シルバー・アウトサイド   作:オルフェイス

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英語に疎い私はGoogleで調べました。そしたらタイトルがアレな感じになりました。
けど真面目です。


キンキラー

 

 私は、誰かを救うために、誰かを犠牲にすることを躊躇わない。

 

 躊躇えばそれだけ人が死ぬ。だから躊躇っては駄目。奪われるくらいなら、相手から命を奪ってでも誰かを救う。例えそれが世間一般的に間違っていたとしても、私は後悔しない。

 敵を殺し、味方を救う。これは酷く当たり前のことで、インクブスが溢れる世界では正しいこと。だってインクブスが敵で、人間は味方、という認識が普通のことだから。

 けれどそれが、殺さなくてはならない敵が、元々は仲間だったとするなら。

 

 相手が、寝返ってしまった人間だとするならば。

 相手が、心折れたウィッチだとするならば─────

 

 それでも私は、()()躊躇わない。敵を相手にするのならその躊躇は命取りでしかない。

 だから私は、今日もまた、(インクブスとウィッチ)を殺す。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、聞いてもいいかな」

「……」

 

 

 音が静まり返った夜。私は珍しい相手と相対していた。

 インクブス……では、なく。インクブスに捕らえられ、様々な方法でインクブスに従うことになってしまった少女たち。

 つまりは、ウィッチ。

 今目の前にいるのはウィッチだけ。周りにインクブスの姿は確認できない。これでは、インクブスに従っているのかどうか区別は難しい。

 だけど、私にはわかる。強く臭ってくる、インクブスの臭い。もう散々嗅ぎ慣れてしまった、不快な臭い。

 彼女からは、その臭いが強く漂っている。

 

 

「なんで逃げようとしなかったの?」

「……どういう意味?」

「あぁ、()()()なんだ。じゃあどうしようもないかな」

「何を言っ────」

 

 

 やっぱり、隷属することを()()()しまったウィッチだった。目的はなんだろうか。多分ナンバー13だとは思うけど。

 頭の片隅に考えついた仮説を置いておき、目の前のウィッチに斬りかかる。

 だけど流石にウィッチなだけはある。反応してみせて、後ろに避けてみせた。結構ギリギリのところではあったけど。いきなり斬り掛かってくるのは予想外だったのだろうか。

 

 

「いきなり、何をするの!?」

「……貴女は、インクブスに従うことを選んでしまった。薬物依存になったわけでも、洗脳されたわけでもない。インクブスの奴隷になった。違う?」

「っ!」

 

 

 明らかな動揺。確信はしてたけど、念のため聞いておいて良かった。

 これで心置きなく、殺しにいける。

 

 

「わ、私はっ!」

「貴女の意見は、どうでもいい」

 

 

 脇差を振るう。相手は避けてみせる。そこに追い打ちをかけるべく打刀を、というところで上下左右から攻撃が来たため円を描くように刀を振るって迎撃する。

 切ったのは……鞭、かな。茨がついてる。当たったら痛そうだ。痛そうなだけで致命傷にはならなそうな鞭だ。

 相手は、一本の棒から生える複数の茨の鞭を、うねうねと蠢かせていた。一、二、三……四本ある。

 痛そうだけど、インクブス相手には通用しなさそうだ。だから彼女は捕まってしまったのだろう。

 そう冷静に観察していると、相手は後ろに下がりながらも鞭を振るってきた。

 

 

「こ、のっ」

「おおっと」

 

 

 切ったはずの鞭は再生できるらしい。生え伸ばした複数の鞭が触手のように襲いかかる。

 襲い来る鞭を切り捨てながら、近づくために一歩踏み出す。しかし、相手は二歩下がって鞭を動かしこちらを近付けさせない。

 しかも再生が速い。地味に厄介。もちろんマジックでも使えば楽に倒せるだろうけど……今は無理だ。

 

 匂いがある。嗅いだことのあるウィッチの匂い。遠くで観戦でもしているのだろう。彼女の目の前で殺してしまうのは、少々面倒なことになる。

 

 

「仕方ないなぁ」

 

 

 普段なら殺すんだけど。もしもがあったらいけないから。洗脳やら薬物で侵されたわけでもないのに助ける理由なんてないし。

 本当に仕方ないから……生かしておいてあげよう。

 五体満足かは、知らないけど。

 まず息を整える。次に姿勢を低くして足に力を集中させて────一気に解放する。

 

 

「速っ」

 

 

 身を低くし懐に潜り込もうとするが、壁になるように邪魔をしてくる鞭の群れ。余力を残しておいたのか鞭の数が増えてる。さっきの倍はある。なんか太くなってるし。

 斬るのは容易い。かといってそれで突破できるかと言えば違うので……打刀を使う。

 私の刀は、基本なんでも斬り捨てる。逆に言えばなんでも斬れてしまうのが欠点と言えるが、敢えて斬らないという方法を取ることも出来る。こんな風に。

 一つの鞭に刀を打ち付ける。鞭がしなり、別の鞭に当たる。一瞬のタイムロス。その間に別の鞭も打つ。

 それを数秒の間に行うことで、鞭を直線上になるようにして────逆手に持ち替えた脇差で貫き、コンクリートの地面に突き刺した。

 

 

「嘘っ!?」

 

 

 相手からの驚きが伝わってくる。それがどういう理由なのかは、どうでもいい。重要なのは、これで鞭は最低でも数秒は封じられたということ。

 鞭を捨てれば良いものを、相手は捨てられてない。だから逃げることも出来ない。その間に、一気に近づく。脇差は刺したままにしておいて打刀を両手で持つ。

 相手との距離は、ウィッチの身体能力を加味して約三歩ほど。逃げられる前に、斬る。

 

 一歩、相手は動揺から抜け出せていない。

 二歩、刺し突かれた鞭を戻そうとする。

 三歩、ついに諦めたか鞭を手放そうとする。

 

 けれど。

 

 

「遅いよ」

 

 

 もう、私の間合いの中だ。

 下から掬い上げるように振るわれる刀は、容易くウィッチの肉体を斬り裂いた。

 相手が崩れ落ちる。意識を失ったのだろう。地面に倒れ伏し、ピクリとも動かない。

 

 しかし死んだ様子は────ない。息はしている。無事に殺さずに確保できたらしい。これも、つい最近になって得たマジックのお蔭だ。けれど連発はできない。エナの消費が激しいから。

 倒れ伏し意識を失っているウィッチを見下ろす。

 

 

「……運が良かったね」

 

 

 このウィッチは、運が良かった。私だけがその場にいたのなら……このマジックを手に入れていなかったのなら。最悪死んでいただろうし、良くても手足の一、二本はなくなっていたはずだ。

 ウィッチとの戦闘で手加減できるほど、私は器用じゃないから。

 ……まぁそもそも、インクブスに捕まってしまったことが原因なんだから、不幸だったとも言えるか。

 

 

どうなされますか、フルールラム

 

 

 戦闘中も無言を保っていたパートナーがようやく言葉を発した。ウィッチ同士での戦闘に未だに慣れていないらしい。

 どうする、と聞かれても私にできることはない。餅は餅屋、というやつだ。

 

 

「そろそろ軍が来るだろうし、置いとく」

インクブスが来る可能性は?

「んー……まぁそれはあるだろうけど……」

 

 

 そこまで言ったところで、遠くから風を切る音が聞こえてくる。

 昔はよく聞いていた音だ。この音は……軍用ヘリコプターのプロペラ音だ。

 

 

「流石に、ここからウィッチを連れ出すなんて時間、ないと思うよ」

……そのようですね

「あとは軍の人たちに任せる。さ、帰ろ」

 

 

 私はそう言って、家の方向へと走り出す。

 軍に対して特に思うことはない。インクブス相手には大した戦力にはならないけど、あの人もあの人たちで命をかけて戦っていることを私は知っているから。

 人の敵は、果たしてインクブスだけなのか。それとも……

 なんて、考えるまでもない。

 敵は敵だ。インクブスも、人も、敵となれば倒すしかない。例え相手にどのような事情があろうとも。

 できることなら、インクブスに抗っている人とは争いたくないとは、思うけれど。

 

 

 

 

 

 

 初めて人を殺したときのことを、覚えている。

 

 相手はウィッチだった。その時は、どうしてウィッチが襲ってくるのかと思っていたことを覚えている。

 インクブスと共に、ウィッチが私を捕えようとする。その時の私は無我夢中で、ただ恐怖だけがあった。捕まればどうなるのか、想像もできなかった。

 

 

はぁ、はぁ…

 

 

 だから殺した。インクブスを殺した。近づいてくる者は見境なく。

 それでも、劣勢を強いられた。そんな私を助けたのは、ナンバー13のファミリアだった。彼らのお蔭でインクブスの連携は崩れ去り、私に余裕ができた。

 余裕を取り戻して、ようやく気付けた。私が斬ったのはインクブスだけではなかった。その中には、ウィッチも含まれていたということに。

 黒いウィッチだった。マジックを主体に戦うウィッチだった。共に戦うべきパートナーがいないウィッチだった。

 私が、彼女を斬った。

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

 

 彼女は瀕死になっていた。喉を斬られ、腕を切り落とされ、身動き出来ない状況だった。もう再起不能で、動くことは出来ない。

 そして同時に、私では助けられないことを悟った。もう間もなくで、彼女は死ぬ。

 だから、私は……

 私、は─────

 

 

「はぁ、はぁ…!」

 

 

 私は、何もすることができなかった。ただ彼女が苦しみ死に近づいていく様を見ているしかできなかった。死ぬまでの間、彼女は朦朧とした様子で譫言を呟いていた。

 

『暗い』『寒い』『死にたくない』と、何度も繰り返して─────しばらくして、彼女は動かなくなった。

 

 血の気の引いた青白い顔。苦痛に歪んだ死顔。初めて見た人の死体は、私の脳内に深く刻み込まれた。

 この時のことはしばらく引き摺り、一週間ほど学校にいけなくなり夢に見ればその度に嘔吐した。

 それでもパートナーのケアもあって私は学校に行くようになり、そしてウィッチとしての活動も再開した。

 ウィッチが敵として現れることがあることを知った私は、内心で今度こそ捕まったウィッチを救ってみせると……そんな、出来もしないことを決意した。

 

 それを思い知らされたのは、それから数カ月後。

 

 私は再び、人を殺してしまった。それも、守るべき人も守れず、ただ無為に死なせてしまうという結果を残して。私の躊躇いが、人を殺した。私が殺すのを躊躇わなければ、被害は出なかった。

 そこでようやく理解した。私程度では、どう足掻いたって肝心なところで守ろうとしたものは手から零れ落ちてしまうのだということを。

 

 だから私は……もう、躊躇わない。

 躊躇って人を死なせてしまうなんて、嫌だから。




同族殺し

本来、連れ去られたウィッチが戦闘に出るのは稀……なのだが、フルールラムは行く先々でウィッチと遭遇している。
これがいわゆるご都合主義(悪)……
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