ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている 作:七海香波
夏の熱さも落ち着いてきたので投稿しちゃいます。
皆様のご要望にお応えして、久々のクレスくん無双ターンです。
設定もりもり伏線もりもり、やらかしもりもりの三大欲張りセットをどうぞ。
ただし
――
その狂わしくもどこか愛おしい嘆きの声を、第201層の拠点にてクレスは聞いていた。
次なる冒険へ向けて支度を整えていた彼の耳が捉えた、言葉にならない
「この声、久々に聞くな。それに先ほど感じた力の波動とくれば……神が
地上では嘘や幻と呼ばれ、一笑に付されるその言説を、
そして、
胎動する
それが発露した暁には、
聞こえないまでも、クレスは確信した――その産声を。
同時に彼は、それまで荷物を詰め込んでいた
「……そう言えば、切らしていたな」
クレスの視線の先に安置されているのは、それを
その中で残量が心許なくなっている一部の棚に目を向けた彼は、思い立ったが吉日とばかりに、用意していた荷物とはまた別の武器を取りに向かった。
「ちょうどいい、未攻略域に取り掛かる前の肩慣らしだ」
普段であれば、上層で何が起きようが彼の与り知ることではない。
モンスターによる大量虐殺が起きようが、はたまた
だが、
埃を払った武器が覗かせる、朱色の穂先。
その刃に錆び付きがないことを確認して、軽く振り回し調子を確かめる。
「……さて、一狩り行くか」
盟友たる邪神エレボスの提案を受けて彼が眷属と共に
それは
堅牢な壁を容易く突き破り、分厚い天井に豆腐の如く穴を開け、母より与えられた純粋なる漆黒の意志を全身に漲らせながら、尋常ならざる速度で瞬く間に階層を踏み越える。
そしてフィンの思惑通り、第18層『
――そのはず、だった。
しかし、ここにモンスターの知らぬ例外がいた。
現状のオラリオの最高戦略たる【
その彼女が「
『
『――オオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!』
「見つけたぞ」
自身の存在を隠そうともせず爆走爆進する、蛇とも人ともつかない異形の怪物。
同じく
その目の前に転移したクレスが、宣言する。
「悪いが時間をかけるつもりはない。一撃決殺、加減は無しだ」
突如として進軍先に出現した
しかし、それより一手早く彼が放った左手の緋々色金の槍が、的確にその左目を貫いていた。
『オオオオオオオオオオォォォォォォォォッッッ!!!???』
その身に母の囁きが伝わる――案ずるな、その身はすぐに治るのだと。
『自己回復』。
ならばと『
しかし、抜けない。
かつて幾度となく『
『オオオオオオオォォォォォッッ!!??』
それならば仕方がないと言わんばかりに、眼球の再生を諦めた『
己の眼に走る痛みなど二の次。そんなものよりも、永きに亘って母を虐げる神どもを抹殺する崇高な使命こそが重要だと。
母によって与えられた神々への殺意が、左目を苛む激痛を凌駕する。
――嗚呼、なんと健気な息子だろうか。
母を愛する子の献身、それは例えモンスターのものであろうと、確かに称賛されるに相応しいものだった。
最も、それがクレスの攻撃の手を緩める理由にはならないのだが。
そうして再び前を向いた『
「視を穿ち、死を穿つ――」
クレスがその手に持つ朱色の槍は、《ネガ・ファトゥム》と並ぶ
迷宮第200層、階層の九割を占める赤海『
その切っ先から漏れ出すは、死してなお虎視眈々と所有者の命を付け狙う『深々層』の呪い。
それに構わず、『
前に出る『
彼の身体を殴りつけようと怪物は前肢を振り被り――それは狙いを外れて、クレスの右後方に着弾した。
隻眼による影響で、遠近の距離感がうまく掴めていないようだ。
そして、それが齎す弊害はもう一つ。
両眼であった時には相互に視界を補完しあうことで埋められていた、『死角』の存在。
そこに狙って潜り込んだクレスの右腕、及びそこに握られていた槍が『
――これにて条件は整った。
「――『シュレディンガー』……」
此れより放つは、奇しくも『
彼の唱えた
魔法の失敗? ――否。
今の朱槍は、クレスの握る『
一つの物体が二つに分かれて存在する現状――それを、
ありえてはならない
クレスの握る49%が、残る51%へ向けて、一つになるべく収束を始める。
世界の修正力が莫大な力の奔流となって、彼の槍をあるべき形へ戻そうと――『
後は、その力の流れを乗りこなす形で右腕を振るうのみ。
「影の叡智は我に在りて――行くぞッ!」
『オオオオオオ――――――――――――オオオオオオオオォォォォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!!!?????』
直線状に解放された、世界によって因果の紐づけられた槍の一閃。
その強烈な一撃は、その軌跡上に存在する『
「『
かかった負荷によって世界が僅かに捩れ、傾き――そして戻る。
一瞬
彼の視線の先に映るのは、無慈悲にも存在の
無論魔石など残っていようはずもなく、神殺しの魔物の身体はゆっくりと崩れ落ち……息絶えた。
その後方に残された槍が
少々あっけないが、これにて『
――彼が師の教えと、自らの魔法に潜む
この
「……たまには使わんと怒られるからな。腕の方も鈍っていないようで良かった良かった。さて、楽しい素材回収の時間を始めるか」
『
一時期、彼は神を連れ込んでは神意を
そこへ降りかかった予想外の幸運に、彼は喜びながら解体用のナイフを取り出す。
――俺が召喚したのではないのだから、ウラノスも怒ったりしないだろう、と。
しかし、いざ回収に取り掛かろうとした段階で、彼の他に足音が響く。
「……どういうことだ、何故『大最悪』が倒れている?」
「それは俺が倒したからだが」
怪訝な声に振り向いてみれば、そこには一人の少女が立っていた。
喪服にも似た漆黒のドレスを身に纏い、灰色の髪を揺らす淑女。
「誰だ貴様は? ――いや」
彼女は『
そこに見えるのは……彼と同じく、左眼を灰色とするオッドアイ。
「ヘラより聞いたことがある。私たちには、遠く、そして近い家族がいるのだと。お前が――いや、貴方がそうだな。クレス・テラティアリエ、偉大なる太古の英雄よ」
その
「そういうお前は、そうか。ヘラ・ファミリアとなれば……」
「そうだ。我が名はアルフィア」
彼女はそこで言葉を区切り、一息置いてクレスと視線を交わす。
「そして、秘されし家名は
《Tips》
・英雄橋
オラリオに存在する、かつての英雄の偉業を称える三十一の彫像が設置された橋。
中央に聳える大英雄アルバートの正面には唯一空の座が置かれており、「黒竜を撃退して古来より続く英雄譚を完結させた者」がそこに称えられるのだろうとまことしやかに噂されている。
――作成者の真意を知る一柱の神は、薄く笑う。
「この橋は過去を祀るためのものに過ぎず、今を征く者たちが腰を落ち着ける場所ではない。あの席が空いているのは、未だ終わっていない英雄譚があるからだ。奴が死して、ようやくあの過去の象徴は完成する……最も、それもだいぶ先の話になるだろうがな」