シルバーロータスは複数の小さな歯車から構成された巨大な歯車という認識。
うちの主人公はそれを回す……もしくは回してもらってる小さな歯車の一つ。
そんな主人公に何が出来るのかと言うと……まあインクブスを殺すくらいだよね。
「一、」
切り裂く。
インクブスの、敵の命を刈り取る。
首を、頭を、胴を。時には縦に両断する。
手慣れた作業だ。しかし今回は数が多い。
出来る限り手早く行こうか。今は時間が惜しい。
「二、三、四、五、六、」
斬撃のマジックを飛ばす。
あらゆる障害物を切り裂いて、敵を屠る。
少なくとも目に見える範囲にいる敵は殺せている。
……普段なら、もっと近付いてやるんだけど。
今回に限っては遠くからでも切れる手段を取った。
「残存数、」
「きりがないから今はいいよ。それより……どう思う、これ」
「大量のインクブスによる侵攻……しかし」
「インクブスだって馬鹿じゃない。ただ攻め込んだわけじゃないでしょ。ってことは何か目的があるはずだけど……」
唐突だった。
何の前兆もなく、大量のインクブスがポータルの生成と共に現れた。
おかげで逃げようとしている人々の避難で国防軍は手一杯。
ウィッチも奮闘してるけど……今回に限っては彼女のファミリアは役に立たないか。
むしろ、余計に混乱を助長することになりそうだ
となればナンバーズの出番になるんだけど……
「他のナンバーズは?」
「こちらの異変に気付き、向かっているとのことです」
「ならすぐに来るか。そろそろここからじゃ殺しきれなくなってきたし……打って出ようか」
インクブスは皆殺しだ。
……しかし優先すべきは民間人の救助。そこを履き違えてはいけない。
チラリと、上空を見上げる。彼女の虫が、何匹も見えた。
彼女が何もしないまま、とは考えられない。
裏路地やマンホールなど、狭くて見えづらい場所に追い込めば……あとはファミリアが処理してくれるだろう。
「それじゃあ、行くよ」
そうして私は空に身を投げ、インクブスへと向かっていった。
◆
「ぐべぎゃ」
「数多いなぁ……嫌になってくるよ」
インクブスを一体斬り伏せる度に、追加のインクブスが出てくる。
嫌になるほど多い。ゴキブリ……いや、ゴブリンか。
一匹でも見かけたらきりがないほど出てくる。
しかも、種類も多い。
中には見たことのないケンタウロスっぽいやつもいた。まあすれ違い様に斬り伏せたけど。あいつらカウンターに弱いよね。
「くっ、くそっ!」
「あーそっちは、」
一体のインクブスが路地裏に逃げ込もうとしている。残りの一体だ。
しかし、まあ末路はわかりきっている話で。
逃げ込んだインクブスの悲鳴が聞こえてくると共に、
大量の捕食音が辺りに響く。
相変わらず、彼女は凄い。私様にもそういう事が出来たらなぁ。羨ましいぜ〜。
……ちょっと余裕が出来てきたかも。
いやそんなこと考えてる場合じゃない。
インクブスの死を見届けたあと、走り出す。
すれ違ったインクブスは切り裂き、民間人を見かければ保護する。
「そろそろ数も減ってきたかな」
「ナンバーズ、及び他のウィッチも戦闘を行っています。取りこぼしは限りなく少ないかと」
「彼女がいなきゃ、どれだけ被害は広がってたろうね」
私の行動は、迅速と言えるほどに早くはなかった。
一応、奥の手はあった。つい最近思いついたものだ。
範囲も広い。エナにも余裕はあった。
……けど、アレは使ってしまえば敵味方の区別なく
孤軍奮闘。そういう状況でこそ使える。今の状況では
使えなかった。
幸いだと言えるのは……私が急ぐまでもなく、
おかげで避難所に行くインクブスは全滅してる。
「あとはネームドだけど、」
「ナンバーズが大半を殲滅しています」
「流石。私も何体かやったけど……全部は無理か」
ネームド。
私も何体か見かけ、処理した。
恐らく、被害も少なく出来ているだろう。
……ゼロとは、言えないだろうけど。
「フルールラム」
「ん、どしたの?」
「殲滅が完了したようです」
「おお」
……どうやら終わったらしい。
なんだか、あまり貢献できた気がしないなぁ。
こういう範囲が広い場所での戦闘って、私様には向いてないと思うのよ。
「あとは後始末だけ?」
「それは国防軍の仕事でしょう。刀華、あなたはもう休むべきです」
「……わかったよ、もう」
相変わらず親みたいな……いや本当にそういうものなのかはわからないけどさ。
……ま、いいか。
終わり良ければ全て良し、と。
「それじゃあ、帰ろっと」
今日も今日とてインクブスが数を減らした。
それで満足しよう。
◆
「氷室さん……」
「どうして……うぅ」
クラスの雰囲気は暗い。
教室に配置された沢山の机。
そのうちの一つにぽつんと置かれた花瓶。
……それは、その机にいた人が死んだことを表していた。
私が……守りきれなかった命だ。
「……」
普段は能天気になる私だけど。
今ばかりは、明るくなれそうにない。
重い雰囲気の中、先生がやってきてありふれてしまった日常が始まる。
そして学校が終わり、下校時間になった頃。
私は一人で歩いていた。
「刀華、気に病まないでください。あの状況では、全てを守り切ることは不可能でした」
「……わかってはいるけど、さ」
「最善は尽くしたと、私は思います」
「だといいけどね」
普段は。
走ったり、見かけたら子どもと遊んだり。
そんな寄り道をしながら帰る。
……今は走りたい気分でもないし、子どもの姿は見えない。
インクブスの襲撃があったんだから、そりゃそうなるよね。
「世界って、本当に残酷」
「……」
「……けれど」
だからこそ、思う。
こんなにも残酷な世界だけど。
救いのない現実が待ち構えている世界だけど。
未来の見えない、世界だけど─────
「守りたいよ、こんな世界でも」
「刀華……」
「いつかきっと、皆が幸福になれる日が来るって……信じたいから」
そうでなければ。
今まで犠牲になった人たちが浮かばれない。
その身を犠牲にして人々を守ってきたウィッチが報われない。
そんなの、嫌だから。
「……さぁて、辛気臭いのはここまで! 走るか!」
ふははは、いつまでも暗くなってる私様だと思うなよぉ?
インクブスなんざいつか滅ぼしてくれるわ!
戦ってる最中に思いついたアレが出来るのなら……ふふ、逆侵攻も夢ではないかも?
そうと決まれば特訓……あーでも小言言われそうだし、しばらく日を開けたほうが─────
人とすれ違う。
その一瞬だけ、スローモーションになったかのようだった。
背が低い。私よりも小さい。けどあんまり差はない。
数cmくらい?
黒い髪を長く伸ばしている。清楚系な感じ。
学友の人と話してるから、声も聞こえた。とても可愛いロリータボイスだった。
そして何よりも……とても嗅ぎ慣れた、けれど今まで嗅いだものよりも芳しい─────
「
思わず呟いてしまった。
探していた、わけではない。
けれど、誰よりも追い求めていた人ではあった。
自ら会おうとは思ってもみなかった人だった。
それが、こんな……こんな形で、わかるなんて。
しかも……
しかも……!
走らせていた足を少しずつ緩め、最後には止める。
「……刀華?」
パートナーが心配そうに声をかけてくる。
けどごめん、今はそれどころじゃない。
しゃがみ込んで、思いっきり息を吐き出す。
「─────はぁぁぁぁぁぁ……」
─────好みドンピシャじゃないですかぁ!
はぁ好き!
あんな可愛い声で私の好みにピッタリ過ぎて、もう奇跡だよ!?
あ〜たまんないっ、脳内再生余裕だぁ。
やばい、頭の中で反芻しそう。してるわ最高か?
「刀華……落ち着いてください、何やら荒ぶっているようですが」
「……………すぅ………ごめん」
……………こんなこともあるもんだなぁ。
誰よりも尊敬するウィッチが、私好みの美少女だなんて。
巡り会えた幸運を私は忘れないだろう。
それをしっかりと噛み締めて、明日も頑張ろう。
今の私なら何者にも負けない気がする。
「……」
「東さん?」
「いや、なんでもない」
一瞬。
主人公は技に名前はつけない派。
そして言ってなかったけど、鼻が良いので匂いフェチ。
そして偶然すれ違ってしまった原作主人公。刀華は推しを見つけた模様。
変態だね、うちの主人公。良い空気吸ってない?
限界化してるし。