Infinite Stratos ~Pupil to Beni from Ao~《瞳は蒼から紅へ》   作:ぬっく~

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15話 シャルロット・デュノア

シャルルが着替えを終えてシャワールームから出てきたのと、一夏が部屋に戻ってきたのはほぼ同時だった。

 

「……デュノア。お前やっぱり……」

「織斑、君」

 

シャルルの反応を見て、少しだけ思案した後で一夏は後ろ手でドアのカギを掛ける。これですぐに逃げ出すことも出来ないし、誰かが着てもすぐにドアを開けられることも無い。

 

「とりあえず……どういうことか説明してもらえるか?」

 

そう言ってから少しだけ間が空いて、シャルルはコクリと頷いた。

 

一夏は座布団の上に座り、シャルルにも座るように手で促す。それを見てシャルルは恐る恐るといった具合だが座布団に座った。

 

「まずは、どうして男の格好をしてた……っていうか、なんで性別を男って偽ってたんだ?」

「それは……簡単に言うと、社長……デュノア社の社長……僕の、父からの命令なんだ」

「父親?」

 

 シャルルの父という言葉に首を傾げた一夏に、シャルルは「うん」と頷き説明をする。

 

「僕は愛人の子なんだ。だから、所謂妾の子ってヤツだよ」

「そう、か……」

 

 シャルルの言葉に一夏は思わず息を呑む。事情があるのだろう程度は察していたが、まさか話しになるとは想像していなかったのだ。

 

「二年前に母が他界した時に、初めて父のことを知ったんだ」

「それがデュノア社の社長、ってことか」

「まぁ、会ったことなんてほとんど無いし、会話も碌になかったね。両方の回数なんて両手で足りるよ。多分」

 

そう言う彼女の顔は、どうでもよさそうな顔をしていた。

いや、真実どうでもいいのだろう。恐らく彼女は理解したのだ。あの男にとって、自分はとっくの昔に捨てた過去《母》がしつこく残した遺品でしかないと。

それを理解した彼女は彼を完全に『血が繋がっていて戸籍上親な他人』として見た。

 

「それから検査で僕のIS適正が高いことがわかってね。デュノア社専属の操縦者としてやってきたんだ。でもある日いきなり呼び出されてね。そしたら突然男としてIS学園に入学しろ、何て言って来たんだ」

 

そう言ってシャルルは、はぁ~とため息をつく。その顔はやんなっちゃうよと言っているように見えた。

 

「でも、なんでそんなことを言い出したんだ? ぶっちゃけリスクがありすぎだと思うが」

 

正直言ってしまうと、自分ならそんなことはしないと思った。このIS学園は女子校と言っても過言ではない。いくら中性的な顔をしているとはいえ、騙し続けるのも無理がある。些細なことで感づく者だっているかもしれないのだ。そうなった瞬間アウトである。

 

「多分、焦ってるんだと思う。デュノア社は今ISの開発が大きく遅れているから」

 

「ついでに広告塔代わりにね」とシャルルは思い出したように付け加える。

 

「デュノア社は世界シェア三位じゃなかったか?」

「デュノア社が作ったラファールは結局第二世代だからね。しかも遅れに遅れて。他が既に第三世代を造って、ほとんど形になっている今では第三世代開発は急務なんだよ。でもラファールは出したばっかりでデータも無いからね」

 

そんなシャルルの言葉を聞いて納得する。

デュノア社は第三世代のデータが欲しい。でも他国から盗ってきたら国際問題に発展する。そうなってしまえば開発するしないに関わらずデュノア社は終わりなのだ。

ならどうすればいいか。そう考えた所に一つの情報が入った。それはIS学園にいる男性操縦者の一人が第三世代のISを持ち、しかも無所属というもの。つまり、織斑一夏の白式である。

 

「で、同じ男子なら接触する機会が増えるし、あわよくば同じ寮部屋にって思ったらしくてね」

 

 そこまで来て、シャルルはため息を吐いてテーブルに突っ伏しそのまま頬杖をつく。

 

「どうした?」

「うん。これからどうなるかなって」

 

 そう言って座りなおし一夏の方へと視線を向ける。その顔は困ったといわんばかしの顔をしていた。

 

「ばれちゃったから多分国に強制送還だろうし。下手すれば投獄されるかなって思って。まぁ、デュノア社はそうなったら終わりだろうけどね。多分どこかの会社の傘下に入れられるかするだろうし」

 

シャルルの言うそれは確かにあり得る事態だ。性別を偽ったとかそういったことも問題だが、それ以上にISのデータの盗難はまずいだろう。いくら相手が今だ無所属とはいえ問題にならない道理は無い。

それに、下手をすればデュノア社が責任の全てをシャルルに押し付けかねないのだ。たとえば男性として入学したのもシャルルが勝手にやったこと、とでも言って。

そうやって、彼女を捨て駒にする気なのだ。

 

「………………」

 

一夏はそんなシャルルの自虐的な言葉を黙って聞いていた。そして少しだけ目を閉じて、意を決したようにシャルルの目を見て告げる。

 

「それでいいのか? お前はそれで満足なのか? そんな風に、全てを達観したようなことを言って逃げて終わりにするのか?」

 

それを聞いて、シャルルから表情が消えた。

そして俯き、ふるふると震えだす。

 

「……だって、ヤダよ。そんななの……。イヤだよ、僕だって…………。イヤに、決まってる…………!!」

 

そう言って、ダンッ! とテーブルを叩く。そんな彼女の目からは一筋の涙が頬を伝っていた。

 

「僕だって、もっと色々なことがしたい! いろんな所に行ったり、いろんな物を見たり、恋だってしてみたい! でも、しょうがないじゃないか! 分からないんだよ! どうしたら良いのか!!」

 

それはまさしく、少女の心からの本音。

大人の事情に振り回された彼女が言う願い。

彼女もまた、自分と同じなのだと。

家系の事情や家族の事情から一度居場所を失った自分と。それ故に、一夏はポケットから生徒手帳を取り出しある項目のある場所を開いてシャルに差し出した。

 

それに気がついたシャルルは生徒手帳を見て、そして一夏を見る。

 

「この項目を呼んでみろ」

「え……特記事項、第二十一条…………これ、って」

 

シャルルが呼んだもの。それはこのIS学園における特記事項の一つであり、内容は『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない』というものだ。

しかも本人の同意なしで外的介入は原則として許可されないというオマケつき。

 

「そうさ。単純に言えばお前には三年間の時間がある。その間に作るんだ。自分の居場所を、そしてその先の道をな」

 

一夏のその言葉を聞いて、シャルルはボロボロと涙がこぼれ始める。そしてそのままテーブルに突っ伏した。

それを見て、一夏は静かに部屋を出た。

今は一人にしてやるべきだと思ったのだ。彼女に訪れたチャンス。それを実感し、噛み締めるための時間が必要だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして部屋に戻った一夏が見たのは、テーブルに突っ伏したまま安らかに寝息を立てているシャルルの姿だった。

それを見て、一夏は思わず頬が緩んでしまう。

 

「やれやれ。幸せそうな寝顔だこった」

 

だが、悪くない。そう一夏は思い、シャルルにタオルケットを掛けてやった。

 

そして、俺はその日、夢でエレンに出会った。

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