ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 よろしくお願いします。
 ……たまにはこんな感じでシンプルにネ。だって予告通りに後書きもりもりだし。


グルメホリックな戦闘給仕と偽典恩恵(サラ視点)

 

「どうとでも、か。……易々と言ってくれるね」

 

 何一つ迷うことのない、確信めいたサラの言葉。

 そこには誇張も妄言も一切含まれておらず、だからこそ、それを聞いたフィンとガレスは苦虫を噛み締めたかのような表情を顔に浮かばせた。

 彼らがこれまで主神(ロキ)と共に苦労して積み上げてきた並々ならぬ努力と栄光、それを上回る千年来の英雄系譜……その中でも傑作中の傑作に勝利することを、彼女は「お茶の子さいさい」とさえ言った。

 

 ――ああ、何たる屈辱か。

 これまでの積み重ねを嘲笑うかのような残酷な女給仕の自負に、二人の反骨心が思わず顔を覗かせようとする。

 

 しかし、いざこの期に及んで自らの未熟さを克服する機会が欲しいと言えるほど、彼らは青臭くはいられなかった。

 

「ならば、ぜひ君を頼らせてもらいたい。サラ・ブラッドルーラー」

 

 滾る激情に蓋をするかの如く、握った拳に悔しさのあまり血管を浮かび上がらせながら。

 フィンは再度サラに対して腰を折り、頭を深く下げた。

 

「僕らの尻を拭かせるような真似をさせることになってしまって、本当に申し訳ない。だけど、恥知らずと言われようがなんだろうが、そう気楽に言える状況はとうに過ぎてしまっているんだ。一刻も早く彼らを片付ける――この街の平穏を守るために、君に依頼(クエスト)を出したい。受けてもらえるかな?」

 

 本来であれば自分たちが成し遂げたい――否。

 黒龍討伐の失敗責任を問うてオラリオから彼らを追い出した自分たちこそが、その手で過去に終止符を打たなければならない。

 それでも、そんな我儘のような想いで民衆にこれ以上負担をかけるわけにはいられないのだ。

 

 だからこそと、苦汁を呑む思いで願いを託そうとした彼に、サラは――。

 

「だが断る」

「「……は?」」

 

 話の流れをぶった切るように、完全拒否の四文字を口にした。

 

 どう考えても提案を受け入れられる形だったはずなのに、空気を読まず断った彼女。

 その大胆な断りの言葉に、思わずフィンは顔を上げた。

 

「えっと……何故だい? 今の彼らを止められるのは君だけ、今のはそういう話だったはずだ。そして、彼らは君の邪魔をする。それなのに手を出さないと言うのは、矛盾していないかな?」

「しておらんな。そも、連中ももう妾の前に姿を現そうとはせんじゃろうし。……先の一合で妾があやつらの技量を読み取ったように、向こうも妾の力量を理解したはずじゃ。それなりの(ここ)があれば、態々こちらの逆鱗を撫でるようなことはしまい」

 

 自らの頭を横からコツコツと指で叩いて、暗に「そこまで頭の足りておらん連中ではなかろう?」とサラは問う。

 

「そしてこちらからあの二人を探し出すのもそれなりに手間がかかろう。そこに手間暇をかけるより先に、妾には満たすべき皆の腹が待っておるのじゃ。……そこに火の粉が襲い来るものなら払おうが、そうでなければ放置じゃな。よってあの二人の討伐は自然、お主らの手に委ねられようて」

「……しかし、彼らが君の手の届かないところで民衆を虐殺する可能性もあるだろう。そちらの犠牲については許容するつもりかい?」

「いや、それは無かろう。なにしろ連中には、弱者の血の臭いが染み付いておらなんだからな」

「それはどういうことじゃ?」

 

 サラの放った言葉の意味をすぐには理解できず、ガレスが問う。

 血の臭いと一言に言っても、ザルドやアルフィアには相当数染み付いているはずだ。

 いずれも若くしてレベル7に至った強力な元冒険者となれば、自然、多数の魔物を討ち取ってきているに違いない。

 その中で血の臭いの云々を語られても、それが何を意味しているのか彼にはさっぱりだった。

 

「あー、妾はとある理由で血の臭いに敏感でのぅ。あの時一撃を交わすついでに連中の血の臭いを嗅いだのじゃが、濃厚なその臭いの中には一般に庇護されるべき民衆のものが混じっておらなんだということじゃ。連中から香ってきたのは全て、神血(イコル)の混ざった冒険者の臭い……つまり、その手で市井に危害を加えてはおらぬと妾は見ておる」

 

 そのサラの提言に、二人は意外そうに顔を突き合わせた。

 そして、これまでに齎された報告を今一度思い起こしながら精査して……彼女の言い分の裏付けを取る。

 

「……確かに。言われてみれば、あの二人による直接的な市民への被害はまだ報告されていないね」

「昨晩の動きもそうじゃった。我々にばかり構い、逃げ惑う市民を闇派閥(イヴィルス)らしく襲おうとすれば良いものを、そうはしておらんかった。奴らが相手取っていたのは冒険者ばかり……見落としておったか!」

 

 オシリス・ファミリアなど古参の悪派閥(イヴィルス)と対峙し続けてきた歴戦の彼らならば、当然その手口も熟知しているはず。

 より効率的に、冒険者を虐げる術……まず統制のままならぬ弱者(民衆)を脅かし、危機を煽って、慌てふためく彼らを守ろうとして冒険者が弱点を晒した所を容赦なく叩く。

 

 しかし昨晩の彼らの戦い方には、そのような卑劣なものは見出せなかった。

 

 ガレスたち主力の戦いを傍から見ていた配下からの報告にも、そのような所見は記されていなかった。

 

「てっきり、僕らに追い出された恨みつらみから身も心も『悪』に屈したものだと思っていたけれど……そうじゃない? もしかして彼らには彼らなりの、また別の意図があるのか? 僕たちと【神々の給仕(ゴッズプライド)】のような……?」

 

 そうなれば、とフィンは新たな切り口を得て回り出した頭で考え直す。

 敵の動きの前提となる目的が覆るのならば、作戦も大きく組み直さなければならない。

 彼らのこれまでの動きから、目的を改めて推察し直し、その行動を再び想定する。

 

 サラから提供された思いがけない視点によって以前の思考を破却せざるを得なくなったフィンの青眼から曇りが払われて、そこに光が戻る。

 

「やもしれんな。もし妾の読みが外れ、連中がこの目の前にのこのこと姿を現した暁には勿論その魂ごと殺してくれるのじゃ。しかしそうでない限りは、妾からあやつらに手を出すことはない。その点を踏まえて、考えを改めることじゃな」

「……ああ。だけど、ちなみにもし他の連中が避難所に来た場合は――」

「分かっておる、その時はばんばん血祭りにあげてやるのじゃ。衛生観念的にはよろしくないのじゃがなー、仕方あるまいて。――ああ、そっちに人的資源(リソース)を割り振る代わりに、妾のいる時に護衛はいらんぞ。つまり、こちらを餌にして愚か者を寄せ付けるくらいは許容するのじゃ」

「……すまないね」

 

 一瞬フィンの頭に過ぎった、『集う民衆を囮にして悪派閥(イヴィルス)を誘い出し、サラに始末させる手法』。

 それを読んだ彼女によって先に肯定されてしまって、彼は申し訳なさそうにしながらも苦笑した。

 最も頼りたかった所については拒否されてしまったが、それ以外の所では協力を惜しまないでいてくれるサラの姿勢は指揮官として実に好ましいものだった。

 

「構わんのじゃ。ただし、こちらからも報酬を求めようぞ」

「なんだい?」

「お主、小人族(パルゥム)の復興を目指しておるのじゃろう? ならば当然、その文化にも精通しておるはずじゃな?」

 

 突然発された【勇者(ブレイバー)】の成り立ちに係る話題について、目を丸くしながらもフィンは頷く。

 

「それはもちろんだけど、それがどうかしたのかい?」

「そこに小人族(パルゥム)秘伝の調理法(レシピ)などがあれば妾に提供して欲しいのじゃ。妾の崇高なる理想のためには古今東西の料理を蒐集する必要があるでな、しかしまだまだ足りんものが多い。小人族(パルゥム)と言えばかの女神の原型となった女傑フィアナも好んだとされる【勇気を謳う縁起卓(オーディール・オードブルズ)】じゃが、前に手に入れた書籍にはその一部しか載っとらんくてな……」

「――フィアナ騎士団でここぞと言う時に食されていたと言われる、大一番前の陣中食のことだね! へぇ、良く知ってるね。……うん、生憎と僕自身が作れるわけじゃないけれど、それに係る騎士フィアナの手記をこの間運良く手に入れたばかりなんだ。戦いが終わったら、『豊穣の女主人』までそれの写本を届けさせよう。これで満足かい?」

「それは真か!? ふっふーん、もちのろんじゃ! よかろう、ではその点くれぐれも忘れるでないぞ! 食の恨みは海より深く、山より高くつくからのぅ!」

「心得ておくよ」

 

 交渉を終えた二人は笑みを交し、がっちりと固く握手を重ね合った。

 互いに文化を尊重する者同士の無言の通じ合いが、そこにはあるのだった。

 

 そこにまったく踏み込めなかったガレスが、固く結んでいた口を開く。

 

「何だか知らんが、話は纏まったようじゃの」

「知らないだって? ガレス、それなら是非君にも教えてあげないとね」

「うむ。かつて騎士フィアナに必勝を期して捧げられた、慎ましけれども力の漲る十五の素材から成る決戦食。その名の通りの前菜(オードブル)にしてはやや重すぎるとの記録が後のエルフの吟遊詩人の歌に残されておるが、一説によればそれは主皿(メイン)をこれから平らげる敵に見立てるという意味合いも込めて、それだけで戦場に向かう騎士の腹を満たし完結し得る皿群(コース)として構成されたとも……」

「知らんと言っとるだろうが! そうではなく! 今はそれよりも、肝心のもう一つの話をせんか!」

 

 急に目を輝かせ始めた一人目(フィン)と、聞いてもいない知識を披露し始めた二人目(サラ)

 そんな馬鹿二人に対して、ガレスは叫びながら悟った――この二人は揃って、下手に噛み合うと途端に面倒臭くなる性格(タイプ)厄介者(ヲタク)であると。

 放っておいては話が変な方向に拗れていってしまうと、彼は敢えて声を荒げて話を本筋に戻した。

 

「おっと、そうだね。……それで、君の能力(ステイタス)の方については教えてもらえるのかな?」

「……むぅ、そうじゃな」

 

 正気を取り戻したフィンの問いかけに、ここまでは素直に話に応じていたサラの口が途端に籠る。

 

「妾としては伝えて構わんと思う、じゃがのぅ。ちょーっとばかり色々あっての、ややこしい話になりそうじゃし……なにより、そこまでの許しをはっきりとは得ておらんからの。はてさて、どうしたものか……?」

「もちろん、君の意志を損なうようなつもりはない。無理なら無理とそう言ってくれればいいんだよ」

「無理、ではないんじゃがな。妾だけでは判断を付けられんと言うか……うむむ」

 

 ――彼女が頭を悩ませている、どこまで自身の事情を明かすべきかについて。

 クレス曰く「いざという時には迷うな」とのことだが、それで実際、なにが大丈夫でなにが駄目なのか、具体例までは示されていなかった。

 うんうんと唸る彼女に、フィンは言葉を重ねる。

 

「それならひとまず、レベルくらいならどうかな?」

「レベル? ンー、まあそれもぶっちゃけ微妙なところなんじゃが……」

「――邪魔するぞ【勇者(フィン)】」

 

 そこへ、一柱の神が介入してきた。

 よく火に焼けた褐色肌を持つ、逞しい老人の姿をした神。

 その名を、ゴブニュと言う。

 

「神ゴブニュ? どうしてここに。御身は眷属と共に武器を作られていたのでは?」

「その材料が尽きたから相談しに来た。今は人手もあると聞く、迷宮(ダンジョン)に素材の回収部隊を派遣できんかと思ってな」

 

 後方支援系ファミリアの要の一つたる神からの依頼(クエスト)に、フィンは一時サラとの話を中断させて向き直った。

 

「……うん、了解した。編成はこちらで決めて出発させるから、そちらからは神ヘファイストスの所と併せて必要になる素材の一覧を提出して頂きたい」

「良いだろう。ならば速やかに作成に――」

「――そうじゃ、神ゴブニュ! 思い出したのじゃ!」

 

 ぽん、と名案を思い付いたように手を打って、サラがベッドから飛び上がった。

 彼女は退出しようとしていたゴブニュの元へ駆け寄って、その困惑する手を取って頼み込んだ。

 

「我が主の言う、地上で信頼できる数少ない神の一柱じゃな! お主ならば恩恵(ステイタス)開示の相談にも乗ってくれると見た。――実はの、今こやつらに妾の能力をどこまで明かすべきか考えておるのじゃが自分ではうまく判断がつかなくての。ぜひ御身に相談に乗ってほしいのじゃ!」

「何を突然……?」

 

 いきなりの、何の脈絡もないサラのお願いにゴブニュは眉間に皺を寄せた。

 しかしその目が彼女の影に向いた途端、彼の眦が鋭くなる。

 

「この気配……もしや、【86式連結式葬槍(レギンレイヴ)】か」

「む、気づかれたか。流石の慧眼じゃな」

 

 サラが自身の影から魔槍を引っ張り出して手渡すと、ゴブニュはその手に持った刃をじっくりと確かめるように眺めた。

 

「これを保有しているということは、そうか。アレ(・・)の関係者なのだな」

 

 ここにフィンとガレスという部外者がいる手前、迂闊にクレスの名前を晒すことは止めておいた方が良いだろうと判断したゴブニュの問いにサラは首肯を返した。

 それを受けて、退出しかけていた彼の足が方向を変えて部屋の中に戻る。

 

「よかろう、そちらの事情は少なからず聞き及んでいる。見せてみるが良い」

「うむ、ではよろしくなのじゃ」

 

 ばっ、とベッドに寝そべって服の上を脱ぐサラ。

 その背中に刻まれた刻印の中身を、側に座ったゴブニュが神血(イコル)を垂らして読み解く。

 

「……これは」

「神ゴブニュ?」

 

 暫し興味深そうにじっと見つめていた老神にフィンが催促する。

 それを受けて彼は、蓄えていた髭の隙間から言葉を選ぶようにゆっくりと話し出した。

 

「この娘の恩恵は少々(・・)特殊だ。それで、どこから話すべきか」

「御身の眼からして問題なさそうであれば妾は構わん。どこからどこまで公開すべきか、全て委ねるのじゃ」

「そうか。では……名前はサラ・ブラッドルーラー。レベルは――『(ゼロ)』」

「「レベル0!?」」

 

 それを聞いたフィンたちは、早速驚かなければならなかった。

 レベル(ゼロ)

 それは彼ら冒険者の最低となる『1』すら下回る、前代未聞のレベル。

 初っ端から飛ばしてくるサラの恩恵に彼らが口をあんぐりと開ける中、構わずゴブニュは続ける。

 

「しかし、基礎能力値(ステイタス)は……そうだな。実質的にはレベル10を超えている、と言ったところか」

「「レベル10だって(じゃと)!?」」

 

 そして述べられた補足と言う名の更なる爆弾に、フィンとガレスの表情が崩れる。

 レベル10。

 それは【暴喰(ザルド)】と【静寂(アルフィア)】の属していたゼウス及びヘラ・ファミリアの両団長でさえついには達しなかった、二桁台。

 魔法とスキルの組み合わせ如何によっては疑似的に辿り着くことが出来るかもしれないその境地に、サラが達しているという事実。

 まさかゴブニュがここで嘘をつく理由もなく、彼らはまたもや空前の驚愕に襲われることになった。

 だが、それはまだ終わらない。

 

「後は、そうだな。スキル【海魔保夜と十果の冷製和物(サラダ・アスケデシヤ&テンフルーツ)】、効果は『対精神:食欲増進(グルメアニマ・ブースト)』及び『軟体生物の調理特攻』と、『果実を扱う際の器用度上昇』」

「「……は?」」

「そして魔法、【ビスク・デ・セットクルヴェット(七海蝦蛯の不捨吸椀)】。効果は『対象の旨味を余さず抽出する』ことと、『対舌感:味覚活性(グルメテイスティング・ウェイクアップ)』」

「「……はぁ!?」」

 

 更に聞いたこともなければ中身の意味も理解できないサラのスキルと魔法に、「訳が分からない」と言った様子を露にするフィンとガレス。

 一方のゴブニュの顔は顰められていると言うよりも、どこか呆れているようにも見えた。

 

「このようなスキルと魔法が合わせて八つ。この組み合わせ、最初は何かと思ったが……他の名から察するに、さては【連膳餐会(フルコース)】か?」

「その通りじゃ。ふふん、素晴らしかろう」

 

 やがて背景に宇宙を背負った猫のような顔をするフィンたちに対して、横目を向けたサラは自慢げに答える。

 

「妾にとって、『食』こそが生の全て。全ては食に始まり食に終わる。一般に礼節の根幹を為すと言われる衣・食・住のうちで、『食』こそが最も尊ばれるべき至高にして究極の理よ。故に我が望みを映し出す恩恵に我が人生のフルコースが載るのは当然の論理と言えよう、のぅ?」

「……らしいよ、ガレス」

「……訳が分からんぞ、フィン」

 

 さも当然のように持論を語るサラに、二人は返す言葉を持っていなかった。

 否、持てなかったというべきか。

 ――なんだ、レベル10って。……いや、それはまだ分かる。

 

 ――しかし、スキル【海魔保夜と十果の冷製和物(サラダ・アスケデシヤ&テンフルーツ)】とは。

 ――そして、魔法【ビスク・デ・セットクルヴェット(七海蝦蛯の不捨吸椀)】とは。

 それは……それらは一体、なんぞや?

 二人は自問を繰り返し、やがて答えを放棄した。

 

 彼らは答えを得る代わりに悟った……「これ、もしや深く考えるだけ敗北(まけ)なのでは?」と。

 

「――分からないけれど、分かったよ。ともかく、あの二人を彼女が超えているのだけは理解出来た。感謝するよ、神ゴブニュ」

「構わん。儂も久々に興味深い……そう言って良いのかはお主らと同じく分からんが、ともかく珍しいものが見れた。ここ最近はつまらんことばかりを考えてその通りの剣を打つばかりだったが、今ならば面白い武器の一つも打てそうだ」

 

 それだけ言って、ゴブニュは役目を終えたとばかりに部屋を去っていった。

 残されたサラが上体を起こし、着直した服のボタンを閉じて軽く背を伸ばす。

 

「さて、もう良いじゃろ? では、妾はここを借りて暫し寝させてもらうのじゃ。お主にもああ言った手前、まったく寝んわけにはいかんのでな」

「そ、そうだね。おやすみ。良い夢を……」

「うむ、お休みなのじゃぁ……」

 

 再びバタンとベッドに倒れて、そのまま鼻息を立て始めるサラ。

 その潔い就寝を傍目に、フィンはガレスとたった今耳にした内容の扱いについて討議する。

 

「……とりあえず、最低でもリヴェリアには開示しよう」

「そうじゃのぅ。あやつも道連れにするのは当然として、ロキにはどうする?」

「彼女と話した後で決めよう。恐らく明かすことにはなるだろうけれど……その後で話すことになる他ファミリアへの開示については悩みどころだね。いずれにせよ、僕も疲れた。日頃の精神疲労(ストレス)に最後の最後でどっとトドメを刺されたような気分だよ。少し寝させてもらうから、暫くの間はよろしく頼むね」

「……終わったら儂も交代で寝ようかの。というか、寝なければやっとられん気がひしひしとするわい」

 

 サラの隣のベッドに横たわったフィンが夢の世界に旅立つのを見送って、ガレスは今も緊張を緩めず己が役割を果たさんとしている部下たちの元へと戻っていくのだった。

 

 それから少しして、こっそりとサラが身体を起こす。

 

「さて、これであの二人が妾が確かな睡眠を取っておったと証言してくれることじゃろうしの。ではサラバじゃ、サラ・ブラッドルーラーは華麗(ビューティー)に去るのじゃ……とな。ふははっ」

 

 部屋の窓から外へ秘かに飛び出した彼女は平然と周囲の心配を裏切り、人知れず餓える誰かの元へ向かうのだった――。

 

 

 

 

 

 バベル内の階段を昇り、同じ鍛冶神(ヘファイストス)の元へ向かうゴブニュはふと呟く。

 

「世は神時代、未知なる英雄を求めて探求する時代……。言わば【偽典:人之恩恵(ファルナポクリフェン)】――人が魔物(モンスター)に『神の恩恵(ファルナ)』を刻むことも、また神々(われら)の望む下界の奇跡の一つか……?」

 

 今は遥か地の底にいるであろう馬鹿弟子を足元に見下ろしながら、彼は小さく口の端を歪めた。

 ――だとしても、もう少し手心を加えなければ最高神(ウラノス)の胃痛も収まらぬだろうに、と。

 

 なお、政治に関わる気はないゴブニュ当神は「面白いしまあ良いんじゃないか」と、自身の鍛冶にこの発想が活かせないか呑気に考えており、それが紆余曲折の果てにとある白兎のナイフへ反映されるのは、また別の話である。

 




《Tips》
 サラ・ブラッドルーラー

 Lv.0(※後述の理由によりレベルアップ不可)

 『種族』
 【吸血皇鬼(ドミナ・ノスフェラトゥ)】(モンスター:第155層に出現)

 『二つ名』
 【神々の給仕(ゴッズプライド)】(※非公式)・【破滅の赫月(ルナーズ・ヴラディゴード)】(※非公開)

 『所属』
 なし(※後述の理由により仮称:クレス・ファミリアとする)

 力:G18635 耐久:T13924 器用:G19556 敏捷:T14300 魔力:V20912
 (※後述の理由により発展アビリティ発現不可)

 『スキル』
 【海魔保夜と十果の冷製和物(サラダ・アスケデシヤ&テンフルーツ)】(前菜)
 ・対精神:食欲増進(グルメアニマ・ブースト)
 ・軟体生物特攻(捌)。
 ・果実を扱う際、器用度上昇。
 【■■■■■■■■■■■■】(魚料理)
 ・??????
 【■■■■■■■■■■■■】(口直し)
 ・??????
 【■■■■■■■■■■■■】(食後菓子)
 ・??????

 『魔法』
 【ビスク・デ・セットクルヴェット(七海蝦蛯の不捨吸椀)】(スープ)
 ・抽出魔法。
 ・対象の旨味を余すことなく搾り取る。
 ・対舌感:味覚活性(グルメテイスト・ウェイクアップ)
 詠唱式:『大海の、恵み抱きし不砕殻。汝が五体、捨つる価値無し』
 【ポーラカルネ・アッラ・ディアボーラ(破夜軍鶏の煉獄胸炙)】(肉料理)
 ・防御魔法。
 ・耐火、耐光、耐音。 
 ・対霊格:本能覚醒(グルメリミッター・ブレイク)
 詠唱式:『朝焼けよ、夜明け来たりて鶏音来る。其の血其の肉、我が皿と化せ』
 【■■■■■■■■■■■■】(メイン)
 ・??????
 詠唱式:『     』
 【■■■■■■■■■■■■】(ドリンク)
 ・??????
 詠唱式:『     』

《備考:サラの恩恵について》
 クレスが神を介さない恩恵の更新について試行錯誤していた際に得た『劣化恩恵の人工作成』『モンスターに恩恵を与える着想』などを元に、『理知的なモンスター』にそれらを注ぎ込んだ一つの集大成(やらかし)
 単純化するためにレベルアップ機能及び発展アビリティ発現機能が排除されているが、それ以外はほぼ通常の『神の恩恵(ファルナ)』に近しい効力を発揮する。
 紋章のモデルは『天に刃を向けた炎剣と、それを抱擁する慈愛の乙女』。

 これが見たかったんですよね?(知らんけど)
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