約」
「開け───盟約」
示し合わせたかの様に呟かれた1つの同じ言葉。それは1つのスキルの効果を発揮するために必要な言葉。もう気がついていると思うが【風支剣背】と【英雄姫】は互いに交わした“約束”がスキルとなった物だ。スキルとなるほど強い思いのこれは1つ、神でさえ見抜けなかった効果を発現した。
そうそれこそ今のアミラとアイズ。片目同士が入れ替わったかの様にアミラの右目は“金色”になり、アイズの左目は“青色”になっている。……勿論、ただそれだけではない。このスキルの真の効果は2つ。“英雄/運命”の魔法行使並びにステータスの向上である。今のアミラはアイズの【目覚めよ】を使用出来るし、アイズはアミラの【滴り満ちよ】を使用する事が出来る。更には互いのステータスの向上という効果を持って今の2人のステイタスは
「………いってきますアイズ。」
「ん。いってらっしゃい。アミラ」
まるでお使いに行くかの様な気軽さで2人は互いに背を向けながら自分の目標に進むのだった。
今や風を纏った水の大嵐となったアミラは普段なら絶対に出せない速さで街並みを抜ける。問題のベルが戦っているであろう所の通りに入った瞬間だった。強化されたアミラのステイタスでさえもギリギリまで分からなかった斬撃がアミラを襲ったのだ。
「………………っ!!?」
真正面。もしアミラが盟約を使っていなければ顔から身体にかけて縦でぶった斬られていたであろうその斬撃は鋭く、そして本来なら頑強に作られているはずの街並みの道にくっきりと斬撃の痕を残している。………そしてこの時点でアミラは気がついていた。こんな斬撃が…レベル6がギリギリまで分からないほどの攻撃を打てる様な〈冒険者〉に。
「どういうつもりだ……っ!!」
いつの間にか立っていたその姿に問いかける。
自分の身長ほどある大剣を地面に突き立て、それでいて尚その猪人は仁王立ちでアミラを感情の見えない眼差しで射抜く。その巌のような巨体はつい先程、アミラは目にしていたはずである。
「【猛者】オッタル…ッ!!」
「………拾え。【水剣】」
その男こそ、そう。【フレイヤ・ファミリア】所属のレベル7。オラリオ最強を欲しいままにする【猛者】オッタルがアミラを強襲したのだった。先に通す気がないと分かったのかアミラは歯噛みしながら心許ないナイフを構える。するとオッタルはその背から一本の剣をアミラに向けて放り投げた。
それはアミラの主武装である【ティアペレード】に似ているがそれでも別物だと分かる。それでもアミラの武器に似たレプリカを投げて来たということはつまりオッタルはアミラとの戦いを所望しているということだ。そしてこれに勝たなくてはアミラを先に行かせないつもりなんだろう。
「…上等だ。その首貰うぞ!頂点ッ!」
瞬間。ノーモーションでアミラは剣を引き抜く。その瞬間アミラが纏っていた筈の大嵐は剣にも纏わりつき、見る人が見ればまるでその姿は“魔剣”だと言える。
「何処からでも、来い」
そんな大嵐を前に目を細めるだけでオッタルは剣を引き抜くのではなくただ仁王立ちしたままアミラを挑発するかのように手招きする。それが2人のぶつかり合いの合図だった。
「(思っていたが………っ!)」
この盟約となったアミラは手数で押し切る戦法を主体に戦っていた。風で撹乱しながら水でトドメを刺すこの戦い方はアミラにとって不足ない戦い方の筈だった。……この時までは。
「(硬すぎる……!これがレベル7っ!)」
だがその戦い方は逆に威力に欠けると言うことになる。そしてその足りなくなった威力では【猛者】に碌な傷を付けることは敵わない。それにオッタルの所持する特殊アビリティである【魔防】は魔法攻撃に対する耐性をつける物だが…いかんせんオッタルの【魔防】は高すぎた。それだけでも威力が殺されるというのに種族特性などで今のアミラでは押し切るどころか撹乱するのに精一杯だ。
「…………未だ。その【過去】に縋るか」
愚かな。と吐き捨てるオッタルはついにアミラに向かって明確に敵意を込めた一撃を見舞う。オッタルの右腕から繰り出されるストレートにアミラはどうにか剣の腹で抑えようとするが一瞬均衡した後に、アミラは地面と平行に吹っ飛ぶ事になる。
「(……………っ!!意識…が……)」
何処かの壁に背中がぶつかり、その衝撃でアミラは口から無様にも息を吐き漏らし身体に満ちる痛みと衝撃にアミラの意識は閉ざそうと視界は暗く落ちていく─────
◆
師匠が言っていた【怪物祭】というのは本当に大きなお祭りらしいとベルはヘスティア様を連れて出店を見て回る。それでもまだ小さなファミリアと言う事だけあってかあまりお金が無いのも現状だ。今回の【怪物祭】の出店で出ている食べ物とかは半分こしながら楽しんでいた。そしてヘスティア様がこの【怪物祭】1番の目玉を見せてあげるとヘスティア様の案内で歩いていた。その時だった。
“モンスターが逃げ出した”という叫びとモンスターの声が近くでしたのは。
「っ!逃げようベルくん!!」
「………はっ!……っ!?」
騒がしくなる周囲に逃げる人並み。怒号が響き、そしてそれに負けず劣らずモンスターの雄叫びが聞こえる。あまりに近くにいるとベルはその時気がつく。…まあただ逃げるには少しばかり遅かったという事だが。
「あれ、は……」
無人になった周囲に逃げ遅れた神様と僕。そして目の前にいるモンスターはあの日会った“ミノタウロス”と同じぐらい悪寒がする……つまりそれぐらいのモンスターという事。尾のように長い白い髪にまるで大きな猿のような姿。
「シルバーバック……!」
ベルはその姿を人伝で知っている。まだベルが潜れないような所から現れるモンスターのうちの一体。どう足掻いても今のベルでは決して敵うことの出ない相手。〈冒険者〉は時に逃げることも大事だと、ヘスティア様の手を取り逃げ出した筈だった。
だけど話はそう上手くいかない物だ。
「……ベルくんっ!」
「神様ぁ!」
遠くでは他のモンスターが街中を荒らしているというのにこもシルバーバックだけはこちらに狙いを定めたまま、まるで恐怖心を煽るかの様にゆっくりと嗤いながら近づいて来るのだ。
逃げられない。もしこのまま後ろに後退し続けると〈冒険者〉でもなんでも無い人たちがとても無惨な事になる。
「神様……どうか逃げてっ!」
怖い、恐ろしい、逃げたい、どうして。頭の中でグルグルと渦巻く感情にそれでもとベルはナイフを構える。
決して勝てない/分かってる!
大人しく逃げ回れ/それで逃げ切れるとは思えない!
手足はみっともなく震えている。
震えた手で持つナイフは何度も刃先がブレてそれでも僕の身体は師匠と戦う時のように構えていた。
「GY……GYAAAAAAAAAAA‼︎」
「う…あぁぁぁあああああああ!!!」
モンスターの雄叫びに僕も負けじと声を張り上げる。
恐れは敵だ。怯えは命運を妨げる!
『ベル、よく見て』
その瞬間、アミラ師匠の声が聞こえる。空耳だとしても幻聴だとしてもその声に僕の“憧れ”の声に身体が心が奮い上がる。恐怖で震えていた手はいつの間にかいつも戦う様に構えて、我ながら様になっている。
『モンスターの攻撃は基本的に大振りが多い』
その通りだ。このシルバーバックも強靭な両腕を振り回すだけでその隙は大きい。
ちょっと前の僕だったら見えない様なその攻撃も、アミラ師匠との鍛錬でどうにか対処出来る──────!!
『人間より大きな身体を持つモンスターは特にそう。そしてそういうモンスターを倒すためには……』
指先、足先から少しずつ削っていく。大振りの攻撃は今の僕には“受け流しきれない”攻撃が殆ど。だから避けて、避けて避け続けて。モンスターの癇癪とばかりに繰り出される“非常に隙の大きい攻撃”の時に末端から削っていく。
『少しずつ。少しずつでも良い。けど考えることを止めない事』
師匠の教えが今の力になる。その通りに相手には小さな切り傷が増えてきているのに僕にはまだ大きな一撃を食らった覚えがない。このまま押し切ってやるとナイフを構え直した所だった。
後ろで何かと何かがぶつかる様な大きい物音がしたのは
「────────────!!?」
その瞬間。ベルは有り得ないものを目にする。
「─────アミラ師匠!!??」
そう。地面に叩きつけられたアミラの姿を。
◆
今日という日はアイズにとって待ち遠しいモノだった。今日は【怪物祭】。私もアミラも昔のように〈冒険者〉であることを忘れて楽しむ日だった。今日という日はアミラに見てほしいいつもは着ないような服を着て、2人で何気ない話をして店に出ててる食べ物をあーんってしたり、この前は互いが互いに似合いそうな装飾品を選んだり(アミラは私に青色のネックレスを。私はアミラに緑色のチョーカーを渡した)する日だったというのに。
『ちょいといつもの装備で付きおうてくれん?』
ロキのバカ…と小さい私も膨れっ面でロキの後ろをアミラと歩く。周囲はもう楽しげな声を上げているというのに、いつもならその中でアミラともう楽しんでいただろうにと私は小さく肩を下ろす。
けどそんな中、1つ収穫があった。それはアミラが私の服を褒めてくれた事だ。
『アイズのその服。とても似合ってる』
アミラのその言葉だけで私は今日これを選んだ甲斐があったという物だ。どうにか時間を作って、お忍びでオラリオ中の服屋で選んできた(殆ど店員任せだったが)中で一番私が気に入った物だ。そしてそんなアミラも……
『アミラも……それ似合っててカッコいいと、思うよ……!!』
まるで王子様みたいで。アミラの魅力をそのまま際立たせるかのようなその服装はアイズにドンピシャだった。……アミラだったらなんでもいいんじゃないかなという小さい私の言葉に頷きながらも隣を歩いていく。こうしていると本当に夫婦みたいだね。と笑う小さい私も、私も幸せだった。……この時までは。
『遅かったわね。ロキ』
ロキが会いに行きたい人は…アイズも印象深い神フレイヤだった。
アミラを狙い続ける圧倒的なアイズの敵。この前もアミラに何かしたであろうその女神は、まるで久々に会うとばかりにアミラと話す。悍ましい…気持ちが悪いほどあの女神はアミラを奪おうと何度も何度もアミラに声を掛ける。
いやだ。いや。アミラは私のだというのに。私はアミラしかいないのに。
だというのにあの女神は他の“誰か”も粉にかけているのだ。
『あの魂の輝きは素晴らしいものよ…そうそれは青く光って透明色で輝くような魂。』
まるで浮気を誇るかのようにいう神フレイヤに小さい私は心底冷たい目をしている。けど前のように風を纏えるような感じではない。アミラの前でそんな醜態は晒したくないと言うのが一番だけど。
『2人とも、楽しんでおいで』
話はその直後、神フレイヤが何処かに行ったので終わった。
もう用事は無いよね?よね?と荒ぶる内心をどうにか抑えながらロキの許可を待つ。そんな私の内心を見破ったのかロキは笑いながらようやく怪物祭に出かける許可をくれる。小さい私はもう待ちきれないと言わんばかりに急かすのに逆らうことなく私はアミラの腕を奪うかの様に街中に出かけるのだった。
町の中に出た私たちは昔みたいに笑い合い、自由に使えるお金で互いに贈り物をしたり、親しい仲なら誰もがしてる(とロキが言ってた)食べさせ合い時間は過ぎていく。【ガネーシャ・ファミリア】主催のモンスターテイムの舞台に足を踏み出そうとしたその瞬間だった。
「モンスターが逃げ出したわー!?」
その直後。言葉の意味を理解する前に地面から現れる大きな花の様な新種のモンスター。驚き、恐慌状態になる周囲に私とアミラは“これだけじゃない”と警戒心を強める。それは間違いじゃなかったみたいでアミラは視線でまだ地面に同じ反応の奴が数体居ると伝えてくる。
アミラは小さなナイフ。そして私は“ゴブニュ・ファミリア”から貸し出された剣しか持っていない。その状態でこの新種のモンスターを相手するのは厳しい。だというのに事態は悪い方向に転がっていく。
「!?………もしやベルか?」
モンスターが逃げ出したというのはどうやら“この新種のモンスター”の事ではなく、今日の怪物祭で使われるモンスターが逃げ出したという事。どれもこれもが今の私とアミラにとっては雑魚だがそれでも新種に対応しなくてはならないと考えていた時、とある話が聞こえた。“赤目白髪の小さい少年”がその逃げ出したモンスターと戦っていると。
……つくづく事態は悪い方向に転がっていく。
レベル1が11階層のモンスターに敵うはずが無い。逃げれば今こうしてアミラが悩まなくて済むのにとあのレベル1の蛮勇さを恨んだ……ああ。でもその背にアミラという存在がいるのならきっと私も同じ立場なら立ち向かっていただろうと考えてしまえる事、事態恨めかしい。
「アミラ。私は大丈夫。」
だからこうする他ない。魔法を使ったとしても足が速いのはアミラだ。
アミラがそっちまで行って逃げ出したモンスターを討伐した後援護してくれたら良い。……それなら、私はアミラが戻ってくるまで耐え凌ぐこと位は出来る。
風を纏い、いつでもモンスターに攻撃できる様にと構えたその時だった。
「アイズ………“あれ”使おう。」
!?!?!?!?!?……アミラの言う“あれ”がもし想像通りならとアイズは赤面する。小さい私も顔を赤くしながらニヤけて今までに見た事ない様な速度で首を縦に振る。……けどもし間違いがあってはならないと臆病なアイズは聞く。その瞬間。
「!?………いい、の?」
アミラが一歩私に近づき、その瞬間。私の唇にキ、キ、キスしてくる。
今までにないほど強引でそれでいて尚優しく啄んでくれるアミラの唇と間近になった顔と顔の距離で私たちは額を重ね合わせながら1つの魔法の言葉を口にする。
「開け───盟約」
「開け───盟約」
絶対なる約束。あの日の誓いは1つの確かな形となる。
【風支剣背】と【英雄姫】というステイタス上の文字ではなく、私とアミラが一緒に唱える事で起動するこの形。私の中にアミラの魔力が流れ込んでくる感覚がする。暖かく、けど何処か人肌よく冷たいアミラの水の魔力は私の身体全てに巡って1つの大きな熱になる。昂りと快感を一瞬感じるこの熱の感覚は何事にも変え難い事である。
「………いってきますアイズ。」
「ん。いってらっしゃい。アミラ」
まるで◼️◼️だと思いながらも私はやるべき事を熟す。翠色の風は蒼色の光を帯びて剣にも宿る。この剣が【デスペレード】で無いことが非常に残念だけど。アミラの“水”と一緒になった今の私は……無敵だ。
空へと飛んだ私はアミラの水の力を得て空をもう一度蹴りさらに高く飛び上がる。
あの大きな花は私を捉えようと2本の蔓を伸ばす。けど……
「遅い」
風と水で出来た私を渦巻く壁の様な魔法の具現化。スキルで解放された私たちの誓いが全ての敵を近づけさせない。私に触れようとした瞬間、その蔓は風で切り込まれ水で追撃するかの様に蔓を破壊していく。
「消えて」
蔓という攻撃手段を失った巨体なんてただの的だ。醜悪に見える牙と歯の攻撃なんて私の速さの前では止まって見える。空に滞空したまま私は足の軸をずらして急に方向を切り替える。モンスターが私を見失ったその一瞬に斬り伏せる。
私が地に足をつける頃、後ろでは魔石だけを残して消える一体のモンスターの姿があった。…魔石の色が変だとか、まだモンスターはいると言うのに私の心は“それ”に向けて呆然と呟いた。
「………………アミラ?」
キャラクター設定
【水剣】アミラ・フォンディアスレベル.5
ステイタス 不明
魔法 【滴り満ちよ】
・付加魔法
・水属性
スキル 【風支剣背】
・“英雄”と共に戦う時、全ステイタス強化
・“英雄”の魔法行使並びにステータスの向上。詠唱式は「開け。盟約」
・レベルアップの封印(“英雄”のレベルアップ時封印解除)
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインレベル.5
ステイタス 不明
魔法 【目覚めよ】
・付加魔法
・風属性
スキル 【英雄姫】
・“運命”の魔法行使並びにステータスの向上。詠唱式は「開け。盟約」
・以下詳細不明
ヒント:『本契約』は盟約時がさらに強化されて永続効果です
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