ですので投稿です。
最近、妙な奴らが出没している。
インクブス……ではあると思う。
しかし臭いが妙に人間臭く、そして何より見分けがつきにくい。
おかげで走り回って探さなければ位置を特定できないし……何より、面倒なことがある。
それは、見た目だけは完全に人間のそれと変わりないということ。
どのインクブスが、どのような方法で擬態し操っているのかは定かではないけど、私達にとって厄介なことが起こっているのは確かだった。
彼女の、シルバーロータスのファミリアが動いていないことを見るに、おそらく彼女もこの擬態した敵には苦労しているはず。
ならば私が積極的に行動しないといけない。
そう考えて、最近の私は夜遅くまでパトロールを行っていた。
「時間です、フルールラム」
「……今日は一匹しか見つけられてない。もう少しだけ、」
「駄目です、これ以上は明日の活動に支障をきたすことになります。ご自愛ください」
「……わかったよ」
とはいえ、長時間も寝ずに活動できるほどウィッチは強くない。
パートナーに諭され、ひとまず今日のパトロールを終了する。
今こうしている間にも奴らが活動していることを考えれば、本来このようなことをしている暇なんてない。
だが、それで身体を壊してしまえば本末転倒、却って面倒なことになってしまう。
そしてそれでシルバーロータスに迷惑をかけるようなことがあれば、私は死にたくなってしまう。
限界を見極めた上で、無理をしなくては。
幸いにも、と言って良いのか不明だが、この擬態人間は普段は区別がつきにくい性質を持つが、姿を変貌させたり
そうなれば臭いで感知できる。けど、そうなってる頃には手遅れになってるかもしれないけど……
あぁ、本当に。
「インクブスはゴミだけど、その中でも最低のゴミだよ、今回の奴は」
「フルールラム、気持ちはわかりますが抑えてください」
「わかってるってば。ほら、早く帰るよ」
悪趣味な奴だ、今回の敵は。
◆
「それで、何か用?」
「用件はわかるでしょう? あなたの鼻を借りたいの」
翌日。
再び夜の時間となって、私の前にラーズグリーズが現れた。
相変わらず唐突に出てくる。とはいえ前回とは違って今回は補足できていた。
「あなたほど鼻の優れたウィッチを私は知らない」
「褒めるのは良いから、どうしたいの」
「フェアリーリング……人間モドキって言えば伝わるかしら。それに関して何か知ってることはない?」
「あぁ、アレね。そこまで多くないけど、良い?」
「おねがい」
話を聞くにらラーズグリーズでも見つけるのは困難みたいだ。
しかし私の鼻でも補足するのは難しい。それも遠くからとなれば、なおさら。それをラーズグリーズに伝えた。
しかしラーズグリーズは、
「近づけば、わかるのね?」
と言って強張っていた顔を少し緩めた。
「近づければね。でも、近付いたらいきなり自爆して手遅れになるかもしれない。あの菌、触れればヤバいってのは見ればわかるし」
「……菌?」
ラーズグリーズが疑問の顔を浮かべる。
擬態人間……フェアリーリングとやらは自爆する。それはわかっている話だ。
自爆すると何が起こるのか。
黒い菌状のエナを散布する。それに触れれば何が起こるのか、正直なところわからない。
ただ、心を蝕むような臭いは嗅ぎ取れた。インクブスが使うような精神系のマジックに似た臭い。
恐らく触れれば心を支配されるというのが、私の推測だった。
そして敵は菌を操ることから茸かそれに類するインクブス。かなり厄介な敵、というのがパートナーと共に考察した結果得ることが出来た情報だった。
それをラーズグリーズに伝えれば、思案顔で考え出した。
「そう、菌……てっきり霧に見えたけど、あれはそういう……BC兵器という判断も間違ってない、と。情報提供、感謝するわ」
「どういたしまして」
そう言って、互いの情報交換を終えてパトロールへと戻る。
「ラーズグリーズも苦戦してるとなると、原因を早く見つけたほうが良いよね」
「では、どうしますか?」
「そこなんだよね。どうにかしようにも方法がわからない」
私に出来るのは敵を殺すこと。鼻で察知して追い詰めること。それだけだ。
シルバーロータスよりも範囲は狭いし出来ることも少ない。だからこそそれ以外のことで力を振るわないといけないのに……それが出来ない。
インクブスに先手を取らせてはいけないと分かっているのに、後手に回る。
「腹が立つなぁ」
見つけられない自分も、隠れてコソコソしている敵も。あぁ、腹立たしい。
今すぐにでも殺してやりたいが、出来ない。届かない。
傷つける度に制御を離して逃げるから、殺しきれない。おかげで昨日は一匹しか見つけられず、今日も見つけることが出来ていない。
焦っている。その自覚があった。
「……落ち着こう」
心を平静に保つ。
インクブスを殺すのに、激しい感情はいらない。
ただ静かに、冷静に、淡々と殺せばいい。
今までも、これからも、変わらず。
「他のウィッチの協力を仰ぎますか?」
「それは……いや、やめとく」
それが出来るウィッチは酷く限られている。
そしてそれを出来るという確信があるのは、私の信じるウィッチだけ。
初対面の相手なのに頼み込むというのは、私には少し難しい。
それも、シルバーロータスとなれば、特に。
「今日は、一旦帰る」
「わかりました」
焦りは判断を誤らせる。
感情は身体を支配する。
だから心の安定を保て。
そして信じることと盲信することは、全く別物だ。
だから私はシルバーロータスを信じるし、同時に彼女にも出来ないことがあるのだと心に刻む。
私は、彼女の障害を壊す刃でありたい。
それがきっと、インクブスを滅ぼす手助けになると……そう思いたいから。
同時に。
言い訳がましい自分が、相変わらず嫌だった。
◆
気付けば全部終わっていた。
「はぁー」
ため息をつく。
今回は本当に何も出来なかった。無念で仕方がない。
─────これは後から聞いたことだけど。
私が学校に行き授業を受けてる最中、ラーズグリーズ曰くフェアリーリングという擬態人間が暴れ出したそうだ。
幸いにも怪我人は少なく、死者は出なかったらしい。
それと合わせてインクブス信奉派も出てきたそうだが、こちらもまた同様に無力化。
どのようにして無力化したのかは、知らないけど。
「はぁ……」
「花崎さん、大丈夫?」
「んあー、平気だよー、うん。平気平気」
心配してくれるクラスメイトに手を振り、心配はいらないと返す。
とはいえそれでもこちらを見てくるので、我慢していると思われているかもしれない。
自己嫌悪というか、間の悪さに色々と申し訳無さが出てくるというか……役に立てなかった自分が情けない、という気持ちはあるかもしれない。
こんなときにだいたいパートナーが声をかけてくれるけど、流石に昼間から人のいる場所で話しかけてくるわけもない。
「なんだかなぁ」
彼女のファミリアは無事だ。それはつまり彼女も無事であるということだ。きっとあのインクブスも彼女が倒してくれたのだろう。だからそれはいい。
ただ、私のいらないプライドが傷ついただけだ。何の役にも立てなかった自分の持っていたくだらないプライド。しょうもないことだし、気にすることでもない。そんなものは捨て去ってしまえばいい。
思うのは、別のことだ。
私は、彼女の役に立てているのだろうか。
……いや、知られていない人のことなど考えるはずもない。何を考えてるんだ、私は。
今はそんなことよりもするべきことがある。
「んじゃあ帰るねー」
「あ、うん。ばいばい、花崎さん」
バッグを手に取り、教室を出る。
今日も私はウィッチになる。
そしてインクブスを殺す。出てこなくなるまで殺す。殺して殺して殺し尽くす。
何も変わりはしない。戦いが終わるまで、それを繰り返すだけだ。
私はそれでいい。
そして彼女をこの手で守れれば、上出来だ。
叶うはずもない願望を胸に秘め、私は走り出した。
なお普通に先生に怒られた。反省します。
擬態
思い立ったので書き上げました。次は水着回を書きたい。
現在書籍第2巻が発売しているので、まだの人はどうぞ。