ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 書き上がったからには投稿せざるを得ない。作者は読者に一話でも早く届けることを強いられているんだッ……という訳で、二日連続の投稿です。
 ここからしばらくはサラちゃんの独壇場じゃよ。
 お馬鹿で劇物な主人公君は迷宮(ダンジョン)にしまっちゃおうねー。
 というわけでどうぞ。


「崇高なるもの、汝の名は『食』なれば」(サラ視点)

 

 【暴喰(ザルド)】の剛剣が、【猛者(オッタル)】を。

 【静寂(アルフィア)】の音魔法が、【九魔姫(リヴェリア)】と【重傑(ガレス)】を。

 ゼウスとヘラの残した昔日の亡影が、邪神の意に倣ってオラリオを打ち砕く。

 その他悪派閥(イヴィルス)の幹部勢もまた己が牙を振るい、相応の敵と見定めた冒険者たちに容赦なく屈辱と泥の味を教え込む。

 

 戦いの趨勢は今や完全に、『悪』を語る者たちの手に落ちたと言えよう――そんな中で。

 

「――ぬわぁぁぁっ!?」

「――うぎゃぁあああっ!!!」

「――ひでぶっっっ!!!???」

 

 全域が戦場と化したオラリオにおいて踏み鳴らされる、醜い悲鳴の合唱(コーラス)

 逃げ惑う民衆及び、それを守る冒険者たちの喉笛からのみ奏でられていたはずのその中に――徐々に、悪派閥(イヴィルス)側の断末魔が混じり始めていた。

 それまでは正しく狩人であったはずの彼らの中に、いつの間にか狩られる側に回る者が出始める。

 

 その小さな戦場の変化において台風の目となっていた存在こそは、クレスが迷宮(ダンジョン)から連れてきた異常(イレギュラー)

 戦える給仕(バトル・ウエイトレス)こと、サラであった。

 

「御機嫌よう皆の衆――妾、参上なのじゃ」

「ハッ、酒場の給仕まで駆り出すとはな! いよいよ貴様らも万策尽きたと見える! 今だ同志たちよ、畳みかけ――みぎゅっ」

 

 『豊穣の女主人』の制服のままにどこからともなく現れた彼女に、それまで戦場を支配していた邪神の使徒たちはせせら笑う。

 本来ならば戦えぬ存在であるひ弱な給仕さえ駆り出すほどの、オラリオ側の人手不足。これこそまさに我らが優位を示す、蹂躙における絶好の機会だと彼らは嘲る。

 

 そしてその口は最後まで嘲笑を完結させることなく、喉奥からせり出た血の杭によって貫かれた。

 

「騒々しいのじゃ。食を分かち合えぬ口などいるまい? ならば塞がれたとて文句は言うまいな」

「はっ? えっ……あっ、ど、同志っ!?」

 

 戦場に有り余る悪派閥(イヴィルス)の下っ端たちとはいえ、その最高位はレベル3にも達している。これまでに冒険者たちと鎬を削ってきた幹部勢に比べれば雑兵かもしれないが、その積み上げてきた偉業に嘘偽りはなく、彼らは平穏を害する『悪』としてこれまでに多くの弱者(民衆)を平らげてきた。

 

 彼らは語る――「強き者が弱き者を蹂躙して、何が悪いのだ」と。

 

 ならばそれ以上の強者が現れた先に――彼らが平らげられる側になろうと、文句を言える筋合いはない。

 

「何を慌てておるか。そら、貴様たちも仲間入りじゃ。悪質客(クレーマー)は即退店、また来世でのご来店を心よりお待ちしておるぞ♡」

 

 あっけなく自らの末路を記す墓標となった同胞の骸に、その場にいた悪派閥(イヴィルス)たちの足が止まる。

 その明確な隙をサラは見逃さず、指揮棒のように魔槍を一振り。

 絶対なる支配者として彼らの血液に下知を与え、瞬く間に体内より咲く数十の赤十字架を量産した。

 

「あ、えっ……は?」

 

 状況がすぐに呑み込めなかったのは、それまで劣勢に立たされていたその場の冒険者たちも同様だった。

 突如として目の前に現れた給仕姿の美女によって、本来自分たちが果たすべき役割を全てあっけなく終わらされてしまったという事実。

 いかに絶望に打ち克とうと奮起し諦めないでいた彼らであっても、理解の遠く及ばない光景を前にしては、「なんだこれは」と思考を彼方に飛ばしかけてしまうのも無理がなかった。

 

「無事かお主ら。臓腑(はらわた)に穴が開いたりだとか、明日の食事が取れんような命の危ない者はおらんじゃろうな?」

 

 サラのかけた心配の声に、咄嗟にこの場を仕切っていた一人の男性冒険者が気を取り直す。

 

「あ、ああ……大丈夫だ。今生きている連中に、そこまで大きな怪我を負ってる奴はいないはずだ」

「ならば良し。疾くバベルまで下がれ、今は大半の者がそうしておるようじゃ」

「確か【勇者(ブレイバー)】からの指示だったな、分かってる――おいお前ら、さっさとここからズラかるぞ! アンタも……確か『豊穣の女主人』のサラちゃんだろ? 俺たちと一緒に……」

「すまんがそれは出来ん約束じゃ。妾は他の連中も急ぎ仕留めねばならんのでな」

 

 その言葉に彼女と話していた冒険者は思わず「無茶な!」と叫びかけたが、すぐに思いとどまった。

 彼らが手を焼いていた悪派閥(イヴィルス)たちを刹那の内に全滅させた、未知(サラ)の戦闘力。

 それは自分たちの護衛として遊ばせるよりも、遊撃として好きに振るわせる方が遥かに大きな価値となる。

 このいつ死ぬか分からない時代において今日の今日まで無事生き抜いてきた彼の計算は、弱い女は男が守るものと言う煩悩(プライド)をすぐに脳の奥に弾き飛ばして頭を下げた。

 

「いや、すまない。そうだな、他の連中をよろしく頼む。それと、俺たちを助けてくれて感謝する」

「うむ。この戦いを生き抜いた暁にはどうぞ我が『豊穣の女主人』を御贔屓に、じゃ。感謝はその時の金払いで示してくれれば、師匠(ミア)も喜ぶじゃろうて。では、またの!」

 

 サラは別れを告げると同時に、とぷんっ、と己の足元の陰にその身を沈ませる。

 種族(・・)特性の影渡り――夜の帳が落ちつつある今、彼女の色に染まりゆく世界を、その陶磁器のように白く艶めかしい脚が次なる戦場へと向けて疾駆する。

 

 

 

 

 

「――ぐぴゃあっ!?」

「――ほぎょぉぉぉっ!?」

「――ぎゅごっ!?」

「――すまん、助かった!」

「――今後も主神共々『豊穣の女主人』をよろしくなのじゃ!」

 

 黒い虫(例のアレ)の如く有象無象と蔓延る闇派閥(イヴィルス)たちを、白銀の影がひたすらに狩る。

 今にも冒険者たちを葬り去ろうとしていた彼らの前に、影から颯爽と姿を現すサラ。その髪が弧を描き、月の如く閃いたかと思えば――全てが終わる。

 嘲笑と剣戟が消え、失われゆくはずだった命が呼吸を繋ぎ、深紅の十字が聳え立つ。

 それらを為す今の彼女はまさに、神出鬼没。

 影を媒介として転移に近しい高速移動を行い、縦横無尽に戦場を駆けては闇派閥(イヴィルス)を墓標に変え、無事助かった冒険者たちに『豊穣の女主人』の宣伝をうって影に溶ける。

 

 懐の六文銭を確かめる間もなく彼岸に渡された悪派閥(イヴィルス)は勿論のこと。

 救われた側の冒険者も、何が起こったのかすぐに呑み込める者はいなかった。

 

 ――見目麗しい女給仕に目を奪われた次の瞬間には、血の十字架が立っている。

 

 それがサラの現れた戦場の全てで、それだけで報告を完結された【勇者(フィン)】は「なんだかよく分からないが僕たちの背を押すものならヨシ!」と次の指示を下し、【白妖の魔杖(ヘディン)】は「報連相の一つもマトモに出来んのか貴様らは揃いも揃ってオウム以下かそうだったなクソが!」と癇癪交じりの雷撃を飛ばした。

 

 そんな冒険者側の混乱もつゆ知らず、クレスに似て好き勝手にサラが闇派閥(イヴィルス)相手に墓標作り(アンダーテイキング)に励んでいると、やがてオラリオの中に神の送還を示す光の御柱が立ち始める。

 

「――くそっ、主神の馬鹿野郎が送還されて力が……っ!」

「ふははっ、神を失った冒険者なぞ恐れるに足ら、うぎゃぁあああっっっ!?!?!?」

「注意を怠った阿呆なぞ格好の的よ、愚か者め」

 

 その過程で恩恵を一時的に封印された冒険者たちが慌てて隙を生んでしまい、闇派閥(イヴィルス)たちは喜び勇んで虐殺を開始しようとするが――それもまた隙に他ならぬと、サラが穿つ。

 トドメを確信した時にこそ敵は弱くなる……クレスに負けず劣らずの経験を積んでいる彼女はその学びを良く活かして、釣られた連中を悉く始末する。

 

「そら、神の恩恵(ファルナ)を封印された者はそうではない者の補助に回るのじゃ! 力を失えど培った経験を生かさんか! 格上を相手に戦うことなぞお主ら(冒険者)にとっては日常茶飯事じゃろうが!」

 

 ついでとばかりに、叶わぬ現実に屈して膝を折ろうとする冒険者がいれば激励を送って次の戦場に発つ。

 

 全ては明日の食事で彼らの胃と心を満たさんがため――サラは己の『正義』を以て戦場に舞う。

 

『――聞け、オラリオ』

 

 やがて響く邪神(エレボス)の声も、彼女が足を止める理由にはならない。

 むしろ、その宣言に陶酔するあまり判断力の弱まった闇派閥(イヴィルス)を愚かな得物と位置付けて、浮足立った彼らを容易く仕留めていく。

 

 翻るはウエイトレスの証たる深緑のスカート、振るうは武骨な擬神晶鉄(ハイフラグメント)製の槍。

 月下の女中が暗雲を裂くように戦場を荒らし、『悪』の根を枯らしていく。

 

『……滅べオラリオ――我らこそが『絶対悪』!』

 

 都合九つ、長きオラリオの歴史を見ても類のない多くの神の送還を背景に邪神は嘲笑を湛える。

 されどそれを冷静に俯瞰する視点を持つ者にとって、その在り様はこれ以上ないまでの()だった。

 

「終わったか。ならば貴神(きさま)は用済みじゃ、散るが良い」

 

 サラの感想はただ一つ、「狩り時(ボーナスタイム)が終わったならば後は邪魔になるだけ」であった。

 では、ここで演説を終えた邪神エレボスの現状を書き起こしてみよう。

 

 ――自分こそが諸悪の根源である、と態々姿を晒して自己紹介してくれている(バカ)が一柱。

 

「――邪悪も暴力も静寂も、なべて等しく煮炊きの薪となれ」

 

 手元に握られる魔槍、【86式連結式葬槍(レギンレイヴ)】。

 それが担い手の意志の下にありったけの血液(エネルギー)を纏い、螺旋の暴威を描いて嵐と成る。

 赤き鮮血の極大槍を構えたサラが力任せに放つ、その一撃の名は――!

 

「崇高なるもの、汝の名は『食』なれば。――プレリュード・フィナーレ!」

 

 『序曲にして終曲なるもの(プレリュード・フィナーレ)』、それはサラの持つ必殺技にして初撃決殺を語る大技。

 火は小さな内に消せ――戦いは本格化する前に終わらせてしまえ。至極単純な大技で以て、争いの種火そのものを燎原へと派生する前に消し飛ばしてしまおうという、ある種の面倒臭がり屋の極致。

 それがありったけの理不尽(ステイタス)を乗せて、バベルの屋上諸共諸悪の根源(エレボスら)を打ち抜こうとするが――。

 

「ちぃ、しくじったか。能力(ステイタス)が劣るとはいえ、使い方は連中のほうが一枚上手だったようじゃの」

 

 とある理由により、彼女の戦場における必殺技は魔法もスキルも乗らない場当たり的な一撃に過ぎない。

 その自覚があったからこそ、サラは邪神の側に侍る二人の冒険者が放った炎と音の双撃によって攻撃が天高く逸らされても思考を止めたりはしなかった。

 代わりにすぐさま手元に引き戻した槍に次弾を装填して、こうなれば仕留められるまでぶっ放してやろうと意気込むのだが……残念なことに、彼らは衝突の際に生じた爆炎に紛れてとうに姿を消していた。

 

「一般市民に紛れられれば巻き添えにしかねんしのぅ。まあ良いわ、今はあっちは諦めて、兎角雑魚狩りに集中するのじゃ。主様曰く、侵略的外来生物は卵一つ残さず駆除せねばならんらしいからのー」

 

 ここで主犯格を討てなかったのは残念だが、釘を刺すことくらいは出来ただろうとサラは思う。

 ――【巨悪】だとかなんだとか、足元(民衆)の見えぬ妄想主義(イデオロギー)の走狗ごときが調子に乗るなよと。

 

 まあ一泡くらいなら吹かせられたじゃろうと、過ぎ去ったことは忘れて。

 今は撤退の様相を見出しつつある悪派閥(イヴィルス)の連中を見える内に一匹でも多く掃除してしまおうと、サラは絶望の底に沈んだオラリオの街並みに踊るのだった――。

 




※なおサラちゃんが賢くて大人しいとかは一言も言ってないものとする。
《Tips》
・『冥洞一灯伝』

 迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)に綴られる、とある冒険家の物語。

 【人知未踏の大穴にて灯を掲げる青年】クレス・テラティアリエ。
 【人界に製鉄技術を齎し、自らも戦馬を駆る精霊】ユーリ・??????。

 これは、『未知』を解き明かさんとする男と、彼に救われた(精霊)の話。

 誰よりも早く魔物の根源へと辿り着き、多くの『未知』を暴き続けた彼だったが、やがて後からやってきた一部の者たちにその知識を狙われて襲撃をかけられ、一部の手記を残しあっけなく奈落に散ったという。

 残された精霊は後に復讐を遂げ、彼の残した記録を編纂し、後にかの『傭兵王』も愛読したと言われる最初期の冒険者向け教科書(ダンジョン攻略本)を綴ってから、秘かに大地にその身を還したとされる。
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