シルバー・アウトサイド   作:オルフェイス

6 / 6
コミカライズ、書籍化第二弾、良いことが続いてます。
ですので投稿です。


ミミクリー

 

 最近、妙な奴らが出没している。

 インクブス……ではあると思う。

 しかし臭いが妙に人間臭く、そして何より見分けがつきにくい。

 おかげで走り回って探さなければ位置を特定できないし……何より、面倒なことがある。

 それは、見た目だけは完全に人間のそれと変わりないということ。

 どのインクブスが、どのような方法で擬態し操っているのかは定かではないけど、私達にとって厄介なことが起こっているのは確かだった。

 

 彼女の、シルバーロータスのファミリアが動いていないことを見るに、おそらく彼女もこの擬態した敵には苦労しているはず。

 ならば私が積極的に行動しないといけない。

 そう考えて、最近の私は夜遅くまでパトロールを行っていた。

 

時間です、フルールラム

「……今日は一匹しか見つけられてない。もう少しだけ、」

駄目です、これ以上は明日の活動に支障をきたすことになります。ご自愛ください

「……わかったよ」

 

 とはいえ、長時間も寝ずに活動できるほどウィッチは強くない。

 パートナーに諭され、ひとまず今日のパトロールを終了する。

 今こうしている間にも奴らが活動していることを考えれば、本来このようなことをしている暇なんてない。

 だが、それで身体を壊してしまえば本末転倒、却って面倒なことになってしまう。

 そしてそれでシルバーロータスに迷惑をかけるようなことがあれば、私は死にたくなってしまう。

 限界を見極めた上で、無理をしなくては。

 

 幸いにも、と言って良いのか不明だが、この擬態人間は普段は区別がつきにくい性質を持つが、姿を変貌させたり()()する直前に本性を現す。

 そうなれば臭いで感知できる。けど、そうなってる頃には手遅れになってるかもしれないけど……

 

 あぁ、本当に。

 

「インクブスはゴミだけど、その中でも最低のゴミだよ、今回の奴は」

フルールラム、気持ちはわかりますが抑えてください

「わかってるってば。ほら、早く帰るよ」

 

 悪趣味な奴だ、今回の敵は。

 

 

 

 

 

 

「それで、何か用?」

「用件はわかるでしょう? あなたの鼻を借りたいの」

 

 翌日。

 再び夜の時間となって、私の前にラーズグリーズが現れた。

 相変わらず唐突に出てくる。とはいえ前回とは違って今回は補足できていた。

 

「あなたほど鼻の優れたウィッチを私は知らない」

「褒めるのは良いから、どうしたいの」

「フェアリーリング……人間モドキって言えば伝わるかしら。それに関して何か知ってることはない?」

「あぁ、アレね。そこまで多くないけど、良い?」

「おねがい」

 

 話を聞くにラーズグリーズでも見つけるのは困難みたいだ。

 しかし私の鼻でも補足するのは難しい。それも遠くからとなれば、なおさら。それをラーズグリーズに伝えた。

 しかしラーズグリーズは、

 

「近づけば、わかるのね?」

 

 と言って強張っていた顔を少し緩めた。

 

「近づければね。でも、近付いたらいきなり自爆して手遅れになるかもしれない。あの菌、触れればヤバいってのは見ればわかるし」

「……菌?」

 

 ラーズグリーズが疑問の顔を浮かべる。

 擬態人間……フェアリーリングとやらは自爆する。それはわかっている話だ。

 自爆すると何が起こるのか。

 黒い菌状のエナを散布する。それに触れれば何が起こるのか、正直なところわからない。

 ただ、心を蝕むような臭いは嗅ぎ取れた。インクブスが使うような精神系のマジックに似た臭い。

 恐らく触れれば心を支配されるというのが、私の推測だった。

 そして敵は菌を操ることから茸かそれに類するインクブス。かなり厄介な敵、というのがパートナーと共に考察した結果得ることが出来た情報だった。

 それをラーズグリーズに伝えれば、思案顔で考え出した。

 

「そう、菌……てっきり霧に見えたけど、あれはそういう……BC兵器という判断も間違ってない、と。情報提供、感謝するわ」

「どういたしまして」

 

 そう言って、互いの情報交換を終えてパトロールへと戻る。

 

「ラーズグリーズも苦戦してるとなると、原因を早く見つけたほうが良いよね」

では、どうしますか?

「そこなんだよね。どうにかしようにも方法がわからない」

 

 私に出来るのは敵を殺すこと。鼻で察知して追い詰めること。それだけだ。

 シルバーロータスよりも範囲は狭いし出来ることも少ない。だからこそそれ以外のことで力を振るわないといけないのに……それが出来ない。

 インクブスに先手を取らせてはいけないと分かっているのに、後手に回る。

 

「腹が立つなぁ」

 

 見つけられない自分も、隠れてコソコソしている敵も。あぁ、腹立たしい。

 今すぐにでも殺してやりたいが、出来ない。届かない。

 ()()()()()()()()()()()()

 傷つける度に制御を離して逃げるから、殺しきれない。おかげで昨日は一匹しか見つけられず、今日も見つけることが出来ていない。

 焦っている。その自覚があった。

 

「……落ち着こう」

 

 心を平静に保つ。

 インクブスを殺すのに、激しい感情はいらない。

 ただ静かに、冷静に、淡々と殺せばいい。

 今までも、これからも、変わらず。

 

他のウィッチの協力を仰ぎますか?

「それは……いや、やめとく」

 

 それが出来るウィッチは酷く限られている。

 そしてそれを出来るという確信があるのは、私の信じるウィッチだけ。

 初対面の相手なのに頼み込むというのは、私には少し難しい。

 それも、シルバーロータスとなれば、特に。

 

「今日は、一旦帰る」

わかりました

 

 焦りは判断を誤らせる。

 感情は身体を支配する。

 だから心の安定を保て。

 そして信じることと盲信することは、全く別物だ。

 だから私はシルバーロータスを信じるし、同時に彼女にも出来ないことがあるのだと心に刻む。

 私は、彼女の障害を壊す刃でありたい。

 それがきっと、インクブスを滅ぼす手助けになると……そう思いたいから。

 

 同時に。

 

 言い訳がましい自分が、相変わらず嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば全部終わっていた。

 

「はぁー」

 

 ため息をつく。

 今回は本当に何も出来なかった。無念で仕方がない。

 

 ─────これは後から聞いたことだけど。

 

 私が学校に行き授業を受けてる最中、ラーズグリーズ曰くフェアリーリングという擬態人間が暴れ出したそうだ。

 幸いにも怪我人は少なく、死者は出なかったらしい。

 それと合わせてインクブス信奉派も出てきたそうだが、こちらもまた同様に無力化。

 どのようにして無力化したのかは、知らないけど。

 

「はぁ……」

「花崎さん、大丈夫?」

「んあー、平気だよー、うん。平気平気」

 

 心配してくれるクラスメイトに手を振り、心配はいらないと返す。

 とはいえそれでもこちらを見てくるので、我慢していると思われているかもしれない。

 

 自己嫌悪というか、間の悪さに色々と申し訳無さが出てくるというか……役に立てなかった自分が情けない、という気持ちはあるかもしれない。

 こんなときにだいたいパートナーが声をかけてくれるけど、流石に昼間から人のいる場所で話しかけてくるわけもない。

 

「なんだかなぁ」

 

 彼女のファミリアは無事だ。それはつまり彼女も無事であるということだ。きっとあのインクブスも彼女が倒してくれたのだろう。だからそれはいい。

 ただ、私のいらないプライドが傷ついただけだ。何の役にも立てなかった自分の持っていたくだらないプライド。しょうもないことだし、気にすることでもない。そんなものは捨て去ってしまえばいい。

 

 思うのは、別のことだ。

 

 私は、彼女の役に立てているのだろうか。

 ……いや、知られていない人のことなど考えるはずもない。何を考えてるんだ、私は。

 

 今はそんなことよりもするべきことがある。

 

「んじゃあ帰るねー」

「あ、うん。ばいばい、花崎さん」

 

 バッグを手に取り、教室を出る。

 今日も私はウィッチになる。

 そしてインクブスを殺す。出てこなくなるまで殺す。殺して殺して殺し尽くす。

 何も変わりはしない。戦いが終わるまで、それを繰り返すだけだ。

 私はそれでいい。

 そして彼女をこの手で守れれば、上出来だ。

 

 叶うはずもない願望を胸に秘め、私は走り出した。

 

 

 

 

 なお普通に先生に怒られた。反省します。

 

 




擬態

思い立ったので書き上げました。次は水着回を書きたい。
現在書籍第2巻が発売しているので、まだの人はどうぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

鑑定スキルで未来ある若者の人生を正しい方向に捻じ曲げ続けてきた男、捕まる(作者:ニガサー)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

転生者のタレスはチート染みた鑑定スキルで、未来ある才能に恵まれた若者に、才能の使い方を教えることにハマっていた。▼そんなタレスによって、人生を正しい方向に捻じ曲げられた若者、数知れず。▼しかしタレスはそんなこと一切気にせず、今日も才能ある若者を導いては彼らの脳をバチバチに焼き尽くしていた。▼そんなある日、タレスのもとにかつて導いた少女が英雄になって訪れる。▼…


総合評価:7960/評価:7.91/連載:4話/更新日時:2026年05月14日(木) 19:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>