昔、家の近くの山に大きな桜の木が植えてあった。その桜の木は樹齢2000年をほこり、地元では有名な御神樹として大切にされていた。
俺が小学生の頃、よくその桜の木に登って街を見下ろしたものである。
俺は、その桜の木を家族のように思っていた。だから、嫌なことがあった日はよく桜の木の下でふて寝していたように思える。
俺が大人になっても桜の木はあるものだと思っていたし、御神樹を傷つけるような罰当たりな奴はいないと思っていた。
俺が高校生3年生になり、大学受験も控えてきた頃、桜の木が伐採されたと母親の電話で知った。
高校は遠かっただったので、寮に入っていたのだが、桜の木が切られたと聞いて居ても立ってもいられず、定期だけ持って新幹線に乗って地元まで急いで帰った。
地元に着いた俺は家に帰ることもせず、一直線に桜の木まで走った。
いざ桜の木があったところまで走ってみると、そこには大きな切り株だけが残っていて、あの母親のように包み込んでくれるような体は無くなってしまっていた。
俺は、なんだが家族が殺されたような気分になり、伐採をした者に殺意を覚えると同時に、桜の木が無くなったことが悲しく、泣き叫んでしまいたい気持ちがあった。
実家に戻って、母親に誰が桜の木を切ったのか、何故切ったのか、御神樹を切ることの重大さは知っているのか、いろいろなことを聞いた。
母は困ったように質問に答えてくれた。
曰く、切ったのは隣町村長である。
曰く、切ったのは隣の村には名物があるのに自分の村には無くて腹立たしかった。
曰く、神なんて信じていない。
曰く、曰く、曰く……………。
俺はその村長のとこに行って殴ってやろうかと思ったが、既に警察に捕まって牢屋の中にいるらしい。
なんともやるせない気持ちになった俺は、切り株となってしまった桜の木の上に寝転がり眠った。
その後、俺は高校に戻ると、この言いようもない気持ちを勉強にぶつけ、良い大学に受かると、そこそこの会社に受かって、そこそこの人生を過ごした。
もう死んでしまいそうな歳なり、死ぬ直前に考えたのはあの桜の木であった。
これまでに多くの悔いを残してきたが、やはり一番は桜の木のことであり、桜の木が切られそうになったとき、俺がいてあげたかったと思った。
そうして俺は死んだわけだが、なんの因果か俺は小学生の時まで逆行転生してしまったのだ。
俺はそのことを認識すると、何かに背中を押されるように家を飛び出し、桜の木まで走り出した。
桜の木が植えてあったとこまで走ってきたが、桜の木は無かった。もう桜の木は切られてしまったのだろうか?
そう思って近くまで寄ってみるが、切り株すらなかった。
まるで、元から桜の木が無かったかのように……。
「ねぇ、あなたは一体誰?」
呆然と桜の木があった場所を見ていると、後ろから誰かに声をかけられた。
「……俺は、楓だ。お前は一体誰なんだ?」
「私?私は散花さくら、で楓君は一体ここで何してるの?ここに面白いものなんてないと思うんだけど」
「桜の木、大きな桜の木を知らないか?」
「いいえ、知らないわ。私此処に住んで長いけど見たことないわね」
「そんなばかな!俺はずっとあの桜の木と生きてきたんだぞ?ないわけないんだ……」
「そんなこと言ったって知らないわ、この山に一番詳しい私が知らないのならそれは空想や幻想よ」
「違う!あるんだ……あるはずなんだ…」
「……一体何故あなたはそんなにその桜の木にこだわるの?」
「…あの桜の木は俺の家族なんだ。楽しいときも、悲しいときもずっと一緒に過ごしてきたんだ。家族をそんな簡単に諦められるわけないだろ……!」
「……じゃあ、探すの手伝ってあげるわ。この辺の地理に詳しい私がいた方が頼もしいでしょ」
「…それはそうだが、何故だ?」
「だって、あなた迷子になった子供のような顔をしているんだもの。親を探すのは大人の役目よ」
「いや、お前大人っていう歳じゃないだろ」
「あら?あなたには私がそんなに若く見えてるわけ?これでもあなたの倍以上生きてるわよ」
「はぁ?どう見たって高校生くらいじゃないか」
「女性は若く見られていものよ」
「それにしてもだろ……」
「まぁ、そんなわけだからさっさと帰りなさい。もうすぐ日が沈むわ」
「あぁ、帰るとも、だがお前は帰らないのか?」
「私はここが家みたいな物なの。だから、心配しなくたっていいわ」
「そうは言ってもなぁ……」
「もういいから早く帰りなさい」
「おい背中押すなって!」
「はいはい、また今度ね楓」
「ったく……また今度なさくら」
俺はさくらに背を向けて帰り道を歩き始めた。だが、歩き始めてすぐさくらのことが気になって振り返ってみると、もうそこにはさくらはいないのだった。
さくら、一体あいつは何者なんだ……?
「楓君……ね、あの子一体何者なのかしら。あの桜を誰かに見せたことはないはずなのだけど……、少し調べてみましょうか」
季節外れの桜の花びらが、満月の明るい夜に散った。
評価乞食です。(ΦωΦ)