Infinite Stratos ~Pupil to Beni from Ao~《瞳は蒼から紅へ》 作:ぬっく~
その日の昼休み、俺はシャルル、鈴、箒、セシリアの4人でIS学園の屋上に来ていた。箒から一緒に昼食を食べようと誘われたので、この際シャルルと他の皆の親睦を深めるために箒以外の知り合いも誘い、今に至る。
「……どういうことだ?」
しかし、箒は不機嫌そうにそう聞いてくる。
(はて?何か気に触るような事をしたかな?)
そう思いつつ、俺は箒に何が不満なのかを聞く。
「何が?」
「何故、鳳やオルコット、デュノアが居る?」
成程、どうやら俺以外の人間が居る事が理由か。
「大勢で食べた方が美味いだろ?シャルルとの親睦を深めるっていう狙いもあるしな」
俺は箒に皆を誘った理由を話す。しかし、箒は相変わらず不機嫌そうな顔だった。
「箒、その顔は少し酷いと思うんだが?」
「一夏の言う通りよ。箒」
俺の言葉に同意した鈴がそんな事を言いながら小さいサイズのタッパーを取り出した。
「鈴、それは?」
「酢豚よ、作ってきたのよ」
「美味そうだな、お手並み拝見と行くか」
そこにセシリアが割って入る。
「一夏さん、私も今日はお弁当を持ってきましたわ」
するとセシリアは手に持ったバケットを俺に差し出してきた。開けるとそこにはとても美味しそうなサンドイッチが並んでいた。
「へぇ~、これも美味そうだ。ありがとなセシリア」
「いえ、どういたしまして」
セシリアに礼を言い、セシリアはそう返事をする。そこで箒が一夏の袖を引いた。
「箒、どうかしたのか?」
「わ、私も弁当を持ってきたのだが……」
箒は弁当箱を手にしていた。俺は苦笑いして箒から差し出された弁当箱を受け取り、礼を言う。
「箒もありがとな」
「あ、ああ」
箒は照れ臭そうにそう返してきた。
「それじゃ、そろそろ頂くとするか」
そう言って俺はセシリアが作ってきたサンドウィッチを1つ食べる。
(うーん……これは酷い味だ……)
その味はお世辞にも美味しいとは言えなかった。しかし、彼女の様子を見ると、わざとこのような味付けにしたわけではなさそうだ。
(セシリアの場合は、味見をしてないってパターンだな)
ここは正直に感想を言って、この事を知らせるべきか?しかし、ストレートに言えば彼女をかなり傷つけてしまう。色々考えた結果、ここはセシリアにも実際に自分の料理を食べてもらう事にした。
「セシリア、ちょっとこれ食べてみてくれないか?」
「どうしてですか?」
「いいから、ほら。」
俺が促すと、セシリアはあっさりとサンドイッチを食べた。セシリアは最初は平然としていたが、すぐに顔を真っ青にしてなんとかそれを飲み込んだ。
「……すみません一夏さん。このような物を食べさせてしまい……」
「別に、良いって。これからはこうならないように、ちゃんと味見するようにな?」
意気消沈するセシリアにアドバイスをする。
「そういえば、シャルルは専用機を持ってるのか?」
「持ってるよ。でもそれがどうかしたの?」
俺からの質問に、シャルルはそう返した。
「じゃあ、今日の放課後暇だったら、俺と模擬戦しないか?」
俺はシャルルの答えを聞いて、そう提案する。強いと思ったら一度は戦ってみたいという欲求に駆られるのだ。
「別に良いよ、一夏」
「よし、じゃあ決まりだな」
シャルルとの模擬戦の約束を取り付ける事に成功する。そうして、しばらく談笑しながら昼休みを過ごした。
放課後となり一夏達5人は第三アリーナに来ていた。昼休みの約束通りにここでシャルルと模擬戦をする為だ。既に一夏は『白式』を、シャルルは『ラファール・リヴァイヴカスタムⅡ』を展開してアリーナの中央に立っていた。互いに機体を上空に浮遊させ、視線をぶつけ合う。
「さてと……それじゃ、始めようぜ!」
「いいよ、一夏」
その一言と同時にカウントダウンが始まる。そして……0になる。
「遠慮なく行くぜ!!」
「行くよ!一夏!!」
一夏は早速雪片弐型を展開し、シャルル目掛けて突撃する。
「そんな動きじゃ、狙い撃ちだよ!」
しかし、シャルルは両手にマシンガンを展開し、弾幕を張って一夏に接近を許さない。
「これは随分と手厳しい御挨拶だな!」
絶大な火力を誇る多量の武器とそれらを状況に応じて完璧に使いこなすシャルルの技量が相まって、一夏も容易に接近することが出来ないでいた。
(手強い……けどな!)
しかし、一夏とて伊達に今までISに乗り続けてきた訳ではない。襲いかかる弾幕を雪片弐型で切り払いつつ、少しずつシャルルに接近していく。
「そこだぁぁぁ!!」
「甘いよ!」
そして一夏が雪片弐型で斬りかかろうとするが、シャルルはそれを防御し鍔迫り合いになる。
「この程度じゃ、僕には当たらないよ」
「だろうな!」
一夏はそう言うと同時に、スラスターを最大限に吹かし無駄の少ない動作で背後に回り込んだ。
「……!?」
いきなりの一夏の行動に反応できずに背後から蹴りを入れられ吹き飛ばされるシャルル。素早く体勢を立て直し、すぐに背後に武器を構えるが、そこに一夏の姿は無かった。
(消えた?一体どこに!?)
シャルルはすかさずハイパーセンサーで周りを確認しようとするが……
「隙だらけだ!」
再び背後から衝撃が襲い、体勢を崩される。一夏はその隙を見逃さず、一気にシャルルへ肉薄して雪片弐型の一撃を浴びせる。シャルルは瞬時にショットガンを呼び出し、一夏に向けて引き金を引く。一夏は跳躍してシャルルの攻撃を回避し、頭上を通り過ぎてそのままシャルルの背後に着地する。
「そこ!!」
シャルルは素早く振り返り、勢いをつけながら薙ぎ払うようにブレードで攻撃するが、一夏は振るわれたブレードの動きに合わせて横に水平移動した後、曲線を描きながら移動して再び背後を取り、雪片弐型で斬りかかるも、シャルルはその一撃を何とか上半身を反らせて回避し、お返しと言わんばかりにブレードで攻撃するが、一夏はそれを雪片弐型で軽々と受け止めた。そして、一夏はシャルルから逃げるように上空へ飛行し、シャルルも一夏を追うように上空へと飛び、そのまま空中で鍔迫り合いになる。
「どうしたシャルル?まさかこの程度じゃないよな?」
「勿論だよ、一夏!!」
一夏の挑発とも取れる発言に、シャルルはそう返す。
「そうこなきゃな!!」
一夏がそう言うのと同時に一夏が離れようとする。シャルルは両手にマシンガンを装備し、距離を取ろうとする一夏に向けて引き金を引こうとした……瞬間だった。いきなりシャルルの右手にあったマシンガンが爆発した。何故ならば、一夏は離れる瞬間、神鳴流 五月雨斬りを放ち、マシンガンを切断して破壊したからだ。シャルルはいきなりの事に動揺し、一瞬動きを止めてしまう。一夏はその隙にスラスターを噴射して滑り込むようにシャルルの真下を通過しながら攻撃する。動揺していたせいで、動きが止まっていた上にいきなりの真下からの攻撃にシャルルは対応しきれずに、雪片弐型の攻撃をもろに受けてしまう。更に一夏は追い打ちをかけるように一気に接近し攻撃する。
「これ以上はさせない!」
シャルルは空いている右手にブレードを装備してその一撃を防御しようとするが、勢いの乗った一撃を受け止めきれる筈がなく、シャルルの右手は大きく跳ね上げられ、ガラ空きになった個所剣先が向けられる。シャルルはその場を急いで離脱して距離を取り、反撃と言わんばかりに弾幕を張るが、一夏はそれを回避しながらも、アリーナを縦横無尽に駆け回りシャルルを翻弄していく。シャルルは一夏の動きに翻弄され、未だにダメージを与えられずにいるばかりか、一夏の攻撃によってシャルルのダメージはかなりのものになっていた。
(何で当たらないの!?)
未だに攻撃が当たらず、ダメージが増えていくことに次第に焦りと苛立ちを募らせるシャルル。そのせいか、攻撃に粗が見え始める。
「貰った!!」
そこを一夏は見逃さず、そのまま神鳴流 百花繚乱を放った。二人を中心とした辺り一面に花びらが舞い上がり、視界が一気に悪くなる。こうなれば二人とも互いの姿を確認する事が出来ない。
「これで隠れたつもりかな?」
シャルルはISのセンサーを赤外線センサーに切り替えて辺りを見渡す。視界が塞がれた状況では、直接目視するよりも赤外線センサーで熱源を探知した方が早く敵を見つけられるからだ。そして、シャルルは上空に熱源がある事を確認する。
「見つけたよ!一夏!!」
シャルルはそこにありったけの弾薬を撃ち込んだ。この状況下では、いかに素早く動けたとしても先に仕掛けられてしまえば少なからずダメージを受けるのは必至だ。シャルルは自分の攻撃が一夏に届いたと思い、気分を高揚させていた。そして、徐々に視界が晴れていく……がしかし、熱源のあった場所には…………
一夏の姿は無かった。
そこにいると思っていた場所に一夏が居なかった事でシャルルは完全に混乱していた。
「俺はここだ!」
一夏の声が聞こえ、シャルルが後ろを振り返ると、そこには雪片弐型を構えた一夏がいた。
「楽しかったぜ、シャルル。」
そして、その一言と共にレールカノンⅡの引き金が引かれ、弾丸がシャルルに直撃する。それと同時にラファールのシールドエネルギーが0になり、模擬戦は終了した。
「一夏!何だあの動きは!今まで実力を隠していたのか!!」
模擬戦が終わり、アリーナの地面に降り立つと同時に箒に詰め寄られる。シャルルはその光景を見て苦笑し、鈴とセシリアはやれやれといった表情だった。
「べ、別に、隠すつもりは……」
「では、何故隠していた!!」
俺は一応箒の質問に答えるが、箒は更に質問攻めしてくる。箒の言いたい事は分かるが、この状況じゃ話しづらい。
「箒さん、そんなに詰め寄られては一夏さんが話せませんわ」
セシリアが箒を宥めてくれたおかげで、箒は渋々といった感じに引き下がってくれた。
「でも箒の言うとおりね。対抗戦の時に比べたら動きが全然違うし、隠してたとしか思えないわ。」
「私との模擬戦の時も、あのような動きはしていませんでしたわ。」
鈴とセシリアもどうやら疑問に思っているようだ。まあ、無理もないだろうな。
「今までは機体のデータを取る為に、機体に負荷を掛けるような動きはしばらく避けてくれって言われてたんだ。だから仕方なく力を抑えてたってわけだ。といっても、別にセシリアや鈴との試合で手を抜いていたわけじゃないぜ」
俺がそう言うと、その場に居た皆は納得したような顔をしていた。その時、一台のISが現れた。
「あれって、もしかしてドイツの第3世代……?まだ本国でトライアル段階だって聞いたけど……」
すると、いきなり周囲にいた訓練中の生徒がざわつき始めた。
(何かあったのか?)
何事かと思い、周囲のざわつきの原因となっている方向に眼を向ける。すると、そこには黒いISが立っていた。
(見た目からして、ドイツの第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』に間違いないな)
だとすればあのISを使えるのは、この学園の中でも一人しかいない。
(ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒか)
何が目的なのかは不明だが、わざわざ第3世代型を持ち込んできたのだ、何かあるに違いない。
「おい、お前も専用機持ちだそうだな。私と戦え」
ボーデヴィッヒからそう声を掛けられる。どうやらボーデヴィッヒは俺との模擬戦がお望みらしい。
(普通なら、ここで受けてやれば丸く収まるんだろうが……)
「断る、戦う理由がねぇよ」
俺は敢えてボーデヴィッヒの要求を断った。すると、ボーデヴィッヒがいかにも不機嫌だと言わんばかりの顔をしながらも声を発する。
「貴様には無くとも、私にはある。もう一度言う、私と戦え!」
「それはそっちの都合だ。とにかく、俺は戦うつもりはない」
ラウラは俺の言葉を鼻で笑い言った。
「ならば戦わざるを得ないようにしてやろう」
すると、シュヴァルツェア・レーゲンの右肩に装備されているレールガンの銃口が俺を捉え、すぐさま弾丸が発射された。俺は手に持っていた雪片弐型でその弾丸を切り捨てようとしたが、シャルルが間に入って弾丸を防御してくれたので、事無きを得た。
『――そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』
そこにアリーナの監督をしていた教師からのアナウンスが流れる。
「ふん、興が削がれた。今日のところは退いてやる。」
ボーデヴィッヒはISを待機状態に戻した後、そんな言葉を残し去っていった。何とか一難去ったが……近いうちにまた何か行動を起こすだろう。
(何事も無ければいいが……)
そんな不安を抱えながら、俺はアリーナを後にした。