シルバー・アウトサイド   作:オルフェイス

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コミカライズ、書籍化第二弾、良いことが続いてます。
ですので投稿です。


ミミクリー

 

 最近、妙な奴らが出没している。

 インクブス……ではあると思う。

 しかし臭いが妙に人間臭く、そして何より見分けがつきにくい。

 おかげで走り回って探さなければ位置を特定できないし……何より、面倒なことがある。

 それは、見た目だけは完全に人間のそれと変わりないということ。

 どのインクブスが、どのような方法で擬態し操っているのかは定かではないけど、私達にとって厄介なことが起こっているのは確かだった。

 

 彼女の、シルバーロータスのファミリアが動いていないことを見るに、おそらく彼女もこの擬態した敵には苦労しているはず。

 ならば私が積極的に行動しないといけない。

 そう考えて、最近の私は夜遅くまでパトロールを行っていた。

 

時間です、フルールラム

「……今日は一匹しか見つけられてない。もう少しだけ、」

駄目です、これ以上は明日の活動に支障をきたすことになります。ご自愛ください

「……わかったよ」

 

 とはいえ、長時間も寝ずに活動できるほどウィッチは強くない。

 パートナーに諭され、ひとまず今日のパトロールを終了する。

 今こうしている間にも奴らが活動していることを考えれば、本来このようなことをしている暇なんてない。

 だが、それで身体を壊してしまえば本末転倒、却って面倒なことになってしまう。

 そしてそれでシルバーロータスに迷惑をかけるようなことがあれば、私は死にたくなってしまう。

 限界を見極めた上で、無理をしなくては。

 

 幸いにも、と言って良いのか不明だが、この擬態人間は普段は区別がつきにくい性質を持つが、姿を変貌させたり()()する直前に本性を現す。

 そうなれば臭いで感知できる。けど、そうなってる頃には手遅れになってるかもしれないけど……

 

 あぁ、本当に。

 

「インクブスはゴミだけど、その中でも最低のゴミだよ、今回の奴は」

フルールラム、気持ちはわかりますが抑えてください

「わかってるってば。ほら、早く帰るよ」

 

 悪趣味な奴だ、今回の敵は。

 

 

 

 

 

 

「それで、何か用?」

「用件はわかるでしょう? あなたの鼻を借りたいの」

 

 翌日。

 再び夜の時間となって、私の前にラーズグリーズが現れた。

 相変わらず唐突に出てくる。とはいえ前回とは違って今回は補足できていた。

 

「あなたほど鼻の優れたウィッチを私は知らない」

「褒めるのは良いから、どうしたいの」

「フェアリーリング……人間モドキって言えば伝わるかしら。それに関して何か知ってることはない?」

「あぁ、アレね。そこまで多くないけど、良い?」

「おねがい」

 

 話を聞くにらラーズグリーズでも見つけるのは困難みたいだ。

 しかし私の鼻でも補足するのは難しい。それも遠くからとなれば、なおさら。それをラーズグリーズに伝えた。

 しかしラーズグリーズは、

 

「近づけば、わかるのね?」

 

 と言って強張っていた顔を少し緩めた。

 

「近づければね。でも、近付いたらいきなり自爆して手遅れになるかもしれない。あの菌、触れればヤバいってのは見ればわかるし」

「……菌?」

 

 ラーズグリーズが疑問の顔を浮かべる。

 擬態人間……フェアリーリングとやらは自爆する。それはわかっている話だ。

 自爆すると何が起こるのか。

 黒い菌状のエナを散布する。それに触れれば何が起こるのか、正直なところわからない。

 ただ、心を蝕むような臭いは嗅ぎ取れた。インクブスが使うような精神系のマジックに似た臭い。

 恐らく触れれば心を支配されるというのが、私の推測だった。

 そして敵は菌を操ることから茸かそれに類するインクブス。かなり厄介な敵、というのがパートナーと共に考察した結果得ることが出来た情報だった。

 それをラーズグリーズに伝えれば、思案顔で考え出した。

 

「そう、菌……てっきり霧に見えたけど、あれはそういう……BC兵器という判断も間違ってない、と。情報提供、感謝するわ」

「どういたしまして」

 

 そう言って、互いの情報交換を終えてパトロールへと戻る。

 

「ラーズグリーズも苦戦してるとなると、原因を早く見つけたほうが良いよね」

では、どうしますか?

「そこなんだよね。どうにかしようにも方法がわからない」

 

 私に出来るのは敵を殺すこと。鼻で察知して追い詰めること。それだけだ。

 シルバーロータスよりも範囲は狭いし出来ることも少ない。だからこそそれ以外のことで力を振るわないといけないのに……それが出来ない。

 インクブスに先手を取らせてはいけないと分かっているのに、後手に回る。

 

「腹が立つなぁ」

 

 見つけられない自分も、隠れてコソコソしている敵も。あぁ、腹立たしい。

 今すぐにでも殺してやりたいが、出来ない。届かない。

 ()()()()()()()()()()()()

 傷つける度に制御を離して逃げるから、殺しきれない。おかげで昨日は一匹しか見つけられず、今日も見つけることが出来ていない。

 焦っている。その自覚があった。

 

「……落ち着こう」

 

 心を平静に保つ。

 インクブスを殺すのに、激しい感情はいらない。

 ただ静かに、冷静に、淡々と殺せばいい。

 今までも、これからも、変わらず。

 

他のウィッチの協力を仰ぎますか?

「それは……いや、やめとく」

 

 それが出来るウィッチは酷く限られている。

 そしてそれを出来るという確信があるのは、私の信じるウィッチだけ。

 初対面の相手なのに頼み込むというのは、私には少し難しい。

 それも、シルバーロータスとなれば、特に。

 

「今日は、一旦帰る」

わかりました

 

 焦りは判断を誤らせる。

 感情は身体を支配する。

 だから心の安定を保て。

 そして信じることと盲信することは、全く別物だ。

 だから私はシルバーロータスを信じるし、同時に彼女にも出来ないことがあるのだと心に刻む。

 私は、彼女の障害を壊す刃でありたい。

 それがきっと、インクブスを滅ぼす手助けになると……そう思いたいから。

 

 同時に。

 

 言い訳がましい自分が、相変わらず嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば全部終わっていた。

 

「はぁー」

 

 ため息をつく。

 今回は本当に何も出来なかった。無念で仕方がない。

 

 ─────これは後から聞いたことだけど。

 

 私が学校に行き授業を受けてる最中、ラーズグリーズ曰くフェアリーリングという擬態人間が暴れ出したそうだ。

 幸いにも怪我人は少なく、死者は出なかったらしい。

 それと合わせてインクブス信奉派も出てきたそうだが、こちらもまた同様に無力化。

 どのようにして無力化したのかは、知らないけど。

 

「はぁ……」

「花崎さん、大丈夫?」

「んあー、平気だよー、うん。平気平気」

 

 心配してくれるクラスメイトに手を振り、心配はいらないと返す。

 とはいえそれでもこちらを見てくるので、我慢していると思われているかもしれない。

 

 自己嫌悪というか、間の悪さに色々と申し訳無さが出てくるというか……役に立てなかった自分が情けない、という気持ちはあるかもしれない。

 こんなときにだいたいパートナーが声をかけてくれるけど、流石に昼間から人のいる場所で話しかけてくるわけもない。

 

「なんだかなぁ」

 

 彼女のファミリアは無事だ。それはつまり彼女も無事であるということだ。きっとあのインクブスも彼女が倒してくれたのだろう。だからそれはいい。

 ただ、私のいらないプライドが傷ついただけだ。何の役にも立てなかった自分の持っていたくだらないプライド。しょうもないことだし、気にすることでもない。そんなものは捨て去ってしまえばいい。

 

 思うのは、別のことだ。

 

 私は、彼女の役に立てているのだろうか。

 ……いや、知られていない人のことなど考えるはずもない。何を考えてるんだ、私は。

 

 今はそんなことよりもするべきことがある。

 

「んじゃあ帰るねー」

「あ、うん。ばいばい、花崎さん」

 

 バッグを手に取り、教室を出る。

 今日も私はウィッチになる。

 そしてインクブスを殺す。出てこなくなるまで殺す。殺して殺して殺し尽くす。

 何も変わりはしない。戦いが終わるまで、それを繰り返すだけだ。

 私はそれでいい。

 そして彼女をこの手で守れれば、上出来だ。

 

 叶うはずもない願望を胸に秘め、私は走り出した。

 

 

 

 

 なお普通に先生に怒られた。反省します。

 

 




擬態

思い立ったので書き上げました。次は水着回を書きたい。
現在書籍第2巻が発売しているので、まだの人はどうぞ。
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