※なんとなく思い付いたのを書きなぐっただけになります!なのでがばがばなのは許して
「まずい、すっかり暗くなった」
既に太陽の代わりに月が登り、家の明かりが道を照らしているクガネの夜景を見て、赤髪のミコッテ族の青年グ・ラハ・ティアは思わずそう呟いた。
大通りとそれに並ぶ商店の灯は既になくなっており、赤誠組の屯所と望海楼の明かりだけが一際輝いて見える夜景は、すでに街も人も活動をやめつつあるのを感じさせる。どこかもの悲しくも感じるそんな風景にしばし心を奪われていたグラハティアだったが、そんな感傷的な雰囲気を壊すように響いた自分の腹の音に思わず苦笑してしまう。どうやら風景だけじゃ空腹は誤魔化せなかったらしい。
とはいえ、時刻は既に月も登りきっているような真夜中で____ひんがしの国風に言えば丑三つ時に差し掛かる、といったところだろうか。
多くの食事処は既に閉まっていることだろうし、宿である望海楼にいまさら食事を頼むのも気が引ける。もちろん探せばまだやっている所もあるのだろうが、そうやって街を練り歩けるほど、自分がクガネに詳しいとは言えなかった。
そんな葛藤と空腹を訴える腹でしばらく考え込んでいた彼だったが、そうこうしている内にまたひとつ消えていく明かりをみて、やはり探して歩くのは無謀に近いと感じたのだろう。自分に言い聞かせるようにため息をひとつ。
「……帰るか」
もうちょっと明るければなと少しだけ後悔しつつ、クガネの夜道を歩く。
人や交易で活気の溢れる昼の光景とはうって変わり、波の音と自分の靴音だけが響く静かな街並みにどこか心躍る自分に苦笑しつつ小金通りを抜けようとしていた時である。
ふと漂ってきた美味しそうな香りに引かれ、目を向けた裏路地にとある光を見つけたグラハティアは、思わずその光に駆け寄った。まさかこんなところにあるなんて、そしてまさか本当にあるとは!
そう言いたくなる気持ちと見つけた喜びが彼の胸を埋め尽くす。
「スッゲェ…!書いてあるまんまなんだ…!」
___大きな赤い提灯をぶら下げた、移動式の木造屋台。
中が見えないようにかけられた暖簾越しに漂ってくるお出汁の香りがなんともたまらない、知る人ぞ知る隠れた名店、誰が呼んだか気まぐれ屋台、その名も『あかつき』___。
船旅のなかでなんともなしになしに開いたガイド本にそういう特集で組まれていたお店、その説明通りの様相。唯一違ったのは、想像以上の食欲をそそる香りである。中から漏れ出てくる声を聞く感じまだまだ開店時間のようであるお店の様子に思わず鳴りそうになる腹の虫をグッと押さえる。美味しかったらあの人にも話してみよう、そんなことを考えながら意気揚々とグラハティアは暖簾をくぐり____。
「おや、本当にめずらしいお客さんデース」
「……いや、なにやってんだあんたら…」
____暖簾の先で小皿の奪い合いをしていたサングラスの見知った顔と尊敬する英雄のキョトン顔に思わずそう呟いたのだった。
「というわけで、こうして時おり冒険者殿のこの屋台を利用させてもらっているのデース」
「なるほどな」
ちょっと食材取ってくる。そんな言葉を残して本当にちょっとそこら辺に行く気軽さで屋台から去っていった店主を待っている間、グラハティアはサングラスの男__ハンコックからこの店の成り立ちを聞いていた。
多少酔っているのか、少し頬を赤らめたハンコックが上機嫌に話してくれた内容をまとめれば、どうにも溢れる食材などをマーケットではなく料理屋みたいなところに直接出せないかを試行錯誤した結果、ということらしい。
まぁ確かに理には叶っているな。などと思いながら出されたお冷やを一口飲む。思った以上の飲みやすさに既に2杯目に入っているこの水も、もしかしたらあの人がどっかで取ってきたのだろうか。
「……流石にない、とはいいきれないか……」
「ちなみに、ワタシもどこで採っているかまではわかりまセーン」
事情というか噂の中身が判ってみれば、隠れた名店扱いも頷けるというものである。冒険者なのでいつ開店するかは不定期だが、逆にそれが良かったのだろう。クガネの人たちには冒険者がまさかリムサ・ロミンサでも屈指の有名店出身だなんて結びつかないだろうから、何時やっているのか、何が出てくるのかもさっぱりわからないがとにかく旨い屋台がある、といった感じで噂が広まったことは想像に難くない。
とすると、少しだけ疑問なのがガイド本になぜあそこまで正確な情報が乗っていたのかなのだが
「このお店の噂を聞きつけて、クガネに立ち寄る人もだいぶ増えましたカラ。ワタシとしても万々歳デス!」
「なるほど、あんたが流してたってことか」
どうやら、ガイド本どころか噂の発信源まで同じ人物だったようで。美味しいお店をちょっと宣伝しただけデスヨ、などと言って笑うハンコックのちょっとした商いからも最大限のリターンを得るその姿に、どことなく知り合いのララフェル二人の姿を思い浮かべて、思わずグラハティアは笑みを溢す。こういった強かさは見習わなければならないかも知れない、これ以上クルルに雑用を言いくるめられる前に。
そんなことを思いながらひとしきりの事のあらましを知り終えたグラハティアの前に、そっと小さなお皿に取り分けられた卵と大根が差し出され、ハッと顔をあげればいつの間にか帰ってきていた冒険者がニコニコと笑顔で立っていた。
「……まだ頼んでないぞ」
どことなく気恥ずかしくてそう言ってみるものの、冒険者からお待たせしたお詫びだと言い返されてしまえば、それ以上はなにか言えるわけもなく。
目の前に差し出された料理の香りに腹の虫もいい加減大きな声をあげそうなのも相まって、グラハティアは差し出された大根にかぶりついた。
「ーーーーあッつ……うまい!」
大失敗であった。途端に中からあふれでた出汁の暴力的な熱さに思わず声をあげてしまうが、しかしそれは書き消すように広がる旨味によって美味しさへと変わっていった。
しっかりと煮込まれた大根は、中まで味がしみて柔らかく食べやすい。思わずかぶりついたさっきの失敗を活かして、今度は切り分けて食べてみれば、なおさらその美味しさを感じれて思わず笑いそうになってしまう。すぐさま大根を食べ尽くし、すぐさま次は卵に箸をのばす。こちらもしっかりと味が沁みているのであろうことが、その黒くなった表面から伺える。
すっとほぐれた大根と違い少しの弾力を持って崩れる白身の食感と、中から出てきた黄身と合わさることでまた違った味わいとなるのを楽しんでいれば、いつの間にか出された小皿は空になっている。
これは噂にもなるわけだと、どことなく感心しながら次の具材を選ぶグラハティアにますます笑顔になった冒険者は言葉を紡ぐ。
「___おかわりは?」
「いる!次は、そうだな……えぇっと…」
「はんぺんなんかもいいデスがおすすめは牛串デース!」
クガネも眠る丑三つ時に、冒険者と賢者と商人のそんな会話が通り抜ける。月明かりと波の音、そして微かな笑い声と出汁の香りを纏いながら、クガネの夜はふけていったのだった。
※この後、賢者と商人は寝坊したらしい。