ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

20 / 54
 おはようございます。
 次話投稿、またの名を更新のお時間がやってきてまいりました。
 なお今回でサラちゃん視点は最後(見込み)となりますので、彼女の雄姿(?)を存分に見納め下さい。


狂乱の精霊は食卓へと還り、死の槍が空高く飛翔する(サラ視点)

 

『ヴヴゥ……グギギギギィィッ……!』

「言語能力も喪失しておるな。となれば会話は不要、さあ来るのじゃ。先手は譲ってやろう」

『ガ――――』

 

 槍を持たない左手で手招きするサラの余裕っぷりに、バスラムの調整(・・)で奪われたはずの『精霊凶兵(バジュラビート)』の在りし日の理性が刺激される。

 元オシリス・ファミリア出身の獅子人(レオーネ)たる彼が持ち合わせていた、生来の残虐性……則ち「目の前で調子に乗っている女を無理矢理組み敷き、凌辱し泣かせたい」と言う悪魔的な(オス)の本能。

 それが主人(バスラム)によって刷り込まれた、「サラ・ブラッドルーラーを殺害せよ」との命令と見事なまでに合致して――爆発。

 

『――グァアアアァァァッッッ!!!』

 

 その身を覆う拘束衣を内側から引き千切り、獣人の持つ強靭な身体能力で以て、『精霊凶兵(バジュラビート)』は両腕を(あぎと)のように広げてサラに飛び掛かる。

 武器は五指より伸びる鋭利な爪。『恩恵(ファルナ)』の影響下にある本人由来のその刃は、生半可な武器よりも優秀な鋭刃となる。それで以てサラの柔肌を引き裂き、肉を抉り、ピンク色の中に見えた真っ白な骨に噛り付きながら犯すのだ。

 それが、彼の本能に染み付いた、彼を悪派閥(イヴィルス)たらしめる襲撃の儀式。

 

 これまでに襲った(メス)の数は優に百を超え……その全てを、種族に由来する優秀な身体能力で以て屈服させてきた。

 たとえ理性を失おうと、それは変わらない。

 今回もまた、これまで通りにサラを他の被害者たちと同様に血と涙とその他体液の水溜まりに沈めようとして――。

 

「ほっ」

 

 ひらり、と宙を舞う紙のような動きでサラは『精霊狂兵(バジュラビート)』の抱き付き(ハグ)を回避した。

 薬物投与(ドーピング)と『精霊の短剣』によって、レベル9の動きさえ捉え得るとされた『精霊狂兵(バジュラビート)』の視力にさえ映らない神速の体捌き。

 

 獅子人(レオーネ)の身体はすかさず地面に足の指を喰い込ませ、皮膚と地面の凹凸の摩擦によって足元から焦げ臭い煙を上げながら急速反転。再度サラの身体を捉えようと、再び()を大きく開けて襲い掛からんとする。

 だが、既に戦闘の流れ(ターン)を司る権利は彼女の手に移行していた。

 

 力の向きを切り替える瞬間、どうしても生まれてしまう停止の隙。

 無論彼は素体の鍛錬と上昇した身体能力によってその高速機動の弱点を限界まで潰していたが、サラの眼はその刹那を捉えて槍を振るう。

 

 『精霊狂兵(バジュラビート)』の心臓をすかさず狙い穿ち、サラの槍はそのまま敵の身体を地面へと縫い付けた。

 

『グギャッ――――――グガァッ!?』

「宣言通り先手は譲ってやったぞ。ここからは後手()の手番じゃ。もっとも、汝に次の手番は永遠に廻っては来ぬがな」

 

 目打ちならぬ、心臓打ち。

 肋骨の隙間を貫くことで、サラの魔槍が『精霊狂兵(バジュラビート)』の肉体の中央を固定する。

 続けて彼女は影から小ぶりの槍を四つ召喚し、彼の四肢を順に地面に縫い留めていく。

 

 橈骨と尺骨……前腕の骨二つの間に、右腕と左腕でそれぞれ一つ。

 そして脛骨と腓骨……ふくらはぎの位置に存在する二つの足骨の間に、これまた左右一つずつ。

 仰向けの形で計四振りの槍を打たれて、両腕両足を動けなくされた『精霊狂兵(バジュラビート)』の姿はまさに『まな板の鯉』。

 

 ならば続けて(『精霊狂兵』)を捌くための刃が取り出されるのが道理。

 サラの影から姿を現した包丁が、特殊武装(スペリオルズ)特有の輝きを放つ。

 純黒の包丁《ニーヴ・ニーズホッグス》。

 クレスの保有していた精霊を害する邪竜『ニーズホッグ』の爪を元にした、霊体に刃を通す《霊断属性(ヤツフサ)》の牛刀である。

 

『ギャオオオォォォ――――ォォォンッッッ!!!???』

「苦痛は素材の旨味を濁らせる。今、解放してやるからの――まずはその邪魔な『殻』から取り除いてくれよう」

 

 憐れむような声と共に、獅子人(レオーネ)の上げる悲鳴に構わずサラは刃を振るう。

 繊細にして大胆とも呼べる彼女の包丁捌きは、瞬く間に敵の皮を剥ぎ、肉を裂いて解体していく。その肉体に都合五つ刺された『精霊の短剣』、及びをそれを起点として全身に張り巡る精霊の力には一切の傷を負わせることなく。

 そうして捌き卸された物理的な肉体には目もくれず、サラは丁重な手つきで以て、『精霊の短剣』を慎重に『精霊凶兵(バジュラビート)だったもの(・・・・・)から摘出した。

 

 ――なお、心臓に穴を開けられようと構わず抵抗を試みていた肉体も、流石に肉と骨、そして内臓のいくつかに至るまでを切り離されては生きていられるはずもなく。

 

『オ、オオオッ……――』

 

 そうしてあっけなく沈黙した『精霊凶兵(バジュラビート)』は既に脅威に在らず。

 本命たる『精霊の短剣』を前に、サラは次なる調理(・・)の手順に取り掛かる。

 

 小刀の形状を核としていた精霊の力は不正(アパテー)の名の下に書き換えられた性質に従い、次なる宿主を求めて近くに居たサラの身体へと光の触手を伸ばし始める。

 放っておけばその触手は彼女の全身を植物の根のように侵食し、魂に干渉して、先ほどまでの『精霊凶兵(バジュラビート)』のように激情にかられてただ本能のままに暴れ狂うだけの怪物へと墜としてしまうだろう。

 

 されど、現状は真逆であった。

 クレスの手によって引き出された彼女の魂の真髄(スキル)が、逆に『精霊』たちの有り様に干渉を始める。

 ――スキル【楽園精霊の献上氷菓(グラニータ・ディ・アニマ・アヴァッロニア)】、起動。

 

「――狂乱の精霊たちよ、鎮まるがよい。その穢れ、妾サラ・ブラッドルーラーの名の下に祓い濯ぎて清めようぞ」

 

 効力の一つ(・・)である『精霊交感(祈)』によって、暴走する精霊に直接語り掛ける。

 サラは『精霊の短剣』から伸ばされてきた触手に抵抗することなく……むしろ皮膚を喰い破り、体内に浸食を始めたそれらを介して、精霊たちに心から声を投げかけて、宥める。

 

 ――もはやお前たちを閉じ込め、苦しめる外道はここにはない。

 ――故に安心して、その身を我が腕に委ねよ。今すぐ、その内に巣食う苦痛からも解放してやろう……と。

 

 サラはいっそう細やかに《ニーヴ・ニーズホッグス》の切っ先を操作し、手に取った『精霊の短剣』の内部に介入。

 迸る精霊の力の隙間に分け入り、見える『不正(アパテー)』の毒素を除去し始める。

 恐らくは邪神アパテーの神血(イコル)に由来する対霊の毒薬を、刃一つの手術で以て物理的に取り除いていく。

 

「おぅおぅ、苦しかったろうに。じゃがそれもここまでよ。主様が神より授かりし秘技、万が一にもお主らに痛みを与えることもない。妾はしょせん孫弟子に過ぎぬが、それでもこと調理の腕前に関しては「既に俺を超えているな」としっかり太鼓判を押されておるでのぅ」

 

 サラの瞳に映る、『精霊』の内側に点々と存在する黒ずんだ染み。

 それこそが彼らを苦しめる元凶、バスラムの呪毒である。

 彼女はそれら一つ一つを慎重かつ素早く、精霊の外へと刃の先端で弾き飛ばしていく。

 

 その手並みは熟練の職人の如く滑らかであり、彼女が最初の一振りの処置を終えるまでに要した時間はおよそ三十秒。

 続く二振り目の処理は当然一振り目より早く、毒の傾向を学習したサラは作業時間の五秒短縮に成功。

 更に次なる三振り目では七秒短縮し――最後の『精霊の短剣』の毒抜きに至っては、僅か三秒で完了させたのだった。

 

「これにて毒の処理は終了じゃ。……よーしよしよし、久々に本来の姿を取り戻した感覚はさぞ気持ちよかろう?」

 

 悪派閥(イヴィルス)の……サラに言わせれば「趣味の悪い」加工から解き放たれた精霊たちは、『短剣』ではない光の真体となって彼女の周囲を泳ぎ、飛び、そしてまた跳び跳ねていた。

 鯰、カワセミ、兎……本来彼らが置かれていた環境に生息する命の姿を模した彼らが、思いのままに舞い踊る『精霊祝祭(エレメンタルダンス)』。

 

 悪質な連中の手に堕ちて意図しない形に造り変えられてしまった、耐え難き苦痛が終わったことへの悦び。

 その絶頂を救いの主(サラ)を囲んで全身で示す精霊たちは次第に、また(・・)その姿形を変えていく。

 ただし今回は、他者の手によるものではなく――彼ら自身がそうあろうと望む形で。

 

 サラが取り出した器の中に、各々が形を変えて盛り付けられていく。

 それこそが彼女のフルコースが一つ、『口直し』に据えられた一品。

 

「――出来上がりじゃ」

 

 外見は、粉雪が山のようにうず高く積み上がったかき氷のように見える。

 しかしその全体が淡く発光しており、満ち満ちる生命力の瑞々しさが感じられる。

 

 『楽園精霊の献上氷菓(グラニータ・ディ・アニマ・アヴァッロニア)』――精霊を形作る自然の魔力、その『感謝』に溢れた透き通る味わいは、一つ前に出された『魚料理』の余韻をさっぱりと洗い流して次の『肉料理』と客の意識を向かい合わせてくれるであろう。

 

「それでは、いただきます。……うむ、やはり美味じゃな!」

 

 出来上がったばかりの精霊氷菓を、サラは一口で食した。

 それと同時に、彼女の魔力量が爆発的に跳ね上がる。

 スキルの持つ残りの効果(・・・・・)によって、『食した分だけ本来の許容量を超えて魔力を過剰充填することが可能』となったのだ。

 

 己の身体に溢れかえる魔力……それを向けるべき先はもちろん、決まっている。

 

「――さぁて、腹ごなしに付き()うてもらおうかの」

 

 サラは獅子人(レオーネ)を固定する串としての役割を終えた魔槍《86式連結式葬槍(レギンレイヴ)》を手に取り、遥か上空に投げ飛ばす。

 そして、彼女自身もまたその軌跡に追随するように大跳躍。

 

 高さにしておよそバベル三つ分……オラリオ全域を軽く見渡せるほどまでの座標に至った彼女は、逆さの体勢となって右脚に力を籠める。

 天地が逆転した視界の中で、オラリオに蔓延る悪性腫瘍どもを一瞥し、その一切を捕捉して――。

 

「ひーふーみー……まあ八百ほど削れればよかろう。では行くぞ、これが妾なりの感謝の表れじゃ!」

 

 精霊を食らって手に入れた大津波の如き魔力。

 その全てを脚部に一点集中し、それの昂るがままに、サラは弧を描くようにして落下してきた魔槍の石突を鋭く蹴り墜とす(・・・・・)

 通常腕の三倍の力を持つと言われる剛脚で以て、重力の勢いを加算して放つ魔槍の流星。

 

 それはクレスが師スカサハより授かりし魔槍技の一つにして、その孫弟子サラに受け継がれた奥義。

 

「――(ソラ)を見よ、運命を呪え。そら、凶星が墜ちてくるぞ――『夜天穿つ血翔の槍(ゲイ・ボルグ・シューゲイザー)』!」

 

 魔力はサラの体内で血液に変換され、その膨大な量の『赤』が一滴残さず魔槍に吸い込まれる。

 そして魔槍の投擲は――穂先を一から十、十から百、百から千近くへと分裂させて、オラリオに蔓延る悪派閥(イヴィルス)ども目掛けて降り注ぐ。

 

「――ガフッ」

「うぉわっ、なんだいったい――ぬぐわぁっ!?」

『――ピギィッ!?』

「ひっ、ひぃぃぃっ……うわぁぁぁっ! ――ぎェっ」

『ブルルルッ――フゴォォォッ!!??』

「た、助けっ――嫌だ嫌だ嫌だギャッ!!」

 

 ザルドやディース姉妹、ヴァレッタなど一部の連中――フィン曰く『因縁の宿敵』とのことでサラがあえて見逃してやった者たちを除いて、室外にいたほぼ全ての悪派閥(イヴィルス)が突如空から降ってきた流星槍雨に貫かれていく。

 

 『夜天穿つ血翔の槍(ゲイ・ボルグ・シューゲイザー)』、それは魔槍《86式連結式葬槍(レギンレイヴ)》の本領発揮を意味する。

 サラが血液を介して指定した複数の敵を上空から並行捕捉・追尾(マルチロックオン)して仕留める、対軍から対国の攻撃範囲を有する超々広範囲殲滅攻撃。

 

 もし回避を試みるならば、最低でも双方レベル10に達した『女神の戦車(アレン)』の俊敏さと後の『幸運兎(ベル)』の幸運が必要となるであろう。

 つまり現状、悪派閥(イヴィルス)側にサラの眼から逃れられる術はなくて。

 

 その時運よく室内で戦っていた者たちを除く、ほぼほぼ全てのオラリオの敵が……人であれば心臓を、モンスターであれば魔石を打ち抜かれて沈黙した。

 

「ま、妾の手に掛かればこんなものじゃ。――軽々しく『悪』なぞに手を染めた己が浅慮を悔やむのじゃな」

 

 槍に遅れて落下しながら、サラは眼下の惨劇を見やるサラ。

 小さな豆粒のように見える悪派閥(イヴィルス)たちの死に顔は、その大半が驚愕と後悔を写すものだった――まるで「自分の最期がこんなものであって良いはずがない」とでも言うように。

 

 その思い込みのなんと傲慢なことか、と彼女は呆れる。

 

「罪を犯すということは、自らが罰されることへの同意書に署名するのと同じことなのじゃよ。誰かを害すれば、その刃は巡り巡って自らの下に返ってくる――その多くは、復讐と言う大義名分を伴ってな」

 

 堅苦しい説法は勿論、子供向けの単純明快な寝物語でさえ勧善懲悪を謳っているのだ。

 それを与えられる機会は連中にもいくらでもあったはずで、そこから何も学ばずに自ら道を踏み外したのだから、相応の罰を受けるのは至極当然の世の道理であろうとサラは思う。

 

 ……ただ、と彼女はまた思う。

 

「やってしまってから言うのもなんじゃが、まーたやり過ぎてしまったかの?」

 

 (クレス)よりもまだ人らしい感性を持つサラは、己の行為を振り返って頭を悩ませる。

 一切隠すことのない、オラリオの公衆前でのステイタス及び必殺技解放。

 ()の良い一部の神々であれば、サラの出自に目を向けようとする輩も現れるかもしれない。

 

「いや、久々に精霊を食す機会に恵まれて浮かれておったが、よくよく考えれば……いや、まあ、うん。余計な被害を減らしたと考えれば大丈夫(セーフ)じゃろ。――でもこれで、面倒臭い連中に完ッ全に目をつけられた気も……その時はカオス様を頼らせてもらうかの! 前に「地上で困った時は迷わず私を頼ってくれたまえ!」と言っておったしな、うん! そうするのじゃ!」

 

 そんな他神任せの解決策を呟きながら、サラは地上へひゅうううぅぅぅ……と落ちていく。

 

 それはなんともしまらないオチのように見えるが、愚かにも『悪』の道を選んだ悪派閥(イヴィルス)たちの末路にはある種相応しかったのかもしれない――こうして見せ場らしい見せ場もなく、大義も名分もないサラの気分一つによってあっけなく一掃される道端の土埃くらいの扱いで。

 

 

 

 

 

 ちなみに同時刻、神カオスは猛烈に嫌な予感がして神ディアンケヒト謹製の胃薬の在庫を確かめるのだった。

 そして運悪く切らしていたことも、ここに書き添えておく。

 




 次からは読者の皆様のご期待通りイカれ主人公のお帰りです。
 みんな、楽しみにしていてくれよな☆

《Tips》
 今話で登場したサラちゃんのスキル(口直し)の概要です。
★【楽園精霊の献上氷菓(グラニータ・ディ・アニマ・アヴァッロニア)
 ・対客:食義開眼(グルメグラッツェア・エンライトメント)
 ・精霊交感(祈)
 ・没頭時、食事による魔力超過充填可。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。